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12月9日(日) 臨時国会と安倍改憲阻止の展望と課題(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、北海道憲法改悪反対共同センター学習交流集会での講演の記録で、北海道経済研究所発行の『北海道経済』No.592、2018年11月号、に掲載されました。かなり長いので、6回に分けてアップさせていただきます。〕

 (紹介)北海道憲法改悪反対共同センター主催で11月5日、札幌市内で開催された講演会での法政大学名誉教授五十嵐仁氏の講演の大要を紹介します。(共催は、北海道革新懇、北海道安保破棄実行委員会、北海道平和委員会、9条ネット北海道有志の会)―文責は編集部

 はじめに

 みなさん、こんばんは、ただいまご紹介いただきました五十嵐仁でございます。はじめに、先般の地震について、一言お見舞いを申し上げたいと思います。私も新潟生まれで新潟地震、それから2011年の3・11東日本大震災を経験しております。たいへんな思いをされたのではないかと思います。最初に、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げさせていただきます。
 臨時国会が開かれました。いま審議がおこなわれております。まず補正予算が大きな課題としてあったわけですけれども、すでに衆議院を通過して参議院での審議が始まっています。災害対策は非常に重要なテーマでございまして、これは早急に成立するだろうと思います。
 引き続いて入国管理法の改正問題、新しい移民政策になるのではないかと考えられているような、外国人労働者の日本への入国を拡大するという問題が国会で取り上げられます。この国会の直前に安倍首相が表明した来年10月1日からの消費税10%への引き上げ問題も取り上げられなければなりません。
 それ以外に、社会保障の問題、「全世代型社会保障」といっております。実質は「全世代社会不安」といっていいんじゃないか。あるいは沖縄での辺野古新基地建設の問題、さらには閣僚の資質。国会で片山さつき地方創生担当相が追及されていました。滞貨一掃といわれますけれども、何回も当選してきたにもかかわらず、なかなか大臣になれなかった人たちが今回12人も入った。なんでなれなかったかというと、大臣にしたらあぶない人たちだったからです(笑い)。
 桜田義孝五輪相もオリンピックの理念を問われて答えられないというような、ていたらくでした。これから次々にこういう人たちが登場してくる。前の金田法相みたいな人たちがずらっと並んでいるわけですから、楽しみですね(笑い)。
 さらには外交・貿易。アメリカでトランプ大統領が登場し、いま貿易戦争を仕掛けている。中国だけではない、日本も二国間交渉に引きずり込むということで、いよいよ攻勢がかけられてくる。「イランから原油を輸入するな」と各国に圧力をかける。日本には例外措置をとるといっていますが、最長で180日間ですから半年間です。半年後には日本もイランからの原油輸入ストップとなる。
アメリカもたいへんな人を大統領に選んだものだなあと思いますね。トランプなのにハートがない(笑い)。めくってみたら出てくるのはジョーカーばっかりです。ジョーカーだけで新しいゲームをやろうというのがトランプさんなんです。
 戦後の世界政治、秩序が大きくいま変わりつつあります。悪いことばかりじゃない。北朝鮮との和解、非核・平和体制構築ということで。これはトランプさんの性格が幸いした唯一の例ですね。あの人は他人の話を聞かないですから。だから周りの人がいろいろ言っても、俺はやるんだということで北朝鮮との米朝首脳会談を強行したわけですね。
 相手の金正恩さんも、他人の話を聞く必要のない国で最高権力者ですから。他人の話に左右されない二人が勝手にやったわけですけれども、しかしそれが世界平和にとってはプラスになるような前進的、巨大な変化を生み出している。
 いずれにしましても、こういう世界政治、あるいは貿易の変化の中でどう対応していくのか。これも臨時国会の中で議論されなければならない非常に重要なポイントになっていくのではないかと思います。
 この臨時国会の中でも、とりわけ安倍首相が力を込めて所信表明演説で強調していたのが改憲問題です。憲法を変える時がやってきたと、安倍さんは考えているのではないか。ガチンコ勝負が始まった。せめぎ合いです。安倍首相は本腰を入れて改憲に取り組もうとしている。
 ただ、ここですぐ言わなきゃならないことは、安倍さんが前のめりになればなるほど国民や野党は腰が引けてしまうという関係にあります。はたしてこのガチンコ勝負、安倍さんがうまくやれるか。なかなか難しいのではないかと思います。
 マスコミも大きく変わってきた。安倍首相の応援団になるような新聞やとりわけテレビ。NHKも安倍首相を応援するような報道姿勢に変わってきている。フェイクニュース、ポスト真実の時代。ウソか本当かわからないどころか、フェイクというのは虚偽ですから、平気でウソがふりまかれる時代になってしまった。
 いちばん極端なのは国会の中での質疑です。安倍首相の答弁を聞いてごらんなさい、ウソばっかりじゃないですか。安倍首相の3原則というのがありまして、「隠す、ごまかす、ウソをつく」。あの人はフェイクが背広を着て歩いているような人でして、だまされてはいけません。真実を見抜く目を私たちはもたなきゃならない。何が本当であるかということを、日々のニュースの中からしっかりつかんでいく。
 そのためには正しい地図と羅針盤をもたなければならない。そして情報を受け取るだけではなく、私たちの側からも積極的に事実や情報を発信していく。そのためにも学ぶ、学習する。これが非常に重要になってきているのではないかと思います。きょうの私の話が多少ともそれに役立てば幸いです。
 最初に、改憲問題を考えるうえで重要な3つのポイントを言っておきたいと思います。1つは憲法を変えるといった場合、改憲の限界があるということです。憲法の理念に反する、あるいは理念を壊すような憲法の条文の書き換えはゆるされない。これが憲法改定の限界というものです。
 いまの憲法の理念は3大理念と言われています。「国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義」。これに地方自治、議会制民主主義を加えてもいいと思います。これに反するような、あるいはこれを破壊するような条文の書き換え、改める「改憲」ではなく、破壊する「壊憲」はゆるされないということを、憲法の改定にあたってまず確認しておかなければなりません。
 2つ目は、「後法優位の原則」というのがあります。前にあった条文と後から新たに付け加えられた条文とが矛盾している場合は、あとから付け加えられた条文が優位するということです。
 安倍首相は、いまある憲法の9条1項、2項はそのままに、自衛隊の存在を書き加えようとしています。これをおこなっても自衛隊の機能や役割は変化しない、だから国民のみなさん、心配しなくていいですよと、こういう話をされるわけです。おかしいじゃありませんか。変わらないんだったら変える必要はないでしょう。変わるから変えようとしているわけですね。なぜ変わるのかといったら、いまいったようにあとから付け加える、自衛隊を書き加えたことのほうが9条1項、2項よりも優越する。
 「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇、又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」。これが9条ですね。
 このあとに自衛隊の存在を書き加える。そうすると、自衛隊が憲法上の位置づけを与えられ、正当化される。そして集団的自衛権など、部分的ではなく全面的に、フルスペックといっていますけれども、完全に集団的自衛権行使が認められるような、戦争する国、戦争できる国に変わってしまう。これが2つ目の点です。
 3つ目は、憲法というのは最高法規ですから、いちばん上にある。あらゆる法律を規制する役割を持っている法律の中の法律ですね。ですから、ギリギリ賛成が多いということで変えられるようなことであってはなりません。「国民的合意」の下で、大半の国民が、こういう内容であれば変えてもいいだろうという納得の下に改憲される。これが原則です。分断や対立の中で、激しい争いを経て憲法が変われば、その後の憲法の正当性や権威にかかわるということになってしまいます。
 以上3点からいって、いまの安倍首相がやろうとしている9条改憲は断固としてゆるされない。このことをまず明らかにしておかなければならないと思います。

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12月6日(木) 戦後世界秩序の激変の下で混迷深める安倍外交(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、市民の意見30の会発行の『市民の意見』No.171、2018年12月1日付、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 拉致・領土問題で成果なし

 朝鮮半島の非核化と平和構築に向けて米朝首脳会談が開催されましたが、「圧力一辺倒」の安倍首相は事態の急進展に対応できず、完全に孤立してしまいました。東アジアでの緊張緩和が進むなかで、安倍政権が進めてきた軍事大国化を目指した好戦的政策とのミスマッチも拡大しています。
 日本がのけ者にされているような事態も生じました。5月24日に北朝鮮がプンゲリ(豊渓里)の核実験場を爆破して公開したとき、6カ国協議に参加している国の中で日本のメディアだけが除外され、代わりにイギリスの記者が招待されたからです。
 6カ国協議でも、日本だけが除外されそうです。モスクワからの報道によれば、「ロシア外務省は10月10日、朝鮮半島の緊張緩和のため、米国と韓国を交えた5カ国協議が必要だとの認識でロシア、中国、北朝鮮が一致したことを明らかにした」そうですから。
 ロシアとの関係も予断を許さないものになっています。これまで安倍首相はプーチン大統領と22回も首脳会談を行って個人的な関係を築いてきましたが、北方領土問題を解決する点では何の役にも立たず、かえって経済開発のお手伝いをさせられ実効支配を強めてしまっています。プーチン大統領から突然、前提条件なしでの平和条約締結を持ち掛けられても反論すらできませんでした。
 最近目立つのは北方領土での軍事力の強化です。外務省によれば、ロシア政府から択捉島の近海でロシア軍が射撃訓練を行うと日本側に通知があり、これに抗議したところ、ロシア外務省は「自国の領土であらゆる活動を行う権利がある」と主張し、「儀式のような抗議ではなくすでにある政府間対話の枠組みを通して解決すべきだ」と反発したといいます。慌てた外務省は年内に2回も日露首脳会談を開いて関係を改善しようと躍起になっています。
 拉致問題や北方領土問題は全く進展せず、北朝鮮の金正恩委員長からは相手にされていません。韓国とは慰安婦問題や損害賠償を請求した徴用工への最高裁判決などをめぐって対立が深まるばかりです。成果ゼロではありませんか。「外交の安倍」だなんて、聞いてあきれます。

 中国への急接近

 このような孤立から抜け出そうとして、窮地に陥った安倍首相が助けを求めているのが中国です。安倍首相は北京を訪問して関係改善に乗り出しました。友好関係が回復され日中関係が正常化されるのは結構な話ですが、これまでの中国敵視政策や「中国包囲網の形成」政策との整合性をどのようにして取るつもりなのでしょうか。
 依然として、南シナ海での海上自衛隊の潜水艦訓練や米空軍の戦略爆撃機と航空自衛隊との共同訓練、種子島での水陸機動団と米海兵隊との国内初の合同演習などを実施しています。いずれも「仮想敵国」として想定されているのは中国です。
 一方で握手の手を差し伸べながら、他方で対中接近に反発する極右勢力や中国敵視を強めているトランプ米政権に「言い訳」しようとしているようです。この点に安倍外交のジレンマとチグハグぶりが明瞭に示されています。

 むすび

 安倍外交の失敗の背景には、歴代の自民党政権による外交政策の誤りがありました。アメリカに従属するばかりで独自の外交政策を持たず、戦争責任を曖昧にして周辺諸国を敵視し、もっぱら軍事同盟と抑止力の強化によって安全を確保しようとして軍事大国化をめざしてきたからです。
 極右的なイデオロギーに駆られて、このような誤りを極大化させたのが安倍首相です。軍事費の増大や軍事基地の強化、アメリカからの防衛装備品の大量購入、特定秘密保護法や安保法制(戦争法)、「共謀罪」法の制定、憲法9条改憲の野望など「戦争できる国」づくりに向けての軍事大国化路線を走り続けてきました。
 戦後世界秩序と日本周辺の国際環境の激変によって、このような好戦的政策と変貌する現実とのミスマッチもかつてなく大きなものとなり、安倍外交の漂流が始まったのです。もはや、このような政策を続行することは不可能になりました。国際社会での日本の孤立を避けようとすれば、外交・安全保障政策の根本的な転換は避けられません。

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12月5日(水) 戦後世界秩序の激変の下で混迷深める安倍外交(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、市民の意見30の会発行の『市民の意見』No.171、2018年12月1日付、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 戦後世界秩序は今、大きく変化し始めました。その最大の要因はトランプ米大統領の登場です。「アメリカ第一主義」を掲げ、世界共通の利益よりもアメリカ独自の利益を優先し、交渉ではなく取引を重視する大統領の立場は、アメリカの内外政治に大転換をもたらしています。
 このような転換は日米同盟を主軸としてきた日本外交にも大きな影響を及ぼしています。とりわけ、6月の米朝首脳会談の開催によって朝鮮半島の非核化と平和体制の構築に向けての基本的な合意がなされ、日本周辺の国際環境を大きく変えました。これは南北朝鮮間の武力衝突の回避と緊張緩和措置の具体化などの形で、現在も進行中です。
 戦後世界秩序の激変に対して安倍政権は適切に対応できず、国際的な孤立を深めています。朝鮮半島の非核化・平和構築の足を引っ張り、拉致問題や北方領土問題を進展させることもできず、外交面で安倍政権は混迷の度を強めているのが現状です。

 暗雲が漂い始めた日米関係

 世界秩序の激変は日本にも巨大な影響を及ぼしました。長い間、アメリカに追随するだけで独自の外交理念とビジョンを持たない日本は、トランプ大統領の気まぐれな外交攻勢に翻弄され、日米関係にも暗雲が漂い始めています。
 安倍首相はこれまで避けてきた貿易に関する2国間協議に引きずり込まれてしまいました。「日米物品貿易協定(TAG)」と看板をかけ変え、「全く異なる」と弁解していますが、基本的な内容は「自由貿易協定(FTA)」と変わりありません。合意文書の翻訳を日本政府が改ざんした疑惑まで生じています。
 日本との新たな通商交渉で、ムニューシン米財務長官は為替介入をはじめとする意図的な通貨安誘導を阻止する「為替条項」の導入を要求すると表明しました。物品だけの交渉ではない新たな「火種」の登場であり、このような攻勢は今後も強まるにちがいありません。
 米中間選挙で上下両院がネジレ状態になった結果、日本への圧力はさらに強まるとの観測が出ています。国連での決議をめぐって、核兵器軍縮問題でも日米の見解の相違が表面化しました。従米一本やりでやってきた安倍外交の真価が問われることになります。
 今後の貿易交渉では、自動車輸出を守るために農産物の関税引き下げを受け入れることになるでしょう。関税はTPPの水準を越えないとされていますが、どうなるかは分かりません。すでに、種子法の廃止で農業生産にとって大切な種子が多国籍企業の餌食とされ、「農業改革」によって家族経営の中小零細や兼業農家の切り捨てが始まっています。そのうえ、輸入農産物の関税が引き下げられれば日本の農業と農村は壊滅するでしょう。 

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11月21日(水) 国民の支持なき安倍政権―暗雲漂う3選後の船出(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.39、2018年11月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、改憲阻止と安倍政権打倒に向けて

 改憲ガチンコ勝負の始まり

 安倍首相による改憲強行の狙いは「改憲シフト」人事に示されています。司令塔である党の憲法改正推進本部長を穏健派とされる細田博之氏から強引なやり方をためらわない腹心の下村博文氏に変え、これをバックアップするために重鎮でもない加藤勝信前厚労相を総務会長に抜擢しました。早速、下村本部長は自民党の小選挙区支部に改憲本部の設置を指示しています。
 同時に、改憲論議の主戦場となる衆院憲法審査会の幹事を入れ替え、野党との交渉を担う与党の筆頭幹事に首相に近く超タカ派の新藤義孝氏を起用し、下村本部長が自ら幹事に就任しました。これまで与野党の協調路線を進めてきた中谷元与党筆頭幹事と野党人脈の強い船田元幹事は外されています。
 また、これまで公明党とのパイプ役を果たしてきた高村正彦前副総裁を後ろに引っ込め、必ずしも公明党との了解を前提としないという姿勢を示しました。自民党だけでも改憲に向けて突っ走ることができるような態勢を、とりあえず人事面で固めておいたというのが今回の改造が示しているポイントです。
 安倍首相はこれまで臨時国会での条文案の「提出」に意欲を示してきましたが、最近になって「説明」するだけでも構わないと言い出しました。総裁選後は思い通りにいかなくなったため、「提出」から「説明」へとトーンダウンしたと伝えられています。
 しかし、騙されてはなりません。このような形で印象を操作することが、安倍首相一流の「高等作戦」である可能性が高いからです。当面、「説明」だからと言って世論と野党を油断させ、維新などの一部の野党を巻き込んで憲法審査会を開き、改憲発議を強行するチャンスをうかがうということが十分にあり得るからです。こんなことは常識的には考えられませんが、そのような常識の通用しないのが安倍首相です。
 抵抗や批判もいとわず強行すれば、野党や世論の大きな反発を買うことは目に見えています。統一地方選を控えている地方議員や参院選で立候補を予定している候補者も動揺するでしょう。
 そこで意味を持ってくるのが「選挙シフト」です。今回の改造で選挙に向けての体制を格段に強化したからです。選対委員長に総裁選で選対事務総長を務めた甘利明氏、総裁特別補佐兼筆頭副幹事長に安倍首相の秘蔵っ子と言われている稲田朋美氏を起用し、幹事長代行には総裁特別補佐や官房副長官として仕えてきた側近の萩生田光一氏を再任するなど、安倍首相の盟友や側近を起用して万全の構えが取られました。
 安倍首相は、この改造によって大きな賭けに出たということでしょう。改憲を自分の手でやり遂げるために参院選の前に隙あらば改憲発議を強行したい、それで混乱しても参院選で勝てるようにしたい、発議に失敗しても参院選で何としても勝ち抜きたいという執念がにじみ出ているような布陣です。
 このような執念をしっかりと見抜き、油断することなく対応しなければなりません。トーンダウンしたとされている首相の「死んだふり」に騙されてはいけません。さし当り、「説明」のための憲法審査会の開催には断固として反対する必要があります。
 同時に、閣僚の資質・適格性や消費増税、捏造したとされる「TAG」問題をはじめ日米貿易交渉などについての追及を強めることが必要です。安倍政権の「死に体(レームダック)」化を促進することによって改憲発議の余裕を与えないようにすることが、臨時国会での獲得目標となるでしょう。

 参院選での自民党敗北と安倍政権打倒の展望

 来年の参院選で自民党を敗北させ、安倍政権打倒の可能性を切り開かなければなりません。それは十分に可能だと思います。
 第1は、自民党役員人事と内閣改造の失敗です。これによって内閣支持率を高め、勢いをつけて臨時国会を乗り切るという「スタートダッシュ」を決められず、国民の不信と自民党関係者の不安を引きずったまま政権運営を続けなければならなくなりました。
 しかも、安倍首相にとっては最後の任期で先がなく、後継者争いが始まって早晩「死に体(レームダック)」化することが避けられません。すでに、禅譲を狙う岸田政調会長が福井で後援会を立ち上げるなどの動きが始まっています。
 第2は、「公明党神話」の崩壊です。これまで自民党は連立相手である公明党やその支持基盤である創価学会に助けられて選挙を闘ってきましたが、公明党支持者の3割前後がデニー候補に投票した沖縄県知事選挙に見られたように、創価学会に対する締め付けが効かなくなってきました。
 『週刊ダイヤモンド』編集部の「『最強教団』創価学会の焦燥、進む内部崩壊の実態」というレポートは「実は全国各地で今、……幹部から『査問』を受けたり、役職を解かれたりする会員が急増している」と伝えています。公明党は昨年の総選挙において小選挙区で1人落選させ、比例代表で初めて700万票を下回るなど苦戦しました。来年の統一地方選挙や参院選を前に安倍首相に追随していると見られれば再び苦戦することは免れませんから、改憲問題で距離を取らざるを得ず自公の選挙協力にも陰りが生じています。
 第3は、「亥年現象」というジンクスです。12年に一度、統一地方選挙と一緒の年に戦われる参院選で、選挙を終えた地方議員の「選挙マシン」が作動せず自民党が苦戦するという結果が繰り返されてきました。1959年は唯一の例外ですが、71年、83年、95年に議席を減らしてきました。
 特に、第1次安倍政権の下で実施された2007年参院選では自民党の獲得議席が37議席の歴史的惨敗となり、60議席と躍進した民主党に初めて参院第1党の座を明け渡しました。このときの選挙では公明党も大敗し、神奈川県、埼玉県、愛知県で現職議員が落選しています。
 第4は、2016年参院選の実績です。3年前の参院選では32ある1人区で野党共闘が成立し、11選挙区で勝利しました。これが繰り返されれば、与党は3分の2の改憲発議可能な議席を失います。
 このときは改選121議席のうち自民党が56議席で公明党が14議席と、与党が過半数を上回りました。しかし、改選議席121の57.9%で3分の2を下回っています。自民党は3年前の2013年参院選での当選65を9議席も減らしたのです。

 むすびに代えて―活路は共闘にあり

 来年7月の参院選まで9カ月あります。その時間を無駄にしてはなりません。野党間の共闘をどう強め、参院選をどう闘うのか、前提条件なしで、相互支援に向けて具体的な協議を始めてもらいたいものです。
 国民民主党を含めて野党共闘に向けての態勢は整いつつあります。共産党の理論誌『前衛』の11月号に立憲民主、国民民主、衆院会派「無所属の会」、共産の野党4党派の国対委員長による座談会や臨時国会に向けての野党5党1会派の代表・委員長、幹事長・書紀局長会談など、共闘に向けての機運は高まってきています。
 内閣改造の不発と参院選での苦戦の予想が強まる中で、自民党内には来年の参院選で衆院選との「ダブル選挙」を行うべきだという声も出てきているようです。その可能性も視野に入れた準備を、今から始めなければなりません。
 前回16年参院選と同様に来年の参院選でも共闘を実現すれば、自民党の議席が減り与党全体として3分の2の改憲発議可能な議席に達しません。この時まで発議させなければ安倍首相の改憲野望を粉砕することができます。
 それだけでなく、与野党精力を逆転させて「ねじれ状態」を生み出すことができれば、安倍政権の命脈を断つことができます。解散・総選挙に追い込み、野党連合政権樹立への展望を切り開くことも可能になります。
 前回参院選での野党共闘は2月19日の「5党合意」から始まり、投票日まで40日しかない5月31日になってようやく1人区すべてで「1対1の構図」が確立しました。それよりもずっと早く準備が可能な今回は、さらに強力な野党共闘の力を発揮できるはずです。
 「活路は共闘にあり」ということは、この間の経験を通じてすでに明らかになっています。その活路を切り開くことによって、暗雲漂うなか船出した安倍首相に引導を渡し、国民の支持なき政権を打倒しようではありませんか。


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11月20日(火) 国民の支持なき安倍政権―暗雲漂う3選後の船出(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.39、2018年11月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、「総決算」を迫られる安倍長期政権

 終わっていない森友・加計学園疑惑

 10月7日、加計学園理事長が2度目の記者会見を開きました。しかし、アリバイ的な会見でしたから、疑惑が晴れたとは言い難いものです。森友・加計学園疑惑で共通しているのは、疑惑を指摘する側は具体的な文書や根拠、事実を示しているのに、それを否定する側は具体的な根拠を明らかにせず、ひたすら記憶に頼って言葉で言い逃れるだけだという点にあります。
 今回の加計学園理事長の会見での説明も同様です。証拠を示して指摘された疑惑について、具体的な根拠を明示して反駁することができていません。裁判であれば、もうこれだけで「有罪」を言い渡されても仕方がないような状況に追い込まれているのです。
 この会見によって「疑惑は晴れた」という人はたったの6%で、「疑惑は晴れていない」という人は82%にも上っています(『朝日新聞』10月13、14日調査)。森友・加計学園疑惑について安倍総理や政府のこれまでの説明に「納得できた」は11%にすぎず、「納得できなかった」と答えた人は80%にもなりました(JNN世論調査10月13、14日実施)。
 野党からの追及は止まず、その舞台は臨時国会に移ります。3選を実現したがために安倍氏は今も首相の座にあり、森友・加計学園疑惑追及の矢面に立つ資格を持ち続けているのですから。
 森友学園の国有地売却問題でも『朝日新聞』2018年10月11日付朝刊は、大幅値引きの根拠となった地下のごみの深さについて「3.8メートルまで」に存在する証拠とされた写真が、実際には「3メートルまで」を計測していた疑いを報じました。野党側は国土交通省に事実関係を確認するよう求め、「業者が撮影した調査の写真は不鮮明で、深さがわからない」と指摘しています。この問題も引き続き臨時国会で追及されるでしょう。
 公文書改ざん問題でも、9月25日にテレビ東京で「<森友公文書改ざん>自殺職員の父と財務省OBが決意の告白」という番組が放送されました。公文書の改ざんをさせられ自ら命を絶った近畿財務局の職員の父親が登場し、財務省の財務局OB職員6人が実名でカメラ取材に応じています。
 父親は、「上司に言われることを反対するわけにもいかないし、上司に言われた通りに書き換えたと遺書に書いてありました。7枚か8枚のレポート用紙に書いてありました」と話し、財務局OBは「彼が改ざんの仕事をやらされる中で100時間を超えるような残業。追い詰められて顔が変わってしまった」と証言しています。
 このように、森友学園疑惑も終わっていません。公文書改ざん問題では自殺者まで出ています。真相を明らかにし、麻生副総理兼財務相と安倍首相の政治責任を明らかにして断罪しなければ、改ざんを命じられて自ら命を絶った職員は浮かばれないでしょう。

 アベノミクスの漂流と福祉への攻撃

 自民党の総裁選挙では、安倍首相の3選支持の大きな理由の一つが外交と共に経済政策にあったそうです。安倍首相自身もアベノミクスと称して経済政策を看板にし、それによって支持の拡大を図ってきました。
 しかし、それはテレビなどで報じられる外見にすぎません。安倍首相が行ってきたのは経済や景気の立て直しではなく、「やっているふり」「進んでいるポーズ」によって国民を欺くことでした。
 その「化けの皮」が剥がれつつあります。例えば、『東京新聞』2018年9月12日付は「アベノミクス成果大げさ? 計算方法変更 GDP急伸」という記事で、「経済指標が改善したのは、データのとり方を変えた影響が大きく、十分な説明をせず、成果を『誇張』しているとの指摘もある」として、次のように書いています。
 「急成長には『からくり』がある。政府は16年12月、GDPの計算方法を変更したのだ。『国際基準に合わせる』との理由で、それまで採用していなかった『研究開発投資』の項目を追加。このほか建設投資の金額を推計するために使っていたデータを入れ替えるなどの見直しを行った。この結果、15年度の名目GDPは32兆円近く増えて532兆2000億円に跳ね上がり、一気に600兆円に近づいた。」
 9月3日に財務省が発表した4~6月期の「法人企業統計」によれば、企業の経常利益は前年比17.9%増だったのに対し、人件費は前年比3.8%増にとどまりました。企業利益の増加より人件費の増加の方が14.1ポイントも低いのです。
 企業の内部留保が446兆円になるほど過去最高の利益を積み上げているのに、労働分配率は低下して人件費は低いままに抑えられてきました。個人消費は低迷が続き、マイナス金利などで金利収入はほぼ消滅し、世帯主が50代の世帯で無貯蓄が3割あるといいます。
 貯蓄もなく年金はじり貧で社会保険料や医療費の負担が高まる一方ですから、消費拡大に期待する方が無理というものでしょう。大企業や富裕層が富めばその富が低所得層に「滴り落ち」て国民全体に利益が及ぶとする「トリクルダウン理論」も、市場にマネーを供給して緩やかなインフレにすれば企業や家計のマインドが改善して設備投資や消費が活発になるという「リフレ論」も完全に破たんしています。
 10月から政府は生活保護基準の引き下げに踏み切りました。子どものいる世帯や母子世帯の生活保護費が削られるだけでなく、保護を受けていない低所得世帯も、これまでの就学援助や非課税対象がカットされるケースが出てきます。貧困層への税の分配をやめ、子どもの貧困をさらに増やすことになります。
 さらに、安倍首相は10月15日に臨時閣議を開き、来年10月1日からの消費税の10%への引き上げを決定しました。アベノミクスの下で国民の貧困化と格差の拡大が進み、日本経済は国民の低所得化によって内需が落ち込んでいます。この状態での消費税10%への引き上げは国民生活を破壊し、日本経済にとどめを刺すことになるでしょう。

 「安倍外交」がもたらした日本の孤立

 外交は経済と並んで安倍首相の強みだと言われてきました。しかし、アベノミクスとともに「安倍外交」も破たんし漂流を始めたようです。その外交で、これほど日本はのけ者にされているのかと思わせるような事態がまたもや生まれました。
 「またもや」というのは、5月24日に北朝鮮がプンゲリ(豊渓里)の核実験場を爆破して公開したとき、6カ国協議に参加している国の中で日本のメディアだけが除外され、代わりにイギリスの記者が招待されていたからです。
 今回も、6カ国協議に参加している国で日本だけが除外されました。モスクワからのロイター通信の報道によれば、「ロシア外務省は10月10日、朝鮮半島の緊張緩和のため、米国と韓国を交えた5カ国協議が必要だとの認識でロシア、中国、北朝鮮が一致したことを明らかにした」そうですから。
 同盟国のアメリカとの関係でも、日米貿易戦争の始まりによって暗雲が漂い始めたことは前述した通りです。ムニューシン米財務長官は10月13日、日本との新たな通商交渉で、為替介入をはじめとする意図的な通貨安誘導を阻止する「為替条項」の導入を要求すると表明しました。物品だけの交渉ではない新たな「火種」の登場であり、このような「攻勢」は今後も強まるにちがいありません。
 ロシアとの関係も予断を許さないものになっています。これまで安倍首相はプーチン大統領と22回も首脳会談を行って個人的な関係を築いてきましたが、北方領土問題を解決する点では何の役にも立たず、かえって経済開発のお手伝いをさせられ実効支配を強めてしまっています。プーチン大統領から前提条件なしでの平和条約締結を持ち掛けられても反論すらできませんでした。
 最近目立つのは軍事力の強化です。外務省によれば、ロシア政府から北方領土の択捉島の近海でロシア軍が射撃訓練を行うと日本側に通知があり、これに抗議したところ、ロシア外務省は「自国の領土であらゆる活動を行う権利がある」と主張し、「儀式のような抗議ではなくすでにある政府間対話の枠組みを通して解決すべきだ」と反発したといいます。慌てた外務省は年内に2回も日露首脳会談を開いて関係を改善しようと躍起になっています。
 こうして、窮地に陥った安倍首相が助けを求めようとしているのが中国です。10月25日から北京を訪問して習近平国家主席との首脳会談が行われました。友好関係が回復され日中関係が改善されるのは結構な話です。しかし、これまでの中国敵視政策や「中国包囲網の形成」政策との整合性をどのようにして取るつもりなのでしょうか。
 最近も、南シナ海での海上自衛隊の潜水艦訓練を公開し、米空軍の戦略爆撃機と航空自衛隊との共同訓練を行い、日本版海兵隊と言われる水陸機動団と米海兵隊との国内初の合同演習を種子島で実施しました。いずれも「仮想敵国」として想定されているのは中国です。
 「米中冷戦」の開始と言われるほど中国敵視を強めているトランプ政権や対中接近に警戒を高めている支持基盤の極右勢力に「言い訳」をしながら、握手の手を差し伸べようとしているようです。この点に「安倍外交」のジレンマとギクシャクぶりが象徴されています。

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11月19日(月) 国民の支持なき安倍政権―暗雲漂う3選後の船出(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.39、2018年11月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 9月2日に第4次安倍改造内閣が船出しました。総裁任期は2期6年までとされていた自民党の党則をわざわざ変更して3選を実現し、3期9年への道を開いたうえでの出発です。
 そうまでして長くやってもらうほど、安倍首相への世論の支持は大きなものだったのでしょうか。実態は逆です。『毎日新聞』が行った世論調査(10月6、7日実施)では、安倍内閣支持率は37%で9月の前回調査から横ばい、不支持率は1ポイント減の40%で、3月の調査から7回連続で不支持が支持を上回っていました。
 つまり、安倍内閣は国民に支持されていません。支持されていないのに第4次までの長期政権を迎えることになりました。国民の支持なき安倍政権の長期化という異常事態が生まれたことになります。
 その原因は小選挙区制という選挙制度にあり、この制度に賢く対応することができなかった野党のふがいなさにあります。その結果、自民党は多数議席をかすめ取り、安倍首相は国会内と自民党内での二重の「一強体制」を実現することに成功しました。
 しかし、それは虚構の多数派にすぎません。個々の政策において国民の要求とのミスマッチは拡大しています。長期政権になればなるほど、「驕り」や「飽き」も生じてきます。しかも、今後3年間は最後の任期ですから自民党内での後継争いが激しくなり、安倍首相の「死に体(レームダック)」化は避けられません。
 憲政史上最長の在任期間を視野に入れて出発した安倍首相ですが、その前途には暗雲が垂れ込めています。国民の支持という推進力を欠いた政権にとって、これからの航海は「風任せ」の不安定なものとなるにちがいありません。

1、 誤算に満ちた第4次安倍改造内閣の船出

 支持率を下げて出発した改造内閣

 安倍改造内閣の第1の誤算は、自民党総裁選で獲得した党員票の少なさと改造内閣への国民の冷ややかな反応です。総裁選で獲得した党員票がたったの55%だったことは安倍首相にとって最初の躓きでした。投票率が62%でしたから、投票権のある党員の34%しか安倍首相に投票していなかったことになります。
 そのうえ、内閣が改造されれば多少の「ご祝儀」があって支持率が上がるのが普通ですが、今回は全くありません。10月2、3日に実施された世論調査すべてで、改造を「評価しない」が「評価する」を上回り、内閣支持率も前回調査から『日経新聞』で55%から50%に5ポイント、共同通信でも47.4%から46.5%に0.9ポイント下落し、『読売新聞』でさえ50%と横ばいでした。
 このような結果になった最大の原因は、改造された自民党役員と閣僚の顔ぶれにあります。本来ならとっくに辞めていなければならない麻生太郎副総理兼財務相の残留が大きな批判を浴びましたが、安倍首相にとっては党内第2派閥のサポートを確実にするための選択だったと思われます。
 新入閣組が12人と多くなったのは、応援してもらった派閥に「恩返し」するためです。女性の入閣者は片山さつき地方創生担当相だけで、過去の言動やスキャンダルが問題になりそうな面々がそろい、衆院当選7回以上のベテランなのに初入閣が7人もいます。
 こうなったのは「待機組」を派閥の推薦通りに受け入れたからです。ここに安倍首相の力の弱体化を見ることができます。初入閣が多ければ大臣としての手腕や国会での答弁、普段からの言動などに不安が生じますが、早速、柴山昌彦文科相が「アレンジした形で、今の道徳などに使える分野があり、普遍性を持っている部分がある」などと教育勅語を評価して追及を受けました。
 今回の改造の特徴の第1は、閣僚の多くを極右勢力が占めている点にあります。改憲右翼団体と連携する神道政治連盟国会議員懇談会には公明党の石井啓二国交相以外の19人全員が加盟歴を持ち、日本会議国会議員懇談会には15人が加盟しています。安倍首相に「右を向け」と言われなくても初めから右を向いているような人ばかりです。
 第2の特徴は「改憲シフト」です。臨時国会での改憲発議のための布陣として、盟友の下村博文自民党憲法改正推進本部長と加藤勝信総務会長、衆院憲法審査会に新藤義孝与党筆頭幹事を新任しました。
 第3の特徴は来年春の統一地方選挙と参院選に備えた「選挙シフト」です。甘利明選対委員長、稲田朋美総裁特別補佐兼筆頭副幹事長、萩生田光一内閣官房副長官という側近を起用しています。受託収賄の疑いや自衛隊日報隠蔽問題などで辞任した甘利氏と稲田氏、加計学園疑惑で名前が出た萩生田氏などの側近の起用も世論の反発を高める結果になったと思われます。

 沖縄県知事選挙での予想外の大敗

 安倍首相にとっての第2の誤算は、沖縄県知事選での予想を越えた大敗です。佐喜間候補が当選できなかったことも誤算だったでしょうが、それ以上に8万票という大差の衝撃の方が大きかったのではないでしょうか。
 安倍政権が菅官房長官、二階幹事長、小泉進次郎議員などを総動員し、連立相手の公明党が原田創価学会会長はじめ6000人とも言われた学会員を送り込んでも勝てませんでした。この民意を尊重することこそ民主主義のあるべき姿にほかなりません。沖縄への敵視政策を改めて、辺野古での新基地建設は直ちにストップするべきです。
 今回の知事選では、民主的な選挙のあり方も問われました。「辺野古での新基地建設の是非」という最も重要な争点についての政策を示さず、ひたすら当選を目指す「争点隠し選挙」自体が有権者の審判を受けたという点も重要です。
 安倍政権はカネと利益で誘導し、徹底した組織戦で締め上げながら期日前投票で囲い込めば勝てると考えたのでしょう。しかし、力で屈服させようという強引な選挙戦術はかえって県民の反発を買い、逆効果になりました。
 こんなやり方は、もう通用しません。「争点隠し」と「利益誘導」によって組織戦を展開し、期日前投票に動員するという「勝利の方程式」は「敗北の方程式」に変わってしまったのです。政権側は選挙戦術の見直しを迫られることになるでしょう。
 逆に、野党側は市民と野党との共闘こそ真の「勝利の方程式」であり、大きな威力を発揮できるということを学びました。辺野古新基地建設反対と普天間飛行場の即時閉鎖・返還という最大の争点を前面に掲げて「オール沖縄」を野党共闘が支え、一部の保守や創価学会、7割もの無党派層の支持を集める闘い方こそ、市民と野党の側にとっての「勝利の方程式」だということが再び証明されたのです。

 2国間交渉に引きずり込まれた日米貿易問題

 第3の誤算は、日米貿易交渉におけるアメリカの対応です。これも、トランプ米大統領との親密な個人的関係を自慢していた安倍首相にとっては、大いなる誤算だったにちがいありません。日本にとっては不利になるから受け入れないとしていた2国間交渉に早々と引きずり込まれてしまったからです。
 日米共同声明についての改ざん疑惑も生じています。在日米国大使館の日本語訳では「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」とされ、ハガティ駐日米大使も「われわれはTAGという用語を使っていない。……物品と同様にサービスを含む主要領域となっている」と発言しています。
 ところが、外務省の日本語訳では「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉を開始するとなっています。物品だけの交渉であるかのような用語をねつ造して「包括的なFTAとは、全く異なる」という安倍首相の発言との整合性を図ろうとしたのかもしれません。
 森友学園疑惑で安倍首相の発言とつじつまを合わせるために公文書が改ざんされた構図と極めて似通っています。アメリカのペンス副大統領は10月4日の演説で「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free Trade Deal)をまもなく始める」と述べ、パーデュー米農務長官も日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)などを上回る農林水産品の関税引き下げを求める考えを示唆して強硬姿勢を鮮明にしました。日本政府のウソがばれるのもそれほど先のことではないでしょう。

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11月12日(月) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、安倍首相の野望を打ち砕く力はどこに

 自民党総裁選の真実

 安倍首相が総裁選挙で3選されたのは事実ですが、必ずしも安定した支持によって支えられているわけではありません。自民党総裁選挙の中身を子細に分析すれば、「安倍一強」の脆弱性が明らかになります。
 総裁選で石破氏の254票に対して安倍首相は553票を獲得し、圧勝したように見えます。しかし、「党員票」の状況を見れば、全く違った光景に出会います。安倍首相の得票は55%で、石破氏の得票は45%と肉薄していたからです。7割を獲得するという安倍首相陣営の目標からすれば驚愕する結果であり、石破氏が善戦したことは疑いありません。
 しかも、総裁選の有権者である自民党員の中には、かつて犬や猫の名前まであり代理投票などもありました。選挙自体も公職選挙法の規制を受けず、金をばらまいたり飲ませたり食わせたり、何でもありです。今回の選挙の途中でも、石破支持の地方議員や国会議員に圧力がかけられていたことが明らかになりました。
 そのような懐柔や締め付けが横行する下での選挙結果でも、石破氏は半分近い支持を集めました。投票率が62%でしたから、安倍首相の55%という得票は自民党員の34%にすぎません。つまり、安倍首相は自民党員の3分の1にしか支持されていないということになります。これが、総裁選で示された真実だったのです。

 内閣改造と暗雲漂う臨時国会

 10月2日に自民党役員と内閣の改造が行われ、第4次安倍改造内閣が発足しました。安倍異常政権にふさわしい、最低最悪で異常な内閣になっています。「土台」とされている菅官房長官や麻生太郎副総理兼財務相は留任し、その周りを側近や「お友達」の議員が固め、過去最多となった新入閣者は派閥均衡・滞貨一掃の古手がほとんどという顔ぶれです。
 唯一の女性となった片山さつき地方創生担当相は西日本豪雨災害の最中に「赤坂自民亭」で宴会をしていた様子や貧困家庭の子どもを中傷するようなツィートをして問題になりました。原田義明環境相は学歴詐称問題で副文科相を辞任したり、「南京大虐殺」についての政府見解の見直しを求めたりしたことがあります。桜田義孝五輪担当相も「慰安婦はビジネスだ」との発言を批判されて撤回した過去がありました。
 失言や暴言のリスクが高い「ガラクタ」ばかりをかき集めたようなものです。早速、柴山昌彦文科相が教育勅語を評価するような発言をして批判を浴びました。しかも、公明党出身の石井国交相を除く19人の閣僚全員が改憲右翼団体と連携する「神道政治連盟国会議員懇談会」に所属し、「日本会議国会議員懇談会」にも14人が加盟しています。
 改憲・右翼的志向の強さは、自民党役員人事で一層明瞭になっています。憲法改正推進本部長に下村博文氏、総務会長に加藤勝信氏、選対委員長に甘利明氏、筆頭副幹事長に稲田朋美氏など安倍首相の盟友や側近が起用され、露骨な「改憲シフト」が敷かれました。臨時国会で改憲発議をゴリ押しする狙いが明瞭です。
 しかし、改憲に向けての視界は不明瞭で、このような前のめり人事は逆効果になりかねません。安倍首相が改憲発議に本腰を入れようとしているのも成算があってのことではなく、求心力を維持して「死に体(レームダック)」化を避けるために改憲を振りかざさざるを得ないからです。
 秋の臨時国会では日米貿易協議や消費税の10%への再引き上げ問題などの難問が待ち構えています。安倍首相が最重要課題としている改憲問題では、石破氏など自民党内でさえ慎重論があり、公明党の消極姿勢や立憲野党の反対、急ぐべきではないという世論などの「壁」があります。
 公文書改ざんやセクハラ問題、暴言などでとっくの昔に辞任していなければならないのに無理やり続投させた麻生氏、政治とカネの問題を抱えている甘利氏や下村氏、岩屋氏など、野党の追及や世論の批判によっていつ爆発するか知れない「地雷」を組み込んだ新体制で、このような暗雲漂う臨時国会を乗り切れるのでしょうか。

 野党共闘の威力と「亥年現象」

 第4次安倍改造内閣の前途には、もう一つ大きな試練が待っています。それは選挙です。2019年は春に統一地方選挙があり、夏に参院選があります。「選挙の顔」として勝ち抜くことができなければ、安倍首相には未来がありません。
 安倍政権が選挙で勝ち続けてきたのは確かですが、有権者内での得票率(絶対得票率)はそれほど高くありません。参院選の選挙区や衆院選の小選挙区での絶対得票率は25%前後で、比例代表での絶対得票率は16~17%ほどにすぎません。それなのに自民党が勝利してきた秘密は、野党の分断と投票率の低さにあります。
 逆に言えば、現状のままでも、野党が共闘してまとまり投票率が1割ほど高くなって野党に入れば勝つことができます。そのためには、何としても野党共闘を実現しなければなりません。共闘できれば勝利の展望が見えてきます。諦めていた有権者も、投票所に足を運んで野党候補を後押しする可能性が高まります。
 しかも、来年の参院選挙は統一地方選挙と一緒に戦われます。この12年に一度の亥年の参院選では自民党が苦戦するという「亥年現象」が繰り返されてきました。1959年を唯一の例外にして、71年、83年、95年の参院選では自民党が議席を減らしています。
 とりわけ、前回の2007年参院選は第1次安倍政権の下で実施され、自民党の獲得議席は37議席と89年参院選以来の歴史的惨敗となり、60議席を獲得した民主党に初めて参院第1党の座を明け渡しました。ちなみに、この選挙では公明党も大敗し、神奈川県、埼玉県、愛知県の選挙区で現職議員が落ちています。
 市民と野党との共闘によって、この07年参院選を再現させることができれば、安倍政権を打倒することができます。そうすれば、解散・総選挙に向けての展望を切り開くことも可能になるでしょう。

 むすび―国賠同盟・運動への期待

 安倍政権はすでに「賞味期限」が切れています。安倍首相が掲げてきた「3本の矢」「地方創生」「女性活躍」「一億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」などの目玉政策もスローガン倒れに終わっています。歴代自民党政権が取り組んで来た「政治改革」「行政改革」「構造改革」「雇用改革」「教育改革」「大学改革」「司法改革」「税と社会保障の一体改革」「農業改革」などの「改革」路線も失敗の連続です。
 それなのに安倍首相は自民党総裁として3選され、さらに3年間続投することになりました。国政選挙で連勝し、内閣支持率も上下しながらそれなりに安定しているからです。その背景と要因は、小選挙区制を導入した政治改革や官邸支配を強化して官僚の人事権を握った行政改革など、制度「改革」の一部が国会と自民党内での「一強」を生み出す点で有利に働いたからです。
 教育とマスメディアに対する支配と統制の強化も、安倍内閣を支える装置となりました。社会や国民意識の変容と右傾化は安倍内閣支持を安定させる背景の一つでした。安倍長期政権の深層には、右傾化する日本社会の存在があったのです。
 安倍首相は「(戦前の)日本を取り戻す」という野望を実現するために、このような社会の変容を促進するとともに政治的に利用してきました。ときには、意識的なフェイク(虚偽)情報を流すことさえためらいませんでした。こうして、安倍政権は社会の底辺で蘇生しつつある草の根の「戦前」によって支えられてきたのです。
 フェイク(虚偽)にはファクト(事実)で対抗しなければなりません。戦前の日本社会の実像を明らかにし、そのおぞましさと恐ろしさをいつまでも伝え続けていかなければ、いつかは忘れられてしまいます。忘却こそ、戦前回帰への始まりなのです。
 治安維持法という戦前最悪の弾圧法の実態を明らかにし、その被害者を救済することによって国の責任を問うことは、忘却への最善の抵抗手段にほかなりません。安倍政権が社会の底辺に蘇りつつある草の根の「戦前」によって支えられている以上、それを草の根で掘り崩す国賠同盟の存在と運動は、いつまでも現代的な意義を失うことはないでしょう。

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11月11日(日) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、「安倍一強」を生み出した背景と要因

 制度改革の「成功」と「失敗」

 安倍政権の異常性はますます明瞭になり、日本が取り組んで解決すべき課題とのミスマッチは拡大し、民意との乖離も増大しています。それなのに国政選挙で勝利し続け、内閣支持率は上下しながらも急落することを免れています。それは何故でしょうか。
 そこには「安倍一強」を生み出した背景と要因があるからです。制度改革の「成功」と「失敗」、支配装置としての教育とマスコミ、社会や国民意識の変容と右傾化という3つの側面から、これについて検討してみることにしましょう。
 まず、歴史的に取り組まれてきた各種の「改革」によって生じた政治的な機能について指摘する必要があります。とりわけ、「一強」体制を生み出した要因として「政治改革」「行政改革」「構造改革」が重要です。
 第一の政治改革によって小選挙区制が導入され、自民党は選挙区で4割台の得票率で7割台の議席を占め、国会内で「一強」体制を確立しました。自民党内でも派閥が力を弱めて多元的な柔構造が失われ、候補者の擁立や資金の分配などに関する権限を執行部が握り、党の中央集権化がすすみます。
 2つ目の行政改革では、2001年の省庁の再編によって内閣府が登場し、官邸機能や首相権限が強められました。2014年には内閣人事局が発足し、官僚に対する官邸の支配力が格段に強化されています。
 3つ目は構造改革です。法形成のルールを緩めて国会を通さずに「政治主導」を貫くことをめざして経済財政諮問会議や規制改革会議、ワーキンググループなどが設置されました。加計学園問題では、国家戦略特区諮問会議によって岡山理科大学の獣医学部新設が認められています。このような仕組みこそ、政治や行政の私物化、忖度が蔓延する状況を生み出す制度的な背景にほかなりません。
 これ以外にも、安倍政権が取り組んで来た「改革」は「やってる感」を国民に与え、内閣支持率の安定に寄与してきました。しかし、実際には効果を上げていません。「安倍一強」を生み出したという点では「成功」したかもしれませんが、日本が直面している問題を解決して状況を改善するという点では完全に「失敗」に終わっています。
 詳述する余裕はありませんが、非正規労働者を増大させた「雇用改革」、教育と教科書の内容に介入し管理・統制を強めて現場を荒廃させてきた「教育改革」、予算を減らして研究能力を低下させてきた「大学改革」、弁護士の数を増やして処遇を低下させた「司法改革」、社会保障サービスを切り捨てて消費税を引き上げるための口実にすぎなかった「税と社会保障の一体改革」など、惨憺たるものです。これに、前述した「農業改革」を加えれば、死屍累々たる姿が浮かび上がります。まさに「改革」失敗のオンパレードではありませんか。

 支配装置としての教育とマスメディア

 安倍内閣への支持調達においてとりわけ重要な役割を果たしているのは、教育とマスメディアです。安倍首相にとっては「(戦前の)日本を取り戻す」ための社会的な仕組みだと言っても良いでしょう。特に、若者の内閣支持率を高めるうえで大きな役割を担っています。
 戦後民主教育と日教組に対する敵視と介入は、自民党の伝統的な施策の一つでした。それをバージョンアップしたのが安倍首相です。第1次安倍内閣で教育基本法と関連3法を改定して愛国心という言葉を盛り込み、内閣府直属の教育再生会議を舞台に教育への介入を強めようとしました。
 第2次安倍内閣もこの流れを引き継ぎ、教育再生実行会議を発足させて教育への介入と管理を強めてきました。教科書検定の強化と内容への介入、道徳の教科化と愛国心教育の重視、労働強化による先生の疲弊と教師集団の分断、教職員会議の形骸化、労組攻撃による教職員組合の組織率低下など、教育内容と教育現場の荒廃が急速に進んでいます。
 その結果、正しい歴史認識を持たず、権力に従順で空気を読みすぎる過剰な同調性を身に着けた若者が生まれました。若者と高齢者との政治・社会意識の対立は世代間の格差ではなく、戦後民主教育で育った高齢者と安倍教育改革によって取り込まれた若者との違いから生じています。
 自民党による長年の日教組や全教への攻撃と安倍教育改革による介入と管理強化は、森友学園でなされていた教育勅語を暗唱させるような国粋主義的戦前教育の復活をめざしていました。だからこそ、それを目にした安倍首相夫人の昭恵氏が感激し、森友学園の小学校用地取得のために一肌脱ごうとしたのではないでしょうか。
 戦前の軍国主義教育によって多くの若者が洗脳され自ら進んで戦地に赴きました。今また、教育の変質によってある種のマインドコントロールがなされ、希望や展望をもたない若者は変革への意欲を失い、現状は変わらないものと思い込んで諦めてしまっているように見えます。
 戦前において猛威を振るった教育の恐ろしさはよく分かっていたはずです。安倍首相も教育の持つ力を十分に理解していたのでしょう。だからこそ、「(戦前の)日本を取り戻す」方策の手始めとして教育改革に取り組み、今になってその「成果」が徐々に出てきたということではないでしょうか。
 もう一つの安倍内閣への支持調達の手段は、マスメディアに対する懐柔と統制です。その結果、新聞やテレビ報道は大きく変容してしまいました。一部の報道は権力への監視や批判というジャーナリズムの役割を忘れ、安倍首相の御用新聞、御用チャンネルになっています。
 事実がきちんと報道されない、安倍首相が過度に美化されている、政権に不利になるような報道は手控えるというような忖度や配慮が日常的に行われています。大手全国紙のスタンスは「親安倍」と「反安倍」に分かれ、テレビではNHKの政権寄りの姿勢が目立つようになりました。その結果、政権にとって不利にならないような情報環境が拡大してきています。
 しかも、若者はこのような新聞やテレビさえ視聴している人が減っています。情報入手の手段はインターネットやSNSで、フェイスブックやツイッターによる場合が大半です。そして、このような手段を通じて流布されるものには、多くのフェイクニュース(虚偽情報)も含まれています。
 フェイク(虚偽)に打ち勝つ力はファクト(事実)です。情報を見極める「リテラシー(読解力)」が必要であり、そのような力は教育によって培われます。現場での教員の奮闘が求められますが、それを包み込むような父母による運動や安倍「教育改革」を阻止する政策転換を急がなければなりません。

 社会や国民意識の変容と右傾化

 社会や国民意識の変容と右傾化も内閣支持を安定させている背景の一つです。いわば、社会の底辺で蘇生しつつある草の根の「戦前」が、安倍首相を支えているということになります。このことを、最近話題になっている『新潮45』の休刊問題を例に考えてみることにしましょう。
 『新潮45』は8月号に杉田水脈衆院議員の「『LGBT』支援の度が過ぎる」という論文を掲載し、批判が殺到すると10月号で特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」を組み、さらに大きな批判を招いて休刊に追い込まれました。その背景には出版不況があり、「炎上」も辞さない覚悟で「右寄り」の紙面づくりを行ったと言います。つまり、「右寄り」にすれば売れるという判断があったことになります。
 「LGBTは生産性がない」という差別論文や「偏見と認識不足に満ちた」(佐藤隆信新潮社社長)反論特集であっても、読者を増やすことができると考えたわけです。実際、中高年向けの雑誌は「右寄り」のものが売れているようです。「安倍晋三圧勝の秘密」「中国を叩き潰せ」などという記事を載せている『WiLL』11月号や「安倍総理 新たなるたたかいへ」「朝日新聞は国民の敵だ」などの記事がある『月刊HANADA』は、全国紙に大きな広告を出し書店で平積みされています。
 この両誌に登場しているケント・ギルバート弁護士は『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』という本を講談社という大手出版社から出して47万部も売れました。昨年の新書・ノンフィクション部門で最多の発行部数となり、2月には続編も出ています。中韓の人について「『禽獣以下』の社会道徳」などと差別的な記述のある本が売れているということは、それを歓迎する読者がいるということです。
 これらは一例にすぎませんが、ここに日本社会の醜い一面が示されています。安倍首相を持ち上げ、気に入らない対象を侮蔑し卑下することによって留飲を下げようとする人々が確実に存在するという事実です。これらの人々が、強固な支持者となって安倍政権を支えていることは明らかです。
 しかも、これらの右翼的な意識を持つ人々と安倍首相は同じ側に立ち、ある面では繋がっています。「安倍さんがやっぱりね、『杉田さんは素晴らしい!』って言うので、萩生田(光一・自民党副幹事長)さんが一生懸命になってお誘いして、もうちゃんと話をして、(杉田氏は)『自民党、このしっかりした政党から出たい』と」と、櫻井よしこ氏が語っているように、杉田氏を自民党の候補者として衆院中国ブロック名簿の上位に押し込んだ経緯に安倍首相が深くかかわっていました。だから、安倍首相は杉田氏を批判できないのです。
 反論特集に登場し杉田論文を擁護して大きな批判を浴びた自称文芸評論家の小川榮太郎氏も安倍首相と深いかかわりがあります。小川氏は安倍首相のブレーンである長谷川三千子埼玉大学名誉教授の弟子にあたり、2012年に『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)という本でデビューした人です。
 この本は最初から安倍氏を再び総理大臣にしようという運動のなかで出版されたもので、2012年の自民党総裁選の直前、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の事務局的な役割をしていた小川氏が評論家の三宅久之氏の指導で執筆し、安倍応援団の見城徹社長の幻冬舎から出されました。それがベストセラーになって売り切れになったりしたために話題になりましたが、それは安倍氏の資金管理団体「晋和会」が700万円以上も出して4000部も購入したからです。


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11月10日(土) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 これほど異常な政権が、かつてあったでしょうか。右派的な改憲志向の政権はありました。中曽根康弘政権などはその一例です。しかし、改憲をスケジュールに上らせことはありませんでした。
 総理大臣の犯罪が断罪されたことはありました。ロッキード事件で逮捕された田中角栄元首相がそうでした。しかし、首相の夫人までが疑惑をもたれ、公文書を書き換えて証拠隠滅を図ろうとしたことはありませんでした。
 中曽根元首相は「きれいなタカ」だったと言えるかもしれません。田中元首相は「汚いハト」と呼ばれることがありました。「きれいなハト」は三木武夫元首相でしょうか。
 これらの先輩に比べても、安倍晋三首相は異例であり異常です。自民党政権でも、これまでに存在することのなかった「汚いタカ」だからです。スキャンダルまみれで改憲志向の首相は稀有だと言うべきでしょう。
 この点で、安倍首相は戦後最悪で最低の首相です。その安倍首相は自民党の規約を変えてまで3選され、第4次安倍改造内閣を発足させました。内閣改造によって支持率は上がるどころか下がり、嵐の中での船出となったようです。
 同時に、内閣支持率は一定の水準を維持しており、ここに安倍政権の強みもあります。その秘密がどこにあるのかを、考えてみたいと思います。3年の任期をまっとうすれば憲政史上最長になる可能性のある長期政権が、最低最悪の安倍首相によって、どうして実現されようとしているのでしょうか。
 その背景と要因は何か。安倍異常政権の深層を探り、それを阻止するにはどうすれば良いのか。これらを検討し明らかにするのが、本稿の課題です。

1、「賞味期限」が切れた安倍政権

 自分でやらなければならなくなった「後始末」

 9月20日に自民党の総裁選挙が実施され、安倍晋三総裁が3選されました。でも、安倍首相は3選されない方が良かったのではないでしょうか。2期6年で首相の座を去っていた方が、「有終の美」を飾れたはずです。
 しかし、憲政史上最長の政権を実現したいという野望には打ち勝てなかったと見えます。わざわざ3選禁止の自民党規約を変え、総裁選挙で当選し9年の長期政権を視野に入れることになりました。とはいえ、その任期を全うできるという保障はどこにもありません。すでに、「賞味期限」が切れているのですから。
 安倍首相が2期6年で政権の座を去っていれば、過去6年にわたって続いてきた失政の後始末は、次の首相に任せることができました。自らがかかわり疑惑をもたれてきたスキャンダルからも逃げおおせて、知らん顔ができたかもしれません。
 しかし、まだ3年間も首相の座にとどまることになりました。そのため、「安倍首相夫妻と不愉快な仲間たち」によって引き起こされた森友・加計学園疑惑から逃げられなくなったのです。国民の側からすれば、真相解明と責任追及の期間もあと3年保障されたことになります。
 安倍首相にとって支持率を安定させる手段は経済と外交でした。しかし、鳴り物入りで進められてきたアベノミクスは破たんが明らかになっています。日銀の黒田総裁が進めてきた異次元金融緩和は失敗し、2%のインフレ目標の達成時期はあいまいにされました。景気は改善されず、収入は増えていません。
 金融緩和政策は終了するときこそ難しいと言われています。3選されたために、安倍首相自身がその「出口」戦略を担わざるを得なくなりました。総裁選で「トリクルダウンなどと言ったことはない」と弁解していましたが、間接的に失敗を認めたようなものではありませんか。「尻拭い」を自らの手でやらざるを得ないということに、今になって気が付いたのかもしれません。
 「3本の矢」「地方創生」「女性活躍」「一億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」など鳴り物入りで始めた「目玉政策」の数々もスローガンだけが先行し、一向に成果は上がっていません。労働者の働き方を改善して過労死や過労自殺を解決するはずの「働き〝過多〟改革」は、働かせ放題で残業代ゼロの「高度プロフェッショナル制度」の導入によって全く逆のものになってしまいました。

 孤立し漂流を始めた外交

 経済がかげりをみせはじめただけでなく、もう一つの外交も漂流を始めています。朝鮮半島の非核化と平和構築に向けて米朝首脳会談が開催されましたが、「圧力一辺倒」の安倍首相は事態の急進展に対応できず、完全に孤立してしまいました。東アジアでの緊張緩和が進むなかで、安倍政権が進めてきた軍事大国化を目指した好戦的政策はほとんど無意味になりつつあります。
 拉致問題や北方領土問題は全く進展せず、個人的な関係を強めてきたプーチン大統領からは、突然、平和条約締結を持ち出されてオロオロするばかりでした。北朝鮮の金正恩委員長からは相手にされず、韓国の文在寅大統領とは相変わらず慰安婦問題などでギクシャクしたままです。成果ゼロではありませんか。「外交の安倍」だなんて、聞いてあきれます。
 「カヤの外で飛び回る一匹の蚊」のようになった安倍首相は、中国の習近平主席に助けを求めてすり寄っています。他方で、極右の反中勢力の反発を抑えるために南シナ海で潜水艦訓練を行ったり、米軍の戦略爆撃機と空自の共同訓練を行ったりというチグハグぶりです。これまで精力を費やしてきた中国敵視政策と「中国包囲網」づくりによって大きなジレンマに追い込まれてしまいました。
 日米関係にも暗雲が漂い始めています。9月に行われた首脳会談で、これまで避けてきた貿易に関する2国間協議を呑まされてしまったからです。「日米物品貿易協定(TAG)」と看板を変えて誤魔化し、「全く異なる」と安倍首相は弁解していますが、基本的な内容は「自由貿易協定(FTA)」と変わりありません。合意文書の翻訳で日本政府が改ざんした疑惑まで生じています。
 合意される関税はTPPの水準を越えないとされていますが、要するに自動車輸出を守るために農産物自由化を受け入れるということにほかなりません。すでに、種子法の廃止で農業生産にとって大切な種子が多国籍企業の餌食とされ、「農業改革」によって中小零細や兼業農家の切り捨てが始まっています。そのうえ、輸入農産物の関税が下げられれば日本の農業と農村は壊滅するでしょう。
 
 沖縄県知事選挙の衝撃

 9月30日に、安倍3選後初の大型選挙となった沖縄県知事選挙が実施されました。結果は玉城デニー候補が39万6632票、佐喜真淳候補が31万6458票で、その差は8万174票という圧倒的なものでした。
 前回の翁長候補の得票は36万票でしたから、それより3万票も多くなっています。この玉城候補の得票は過去最高でした。つまり、「辺野古に新基地はいらない」という沖縄県民の民意がこれまでで最も多くの票によって、明確に示されたことになります。
 この選挙では、菅義偉官房長官と小泉進次郎衆院議員が3回も応援に入り、二階俊博幹事長や石破茂元幹事長、小池百合子東京都知事までが沖縄入りしました。前回は自主投票だった公明党が支持に回り創価学会の幹部も応援に入るなど異例の対応を行い、前回下地幹郎候補を立てた維新も佐喜真候補を支持しました。
 安倍政権側は総力戦を展開し、官房機密費などの金をバラマき、基礎票や陣立てとしては圧倒的に有利な態勢で取り組んだのにコテンパンに敗北したのです。それだけ県民の意志は強固で明白だったということになります。政権丸抱えの総力戦がかえって県民の反発を招いたのではないでしょうか。この民意を尊重することこそ民主主義のあるべき姿です。辺野古での新基地建設は直ちにストップするべきです。
 今回の選挙では、辺野古での新基地建設や普天間飛行場の返還問題とともに、民主的な政治制度としての選挙のあり方や与党が編み出した「勝利の方程式」も大きな争点になりました。辺野古での新基地建設という最重要争点についての態度を明らかにしない「争点隠し選挙」が有権者の厳しい審判を受けたことになります。
 安倍政権はカネと利益で誘導し、徹底した組織戦で締め上げながら事前投票で囲い込めば勝てると考えたのでしょう。しかし、このような力づくで屈服させようという強権的な選挙戦術はかえって県民の反発を買い、逆効果だったのではないでしょうか。
 こんなやり方は、もう通用しません。自民党は「根腐れ」してしまったと言うべきです。長期政権の「緩み」や「驕り」が露呈し、自民党も安倍首相も「賞味期限」が切れて腐り始めています。国民が「食中毒」で倒れてしまう前に安倍政権を倒す必要性はますます強まっているのです。

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10月5日(金) 「打倒 安倍政権」にむけた労働組合運動の役割(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、「2018年・勤労者通信大学・通信」の『団結と連帯』3、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

 労働組合運動はどのような役割を果たすべきか

 このようななかで、労働組合運動の対応も問われることになります。労働組合運動には、市民と野党との共闘の重要な構成員としての課題や役割と、労働組合としての固有の運動の課題や役割があります。
 安倍政権打倒に向けて、特に大きく期待されるのは前者です。労働組合は組織された社会運動体として大きな力を持っており、古くから活動してきた社会運動における「敷布団」としての貴重なネットワークや豊富な経験があるからです。
 その第1は、安倍9条改憲阻止に向けての取り組みです。3000万人署名は引き続き9月末まで続けられます。この署名運動は通常国会での改憲発議阻止の大きな力になりました。引き続き、憲法共同センターなどに結集して署名運動に取り組む必要があります。
 組合内での討論や署名への取り組みは重要ですが、すでに組合員の多くは署名している場合が少なくありません。これからは9条の会や革新懇などとも協力し、地域に打って出ることが重要です。宣伝活動や署名集めでも、労働組合としての組織力は大きな力となるにちがいありません。
 第2は、安倍政権を追い込み、悪法の発動を阻んで内閣支持率を低下させるための取り組みです。国際情勢の激変によって、安全保障関連の施策の存立根拠や正当性は失われつつあります。特定秘密保護法や安保法制(戦争法)などの廃止を求め、沖縄・辺野古での新基地建設や横田へのオスプレイ配備、秋田と山口で予定されている陸上イージスの設置、基地強化と防衛装備の拡充など安倍政権の歴史逆行の愚策に反対し、その無益と危険性を明らかにしなければなりません。
 緊急に取り組むべき課題は、通常国会で成立したカジノ法案を「立ち枯れ」にすることです。国内3カ所でIR(統合型リゾート)が設置されますが、具体的な場所は決まっていません。候補地での反対運動によって阻止できれば、安倍政権の「命取り」になる可能性もあります。
 第3は、来年の統一地方選挙や参院選に向けての準備です。特定政党支持の押し付けに反対して組合員の政党支持の自由を守ると同時に、政策の一致する候補者や政党を支援する活動に取り組まなければなりません。とりわけ、統一地方選挙の首長選での共闘実現と統一候補の擁立のために力を尽くすことが必要です。
 議員選挙では来年の参院選での野党共闘の実現を、今から準備しなければなりません。参院選で与野党逆転を実現して衆参の「ネジレ」状態を生み出せば、安倍政権を打倒できます。そのためには、32の1人区はもとより可能な選挙区での野党共闘を実現することが必要です。それぞれの選挙区で野党間の相互支援による統一候補の擁立を仲立ちし、労働組合としてのイニシアチブを発揮しなければなりません。

 むすび

 安倍政権打倒に向けてのこれらの取り組みは、賃金・労働条件の改善という労働組合固有の課題・役割である18年秋闘や19年春闘と並行して実施されることになります。両者の結合によって相乗効果を生み出すことが大切です。
 また、この間の「働き方改革」関連法案の国会審議を通じて、過労死・過労自殺をなくすための取り組みの重要性が明らかになり、世論の支持が得られるようになってきました。不十分とはいえ、労働基準法の36条に罰則付きの制限が導入されたことには大きな意味があります。その趣旨を生かして、労働基本権の実現や国際労働基準の具体化を職場レベルから進めていかなければなりません。
 労働組合は労働者の生活と権利、働く環境を守るだけでなく、働く人々の生命を守る役割を果たすことが必要です。日本人の労働環境はそれだけ悪化し、達成すべき課題もそれだけ切実なものになってきています。
 そのためには、何としても安倍政権を打倒しなければなりません。この点でも、労働組合運動はその真価を問われているということになるでしょう。
(2018年9月3日記)

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