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11月12日(月) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、安倍首相の野望を打ち砕く力はどこに

 自民党総裁選の真実

 安倍首相が総裁選挙で3選されたのは事実ですが、必ずしも安定した支持によって支えられているわけではありません。自民党総裁選挙の中身を子細に分析すれば、「安倍一強」の脆弱性が明らかになります。
 総裁選で石破氏の254票に対して安倍首相は553票を獲得し、圧勝したように見えます。しかし、「党員票」の状況を見れば、全く違った光景に出会います。安倍首相の得票は55%で、石破氏の得票は45%と肉薄していたからです。7割を獲得するという安倍首相陣営の目標からすれば驚愕する結果であり、石破氏が善戦したことは疑いありません。
 しかも、総裁選の有権者である自民党員の中には、かつて犬や猫の名前まであり代理投票などもありました。選挙自体も公職選挙法の規制を受けず、金をばらまいたり飲ませたり食わせたり、何でもありです。今回の選挙の途中でも、石破支持の地方議員や国会議員に圧力がかけられていたことが明らかになりました。
 そのような懐柔や締め付けが横行する下での選挙結果でも、石破氏は半分近い支持を集めました。投票率が62%でしたから、安倍首相の55%という得票は自民党員の34%にすぎません。つまり、安倍首相は自民党員の3分の1にしか支持されていないということになります。これが、総裁選で示された真実だったのです。

 内閣改造と暗雲漂う臨時国会

 10月2日に自民党役員と内閣の改造が行われ、第4次安倍改造内閣が発足しました。安倍異常政権にふさわしい、最低最悪で異常な内閣になっています。「土台」とされている菅官房長官や麻生太郎副総理兼財務相は留任し、その周りを側近や「お友達」の議員が固め、過去最多となった新入閣者は派閥均衡・滞貨一掃の古手がほとんどという顔ぶれです。
 唯一の女性となった片山さつき地方創生担当相は西日本豪雨災害の最中に「赤坂自民亭」で宴会をしていた様子や貧困家庭の子どもを中傷するようなツィートをして問題になりました。原田義明環境相は学歴詐称問題で副文科相を辞任したり、「南京大虐殺」についての政府見解の見直しを求めたりしたことがあります。桜田義孝五輪担当相も「慰安婦はビジネスだ」との発言を批判されて撤回した過去がありました。
 失言や暴言のリスクが高い「ガラクタ」ばかりをかき集めたようなものです。早速、柴山昌彦文科相が教育勅語を評価するような発言をして批判を浴びました。しかも、公明党出身の石井国交相を除く19人の閣僚全員が改憲右翼団体と連携する「神道政治連盟国会議員懇談会」に所属し、「日本会議国会議員懇談会」にも14人が加盟しています。
 改憲・右翼的志向の強さは、自民党役員人事で一層明瞭になっています。憲法改正推進本部長に下村博文氏、総務会長に加藤勝信氏、選対委員長に甘利明氏、筆頭副幹事長に稲田朋美氏など安倍首相の盟友や側近が起用され、露骨な「改憲シフト」が敷かれました。臨時国会で改憲発議をゴリ押しする狙いが明瞭です。
 しかし、改憲に向けての視界は不明瞭で、このような前のめり人事は逆効果になりかねません。安倍首相が改憲発議に本腰を入れようとしているのも成算があってのことではなく、求心力を維持して「死に体(レームダック)」化を避けるために改憲を振りかざさざるを得ないからです。
 秋の臨時国会では日米貿易協議や消費税の10%への再引き上げ問題などの難問が待ち構えています。安倍首相が最重要課題としている改憲問題では、石破氏など自民党内でさえ慎重論があり、公明党の消極姿勢や立憲野党の反対、急ぐべきではないという世論などの「壁」があります。
 公文書改ざんやセクハラ問題、暴言などでとっくの昔に辞任していなければならないのに無理やり続投させた麻生氏、政治とカネの問題を抱えている甘利氏や下村氏、岩屋氏など、野党の追及や世論の批判によっていつ爆発するか知れない「地雷」を組み込んだ新体制で、このような暗雲漂う臨時国会を乗り切れるのでしょうか。

 野党共闘の威力と「亥年現象」

 第4次安倍改造内閣の前途には、もう一つ大きな試練が待っています。それは選挙です。2019年は春に統一地方選挙があり、夏に参院選があります。「選挙の顔」として勝ち抜くことができなければ、安倍首相には未来がありません。
 安倍政権が選挙で勝ち続けてきたのは確かですが、有権者内での得票率(絶対得票率)はそれほど高くありません。参院選の選挙区や衆院選の小選挙区での絶対得票率は25%前後で、比例代表での絶対得票率は16~17%ほどにすぎません。それなのに自民党が勝利してきた秘密は、野党の分断と投票率の低さにあります。
 逆に言えば、現状のままでも、野党が共闘してまとまり投票率が1割ほど高くなって野党に入れば勝つことができます。そのためには、何としても野党共闘を実現しなければなりません。共闘できれば勝利の展望が見えてきます。諦めていた有権者も、投票所に足を運んで野党候補を後押しする可能性が高まります。
 しかも、来年の参院選挙は統一地方選挙と一緒に戦われます。この12年に一度の亥年の参院選では自民党が苦戦するという「亥年現象」が繰り返されてきました。1959年を唯一の例外にして、71年、83年、95年の参院選では自民党が議席を減らしています。
 とりわけ、前回の2007年参院選は第1次安倍政権の下で実施され、自民党の獲得議席は37議席と89年参院選以来の歴史的惨敗となり、60議席を獲得した民主党に初めて参院第1党の座を明け渡しました。ちなみに、この選挙では公明党も大敗し、神奈川県、埼玉県、愛知県の選挙区で現職議員が落ちています。
 市民と野党との共闘によって、この07年参院選を再現させることができれば、安倍政権を打倒することができます。そうすれば、解散・総選挙に向けての展望を切り開くことも可能になるでしょう。

 むすび―国賠同盟・運動への期待

 安倍政権はすでに「賞味期限」が切れています。安倍首相が掲げてきた「3本の矢」「地方創生」「女性活躍」「一億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」などの目玉政策もスローガン倒れに終わっています。歴代自民党政権が取り組んで来た「政治改革」「行政改革」「構造改革」「雇用改革」「教育改革」「大学改革」「司法改革」「税と社会保障の一体改革」「農業改革」などの「改革」路線も失敗の連続です。
 それなのに安倍首相は自民党総裁として3選され、さらに3年間続投することになりました。国政選挙で連勝し、内閣支持率も上下しながらそれなりに安定しているからです。その背景と要因は、小選挙区制を導入した政治改革や官邸支配を強化して官僚の人事権を握った行政改革など、制度「改革」の一部が国会と自民党内での「一強」を生み出す点で有利に働いたからです。
 教育とマスメディアに対する支配と統制の強化も、安倍内閣を支える装置となりました。社会や国民意識の変容と右傾化は安倍内閣支持を安定させる背景の一つでした。安倍長期政権の深層には、右傾化する日本社会の存在があったのです。
 安倍首相は「(戦前の)日本を取り戻す」という野望を実現するために、このような社会の変容を促進するとともに政治的に利用してきました。ときには、意識的なフェイク(虚偽)情報を流すことさえためらいませんでした。こうして、安倍政権は社会の底辺で蘇生しつつある草の根の「戦前」によって支えられてきたのです。
 フェイク(虚偽)にはファクト(事実)で対抗しなければなりません。戦前の日本社会の実像を明らかにし、そのおぞましさと恐ろしさをいつまでも伝え続けていかなければ、いつかは忘れられてしまいます。忘却こそ、戦前回帰への始まりなのです。
 治安維持法という戦前最悪の弾圧法の実態を明らかにし、その被害者を救済することによって国の責任を問うことは、忘却への最善の抵抗手段にほかなりません。安倍政権が社会の底辺に蘇りつつある草の根の「戦前」によって支えられている以上、それを草の根で掘り崩す国賠同盟の存在と運動は、いつまでも現代的な意義を失うことはないでしょう。

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11月11日(日) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、「安倍一強」を生み出した背景と要因

 制度改革の「成功」と「失敗」

 安倍政権の異常性はますます明瞭になり、日本が取り組んで解決すべき課題とのミスマッチは拡大し、民意との乖離も増大しています。それなのに国政選挙で勝利し続け、内閣支持率は上下しながらも急落することを免れています。それは何故でしょうか。
 そこには「安倍一強」を生み出した背景と要因があるからです。制度改革の「成功」と「失敗」、支配装置としての教育とマスコミ、社会や国民意識の変容と右傾化という3つの側面から、これについて検討してみることにしましょう。
 まず、歴史的に取り組まれてきた各種の「改革」によって生じた政治的な機能について指摘する必要があります。とりわけ、「一強」体制を生み出した要因として「政治改革」「行政改革」「構造改革」が重要です。
 第一の政治改革によって小選挙区制が導入され、自民党は選挙区で4割台の得票率で7割台の議席を占め、国会内で「一強」体制を確立しました。自民党内でも派閥が力を弱めて多元的な柔構造が失われ、候補者の擁立や資金の分配などに関する権限を執行部が握り、党の中央集権化がすすみます。
 2つ目の行政改革では、2001年の省庁の再編によって内閣府が登場し、官邸機能や首相権限が強められました。2014年には内閣人事局が発足し、官僚に対する官邸の支配力が格段に強化されています。
 3つ目は構造改革です。法形成のルールを緩めて国会を通さずに「政治主導」を貫くことをめざして経済財政諮問会議や規制改革会議、ワーキンググループなどが設置されました。加計学園問題では、国家戦略特区諮問会議によって岡山理科大学の獣医学部新設が認められています。このような仕組みこそ、政治や行政の私物化、忖度が蔓延する状況を生み出す制度的な背景にほかなりません。
 これ以外にも、安倍政権が取り組んで来た「改革」は「やってる感」を国民に与え、内閣支持率の安定に寄与してきました。しかし、実際には効果を上げていません。「安倍一強」を生み出したという点では「成功」したかもしれませんが、日本が直面している問題を解決して状況を改善するという点では完全に「失敗」に終わっています。
 詳述する余裕はありませんが、非正規労働者を増大させた「雇用改革」、教育と教科書の内容に介入し管理・統制を強めて現場を荒廃させてきた「教育改革」、予算を減らして研究能力を低下させてきた「大学改革」、弁護士の数を増やして処遇を低下させた「司法改革」、社会保障サービスを切り捨てて消費税を引き上げるための口実にすぎなかった「税と社会保障の一体改革」など、惨憺たるものです。これに、前述した「農業改革」を加えれば、死屍累々たる姿が浮かび上がります。まさに「改革」失敗のオンパレードではありませんか。

 支配装置としての教育とマスメディア

 安倍内閣への支持調達においてとりわけ重要な役割を果たしているのは、教育とマスメディアです。安倍首相にとっては「(戦前の)日本を取り戻す」ための社会的な仕組みだと言っても良いでしょう。特に、若者の内閣支持率を高めるうえで大きな役割を担っています。
 戦後民主教育と日教組に対する敵視と介入は、自民党の伝統的な施策の一つでした。それをバージョンアップしたのが安倍首相です。第1次安倍内閣で教育基本法と関連3法を改定して愛国心という言葉を盛り込み、内閣府直属の教育再生会議を舞台に教育への介入を強めようとしました。
 第2次安倍内閣もこの流れを引き継ぎ、教育再生実行会議を発足させて教育への介入と管理を強めてきました。教科書検定の強化と内容への介入、道徳の教科化と愛国心教育の重視、労働強化による先生の疲弊と教師集団の分断、教職員会議の形骸化、労組攻撃による教職員組合の組織率低下など、教育内容と教育現場の荒廃が急速に進んでいます。
 その結果、正しい歴史認識を持たず、権力に従順で空気を読みすぎる過剰な同調性を身に着けた若者が生まれました。若者と高齢者との政治・社会意識の対立は世代間の格差ではなく、戦後民主教育で育った高齢者と安倍教育改革によって取り込まれた若者との違いから生じています。
 自民党による長年の日教組や全教への攻撃と安倍教育改革による介入と管理強化は、森友学園でなされていた教育勅語を暗唱させるような国粋主義的戦前教育の復活をめざしていました。だからこそ、それを目にした安倍首相夫人の昭恵氏が感激し、森友学園の小学校用地取得のために一肌脱ごうとしたのではないでしょうか。
 戦前の軍国主義教育によって多くの若者が洗脳され自ら進んで戦地に赴きました。今また、教育の変質によってある種のマインドコントロールがなされ、希望や展望をもたない若者は変革への意欲を失い、現状は変わらないものと思い込んで諦めてしまっているように見えます。
 戦前において猛威を振るった教育の恐ろしさはよく分かっていたはずです。安倍首相も教育の持つ力を十分に理解していたのでしょう。だからこそ、「(戦前の)日本を取り戻す」方策の手始めとして教育改革に取り組み、今になってその「成果」が徐々に出てきたということではないでしょうか。
 もう一つの安倍内閣への支持調達の手段は、マスメディアに対する懐柔と統制です。その結果、新聞やテレビ報道は大きく変容してしまいました。一部の報道は権力への監視や批判というジャーナリズムの役割を忘れ、安倍首相の御用新聞、御用チャンネルになっています。
 事実がきちんと報道されない、安倍首相が過度に美化されている、政権に不利になるような報道は手控えるというような忖度や配慮が日常的に行われています。大手全国紙のスタンスは「親安倍」と「反安倍」に分かれ、テレビではNHKの政権寄りの姿勢が目立つようになりました。その結果、政権にとって不利にならないような情報環境が拡大してきています。
 しかも、若者はこのような新聞やテレビさえ視聴している人が減っています。情報入手の手段はインターネットやSNSで、フェイスブックやツイッターによる場合が大半です。そして、このような手段を通じて流布されるものには、多くのフェイクニュース(虚偽情報)も含まれています。
 フェイク(虚偽)に打ち勝つ力はファクト(事実)です。情報を見極める「リテラシー(読解力)」が必要であり、そのような力は教育によって培われます。現場での教員の奮闘が求められますが、それを包み込むような父母による運動や安倍「教育改革」を阻止する政策転換を急がなければなりません。

 社会や国民意識の変容と右傾化

 社会や国民意識の変容と右傾化も内閣支持を安定させている背景の一つです。いわば、社会の底辺で蘇生しつつある草の根の「戦前」が、安倍首相を支えているということになります。このことを、最近話題になっている『新潮45』の休刊問題を例に考えてみることにしましょう。
 『新潮45』は8月号に杉田水脈衆院議員の「『LGBT』支援の度が過ぎる」という論文を掲載し、批判が殺到すると10月号で特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」を組み、さらに大きな批判を招いて休刊に追い込まれました。その背景には出版不況があり、「炎上」も辞さない覚悟で「右寄り」の紙面づくりを行ったと言います。つまり、「右寄り」にすれば売れるという判断があったことになります。
 「LGBTは生産性がない」という差別論文や「偏見と認識不足に満ちた」(佐藤隆信新潮社社長)反論特集であっても、読者を増やすことができると考えたわけです。実際、中高年向けの雑誌は「右寄り」のものが売れているようです。「安倍晋三圧勝の秘密」「中国を叩き潰せ」などという記事を載せている『WiLL』11月号や「安倍総理 新たなるたたかいへ」「朝日新聞は国民の敵だ」などの記事がある『月刊HANADA』は、全国紙に大きな広告を出し書店で平積みされています。
 この両誌に登場しているケント・ギルバート弁護士は『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』という本を講談社という大手出版社から出して47万部も売れました。昨年の新書・ノンフィクション部門で最多の発行部数となり、2月には続編も出ています。中韓の人について「『禽獣以下』の社会道徳」などと差別的な記述のある本が売れているということは、それを歓迎する読者がいるということです。
 これらは一例にすぎませんが、ここに日本社会の醜い一面が示されています。安倍首相を持ち上げ、気に入らない対象を侮蔑し卑下することによって留飲を下げようとする人々が確実に存在するという事実です。これらの人々が、強固な支持者となって安倍政権を支えていることは明らかです。
 しかも、これらの右翼的な意識を持つ人々と安倍首相は同じ側に立ち、ある面では繋がっています。「安倍さんがやっぱりね、『杉田さんは素晴らしい!』って言うので、萩生田(光一・自民党副幹事長)さんが一生懸命になってお誘いして、もうちゃんと話をして、(杉田氏は)『自民党、このしっかりした政党から出たい』と」と、櫻井よしこ氏が語っているように、杉田氏を自民党の候補者として衆院中国ブロック名簿の上位に押し込んだ経緯に安倍首相が深くかかわっていました。だから、安倍首相は杉田氏を批判できないのです。
 反論特集に登場し杉田論文を擁護して大きな批判を浴びた自称文芸評論家の小川榮太郎氏も安倍首相と深いかかわりがあります。小川氏は安倍首相のブレーンである長谷川三千子埼玉大学名誉教授の弟子にあたり、2012年に『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)という本でデビューした人です。
 この本は最初から安倍氏を再び総理大臣にしようという運動のなかで出版されたもので、2012年の自民党総裁選の直前、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の事務局的な役割をしていた小川氏が評論家の三宅久之氏の指導で執筆し、安倍応援団の見城徹社長の幻冬舎から出されました。それがベストセラーになって売り切れになったりしたために話題になりましたが、それは安倍氏の資金管理団体「晋和会」が700万円以上も出して4000部も購入したからです。


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11月10日(土) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 これほど異常な政権が、かつてあったでしょうか。右派的な改憲志向の政権はありました。中曽根康弘政権などはその一例です。しかし、改憲をスケジュールに上らせことはありませんでした。
 総理大臣の犯罪が断罪されたことはありました。ロッキード事件で逮捕された田中角栄元首相がそうでした。しかし、首相の夫人までが疑惑をもたれ、公文書を書き換えて証拠隠滅を図ろうとしたことはありませんでした。
 中曽根元首相は「きれいなタカ」だったと言えるかもしれません。田中元首相は「汚いハト」と呼ばれることがありました。「きれいなハト」は三木武夫元首相でしょうか。
 これらの先輩に比べても、安倍晋三首相は異例であり異常です。自民党政権でも、これまでに存在することのなかった「汚いタカ」だからです。スキャンダルまみれで改憲志向の首相は稀有だと言うべきでしょう。
 この点で、安倍首相は戦後最悪で最低の首相です。その安倍首相は自民党の規約を変えてまで3選され、第4次安倍改造内閣を発足させました。内閣改造によって支持率は上がるどころか下がり、嵐の中での船出となったようです。
 同時に、内閣支持率は一定の水準を維持しており、ここに安倍政権の強みもあります。その秘密がどこにあるのかを、考えてみたいと思います。3年の任期をまっとうすれば憲政史上最長になる可能性のある長期政権が、最低最悪の安倍首相によって、どうして実現されようとしているのでしょうか。
 その背景と要因は何か。安倍異常政権の深層を探り、それを阻止するにはどうすれば良いのか。これらを検討し明らかにするのが、本稿の課題です。

1、「賞味期限」が切れた安倍政権

 自分でやらなければならなくなった「後始末」

 9月20日に自民党の総裁選挙が実施され、安倍晋三総裁が3選されました。でも、安倍首相は3選されない方が良かったのではないでしょうか。2期6年で首相の座を去っていた方が、「有終の美」を飾れたはずです。
 しかし、憲政史上最長の政権を実現したいという野望には打ち勝てなかったと見えます。わざわざ3選禁止の自民党規約を変え、総裁選挙で当選し9年の長期政権を視野に入れることになりました。とはいえ、その任期を全うできるという保障はどこにもありません。すでに、「賞味期限」が切れているのですから。
 安倍首相が2期6年で政権の座を去っていれば、過去6年にわたって続いてきた失政の後始末は、次の首相に任せることができました。自らがかかわり疑惑をもたれてきたスキャンダルからも逃げおおせて、知らん顔ができたかもしれません。
 しかし、まだ3年間も首相の座にとどまることになりました。そのため、「安倍首相夫妻と不愉快な仲間たち」によって引き起こされた森友・加計学園疑惑から逃げられなくなったのです。国民の側からすれば、真相解明と責任追及の期間もあと3年保障されたことになります。
 安倍首相にとって支持率を安定させる手段は経済と外交でした。しかし、鳴り物入りで進められてきたアベノミクスは破たんが明らかになっています。日銀の黒田総裁が進めてきた異次元金融緩和は失敗し、2%のインフレ目標の達成時期はあいまいにされました。景気は改善されず、収入は増えていません。
 金融緩和政策は終了するときこそ難しいと言われています。3選されたために、安倍首相自身がその「出口」戦略を担わざるを得なくなりました。総裁選で「トリクルダウンなどと言ったことはない」と弁解していましたが、間接的に失敗を認めたようなものではありませんか。「尻拭い」を自らの手でやらざるを得ないということに、今になって気が付いたのかもしれません。
 「3本の矢」「地方創生」「女性活躍」「一億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」など鳴り物入りで始めた「目玉政策」の数々もスローガンだけが先行し、一向に成果は上がっていません。労働者の働き方を改善して過労死や過労自殺を解決するはずの「働き〝過多〟改革」は、働かせ放題で残業代ゼロの「高度プロフェッショナル制度」の導入によって全く逆のものになってしまいました。

 孤立し漂流を始めた外交

 経済がかげりをみせはじめただけでなく、もう一つの外交も漂流を始めています。朝鮮半島の非核化と平和構築に向けて米朝首脳会談が開催されましたが、「圧力一辺倒」の安倍首相は事態の急進展に対応できず、完全に孤立してしまいました。東アジアでの緊張緩和が進むなかで、安倍政権が進めてきた軍事大国化を目指した好戦的政策はほとんど無意味になりつつあります。
 拉致問題や北方領土問題は全く進展せず、個人的な関係を強めてきたプーチン大統領からは、突然、平和条約締結を持ち出されてオロオロするばかりでした。北朝鮮の金正恩委員長からは相手にされず、韓国の文在寅大統領とは相変わらず慰安婦問題などでギクシャクしたままです。成果ゼロではありませんか。「外交の安倍」だなんて、聞いてあきれます。
 「カヤの外で飛び回る一匹の蚊」のようになった安倍首相は、中国の習近平主席に助けを求めてすり寄っています。他方で、極右の反中勢力の反発を抑えるために南シナ海で潜水艦訓練を行ったり、米軍の戦略爆撃機と空自の共同訓練を行ったりというチグハグぶりです。これまで精力を費やしてきた中国敵視政策と「中国包囲網」づくりによって大きなジレンマに追い込まれてしまいました。
 日米関係にも暗雲が漂い始めています。9月に行われた首脳会談で、これまで避けてきた貿易に関する2国間協議を呑まされてしまったからです。「日米物品貿易協定(TAG)」と看板を変えて誤魔化し、「全く異なる」と安倍首相は弁解していますが、基本的な内容は「自由貿易協定(FTA)」と変わりありません。合意文書の翻訳で日本政府が改ざんした疑惑まで生じています。
 合意される関税はTPPの水準を越えないとされていますが、要するに自動車輸出を守るために農産物自由化を受け入れるということにほかなりません。すでに、種子法の廃止で農業生産にとって大切な種子が多国籍企業の餌食とされ、「農業改革」によって中小零細や兼業農家の切り捨てが始まっています。そのうえ、輸入農産物の関税が下げられれば日本の農業と農村は壊滅するでしょう。
 
 沖縄県知事選挙の衝撃

 9月30日に、安倍3選後初の大型選挙となった沖縄県知事選挙が実施されました。結果は玉城デニー候補が39万6632票、佐喜真淳候補が31万6458票で、その差は8万174票という圧倒的なものでした。
 前回の翁長候補の得票は36万票でしたから、それより3万票も多くなっています。この玉城候補の得票は過去最高でした。つまり、「辺野古に新基地はいらない」という沖縄県民の民意がこれまでで最も多くの票によって、明確に示されたことになります。
 この選挙では、菅義偉官房長官と小泉進次郎衆院議員が3回も応援に入り、二階俊博幹事長や石破茂元幹事長、小池百合子東京都知事までが沖縄入りしました。前回は自主投票だった公明党が支持に回り創価学会の幹部も応援に入るなど異例の対応を行い、前回下地幹郎候補を立てた維新も佐喜真候補を支持しました。
 安倍政権側は総力戦を展開し、官房機密費などの金をバラマき、基礎票や陣立てとしては圧倒的に有利な態勢で取り組んだのにコテンパンに敗北したのです。それだけ県民の意志は強固で明白だったということになります。政権丸抱えの総力戦がかえって県民の反発を招いたのではないでしょうか。この民意を尊重することこそ民主主義のあるべき姿です。辺野古での新基地建設は直ちにストップするべきです。
 今回の選挙では、辺野古での新基地建設や普天間飛行場の返還問題とともに、民主的な政治制度としての選挙のあり方や与党が編み出した「勝利の方程式」も大きな争点になりました。辺野古での新基地建設という最重要争点についての態度を明らかにしない「争点隠し選挙」が有権者の厳しい審判を受けたことになります。
 安倍政権はカネと利益で誘導し、徹底した組織戦で締め上げながら事前投票で囲い込めば勝てると考えたのでしょう。しかし、このような力づくで屈服させようという強権的な選挙戦術はかえって県民の反発を買い、逆効果だったのではないでしょうか。
 こんなやり方は、もう通用しません。自民党は「根腐れ」してしまったと言うべきです。長期政権の「緩み」や「驕り」が露呈し、自民党も安倍首相も「賞味期限」が切れて腐り始めています。国民が「食中毒」で倒れてしまう前に安倍政権を倒す必要性はますます強まっているのです。

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10月5日(金) 「打倒 安倍政権」にむけた労働組合運動の役割(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、「2018年・勤労者通信大学・通信」の『団結と連帯』3、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

 労働組合運動はどのような役割を果たすべきか

 このようななかで、労働組合運動の対応も問われることになります。労働組合運動には、市民と野党との共闘の重要な構成員としての課題や役割と、労働組合としての固有の運動の課題や役割があります。
 安倍政権打倒に向けて、特に大きく期待されるのは前者です。労働組合は組織された社会運動体として大きな力を持っており、古くから活動してきた社会運動における「敷布団」としての貴重なネットワークや豊富な経験があるからです。
 その第1は、安倍9条改憲阻止に向けての取り組みです。3000万人署名は引き続き9月末まで続けられます。この署名運動は通常国会での改憲発議阻止の大きな力になりました。引き続き、憲法共同センターなどに結集して署名運動に取り組む必要があります。
 組合内での討論や署名への取り組みは重要ですが、すでに組合員の多くは署名している場合が少なくありません。これからは9条の会や革新懇などとも協力し、地域に打って出ることが重要です。宣伝活動や署名集めでも、労働組合としての組織力は大きな力となるにちがいありません。
 第2は、安倍政権を追い込み、悪法の発動を阻んで内閣支持率を低下させるための取り組みです。国際情勢の激変によって、安全保障関連の施策の存立根拠や正当性は失われつつあります。特定秘密保護法や安保法制(戦争法)などの廃止を求め、沖縄・辺野古での新基地建設や横田へのオスプレイ配備、秋田と山口で予定されている陸上イージスの設置、基地強化と防衛装備の拡充など安倍政権の歴史逆行の愚策に反対し、その無益と危険性を明らかにしなければなりません。
 緊急に取り組むべき課題は、通常国会で成立したカジノ法案を「立ち枯れ」にすることです。国内3カ所でIR(統合型リゾート)が設置されますが、具体的な場所は決まっていません。候補地での反対運動によって阻止できれば、安倍政権の「命取り」になる可能性もあります。
 第3は、来年の統一地方選挙や参院選に向けての準備です。特定政党支持の押し付けに反対して組合員の政党支持の自由を守ると同時に、政策の一致する候補者や政党を支援する活動に取り組まなければなりません。とりわけ、統一地方選挙の首長選での共闘実現と統一候補の擁立のために力を尽くすことが必要です。
 議員選挙では来年の参院選での野党共闘の実現を、今から準備しなければなりません。参院選で与野党逆転を実現して衆参の「ネジレ」状態を生み出せば、安倍政権を打倒できます。そのためには、32の1人区はもとより可能な選挙区での野党共闘を実現することが必要です。それぞれの選挙区で野党間の相互支援による統一候補の擁立を仲立ちし、労働組合としてのイニシアチブを発揮しなければなりません。

 むすび

 安倍政権打倒に向けてのこれらの取り組みは、賃金・労働条件の改善という労働組合固有の課題・役割である18年秋闘や19年春闘と並行して実施されることになります。両者の結合によって相乗効果を生み出すことが大切です。
 また、この間の「働き方改革」関連法案の国会審議を通じて、過労死・過労自殺をなくすための取り組みの重要性が明らかになり、世論の支持が得られるようになってきました。不十分とはいえ、労働基準法の36条に罰則付きの制限が導入されたことには大きな意味があります。その趣旨を生かして、労働基本権の実現や国際労働基準の具体化を職場レベルから進めていかなければなりません。
 労働組合は労働者の生活と権利、働く環境を守るだけでなく、働く人々の生命を守る役割を果たすことが必要です。日本人の労働環境はそれだけ悪化し、達成すべき課題もそれだけ切実なものになってきています。
 そのためには、何としても安倍政権を打倒しなければなりません。この点でも、労働組合運動はその真価を問われているということになるでしょう。
(2018年9月3日記)

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10月4日(木) 「打倒 安倍政権」にむけた労働組合運動の役割(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、「2018年・勤労者通信大学・通信」の『団結と連帯』3、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

 安倍改憲策動の激突の場となる臨時国会

 通常国会開会日の午前中、安倍首相は自民党両院議員総会で「改憲を実行するときが来た」とハッパをかけました。衆参両院での3分の2を上回る与党勢力を背景に、この通常国会で一気に改憲発議まで実行しようと目論んでいたのです。
 しかし、森友学園疑惑で公文書改ざんが発覚した3月以降、政権は防戦に追い込まれていきます。疑惑追及のための野党間の国会共闘は大きな威力を発揮し、野党国対委員長連絡会議(野国連)などによる合同ヒアリングは118回、院内集会は8回、野党の共同提出法案も原発ゼロ基本法案など20本を数えました。安倍改憲に反対する3000万人署名運動や国会前などで繰り返された市民と立憲野党との共同集会なども世論を変える大きな力になりました。
 こうして、3月末の自民党大会で9条への自衛隊明記など改憲4項目が承認されたものの、衆参両院での憲法審査会で実質的な審議はほとんど行われませんでした。改憲発議は次の臨時国会へと引き継がれ、安倍首相は自民党総裁選で改憲を争点として提起しました。極右の支持基盤にアピールするとともに、求心力を維持するために9条改憲にこだわらざるを得ないからです。
 しかし、改憲スケジュールは大幅に狂いました。内閣支持率が下げ止まったとはいえ不支持率より低く、来年の統一地方選や参院選に不安を抱く地方議員や参院議員の支持は揺れています。再選確実と言われた現職の橋本龍太郎総裁を小泉純一郎氏が破った例もあります。「地方の反乱」次第では、安倍3選後に「死に体」内閣になる可能性もあります。
 政治への信頼は失われ、「安倍一強」や個々の政策課題への批判は強く、朝鮮半島情勢やトランプ米大統領による「貿易戦争」も始まっています。頼みのアベノミクスは破綻し、来年10月からの消費税再増税への対応も問われます。臨時国会での波乱は避けられません。
 決定的なのは世論の動向です。内閣支持率が低空飛行を続けるのか、それとも回復するのかによって、臨時国会をめぐる状況は変わってきます。安倍首相は改憲発議に向けて執念をたぎらせていますが、世論は改憲など求めていません。秋の臨時国会が安倍9条改憲をめぐる激突の場となることは間違いないでしょう。


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10月3日(水) 「打倒 安倍政権」にむけた労働組合運動の役割(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、「2018年・勤労者通信大学・通信」の『団結と連帯』3、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

 私は通常国会の終盤に向けて、『打倒 安倍政権―9条改憲阻止のために』という本を出しました。何としても安倍政権を倒して9条改憲を阻止しなければならないと思ったからです。残念ながら、安倍政権を打倒することはできませんでしたが、通常国会での改憲発議を阻止することができました。

 「賞味期限」が切れて腐りかけている安倍政権

 この通常国会で、安倍暴走政治は新段階を迎えたように思います。森友・加計学園疑惑で始まり、カジノ法の成立で終わったと言われるように、戦後最低の首相による最悪の国会となったからです。森友・加計学園疑惑の中核には「安倍首相夫妻と不愉快な仲間たち」がおり、自衛隊のイラク派遣や南スーダンへのPKOでの公文書隠ぺい、「働き方改革」や裁量労働制の拡大についてのデータの改ざん、ねつ造、虚偽答弁が相次ぎ、お手盛りでの参院議員定数の6増やカジノ合法化のための法制定が強行されました。
 外交・安全保障面でも安倍政権の政策とのミス・マッチが際立ちました。朝鮮半島の非核化と平和体制の構築に向けて歴史的な南北会談や米朝間の首脳会談が開催されましたが、「圧力一辺倒」の安倍首相は事態の急進展に対応できず、完全に孤立してしまいました。東アジアでの緊張緩和が進むなかで、安倍政権が進めてきた軍事大国化を目指した好戦的政策はほとんど無意味になりつつあります。
 鳴り物入りで進められてきたアベノミクスも、その破たんが明らかになっています。日銀の黒田総裁が進めてきた異次元金融緩和は失敗し、その手直しが始まりました。景気は改善されず、収入は増えていません。労働者の働き方を改善して過労死や過労自殺を解決するはずの「働き〝過多〟改革」は、働かせ放題で残業代ゼロの「高度プロフェッショナル制度」の導入によって全く逆のものになりました。
 通常国会の期間中、麻生太郎副総理兼財務相や杉田水脈衆院議員など自民党幹部や国会議員の妄言・暴言、福田財務次官のセクハラなど高級官僚の失態も相次ぎました。まさに自民党は「根腐れ」してしまったと言うべきでしょう。長期政権の「緩み」や「驕り」が露呈したためですが、党の規約を変えて総裁の任期を延ばして安倍首相の3選を可能にし、さらに長期化しようというのですから呆れてしまいます。
 自民党も安倍首相も、「賞味期限」が切れて腐り始めています。国民が「食中毒」で倒れてしまう前に安倍政権を打倒し、自民党を政権与党の座から引きずり下ろさなければなりません。その必要性は、ますます強まっているのです。

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9月6日(木) 秋の臨時国会 たたかいの展望(その2) [論攷]

 〔以下のインタビュー記事は、全商連発行の『全国商工新聞』第3326号、2018年9月3日号、に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 ―消費税増税をどうするかも議論になりますね。 

 実施1年前ですから、当然臨時国会で議論になります。いま、日本は米国の「貿易戦争」に巻き込まれています。工業製品では、鉄鋼・アルミ・自動車に関税がかけられようとしている。TPP11や経済連携協定(EPA)などでは農産物が自由化され、外国との競争にさらされる。自由化で農業がつぶされ、貿易戦争で製造業がつぶされる危険性があります。こうしたなかで消費税を10%に増税すれば、日本経済と産業に大打撃を与えることは確実です。消費税の増税が景気を後退させることはすでに何度も経験してきました。生活と営業を守るために、増税中止に追い込まなければなりません。
 消費税増税によって税収を高めようという考えは間違っています。アベノミクスの恩恵を受け内部留保を増やし続けている大企業や富裕層から税金を取るべきです。払える力のあるものに払ってもらうのが税制の基本です。

 ―経済の立て直しも大きな問題ですね。

 「少子化」で日本の人口が減っています。自営業の後継者が育たたず、中小業者や農家が姿を消して内需が縮小し、地域社会が疲弊しています。
 安倍政権はこうした崩壊の危機を正しく認識していない。〝危機〟というと軍事的な安全保障しか考えていません。危機認識が歪んでいるのです。本当の危機は人口と経済が縮小していることであり、日本社会の持続可能性が失われていることなのです。
 これを地域から立て直していく芽を、民商の皆さんの力で生み出していってほしい。上からは政策を変え、下からは中小業者や農家が存続できるようなコミュニティーを、地域の政治を変えることでつくり出す。来年の統一地方選挙は、その絶好のチャンスです。
 地域循環型経済をつくるため、再生エネルギーを活用してほしいですね。そうすることで地域経済を再建するという長期的ビジョンをもたなければ、持続可能な経済や社会を回復できません。
 外交と交渉によって東アジアの新秩序と平和共存を実現し、国内では内需拡大をもたらすような循環型経済を地域からつくっていく。その役割を担えるのは、商売などで地域の中核となっている民商の皆さんです。

 ―たたかいの活路はどこにありますか。

 〝活路は共闘にあり〟です。通常国会で、選挙共闘が国会共闘にバージョンアップされました。この動きを臨時国会でもさらに生かし強めていく。来年は〝選挙イヤー〟ですから今から準備を始める。市民と野党の共闘をさらに強固なものにし、連携・協議を進めなければなりません。政策的合意の範囲をさらに広げ、選挙での相互支援・相互推薦に結び付けていくことが必要です。とりわけ参議院選挙の1人区がカギを握ります。
 来年は亥(イノシシ)年です。データを見ると、統一地方選挙と一緒にたたかわれる亥年の参議院選挙で自民党は毎回苦戦しています。直近では、2007年にも自民党は負けています。第1次安倍内閣のときで、秋の臨時国会で安倍首相は病気を理由に辞任しました。
 市民と野党の選挙共闘が成立してきちんと機能すれば、参議院選挙での立憲野党の勝利は決して不可能ではありません。民商の皆さんの奮闘に期待しています。



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9月5日(水) 秋の臨時国会 たたかいの展望(その1) [論攷]

 〔以下のインタビュー記事は、全商連発行の『全国商工新聞』第3326号、2018年9月3日号、に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 改憲できぬ世論づくりを
 〝選挙イヤー〟共闘に活路

 ―通常国会を振り返って、どんな国会でしたか。

 ひとことで言えば、最低の首相による最悪の国会でした。
 森友・加計学園疑惑では、中心に首相夫妻が座っていたことが明らかになりました。これまで数々の政治スキャンダルがあり、「総理の犯罪」と言われたロッキード事件などもありましたが、総理大臣の妻が疑惑を受けることはかつてなかったことです。
 首相夫人付きの秘書など、さまざまな形で関与できるような仕組みをつくって政治・行政を大きくゆがめ、私物化してしまった。権力を私的に流用することは断じて許されません。
 通常国会では隠ぺい、公文書改ざん、虚偽答弁など、でたらめな国会運営がなされ、それが国民の知るところとなりました。
 安倍首相は丁寧に説明すると言いながらきちんと説明せず、一部の官僚に責任を押し付けて首相や麻生副総理、加藤厚労相はお咎めなしです。昭恵氏は国会に出てこないばかりか記者会見も開かず、疑惑を晴らそうとする誠実さを見せなかった。疑惑の中心にいた人たちは逃げおおせたかもしれないけれど、それによって最も大切な政治への信頼が〝道連れ〟にされてしまいました。

 ―国民の声を無視して悪法を強引に成立させた国会でもありました。

 二面性があると思います。一面では、常識が通用しない国会運営がなされ、議会制民主主義の土台にひびが入り、政治不信を高めました。
 「働き方改革」法では労働基準法の労働時間規制から一部の労働者を外す、いわゆる高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)を導入した。カジノ法ではギャンブル依存症が心配されるということで、予防のための法律を作り、賭博を合法化した。さらに6増の公選法「改正」は自民党の〝自己都合〟でむりやり口をこじ開けて〝毒〟を呑ませてしまった。
 このように悪法が次々と成立した国会ではありましたが、他面では、森友・加計学園疑惑や自衛隊の日報問題などで野党の追及が大きな力を発揮した。このために安倍政権は防戦に追われ、当初考えていたような国会運営はできなかった。「働き方改革国会」と言っていましたが、裁量労働についてのデータ不備、改ざん、ねつ造が問題になり、通常国会で最大の目標だった裁量労働制の拡大はできませんでした。
 もう一つの目標は改憲発議です。やはり防戦に追いまくられ、そこまで手が回らず発議できませんでした。
 立憲野党といわれる政党が市民と一緒になって国会共闘を繰り広げ、合同ヒアリングなどの形を工夫し、〝多勢に無勢〟という不利を突破するために一定の効果をあげました。
 国会の外でも市民と野党の共闘が広がり、官邸前や国会正門前集会を開いて世論に訴え、大きな力を発揮しました。選挙共闘が国会共闘にまで質的に高まり、しかも野党が20本の法案を共同提案し、政策的な合意の幅が拡大したことも大きな成果です。

 ―臨時国会に向けて、たたかいの展望は。

 まずは、自民党の総裁選挙です。安倍総裁3選の可能性は高いですが、党員票でどれだけの批判票が出るかは、その後の〝政権の体力〟に関わるという点で重要です。たとえ3選されても、国民の厳しい声が反映されるという形にしなければなりません。
 次に臨時国会ですが、安倍首相は改憲発議のチャンスを虎視眈々と狙っています。一番危ないのは、憲法審査会の審議や野党との合意を吹っ飛ばして衆参両院で直接、改憲発議することです。そういう〝奇策〟に出るのではないか、という声も聞こえています。
 臨時国会を逃すと、天皇代替わりや来年10月からの消費税増税問題もあり、政治日程が立て込んでいるので難しくなります。安倍首相は〝最後のチャンス〟と考え、腹をくくって挑んでくるでしょう。阻止する側も腹を固めて迎え撃つ。改憲できないような世論をつくっていく。3000万人署名を9月末までに達成し、目に見えるような形で世論を示していくことが重要です。


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8月13日(月) 国際政治の歴史的転換と日本の選択―いよいよ「活憲の時代」が始まる(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、憲法会議発行の『月刊 憲法運動』通巻473号、2018年8月号、に掲載されました。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

三、憲法運動の課題

 *力によらない国際関係の再構築

 今後の朝鮮半島での緊張緩和、ミサイルと核問題の解決に当たっては、戦争や軍事力に訴えるのではなく、非軍事的な手段によって非核化への道を具体化していくのが日本の取るべき唯一の道です。そのための展望とビジョンの提示こそ、これからの日本の役割であり、憲法運動の課題にほかなりません。
 これについて、『朝日新聞』6月28日付の「論壇時評」に示唆的な論攷が掲載されていました。小熊英二さんの「ゲーム依存と核 関係性の歪み 北朝鮮にも」という記事です。小熊さんはゲーム依存も北朝鮮の核問題も同様だとして、「猜疑心や敵対心、相互不信がつのると、核兵器が増加する。逆にいえば、猜疑心や相互不信に満ちた関係を作り変えることなしに、核兵器をなくすのは難しいのだ」と指摘し、「力で恫喝すれば何でも解決すると考えるのは非現実的であり、幼稚である。外交とはすなわち、国際関係を再構築する努力にほかならないはずだ」と主張しています。
 力による「恫喝」ではなく、「国際関係を再構築する努力」が必要であり、それこそが「外交」だというのです。それには「猜疑心や相互不信に満ちた関係を作り変える」知恵も忍耐力も必要で、相手を納得させるような道理に立脚した説得力も不可欠でしょう。
 憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」することによってこそ、このような道理や説得力を手にすることができるはずです。それを安倍首相は投げ捨て、相手の猜疑心や不信を高めてきたというのが、「戦争する国」に向けての好戦的政策実施のプロセスでした。「平和憲法」を持つ国であるからこそ実現できたはずの紛争解決への道を閉ざし、国際社会で享受できたはずの「名誉ある地位」も踏み外してしまったのです。
 『毎日新聞』6月28日付一面下のコラム「余録」にも、注目すべき文章が書かれていました。「武器効果」という用語についての指摘です。「ストレスを与えられた人に銃を見せると攻撃的になるという心理実験があるそうだ。銃などの武器が人の心にひそむ攻撃のイメージや記憶を呼び覚まし、欲求不満などによる怒りを攻撃衝動へと結びつけてしまうのだといわれている」と。
 武器の存在こそが、人々のイライラや欲求不満、ストレスを攻撃衝動に変えてしまうのだというのです。逆に言えば、イライラや欲求不満などによる怒りなどがあっても、武器がなければ簡単には攻撃衝動に結びつかないということになります。国家や指導者についても、同じことが言えるのではないでしょうか。核やミサイルなどの武器があるからこそ、攻撃衝動に結びつくのだと。
 憲法9条が「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と宣言したことの深い含意を、ここから読み取ることができるように思われます。安倍首相がめざしてきた軍事力依存の「積極的平和主義」や軍事大国化路線こそが攻撃衝動を高める極めて危険な道だったということも、同じように学び取ることができるのではないでしょうか。
 力によらない非軍事的な外交努力にこそ、これからの日本の進むべき道があります。そのための地図は、すでに70年以上も前に与えられていました。日本国憲法という地図が。

 *北東アジアにおける非核・平和体制の実現

 米朝共同声明の誠実な履行と力によらない国際関係の再構築を目指して、北東アジアにおける非核・平和体制を実現しなければなりません。南北首脳会談と米朝首脳会談での合意によって開始された平和プロセスが成功するよう、外交的なイニシアチブを発揮することが日本の役割なのです。
 第1に、米朝共同宣言で約束された朝鮮半島の完全な非核化の実現を求めることです。もちろんこれは検証可能で不可逆的なものでなければなりません。すでに核実験場の一部の爆破が実施され報道陣に公開されましたが、できるだけ早い段階で非核化に向けての具体的な措置を取り決める必要があります。
 北朝鮮に対して非核化を求めると同時に日本も「核の傘」について再考し、核兵器禁止条約に参加し批准するべきです。北朝鮮に対して「核に頼るな」と言いながら、自らは「核に頼る」というのでは筋が通りません。完全なダブルスタンダードであり、説得力もありません。日本政府に対して、唯一の戦争被爆国として世界中の核兵器廃絶の先頭に立つよう求めることが必要です。
 第2に、北東アジアにおける平和構築のために取り組むことも重要です。そのためには、紛争解決と緊張緩和のための多国間による安全保障体制を構築しなければなりません。東南アジア諸国連合(ASEAN)や東南アジア友好協力条約(TAC )のような多国間協力体制の実現です。
 すでに生じている南北間の緊張緩和と信頼醸成措置を支援することが必要であり、決して足を引っ張るような態度を取ってはなりません。南北間の平和統一をも展望した紛争解決と平和構築の枠組みができれば、やがては日米安保条約と在日米軍の必要性が根本から問われることになります。そうなれば、沖縄米軍基地の縮小・撤去や辺野古での新基地建設阻止に向けての新たな展望が生まれることになるでしょう。
 第3に、安倍政権による軍事大国をめざした好戦的政策の廃止・転換を実現することです。特定秘密保護法、安保法制(戦争法)、「共謀罪」法などの「戦争する国」をめざした法整備は、北東アジアにおける情勢の劇的な転換によってその根拠を失い、必要ないものになりました。民衆運動の取り締まりや弾圧にも利用される可能性が高いこれらの法律は廃止されなければなりません。
 もちろん、北朝鮮危機を口実に強行されてきた防衛費の増大や防衛装備品の購入などの大軍拡をやめ、長距離巡航ミサイルなどの他国攻撃型兵器の導入、ヘリコプター空母の改修や陸上イージスの設置計画などは直ちに中止するべきです。これらの経費を軍事ではなく国民の福祉や民生に振り向けるように政策を転換しなければなりません。
 第4に、ヘイトスピーチやレイシズムなどの排外主義や民族差別を一掃し、周辺諸国との友好を深めることです。朝鮮半島の非核化と平和体制構築のために韓国や中国との協力は不可欠であり、その障害となる嫌韓・反中の排外主義や民族差別をなくすことによって多国間協力のための社会的土壌を整えなければなりません。
 他民族を差別したり敵視したりしないような国民や社会になることは、これからの東北アジアで日本が周辺諸国と平和的に共存していくために必要な最低限の条件です。とりわけ、侵略戦争と植民地支配によって多大な損害を与えた諸国との関係を改善し、負の歴史への責任と反省を明らかにすることなしには、これらの国々からの信頼を得ることはできません。

 *憲法12条の重要性

 米朝首脳会談による劇的な情勢転換によって、安倍政権が進めてきた「戦争する国」づくり政策とのミスマッチは極大化されることになりました。このような政治の暴走を許してしまった責任は、「他よりよさそう」ということで一定の支持率を与え安倍政権を甘やかしてきた世論にもあります。
 同時に、暴走をストップさせ、自由と人権、平和を守るための「不断の努力」が欠けていたのではないでしょうか。これは憲法が国民に要請していることであり、ここで改めて「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」と規定する憲法12条の重要性について確認する必要があるように思います。
 憲法は権力者に対する命令書であって、憲法尊重擁護義務からも国民は除外されています。憲法は権力の恣意的な行使を制限し、権力者の暴走を抑えるための「檻」のようなものだとされています。
 しかし、この12条は他の条文とは異なり、国民に対する直接的な要請が書かれています。この憲法が「保障する自由及び権利」は、国民自身による「不断の努力」によって「これを保持しなければならない」という要請が。
 この規定は、憲法が保障する「自由と権利」を守るために国民が「不断の努力」を行うこと、それらが侵されそうになったら抵抗すべきことを求めているのです。このような国民一人一人の努力が積み重なり集まることになれば、それは集団的な行動となり政治的社会的な運動となります。
 したがって、政府や自治体などの行政機関もこのような国民の努力を支える義務を負っていると理解できます。自由と権利のために運動することはもとより、そのために努力する個人や集団を支援することは憲法上の要請なのです。
 自由と権利を守るという点で国民も政治・行政・司法も中立ではなく、それを「保持」するために「不断の努力」を行わなければならず、それは憲法上の義務なのだということを忘れてはなりません。具体的には、国民にとっては自由と権利を守るためにある程度の不自由や迷惑を耐えるという「努力」が必要であり、政府や自治体などの行政機関は自由と権利を守るための活動を保障し、支援しなければならないということになります。
 市民が自由と権利を守るために声を上げたり運動したりするのは、国民として憲法の要請を果たしている当然の行為にすぎません。政治・司法・行政はこのような国民の努力を鼓舞し、擁護し、推進し、支援しなければならない憲法上の義務を負っているのです。
 憲法9条は平和を守るべきことを、憲法12条は自由と権利を保持するために努力すべきことを求め、憲法99条はこのような規定を尊重し擁護することを、天皇、国務大臣、国会議員、裁判官、公務員に義務づけています。安倍首相はじめ、これらの関係者には憲法を熟読し、自らが負っている憲法上の責務を十分に自覚していただきたいものです。

 むすび―真に国民の生命と生活を守れる政治への転換を

 西日本を中心とする豪雨被害は、犠牲者が200人を越える大災害となりました。その渦中に、政府・自民党の幹部が宴会「赤坂自民亭」に興じており、大きな批判を浴びました。災害への軽視、初動の遅れ、危機対応能力の欠如などの問題が浮き彫りになっています。
 安倍政権は北朝鮮危機をあおり、6年連続で防衛予算を増やしてきました。過去最大の5兆2000億円超に膨らんだ防衛費の一部でも防災・減災に回していれば、豪雨被害はここまで拡大しなかったはずです。
 このような問題が生ずるのは、安倍首相にとって危機とは安全保障上のもので自然災害によるものだという認識が欠けているからです。災害への危機対応を軽視し、軍事的な危機対応ばかりを重視するという危機認識の歪みが、多くの問題を生み出してきました。
 そこにある現実的な危機に目をつぶり、ありもしない空想的な危機に踊らされて国民の安全・安心よりも国家の安全保障を優先してきたからです。常にあり得る現実的な危機にきちんと対応できるような政権に変えなければなりません。そうしなければ、政治のエネルギーや国費が無駄遣いされ、国民の生命と生活、生業が守られないという教訓を、今回の豪雨災害から学ぶべきではないでしょうか。
 結局、安倍首相は政治家ではなかったということになります。「戦争になったらどうするか」を考えるのが軍人だとすれば、「戦争にならないためにどうするか」を考えるのかが政治家なのですから。
 軍人の頭脳ではなく政治家の心を持つ本当の政治家を政権のトップに据える必要があります。国民の生命と生活、生業を守ることのできる政治を実現するために、政策を変えるか政権を変えるしかないのです。政策を変えられないのであれば、政権を変えるしかありません。
 このような転換によって初めて、国際政治の劇的な変化に対応した国政の刷新も可能になります。憲法を護り活かすことによって、「活憲の時代」における新しい日本の外交・安全保障政策と内政を具体化できる展望とビジョンを持った政党や政治家にこそ、次の時代を託さなければなりません。そのための条件と根拠が、いま新たに生まれつつあるのですから。


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8月12日(日) 国際政治の歴史的転換と日本の選択―いよいよ「活憲の時代」が始まる(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、憲法会議発行の『月刊 憲法運動』通巻473号、2018年8月号、に掲載されました。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

二、問われる日本の対応

 *「敗者」は安倍首相

 今回の米朝首脳会談をめぐる一連の経過において、もし「敗者」がいたとすれば、それは日本の安倍首相ではないでしょうか。
 「圧力」一辺倒で首脳会談実現の足を引っ張ったあげく、トランプ米大統領に貿易面で裏切られ、ロシアのプーチン大統領にも領土問題で騙され、北朝鮮の金正恩委員長からは相手にされず、韓国の文在寅大統領とはギクシャクしたままで、中国の習近平主席からも適当にあしらわれるという醜態を演じ、「蚊帳の外ではない」と叫びながら蚊帳の外で飛び回っている「一匹の蚊」のようになってしまったのですから。
 時にはアメリカの背後で軍事的な対応さえほのめかし、常に圧力のみを主張し続けてきたのが安倍政権でした。なかでも最悪だったのが、1月16日にカナダのバンクーバーで開かれた北朝鮮問題を話し合う外相会合で河野太郎外相が出した声明です。北朝鮮との外交関係の断絶や北朝鮮労働者の送還を求めたもので、北朝鮮代表団の平昌五輪への参加が予定され米朝首脳会談開催への動きが始まっていた段階でのこのような呼びかけは、日本政府がいかに事態の進展に無頓着で情勢変化を見誤っていたかを示す象徴的な失敗でした。
 その後、安倍首相は3月にトランプ大統領が対話に傾くとこれを歓迎し、5月に会談中止を発表すると「支持する」と表明しました。「やめるのをやめる」と会談が再び設定されると、「会談に期待したい」と言い出す始末です。
 安倍首相は信念から外交方針を変えたわけではありません。トランプ大統領の意向に合わせるしかなかったからで、徹底した対米追従です。「このままではバスに乗り遅れる」と考え、慌てて秋波を送ったにすぎません。
 しかも、心の中では米朝会談の「失敗」を期待していたことも見透かされています。安倍首相はさらなる関税引き上げなどの貿易戦争を仕掛けられることへの恐れから「米朝和解」に賛成せざるを得なかったのです。首相の本心は、北朝鮮を敵視し続けて政治的に利用し、北朝鮮や中国を仮想敵国とする在日米軍の駐留を続けてもらうことにあります。
 トランプ米大統領は在韓米軍を撤退させた後、在日米軍も撤退させるかもしれません。東アジアの平和体制をどう構築していくのか。日本の選択が問われることになりますが、独自の外交ビジョンを持たない安倍首相に対応できるのでしょうか。

 *拉致問題はどうなるか

 米朝和解の動きとは対照的に、日本との関係では北朝鮮の厳しい対応が際立っています。これまでの拉致問題をめぐる日朝交渉で北朝鮮は日本への強い不満を抱き不信感を高めてきたからです。なかでも安倍首相への嫌悪と反感は際立っており、それは米朝首脳会談後も払しょくされていません。
 拉致問題については米朝首脳会談で取り上げてもらいたいとトランプ大統領にお願いするだけでした。トランプ大統領は首脳会談で拉致問題を取り上げ、北朝鮮の金正恩委員長は「安倍首相と会う可能性がある。オープンだ」と前向きな姿勢を示したと伝えられました。
 しかし、これで拉致問題が解決に向けて動き出したわけではありません。安倍首相に対する北朝鮮側の評価は依然として厳しく、従来の態度を変えたという確証がもたらされていないからです。
 米朝首脳会談が開かれた2日後の6月14日、モンゴルで開催された国際会議の場で外務省の関係者と北朝鮮の関係者が短時間接触し、拉致問題の解決に向けた基本的な立場を伝えたと外務省が発表しました。これが首脳会談後の最初の「接触」です。
 外務省は「非公式に意見交換した」と発表しましたが、北朝鮮側の反応について外務省幹部は「(従来の姿勢と)大きな変化はなかったようだ」と語ったと報じられています。別の報道では、北朝鮮代表団の1人は「日本が提起する内容は今の良い流れを阻害しかねない」と語ったということで、拉致問題に対する拒否反応とみられています。
 つまり、これまでと変わらない反応だったということになります。米朝首脳会談で事態が大きく動くかのような期待は、またも裏切られたということです。このような見方を裏付けるように、北朝鮮の国営ラジオ「平壌放送」は6月15日の論評で、日本人拉致問題について「既に解決された」と言及しています。トランプ米大統領が米朝首脳会談で拉致問題を提起した後、北朝鮮メディアが従来の主張を表明したのは初めてのことでした。
 その後、『毎日新聞』6月27日付は「拉致問題『ない』 北朝鮮がけん制」という記事を報じました。平壌放送は26日に伝えた論評で、「日本は今日まで過去の犯罪について謝罪し賠償するどころか、逆にありもしない拉致問題をわめきたてて自らを『拉致被害国』に化けさせようと破廉恥に策動している」と非難したというのです。
 政府もマスコミも、このような事実をなぜきちんと国民に伝えようとしないのでしょうか。安倍首相によって拉致問題の解決に向けて事態が動き始めているかのような幻想をまき散らすことはやめるべきです。

 *安倍政権で日朝関係の打開は可能なのか

 国民の多くは、安倍首相では拉致問題は解決できないということを知っています。『毎日新聞』が6月23、24両日に実施した世論調査によれば、日朝首脳会談による日本人拉致問題の解決に「期待できる」は18%にとどまり、「期待できない」が66%に上りました。7割近くの国民は、安倍首相に期待できないと考えていることになります。
 それでは、どうしたらよいのでしょうか。それは日朝平壌宣言が示していた方向しかありません。拉致、核・ミサイル、植民地支配への謝罪と賠償など過去の清算という両国間の諸懸案を包括的に解決して国交正常化を目指すということです。これらの諸懸案を総合的に議論するなかで、拉致問題についても解決の道を見出すしかありません。
 しかし、日朝平壌宣言に沿った国交正常化交渉と緊張緩和に向けての包括的で総合的な対話も、北東アジアをめぐる平和体制の構築についても、安倍首相では不可能です。憲法の理念を活かした外交・安全保障政策には全く関心がなく、「戦争する国」「戦争できる国」をめざした好戦的な力の政策を推進し、軍事大国に向けて暴走を続け、憲法に自衛隊の存在を書き込む改憲案を提起しているからです。
 野党や世論の反対を押し切って特定秘密保護法、安保法制(戦争法)、「共謀罪」法などを制定し、防衛費も毎年の増額によって1兆2000億円も増やしました。長距離巡航ミサイルなどの攻撃的兵器を導入し、オスプレイの購入などによる防衛装備と自衛隊基地の増強、沖縄の辺野古での米軍新基地建設、教育での道徳の教科化や愛国心教育の強化などを強行しています。いずれも、軍事的対応による安全保障をめざしたもので、軍事力によらない安全保障を志向する憲法の理念に反するものばかりです。
 日本には憲法上の制約があるということを、安倍首相は全く理解していません。日本国憲法の前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあり、9条には「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と書かれているからです。
 つまり、日本国民の「安全と生存」は武力によって保持されるのではなく、国際紛争の解決のための武力も「永久にこれを放棄」したのが日本なのです。このような憲法の規定からすれば、軍事的なオプション(選択肢)はありえません。
 また、北朝鮮との距離的な関係からして、日本は軍事的な手段を取ることができないということも安倍首相は認識していません。ICBMが開発されるずっと前から日本は中距離ミサイルの射程内に入っており、着弾までの時間は7~8分とされています。これだけの短時間での対応は、ほとんど不可能です。
 ミサイルの迎撃は技術的に難しく、撃ち落とせる以上の数を発射されればお手上げです。つまり、軍事技術的にミサイル迎撃は不可能であり、パトリオットミサイルやSM3、イージス艦や陸上イージスによるミサイルの迎撃などは気休めの空想にすぎません。軍事的な選択肢は、日本にとって初めから対象とすることのできないものだったのです。

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