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10月18日(金) もし「特区」を設置するなら、必要なのは「雇用水準向上特区」ではないのか [規制緩和]

 「雇用 大幅緩和見送り」「労働時間規制を継続」という見出しが躍っていました。国家戦略特区での規制緩和の概要について報じた本日付の『日本経済新聞』の一面です。

 この記事のリードには、「雇用改革では、有期雇用の期間を最長5年から最長10年に延ばすが、産業界に要望が強い労働時間の規制を一部の労働者に適用しないホワイトカラー・エグゼンプションなど大幅な緩和は見送った」と書かれています。ただし本文では、「今回は見送ったホワイトカラー・エグゼンプションについて、首相周辺は、『(年明け以降)議論を詰めていく』としている」とされており、先送りされただけのようです。
 また、その横に掲載されている「国家戦略特区の主な規制改革項目」という一覧表の「雇用」の欄を見ると、「雇用ルールを分かりやすく」として「解雇基準の指針を作る。対象は限定」とあります。これには「一部実現」という意味の△印が付いていました。
 限定された人を対象に、解雇しやすくする新しいルールを導入しようということのようです。安倍首相は「解雇特区」という言い方に反論していましたが、特区の中では解雇がしやすくなるだろうということは間違いないようです。

 今回、雇用についての大幅な規制緩和が先送りされたのは、当然とはいえ、重要な成果です。労働側の反対運動や厚労省などの反対によるものだと思われますが、同時に、このような規制緩和には問題がありすぎて導入に躊躇せざるを得ないという事情もあるでしょう。
 今回の規制緩和は、先に行われた小泉構造改革の再版であり、その結果がすでに見えているからです。解雇しやすくすれば失業者が増え、派遣などを緩和すれば非正規労働者も増大します。
 その結果、どうなったかは、小泉構造改革が何を生み出したのかを振り返ってみれば明らかでしょう。私が、『労働法律旬報』(2013年9月10日号)に掲載された拙稿で、「第二次安倍内閣における『雇用改革』をめぐる論議には、相反する二つの傾向があるように見える。一つは、規制改革に対する期待と攻勢であり、もう一つは、懸念と躊躇である」と書いたのは、この点に関わっています。

 ここで指摘した「懸念と躊躇」が、今回の「大幅緩和見送り」にも示されているといって良いでしょう。というのは、拙稿に書いたような以下の事情があるからです。

 「雇用改革」の主たる狙いは成長戦略の実行であった。雇用のあり方をめぐる規制を緩和すれば経済成長が実現するのではないかという期待がある一方で、それははたして労働者に理解され、上手くいくのかという躊躇がある。
 一方での経済成長への期待感は規制緩和に向けての攻勢を強めるが、他方での懸念は、その具体化における躊躇を生み出している。労働の規制緩和に向けての具体的検討が規制改革会議の傘下にある雇用ワーキング・グループで活発に議論されたのに、経済財政諮問会議の「骨太の方針」にほとんどその成果が反映されていないのは、そのためであろう。
 その背景には、すでに小泉内閣の時代に構造改革の一環として労働の規制緩和が着手され、それが非正規労働者の拡大を生み出し、貧困化や格差を増大させてきたという苦い経験があるからである。また同じような施策によって、同じような結果がもたらされるのではないかという懸念が生じ、その具体化に一定の躊躇を覚えるのも根拠のないことではない。

 ところで、本日の『日本経済新聞』の同じ紙面の下にあるコラム「春秋」には、「日本経済を元気にするアイデアとして、国家戦略特区が議論されている」として、次のように指摘しています。

 経済の「特区」は科学の「実験室」に似ているかもしれない。日常空間とは違う極端な条件を人工的に作り、普段は観察できない現象を見つけ出す。その結果がよければ実験は成功。そこから普遍的な理論を導き出して、ほかの場所でも応用できる。

 「特区」の設置自体、「法の下の平等」という点からいって問題があると思いますが、「実験」のためにどうしても必要だというのであればその一つとして、「規制緩和」ではなく雇用水準を向上させるための「規制強化」という「極端な条件を人工的に作」ったらどうでしょうか。雇用を安定させ、非正規労働者の均等待遇、時給をはじめとした賃金の引き上げ、サービス残業は禁止、残業時間も上限を厳しく設定して延長できないようにし、最低12時間のインターバル休息を設定してワーク・ライフ・バランスを義務付けるというような「特区」を……。
 国家戦略特区は「規制改革」による成長戦略の実現を目指しているのですから、何も「緩和」だけが手段ではないはずです。このような「規制改革」によって労働者が働く意欲を高め、生産性が向上し、内需が拡大して経済成長に資することになれば、「実験は成功」したことになるでしょう。
 このような「雇用水準向上特区」によって日本経済が元気になれば、「そこから普遍的な理論を導き出して、ほかの場所でも応用できる」ことになります。その結果、ワーキングプア、ブラック企業、追い出し部屋やロックアウト解雇、常時リストラ、パワハラや資格ハラスメント、セクハラにマタハラ(マタニティー・ハラスメント)、サービス残業、過労死に過労自殺、メンタルヘルス不全などの問題が解決されることになれば、安心して働ける人間らしい労働(ディーセントワーク)が実現するにちがいありません。

 このような「雇用改革」こそ、今の日本に求められている本当の改革ではないでしょうか。もし、「特区」による「実験」が必要だというのであれば、「日常空間とは違う極端な条件を人工的に作り、普段は観察できない現象を見つけ出す」、このような「雇用水準向上特区」という「実験室」こそ、最も必要なものなのではないでしょうか。

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