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4月2日(火) 日本市場をこじ開けようとし続けてきたアメリカの執念 [論攷]

〔以下の論攷は、八王子革新懇機関紙『革新懇話会』第57号(2013年3月25日)に掲載されたものです。〕

 安倍首相は3月15日、国民の不安や反対を押し切ってTPP交渉への参加を正式に表明しました。この問題は、過去においてアメリカの市場開放圧力に日本が屈服してきた歴史の最終段階を意味しています。そして、ここでも安倍首相はアメリカの圧力に屈服しようとしているようです。
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 このような歴史は、1965年以降、日米間の貿易収支が逆転してアメリカの対日貿易が恒常的に赤字になったことから始まります。日本がOECDに加盟し、GNPで西独を抜いて西側世界第2位となった68年が一つの転換点でした。
 その象徴的な出来事が日米繊維摩擦の発生です。結局、「糸と縄の交換」によって沖縄の施政権返還のために繊維問題では自主規制することで決着します。
 こうして、1972年に日米繊維協定(繊維製品)が締結され、沖縄の施政権が返還されました。当時、通産相であった田中角栄は、この問題を「解決」することによって首相への道を歩み始めますが、アメリカへの屈服によって日本の繊維産業は衰退していくことになります。
 その後、80年代から90年代にかけて、アメリカの対抗相手と競争条件の変化が生じ、日本に対する圧力は増大していきます。日本は高度経済成長の結果、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるほどの力を得て台頭していったからです。
 ソ連・東欧の崩壊によってアメリカの敵手としてのソ連は消滅し、東側諸国や途上国の市場競争への参入によってグローバル化が進展します。このようななかで、1985年にはアメリカの対日赤字が500億ドルに達し、日本への市場開放圧力は一段と強まります。
 投資・金融・サービス市場の閉鎖性によってアメリカ企業が参入しにくいことが批判され、自動車、家電、半導体・農産物(米・牛肉・オレンジ)がターゲットとされますが、事実上ほとんどの分野で摩擦が生じます。日本に対する自由化圧力が強まるなかで、最終的には、コメの部分的開放、牛肉とオレンジの自由化が実行されました。
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 それでも、アメリカからの圧力は止みません。それどころか、市場開放要求はさらに多角化・系統化することになります。
 89年以後に実施された日米構造協議(構造障壁イニシアチブ)では「政策実行計画案」として240項目の対日要求リストが示され、93年からの「日米包括経済協議」では、商習慣・流通構造などの国のあり方や文化にまで範囲を広げた協議がなされます。この間、日本の市場開放に向けて厳しい要求がなされたことを記憶している方もおられるでしょう。
 さらに、94年以後は、年次改革要望書(「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」)が毎年日本に突きつけられるようになり、97年から2001年の日米規制緩和対話で6分野(電気通信、エネルギー、規制緩和・競争政策WG等)についての共同報告書が出されます。これは、2001~09年の規制改革及び競争政策イニシアティブや投資イニシアチブに受け継がれ、「成長のための日米経済パートナーシップ」の一部として、日米両国の投資環境の改善のための対話を行う枠組みの形成が目指されました。
 2010年に合意された日米経済調和対話の分野は、貿易、高速鉄道、稀少資源に関する協力、知的財産権、弁護士、医療、保険、通信、郵政、農業、相手国の規制などに及んでいます。その背景には、アメリカの対日赤字が膨らむ要因は日本の市場の閉鎖性(非関税障壁)にあるとの認識がありますが、これは今回のTPPにも共通しています。
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 このような形で、一貫してアメリカは対日市場開放要求を続けてきました。日本政府は部分的な市場開放を認めてきましたが、完全に屈服したわけではありません。
 特に、コメと「非関税障壁」とされる日本独特の仕組みや商慣行については維持し続けてきました。その「障壁」を突破し、日本市場をこじ開けてアメリカ企業の全面的な参入を可能とするために目を付けたのが、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans‐Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)なのです。
 これはもともと06年発効のシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイによる自由貿易協定(FTA)でした。08年のリーマンショック後、アメリカが参入を表明し、オーストラリアやベトナム、カナダ、メキシコも参加するなどして、現在は新たな枠組み作りに向けて交渉中です。
 ここには、中国や韓国は入っていません。「アジアの成長力を取り込む」といううたい文句は真っ赤な嘘なのです。それどころか、中国を牽制するための経済的な包囲網の形成という意味すら持たされています。
 これは、モノ、サービス、政府調達や知的財産権なども対象とする包括的FTAで、農業、食糧、医療、保険、公共事業、法律、金融・投資、工業製品、サービスなどの幅広い分野が対象となり、原則として15年までにほぼ100%の関税撤廃を目指しています。もし日本が参加すれば、GDP比ではアメリカと日本で90%以上を占めることになりますから、実質は日米協定です。
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 このTPPが締結されれば一切の貿易障壁がない「完全な日米自由貿易圏」が実現することになるでしょう。コメなどの5品目と国民皆保険を維持すると安倍首相は言っていますが、後から参加してそのような新しい条件を認めさせることができるのでしょうか。
 ルール作りの協議に後から入っていって「これだけは例外として認めて欲しい」と「横車」を押し、「認められなければ脱退する」などと勝手なことを言う。これが、今の日本の態度です。そんなことをすれば参加国から顰蹙を買うでしょうし、日本の評判を落として孤立するだけです。
 もし、このような勝手な言い分が認められても、期限付きになることは明らかです。いずれは日本の市場がこじ開けられ、日本を食い尽くそうと狙ってきたアメリカの思惑が完全に達成されることになります。
 こうして、60年代の中葉、日米間の貿易収支が逆転して以来、アメリカが悲願としてきた市場開放要求の最終段階が訪れようとしています。そのようなアメリカに日本市場を提供しようとしているのが「愛国心」を売り物にしている安倍首相ですから、何とも皮肉なものだと言うしかありません。
 また、安倍首相は、言葉の正しい意味で「保守」ということもできません。日本の市場や商慣行、食の安全や安心を守ろうとしていないのですから。もし、コメの関税が撤廃され、安い輸入米が増えれば、国産米に対する需要は更に減少するでしょう。一部の大規模農家や銘柄米は輸出などで生き残ることができても、兼業で細々と生産しているほとんどのコメ農家が立ち行かなくなることは明らかです。

 TPPに参加すれば、食品の安全基準の緩和や遺伝子組み換え食品の流入など食の安全が脅かされる心配があり、日本人の健康は大きな危険にさらされることになります。加えて、外国から安くていかがわしい食品の流入と食の欧米化が進行することによる健康リスクも増大します。
 世界の「日本食ブーム」に見られるように、日本型食生活は健康に良いものでした。それが洋風化することによって、日本人の健康も農業も、食料の自給や安定的な供給さえも脅かされるようになります。
 また、米作の衰退は、それを中核とする日本の農業を危機に陥れることでしょう。水田による豊かな環境、美しい景観や水資源、国土の保全、それと深い関わりを持つ日本の伝統行事や祭り、文化の破壊をもたらし、日本という国のかたちを変えることにも繋がっていきます。
 それで良いのでしょうか。TPP交渉参加への賛否は、このような重大な問いに対する賛否も含まれているのだというを知る必要があります。
 かつて、安倍首相は「美しい日本」というスローガンを掲げていました。今、その言葉が安倍首相の口から語られることはありません。アメリカに「国を売る」ことを決意したわけですから、それも当然でしょう。今、最も愛国心教育が必要なのは、安倍首相本人なのではないでしょうか。

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