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1月3日(日) 新政権発足後の情勢と運動の課題 [論攷]

〔以下の論攷は、全国商工団体連合会の機関誌『月刊民商』No.590(2010年1月号)に掲載されたものです。〕

新政権発足後の情勢と運動の課題

 新しい時代が始まった。新しい年の展望を、新たな情勢の下で希望や実感とともに語ることのできる時代が始まったのだ。しかし、と急いで付け加えなければならない。その時代は、まだ始まったばかりなのだと……。
 それを、どれほどの希望とともに、どれほどの実感を込めて語ることができるかは、これからの我々自身の行動にかかっている。勝負の時は、これからまだ何度も訪れるに違いない。
 政権交代によって、日本の進路は転換を始めた。しかし、その方向は定まらず、歩みは遅く、早くも、紆余曲折を始めている。この新政権は、どのような背景で登場したのか。それをどう見たら良いのか。そこには、どのような課題や可能性が秘められているのだろうか。新政権発足後の情勢と運動の展望について、考えてみることにしよう。

 何が否定されたのか

 8月末の総選挙の結果、自公政権は倒れた。倒れるはずがなかった自公政権が倒壊した。自民党は119議席にとどまり、民主党が獲得した308議席の38.6%にすぎない。自民党は民主党の半分以下になった。勢力関係からすれば、とても「二大政党制」などと言えるようなものではない。民主党はかつての自民党以上の巨大政党となり、「一党優位政党制」と言うべきものができあがった。
 これは、民主党の勝利と言うよりも、自民党の敗北であった。自民党政治は、有権者の反感を買い、信頼を失い、拒絶された。自民党を政権から排除するために利用されたのが、野党第一党だった民主党なのである。民主党の一人勝ちとなったのは、自民党に対抗できるのは民主党だと考えられたからであり、小選挙区制という選挙制度が、このような見方を強める要因の一つであった。
 それでは、自民党の何が否定されたのだろうか。端的に言えば、二つの自民党政治が否定されたのだ。一つは、伝統的な自民党政治である。もう一つは、それをぶっ壊すと言って登場した新しい自民党政治だ。どちらも、国民の期待を裏切った。この裏切りに対する懲罰が、先の総選挙の結果にほかならない。
 伝統的な古い自民党政治とは、反共主義と開発主義である。自民党に多少問題があっても、「自由社会を守る」ためには、あるいは「生活の向上」がはかられれば、大目に見るという態度を有権者は取ってきた。これが、自民党の長期政権を支えてきたのである。
 しかし、ソ連・東欧の崩壊によって反共主義は基本的には過去のものとなり、バブルの崩壊によって「生活の向上」も持続できなくなった。細川連立政権誕生の背景には、このような時代の変化があった。しかし、自民党はしぶとかった。社会党をたらし込んで政権に復帰し、新たな支配のあり方を模索し始めたのである。それが、新自由主義に基づく新しい自民党政治だった。
 このような政治モデルは、中曽根内閣の「臨調・行革」路線に始まり、橋本内閣での「六大改革」構想を経て、小泉首相による構造改革で全面的に開花した。郵政民営化、官から民へ、規制緩和、自己責任、市場原理主義などのキータームに示されるような諸改革によって政治と社会は大きく変容し、貧困の増大と格差の拡大は誰の目にも明らかとなった。
 「古い自民党政治」をぶっ壊すと言って登場した小泉首相の「新しい自民党政治」は、その言葉通り、農村や地方、中小企業、高齢者、業界団体など、それまでの自民党支配を支えていた社会的基盤をぶっ壊してしまった。その帰結こそが、07年参院選と09年総選挙での自民党惨敗だったのである。

 日本が直面している大きな危機

 長年の自民党支配と小泉構造改革の結果、この国は崩壊の危機を迎えることになった。それは様々な面で表面化しているが、さし当たり、以下のような危機の諸相に注目しておきたい。
 第1の危機は、日本人がいなくなる危機である。08年の出生数から死亡数を差し引いた人口の「自然増加数」はマイナス2万9811人であった。このような人口の自然減は2年連続で、初めて減少に転じた05年を含めて3度目のことになる。子供を産み育てることが難しい社会であれば、このような結果となるのは当然のことだと言えよう。
また、15歳から64歳までの生産年齢人口は97年がピークで、98年からは減少を続けている。98年以降ということで言えば、11年連続で3万人以上の自殺者が連続している。つまり、我々が生きているこの社会は、すでに持続可能性(サステナビリテイ)を失っていると言わざるを得ない。
 第2は、日本人が生きていけなくなる危機である。食糧自給率が40%という低い率であることも問題だが、自給できる種子がコメの種籾以外ほとんどないというのは、もっと大きな問題であろう。何らかの原因で輸入が途絶すれば、野菜作りを再開するまでに数年かかることになる。
 今後、地球の温暖化や食糧投機などによって食糧生産は不安定になる可能性が高い。人口増や生活向上による食糧不足も生ずるだろう。加えて、代替燃料としてのバイオ・エタノールの生産もある。将来的に食糧問題が逼迫することは避けられず、一日も早く打開策が講じられなければ、将来、日本人は食べていけなくなる。
 第3は、貧困の拡大という危機である。政権交代によって初めて実施された貧困率調査は、衝撃的な事実を明らかにした。07年における相対的貧困率は15.7%に達する。つまり、日本人の7人に1人が貧困状態なのだ。経済協力開発機構(OECD)が公表している加盟30ヵ国のうち、メキシコ、トルコ、米国に次いで、日本は4番目の貧しさだ。
 かつて、エズラ・ボーゲルは『ジャパン・アズ・No1』(1979年)を出し、暉峻淑子『豊かさとは何か』(1989年)という本も出た。後者の本には、「モノとカネがあふれる世界一の金持ち国・日本」と書かれていた。「No1」で「世界一の金持ち国」と言われるような時代があったのだ。何故、そこからかくも遠くに来てしまったのだろうか。
 第4は、社会が劣化して崩れていく危機である。失われてしまったのは、「金持ち国・日本」だけではない。安全もまた、そうである。犯罪認知件数や凶悪事件増え、従来にはなかったパターンの事件が発生するようになっている。親が子を、子が親を殺す。「誰でも良いから殺して自分も死にたい」という無差別殺人が起きる。結婚を餌に金をだまし取って殺すような事件も生まれている。
 社会が劣化していると言わざるを得ない。背景にあるのは、貧しさと絶望である。今は悪くても将来は良くなるという希望が持てれば、貧しさは怖くない。しかし、これ以上良くなることはない、今以上に悪くなるのではないかという思いが募れば、そこには絶望しか生まれない。希望を失った社会もまた、長続きできるわけがない。
 第5は、地域社会の崩壊である。構造改革と「平成の大合併」は、地域と地方を揺り動かした。自治体の大規模化によって周辺部が拡大し、農村が寂れただけではない。地方都市の中心部でも、閉店した商店のシャッター通りが出現した。規制緩和によって大規模店が進出し、個人商店や中小の自営業者が打撃を受けて地方経済は疲弊していった。
 高齢化が進み、65歳以上の人口比が50%以上になって共同体の機能維持が限界に達した「限界集落」も増えている。「国土形成計画策定のための集落の状況に関する現況把握調査」(2007年)によると、このような「限界集落」の数は7878にのぼり、このうち全住民が65歳以上という集落の数は431である。10年以内に消滅が予想される集落は423で、いずれは消滅すると思われる集落は2220もある。地方では、地域社会消滅の危機はすぐそこまでやってきているのだ。

 鳩山新政権が取り組むべき課題

 鳩山政権が取り組むべき課題は、はっきりしている。これらの危機を克服することである。自民党が撒いた滅亡の種を、一つずつ取り除いていかなければならない。そのためには、まず、これまでの政治のあり方を根本的に転換する必要がある。
 さし当たり、「一票革命」によって自民党を政権の座から引きずり下ろし、最悪の事態を回避することはできた。危ないところで、方向転換したのである。しかし、それは崖っぷちでUターンしたというにすぎない。真っ逆さまに転落するのを免れただけなのだ。
 鳩山政権は前政権による補正予算を見直し、八ツ場ダムの建設中止や米軍普天間飛行場の移設計画の再検討などを打ち出し、行政刷新会議による事業仕分けなどを含めて、これまでの政策の検証を進めている。しかし、その「運転」はおぼつかなく、右往左往しながら進んでいる。
 目的地は定かではなく、まっすぐに走ることができないから、スピードも出せない。右に左に揺れながら、はっきりしない目標に向かってゆっくりと走っているのが、鳩山新政権の姿である。この先、明確な形で方向を転換しなければ、また、別の崖から転落する危機に直面するだろう。
 危機から逃れるためには、明確な目標に向かって、力いっぱい舵を切らなければならない。転換に向けての力が内部から生じなければ、外からの力が必要となる。
 改めて外から注入するのか、世論の圧力によって方向転換を強いるのか。いずれにしても、次のような課題に取り組むことができなければ、新政権に対する国民の期待は失望に変わるだろう。
 第1に、政治におけるインフォームド・コンセント(国民が正しい情報を得た上での合意)の実現である。きちんとした説明と情報の公開、信頼と納得に基づいた政治運営がなされなければならない。ところが、新政権にはこれが一番欠けているように見える。小沢流の「国会改革」によって、「言論の府」は変質しようとしている。「変わらなければならない」と言っていた小沢幹事長ではあるが、変わりきれなかったと言わざるを得ない。
 第2に、外交・安全保障政策の転換である。中国・韓国・ロシアなど周辺諸国や新興国との連携を強化し、対米自立をめざさなければならない。非軍事的国際貢献のための具体像を示し、核廃絶と非核の世界に向けてのイニシアチブを取るべきだ。米軍基地の返還に向けて、アメリカを説得する必要もある。返還要求運動を盛り上げ、普天間基地の国外退去と跡地の全面返還を求める閣議決定を行い、国会決議を挙げればよい。オバマ政権に対して、基地返還を求める日本国民の明確な意思を示すことが必要だ。
 第3に、経済・産業政策では、日本産業の外需依存体質を改め、堅調な内需の喚起を図る必要がある。そのためには、自由に使えるお金と時間を増やすことが不可欠だ。輸出相手を北米・先進国中心からアジア・新興国向けにシフトし、税制面などでの大企業優遇を改め、中小零細企業への支援に力を入れ、緑のニューディールや福祉のニューディールなどによって新しい産業・技術・ニーズを開拓しなければならない。コスト削減を最優先に考える「コスト・イデオロギー」を払拭し、「技術立国」をめざすことこそ、日本産業再生への道だ。
 第4に、生活支援のための所得の再分配機能を強めることである。公益法人や業界団体などの中間団体を介在させず、直接的支援によって国民の可処分所得の増大を図らなければならない。「長生きを喜べる社会」「子どもを産むと得する社会」に変えること、貧困と格差を是正し、日の丸・君が代の強制や教育基本法改定による教育の歪みを正すことも必要だろう。税金は「富めるものから取る」べきであって、「貧しい者からは取らない」姿勢を明確にすべきだ。
 第5に、人間らしく働き生活できる労働、つまりディーセント・ワークの実現である。雇用を確保し、労働者派遣法の抜本的改正を行うことが必要だ。日雇い派遣や登録型派遣、製造業派遣を禁止するだけでなく、マージン率の上限規制を行って儲からなくすれば、派遣業が蔓延することもなくなるだろう。非正規労働者の処遇改善のために、均等待遇の保障を目指すべきだ。差別禁止を法で定めるという方法も効果的だ。最低賃金については時給1000円を目指す。労働時間の延長を制限し、夏のバカンス、年休完全取得、連続休憩11時間、ILO条約の批准、全面的な労働法の改正を行う「労働国会」を実現して欲しい。
 最後に、鳩山新政権の限界についても、指摘しておく必要があろう。アメリカ追随、財界依存、官僚支配、新自由主義からの離脱の度合いが、政権交代の効果を推し量る尺度となるからである。
 まず、対米関係では、日米軍事同盟依存からの転換を明確に打ち出せないという問題がある。安全保障面での軍事力信仰や自衛隊海外派兵、改憲志向、集団的自衛権へのこだわりも見え隠れしている。
 財界との関係では、自公政権よりも距離を置いていることは明らかだが、大企業・金持ち増税を打ち出せないという弱点がある。財界の抵抗を押し切って温室効果ガス二五%削減を打ち出したのは評価できるが、そのために原発推進に依存する危険性もある。
 脱官僚を打ち出しているが、「現在官僚」主導からの転換を「過去官僚」に委ねるというのでは困る。労働組合との関係では、労使協調の民間大企業単産の影響力を断ち切れないという弱点があり、前述のように、民主的手続きや国会の審議機能を軽視し、比例区定数の80議席削減などを打ち出している点は極めて大きな問題である。
 
 「闘いがいのある時代」が始まった

 民主党は各種の政治的傾向のミックスであり、モザイク模様の政党である。それは同時に、各種の運動に対する共鳴板(政治グループ)を持っているということでもあろう。このような「聞く耳」のあるところが自民党との違いだ。
 鳩山新政権は、政治的には中道左派の性格を持ち、日本の政治革新からすれば過渡的中間的段階にある。自公政権よりは左に位置しているが、左翼の政権ではない。民主党の左には共産党や社民党があり、これらの政党が果たすべき役割も大きい。さらなる政治革新のためには、2010年夏の参院選でこれらの政党が大きな勢力となることが必要である。
 ポピュリズム(大衆迎合主義)的傾向の強い民主党には、マスコミや世論の批判に弱いという特徴がある。アメリカや財界からの圧力を跳ね返すだけの力はないが、それらから距離を置き、国民の求めに応じて要求しようとする姿勢はある。世論を高めて、それをバック・アップするのが、労働運動や社会運動の役割だということになる。国民の運動は、アメリカや財界に対する新政権の抵抗力や交渉力を高めることになるだろう。
 せっかく変わり始めた日本の政治である。元に戻すのではなく、さらに前進させるために、鳩山新政権の動揺を抑え、国民の側に立つことを求めて、大きな運動を起こすことが必要である。マスコミ報道や世論の動向に敏感な民主党は、それになりに応えようとするに違いない。その意味では、「闘いがいのある時代」が始まったと言えるのではないだろうか。

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コメント 2

まだ期待してますの?

民主党の皮をかぶった「小沢支配」ですな、昔は自民党の皮できてはりましたが。
その例外が「小泉構造改革」で、ブログ主はんはむしろ小泉を評価すべきとちゃいますか?

by まだ期待してますの? (2010-01-06 19:11) 

その他の通りすがり

>何らかの原因で輸入が途絶すれば、野菜作りを再開するまでに数年かかることになる。
数字こねくり回す割には勉強不足なのね。
食料自給率や貧困率なんかもわざと使ってるのかな?勉強不足なのかな?
数字好きな人の陥りやすい罠にはまりすぎてる。


by その他の通りすがり (2010-01-07 17:18) 

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