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7月14日(金) 「残業代ゼロ法案」の条件付き容認に転じた連合は労働者を守る気がないのか [労働]

 労働組合関係者の間に衝撃が走っています。労働組合最大のナショナルセンターである連合の神津会長が安倍首相と官邸で会談し、「企画業務型裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」につて修正を求め、要請が受け入れられれば容認に転ずる姿勢を明らかにしたからです。
 これらの制度は長時間労働を助長して過労死などの危険性を高める「残業代ゼロ法案」だとして、連合も強く反対してきたものです。一定の手直しを前提としつつ条件付きでそれを認めるというのですから、連合は労働者を守る気がないのかと強い批判と憤りが吹き上がるのも当然でしょう。

 連合は制度の修正を求めていますが、今日の『東京新聞』のQ&Aでは、「これで働きすぎは防げますか」という問いに、「そうとも限りません」「過労死の可能性は消えていません」と答え、「導入されれば会社から過大な成果や仕事を求められる心配がありますし、経済界には対象拡大のため年収要件を下げるべきだとの声があります」と指摘しています。
 修正されてもほとんど実効性がなく、過労死対策には効果がないというわけです。電通の過労死問題を契機に世論の関心が高まり、過労死をなくすためのチャンスが訪れているのに、それに逆行するような修正を労働組合の側から提案することに強い批判が寄せられるのは当然でしょう。
 しかも、安倍内閣支持率が急落し、都議選での歴史的惨敗もあって安倍首相は追いこまれています。そのような時に、連合の側から安倍首相に救いの手を差し伸べるようなものではありませんか。

 しかも、この方針転換の経緯は極めて不透明であり、非民主的なものです。今日の『朝日新聞』は、「傘下の労働組合の意見を聞かず、支援する民進党への根回しも十分にしないまま、執行部の一部が『方針転換』を決めていた」と報じています。
 実は、執行部の側は「3月の末から事務レベル」で働きかけており、それを「転換」ではないとして「組織内での議論や了承は必要ない」と強弁しているようです。「水面下の交渉」に当たってきたのは「逢見直人事務局長、村上洋子総合労働局長ら執行部の一部メンバー」で、「神津氏も直前まで具体的な内容を把握していなかったようだという」のも問題でしょう。
 神津会長は10月の連合大会で退任し、後任には逢見事務局長の名前が挙がっています。今回の修正容認の表明は、逢見さんの連合会長就任に当たっての安倍首相への「手土産」ということなのでしょうか。

 労働者の生命と生活、労働条件を守る労働組合のあり方からすれば、まさに変質であり、裏切りにほかなりません。連合組織内からも公然と強い批判の声が出てくるのは当たり前です。
 派遣社員や管理職などでつくる連合傘下の「全国ユニオン」は、鈴木剛会長名で下記のような反対声明を出しました。その批判にどう答えるのでしょうか。
 連合は労働組合として労働者を守る気があるのかないのか。働く者の代表としての存在意義が問われています。
 以下に、「全国ユニオン」が鈴木剛会長名で出した反対声明の一部を紹介しておきましょう。

 ……7月10日、突如として「『連合中央執行委員会懇談会』の開催について」という書面が届き、出席の呼びかけがありました。開催は翌11日で、議題は「労働基準法改正への対応について」です。
 異例ともいえる「懇談会」で提案された内容は、報道どおり労働基準法改正案に盛り込まれている「企画業務型裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」を容認することを前提にした修正案を要請書にまとめ内閣総理大臣宛に提出するということでした。
 しかし、連合「2018~2019年度 政策・制度 要求と提言(第75回中央執行委員会確認/2017年6月1日)」では、雇用・労働政策(※長時間労働を是正し、ワーク・ライフ・バランスを実現する。)の項目で「長時間労働につながる高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の対象業務の拡大は行わない。」と明言しており、明らかにこれまで議論を進めてきた方針に反するものです。労働政策審議会の建議の際にも明確に反対しました。ところが、逢見事務局長は「これまで指摘してきた問題点を文字にしただけで方針の転換ではない」など説明し、「三役会議や中央執行委員会での議論は必要ない」と語りました。まさに、詭弁以外の何物でもなく、民主的で強固な組織の確立を謳った「連合行動指針」を逸脱した発言と言って過言ではありません。しかも、その理由は「働き方改革法案として、時間外労働時間の上限規制や同一労働同一賃金と一緒に議論されてしまう」「圧倒的多数の与党によって、労働基準法改正案も現在提案されている内容で成立してしまう」ために、修正の要請が必要であるとのことでした。
 直近の時間外労働時間の上限規制を設ける政労使合意の際も、私たちはマスメディアによって内容を知り、その後、修正不能の状況になってから中央執行委員会などの議論の場に提案されるというありさまでした。その時間外労働時間の上限規制と、すでに提出されている高度プロフェッショナル制度に代表される労働時間規制の除外を創設する労働基準法改正案とを取引するような今回の要請書(案)は、労働政策審議会さえ有名無実化しかねず、加えて、連合内部においては修正内容以前に組織的意思決定の経緯及び手続きが非民主的で極めて問題です。また、政府に依存した要請は、連合の存在感を失わせかねません。
 ……
 私たち全国ユニオンは、日々、長時間労働に苦しむ労働者からの相談を受けており、時には過労死の遺族からの相談もあります。過労死・過労自死が蔓延する社会の中、長時間労働を助長する制度を容認する要請書を内閣総理大臣宛に提出するという行為は、働く者の現場感覚とはあまりにもかい離した行為です。加えて、各地で高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の反対運動を続けてきた構成組織・単組、地方連合会を始め、長時間労働の是正を呼び掛けてきた組合員に対する裏切り行為であり、断じて認めるわけにはいきません。また、このままでは連合は国民・世論の支持を失ってしまうおそれがあります。
 シカゴの血のメーデーを例にとるまでもなく、労働時間規制は先人の血と汗の上に積み上げられてきました。私たち労働組合にかかわる者は、安心して働くことができる社会と職場を後世に伝えていくことが義務であると考えます。今回の政府に対する要請書の提出は、こうした義務を軽視・放棄するものに他なりません。全国ユニオンは、連合の構成組織の一員としても、政府への要請書の提出に強く反対します。
以 上

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2月15日(日) 過労死促進法案による労働時間規制の解除という新たな「逆走」 [労働]

 まだ、懲りないのでしょうか。こんなに過労死が社会問題となってきたのに。
 あらゆる政策課題において安倍政権は民意に反し、問題を解決する方向とは逆に進もうとしています。このような「逆走」が、労働時間規制の分野でも始まりました。

 過労死は過重な労働を長時間続けるところから生じています。それを防止するために必要なことは、労働の負荷を軽減し、働く時間を短くすることです。
 こんなことは誰にでも分かるはずです。しかし、それが全く分かっていない人もいます。だから、このような法案が出てくるのでしょう。
 労働時間の規制をなくして、働いた時間にかかわらず残業代や深夜・休日手当を支払わなくても良いようにするというわけです。残業代を支払わないというところから「残業代ゼロ法案」と言われていますが、本当は「過労死促進法案」と言うべきものでしょう。

 厚生労働省は13日、労働政策審議会がまとめた報告書に新しい働き方を盛り込みました。安倍政権が掲げる成長戦略の目玉の一つで、労働側の反対を押し切ってのとりまとめです。
 安倍首相は12日の施政方針演説で「労働時間に画一的な枠をはめる労働制度、社会の発想を、大きく改めていかなければならない」と語って、「岩盤規制」の一環としての雇用分野の改革に意欲を示しました。新しい労働時間制度の導入は、その岩盤規制に風穴を開ける改革という位置づけになります。
 この制度の創設は「時間ではなく、成果で評価する新たな労働制度を選べるようにする」として、政権の成長戦略に盛り込まれました。同じ様な制度は、第1次安倍政権でも検討されましたが、参院選を前に世論の猛反発にあって断念された経過があり、8年ぶりの再挑戦になります。

 この制度の大枠を決定したのは、経済財政諮問会議や産業競争力会議ですが、そこには労働の代表は参加していません。当事者抜きで「改革」の大枠が決められているのは、農業改革や社会保障改革も同様です。
 専門的な知識がなく、現場の状況も良く知らない財界や産業界の代表が旗を振っているわけですから、働く場の実情や実際に生じている問題を踏まえた解決策にならないことは当然でしょう。しかも、このような「改革」は、長時間の過密労働や過労死など労働現場で生じている大問題を解決するためではなく、あくまでも「成長戦略」の一環として打ち出されています。
 経済の成長と企業のビジネス・チャンスの拡大に役立てるための「改革」であり、そのために邪魔になる「岩盤規制」に穴を開けることが目指されているわけです。その結果、「企業が活躍できる」社会になれば、過労死しようが家庭が崩壊しようが知ったことではないというわけです。

 だから、労働政策審議会でこの制度の導入を求めたのが使用者側で、反対したのが労働者側でした。13日の労政審では、連合の新谷信幸総合労働局長が「労働者の健康と命を守る規制を外し、長時間労働をまねく」と反対しましたが、司会の岩村正彦東大大学院教授は報告書をまとめることを宣言し、昨年9月から10回を超えた労政審での議論は2時間足らずで終わったそうです。
 労働側が反対しても決定を強行するというのでは3者構成になっている意味がありません。公益委員となっている研究者がそのお先棒を担いだというのも残念です。
 この制度については様々な評価がありますが、少なくとも当事者である労働側の納得が得られるようなものでなければならないというのは最低限の条件でしょう。その下で働かされ、過労死や健康被害のリスクを負わされる当事者なのですから。

 長時間労働への新たなゴーサインが出されたということになります。そうなれば、当事者の健康が破壊されるだけではありません。
 家庭生活が阻害され、女性の社会進出の新たな障害が生まれ、少子化が促進されることにもなり、社会全体にも大きな影響を与えることになります。日本社会の将来にとっては、まさに「逆走」というしかない愚策にほかなりません。

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7月29日(火) 全労連大会を傍聴して実感した労働運動の新たな息吹 [労働]

 西日本の旅から帰ってきた翌日から、東京・新宿で開かれた全労連の大会を傍聴しました。大会は3日間で今日の昼まで続いていますが、私は所用があって傍聴は昨日までです。
 大会での報告と発言を聞いた感想は、労働運動の新しい息吹を実感することができたということです。発言はどれも興味深いもので、労働の現場と運動の現状を理解するうえで大いに参考になりました。

 実は、全労連の大会を傍聴するのは、今回が初めてのことです。もう一つのナショナルセンターである連合の大会は何回か傍聴したことがあります。
 連合の方が大会の規模は大きく、マスコミの注目度が高いと言えます。連合の方が参加組織と組合員の数が多いわけですから、それも当然です。
 しかし、連合大会は2日間で発言者の数があまりにも少なく、ほとんど労働現場や組合運動の実情を反映するものにはなっていません。福島原発事故後の連合のエネルギー方針や電力総連の対応が大会で問題にされず、反省も表明されなかったことには大いに驚き、失望したものでした。
 それに比べれば、全労連の大会は3日間と長く、私が聞いた発言者だけでも63人に上ります。全労連大会の代議員は産別だけなく地方組織からも出ていますので全国各地からの発言があり、それぞれの地方での運動の状況や働く人々の息遣いまで感じられるような臨場感あふれるものでした。

 会場の正面には、「許すな! 「戦争する国」づくり 労働者使い捨て社会 つくりあげよう たたかいの砦 「150万全労連」」というスローガンが掲げられています。今回は「第27回定期大会」ですが、1989年の全労連結成から25周年という節目の大会でもありました。
 私は民間連合の結成大会を傍聴しています。全労連の結成大会も傍聴したかったのですが、ぎっくり腰が再発して身動きがとれなかったという苦い思い出があります。
 それから25年も経ったということになります。4半世紀の間、「階級的ナショナルセンター」の旗を掲げる全国的な労働組合組織が存続し活動してきたという事実は大変貴重なものだと思います。

 今回の大会では異例なことが二つあったのではないでしょうか。一つは議案への修正提案が出されたことであり、もう一つは議長選挙に対立候補が立ったことです。
 どちらも普通のことのように思いますが、少なくとも対立候補の登場はこれまでありませんでした。いずれも神奈川県労連によるもので、先進的な活動を活発に行っている地方組織からすれば現執行部の方針と人事には物足りないものを感じたということかもしれません。
 途中で執行部の見解表明があって修正提案は基本的に受け入れられ、代議員の発言でも団結維持のための立候補辞退が呼びかけられました。その結果どうなるかは現在進行中の本日の大会で明らかになるわけですが、「団結にヒビが入ってはまずい」ということで異論の提起を控えたり対立候補の擁立を自主規制したりというような配慮が必要ないほどに、全労連の活動が定着し団結が盤石になっている現れであると、私は理解しました。

 大会での発言では、全体として、労働と生活の隅々にわたって「キメ細かい」攻撃がかけられてきているという実態が鮮明になったように思います。それに対して、どこでも反撃が始まり、世論の支持を集めるようになって一定の成果を生み出しているという印象を受けました。
 会場でも何人かの知り合いに会って感想を聞きましたが、これまでの大会よりも元気で積極的な発言が目立つということでした。特に、春闘での賃上げ、最賃闘争の重要性、公契約運動への取り組み、公務員賃金の切り下げ、電機リストラ、派遣切り裁判での勝利和解、集団的自衛権行使容認・オスプレイ配備・原発再稼働などへの反対運動、震災復興、滋賀や長野、沖縄の県知事選、異なったナショナルセンターの傘下組合での共同の発展、組織拡大の経験と教訓、産別と地域労連の連携、地域での共闘の推進など、目まぐるしいほどに豊富な運動実態が次々に報告されました。
 比較的若い人や女性の発言者が目立ったというのも、未来に希望が持てる新たな息吹でしょう。争議の原告団からの発言なども含めて、連合大会との大きな違いを感じたものです。

 一方では「新しく募集をかけなければならなくなるので、辞めるなら求人広告代を出せ」と言ってなかなか辞めさせてもらえない。他方では「女性労働者の『鮮度』を保つため」と言って一定期間で雇い止めをするなどということもあるそうです。
 なかでも会場が最もどよめいたのは、「来年は給料なしで働いてもらえませんか」という申し出があったという発言でした。こんな冗談のような申し出を本気でするような経営者が出てきたというのですから驚いてしまいます。
 日本の経営者は腐り始めているということでしょうか。政府とその先頭に立つ総理大臣が最も腐っているのですから、それも当然かもしれません。

 いつもの大会以上に積極的で元気な発言が目立ったようですが、その背景には情勢の変化と運動の蓄積があるように思います。労働運動にとっては「待ったなしの出番」というべき新たな情勢変化が生じていますし、それに応えるべき運動経験が25年にわたって積み上げられてきたという実績があります。
 そこから生まれつつある新たな芽吹きに期待したいと思います。元気の良さを大会での発言にとどめることなく、実際の運動の発展によって日本を変えてもらいたいものです。
 今よりもずっとましな日本にするために……。働く人々が人間として尊重され、希望をもって働き、生活できるような明日のために……。

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3月6日(木) 労働者に実質賃金低下を強いる経営者団体~日本経団連『経営労働政策委員会報告』批判―その2 [労働]

〔以下のインタビュー記事は、『自然と人間』2014年3月号に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

さらなる長時間労働が強いられる

 労働時間については、「健康確保に十分に配慮することを前提に、企画業務型裁量労働制の対象業務、対象労働者の範囲拡大を行う」と言っています。この新しい日本型裁量労働制も規制改革会議の中で出てきたもので、「高度な裁量をもって働く一部事務職や研究職を対象に、健康確保措置を強化し、労働時間・深夜労働の規制の適用を除外する制度を創設すべき」だと書いてあります。
 その一方で、「これまで以上に過重労働防止に向けて取り組む必要」とか「やむを得ず月100時間以上の時間外・休日労働が発生した場合には、一定要件のもと、労働者に医師の面接指導を受けることを徹底すべきである」「一定日数の年休を付与する仕組みの導入」なども提案されています。
 これは、過重労働による健康被害が生まれているという現実を日本経団連も認めざるを得ないということを示しています。しかし、彼らには、その結果として生じている過労死、過労自殺やメンテルヘルス不全などが企業のパフォーマンスに大きな悪影響を与えているという認識は稀薄です。
 裁量労働制の拡大と手続の簡素化はさらなる健康被害を生むでしょう。また、労働時間規制の適用を除外する制度を創設するというのは、すでに否定された「ホワイトカラーイグゼンプション」の再版を意味しています。
 月100時間以上の時間外労働を論じること自体がべらぼうなことであって、過労死ラインとされている月80時間以上の残業は一刻も早く法的に禁止すべき性質のものです。年休の完全取得は当然必要なことですが、それだけでなくインターバル休息11時間の確保も、健康を守るという点では重要です。
 現状でも多くの健康被害が出ているのです。それを超える長時間過重労働の合法化を行えば健康被害をさらに増大させ、ひいては企業と産業の基盤を掘り崩すことになるでしょう。

ライフサイクルが維持できない!

 社会保障の問題では、「重点化・効率化」と言いながら、福祉のサービスの範囲を限定し給付の低下を迫っています。ここには年齢に伴って必要となるライフサイクルの必要経費を、誰がどのように保障するのかという問題があります。
 すでに一定の企業では、年功に応じて賃金が上がる右肩上がりの賃金制度ではなくなってきています。年齢間で賃金に差のないフラットな賃金制度のもとにある労働者が増えてきているにもかかわらず、それを補う公的給付を充実させないなら、ライフサイクルに応じて必要になる経費が得られなくなります。
 結婚して家庭をもち、子どもを産み、その子どもを育てて教育を受けさせ、親が高齢になって介護が必要になる。自分も体力が劣え、病院にかかることが多くなる。このように、若い人が年を取っていくにつれて必要な経費は増えるわけです。
 これを今までは年功賃金によって保障してきたわけですが、そういうシステムによってカバーされる労働者が減ってきています。だから、公的な責任で何とか代替、負担しなければなりません。
 それを限定し削減せよというわけです。労働者は一体どうしたら良いのでしょうか。極めて無責任な主張です。要するに、企業が社会保険の負担を増やしたくないというだけの話なのです。
 人材の活用ということでは、「女性従業員の育成、適切な処遇」には「意識改革が必要」と言っています。しかし、セクハラやマタハラなど女性に対するさまざま差別についてはまったく言及されていません。当然、それをどうなくすのかについても、「意識改革」だけで具体的な方策にはまったく触れられていません。
 若者の雇用をめぐっても、離職率の高い企業についての問題意識がありません。世間で問題にされ大きな批判を浴びている「ブラック企業」については、厚労省も対策を立てつつありますが、この『報告』では「ブラック企業」という言葉さえ出てきません。

原発政策をめぐる資本の対立

 『報告』では、「原発の再稼働プロセスを加速化していくべき」だという方針を出しています。これは政府が掲げているエネルギー政策以上の原発推進論です。
 しかし、原発が企業活動にとっても大きなリスクを生み出すことは、福島第一原発の事故で明らかになりました。今の政府・自民党でさえ、将来的には原発に依存しない方向をめざすと一応言っています。
 この『報告』に見られる日本経団連の主張は、必ずしも総資本の意志ではないでしょう。楽天の三木谷浩史社長が日本経団連から飛び出し、新経済連盟を立ち上げています。主要な理由は、原発政策など電力事業をめぐる意見の食い違いにありました。
 IT産業やベンチャー企業などがこれに参加していますが、ソフトバンクの孫正義氏も同様のスタンスです。「原発には死ぬまで反対」「原発に代わる発電手段として再生可能エネルギーを増やさなければいけない。政府の成長戦略に位置づけられるべきだ」などと主張しています。
 だから、この『報告』での原発推進論は総資本の意志というより、従来型の重厚長大型製造業を中心とした古い資本の利害を代表したものです。新たなビジネスチャンスを模索する潮流は、このような方針に必ずしも同意していないのではないでしょうか。

日本の産業を荒廃させる道だ

 『報告』に書かれなかったことに、安倍政権のタカ派路線と日本経済との関連という問題があります。産業や企業の活動に、安倍カラーが大きな阻害要因になっているからです。この点について、日本経団連が沈黙を守ることは許されません。
 安倍首相に苦言を呈するぐらいのことがあってもいいはずです。堂々と文句を言えばいいじゃありませんか。
 安倍首相の言動が日本の孤立化を招き、特に周辺諸国との関係を悪化させています。中国や韓国との関係悪化で、貿易、投資、観光などに大きなマイナスが生じていることは否定できない事実です。被害を被っている企業は決して少なくない。安倍首相の軍国主義的なタカ派政策は、中国や韓国の「カントリーリスク」を高める元凶です。
 さらに、武器輸出三原則を緩和しようとしています。最近、日本経団連の防衛生産委員会もそれを求める提言を自民党に出しました。これは、これまでの経済発展の原動力であった「9条の配当」を無にするもので、民生主体の平和経済から軍需依存の「死の商人」経済への転換を生み出すことになります。日本の企業と産業の総体にとって、大きなマイナスとなることでしょう。
 これに加えて、『報告』に見られる日本経団連が進もうとしている道は、三つの破壊を進行させるだけです。
 一つは健康・生命の破壊で、過労死や過労自殺、メンタルヘルス不全などを増大させます。二つめは家庭・未来の破壊で、少子化を進めて労働力の再生産を困難にし、日本社会の縮小と活力の低下をもたらします。三つめは家計・生活の破壊で、内需を冷やしデフレ不況からの脱却を阻害することになります。
 総じて、日本の企業と産業、経済の破壊に帰着するものです。『報告』は、自分の企業や産業の目先の利害にとらわれ、長期的で大局的な見地を忘れた近視眼的な発想に陥っていると言わざるをえません。

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3月5日(水) 労働者に実質賃金低下を強いる経営者団体~日本経団連『経営労働政策委員会報告』批判―その1 [労働]

〔以下のインタビュー記事は、『自然と人間』2014年3月号に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 日本経団連の『経営労働政策研究委員会報告』が発表された。マスコミはアベノミクス効果で賃金が引き上げられるように報じているが、経営者団体は労働者にいっそう厳しい対応を迫っている。『報告』の問題点について、法政大学大原社研の五十嵐仁教授に聞いた。(聞き手 編集部)

 今年の『経営労働政策委員会報告』が発表され、日本経団連が賃上げを認めたかのような報道がくり返されましたが、この『報告』は労働者にとってそれほど甘い内容にはなっていません。
 『報告』全体の印象を言えば、「焼け石に水」という言葉がありますけれども、「水をかけながら石を焼いている」ような姿勢を感じます。しかも、「ぬるま湯」を「部分的に」かけるというものです。
 「部分的に」ということは、日本経団連がこれまでも言ってきた「支払い能力のある」企業、儲かっている企業だけという意味です。
 「ぬるま湯」というのはベースアップ以外のところで賃金改善を図るということですから、熱を冷ます効果はほとんどないと言っていいのではないでしょうか。
 多少の賃金改善が民間大企業、特に輸出産業を中心にあるのかもしれません。しかし、全体として可処分所得を増やすということにはつながらないでしょう。

避けられない実質賃金の低下

 賃金引き上げについては、「儲かっていて余剰がある企業なら、少しくらいおこぼれをあげてもいい」ということです。この日本経団連の主張は、典型的な「トリクルダウン」(おこぼれ)理論です。この考え方では、利益が上がっていなければ賃上げをしなくてもいい、経営が厳しければ賃下げもありうるということになります。
 しかし、賃金は労働力の再生産費という性格を持っているのですから、企業は生活を保障するに足る賃金を支払う義務があります。さらに『報告』では、降格・降給についても制度化を検討していくと言っており、労働者にとってはとんでもない春闘方針だと言わざるをえません。
 「焼け石に水」と言えば、連合の「最低1パーセント以上」という要求も問題だと思います。政府のインフレ目標は2パーセントで、すでに昨年から今年にかけて1・4パーセントの物価上昇が見られました。
 ですから、1パーセントの賃上げでは実質賃金が低下してしまいます。しかも、4月以降には消費税が5パーセントから8パーセントに引き上げられます。さらに、社会保険料の負担も増えるので、可処分所得が増えないことは明らかです。

非正規労働者の待遇が悪化する

 『報告』では、全労働者ベースの平均年収額が低下傾向にあることを認め、パートタイム労働者の増加など非正規労働者の比率が増えていることがその要因であると言っています。にもかかわらず、労働者派遣法の「改正」を打ち出すなど非正規労働者をさらに増やそうとしている。これは大きな矛盾です。
 また、「賃金制度の多様化」と言っていますが、多様化することが労働者の収入減につながってはなりません。多様化した結果、ベアの引き上げや定期昇給の実施、ボーナスの支給という恩恵を受ける正規労働者は減少してきています。それらと無縁な非正規労働者、周辺的正社員の賃金改善をどう図るのでしょうか。
 非正規労働者や周辺的正社員の生活の維持・向上にとっては、時給を引き上げることが非常に重要です。この「時給」と密接なかかわりを持つ「最低賃金制度」について、「中央最低賃金審議会が地方へ目安を示す意義はもはや失われた」と言っています。最賃制度は、その意義が失われたどころか、非正規労働者の賃金改善にとって不可欠の制度になっており、ますますその意義は高まっていると言うべきでしょう。
 ところが、「使用者側全員反対を表明する地域が半数を超えており、直近5年間の平均は26・2地域にも上っている」として、だから制度は機能していないと書かれています。自分たちで反対しておいて、「反対が多いから制度の意義は失われた」というのは、盗人猛々しいと言わなければなりません。きちんと機能させる必要があるなら、使用者側が反対せず賃金改善をきちんと認める対応をすべきです。

労働規制緩和で雇用不安増大

 安倍政権の下で新自由主義的な規制改革が再起動されましたが、『報告』でも規制緩和、特に労働の規制緩和を強く打ち出しています。「規制改革は……極めて重要であり、成長分野のみならず、あらゆる事業分野にわたる不必要な規制について、早期かつ大胆に見直すべきである」とあります。この点では、労使のどちらにとって「不必要」なのかを問わなければなりません。
 使用者側にとって不必要であっても、労働者側にとって必要な制度や規制、ルールがたくさんあります。これを規制改革、規制緩和だということで、労働者側の反対を押し切って取っ払うことは許されません。
 さらに、「近年、非正規労働者が増加し」、「36・6パーセントに達している」と認めた上で、「非正規雇用の実態は多様であって、一律には論じられない」と言っています。そして「不本意非正規労働者」というカテゴリーを提起し、政策的支援はこの人たちだけに限るとしています。これは今までにない方向です。
 一方で、非正規労働者の増大を否定できず、問題解決に向けて何らかの対応をしなければならないことを認めつつも、他方で、その対象を「不本意非正規労働者」という一部に限定するわけです。こうすることで、非正規雇用全体の待遇改善や規制強化を牽制しているわけです。

「限定正社員」は正社員の有期雇用化

 もう一つ新たに提起されているのが、「勤務地等限定正社員の活用」ということです。「労働者の多様なニーズに対応」するとして、「勤務地や職種、労働時間を限定した限定正社員(限定正社員を積極的に活用する」ことを打ち出しています。
 これは二つの面で、「労働者のニーズ」に反し「使用者側のニーズ」に合致するものです。一つは「限定正社員」という新しいカテゴリーを使うことで、正社員でありながら賃金の低い人たちを生み出してコストを削減すること、もう一つは、これらの人々に対する雇用保障責任を軽減してクビを切りやすくすることです。
 「雇用保障責任は……当然には同列には扱われないと解釈されており、この点をより明確にする法的整備が必要」と言っています。要するに、これまでの正社員とは違って雇い止めでクビを切れるようにするということです。「限定正社員」は期間が明示されていないだけの有期雇用労働者だと言っていいでしょう。
 期間が明示されていないというのは、工場などが閉鎖されて勤務地がなくなったり職種がなくなったりするのがいつか分からないということです。しかし、勤務地や職種が消滅すれば雇い止めされるわけですから、実質的に有期雇用ということです。無期でずっと働き続けることにはなりません。
 これは、規制改革会議の中で提起されたものです。低い賃金で雇用され雇い止めが容易になるという企業側のメリットはあるでしょうが、低賃金で不安定な雇用という労働側のデメリットは大きくなります。このようなデメリット解消のためには、勤務地や職種、労働時間が限定されていても雇用そのものは維持・継続されることが必要で、別の勤務地や職種への転換が保障されなければなりません。


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3月3日(月) 緊張感保ち批判、提言を [労働]

〔以下のインタビュー記事は、『北海道新聞』2014年2月6日付の「JR北海道 再生への視点5 労使関係」として掲載されたものです。〕

 JR北海道で相次いだ事故やトラブル、不祥事については、安全意識を徹底させられず、現場の状況を把握できなかった会社の責任は重い。ただ、労働組合にも問題はなかったのだろうか。
 運転士が自動列車停止装置(ATS)のスイッチを故意に壊した事件では、JRは当初、出勤停止15日という一般常識と比べて軽すぎる社内処分を下した。結果的に運転士は警察に逮捕されたが、会社側が労組側の顔色をうかがって、断固とした対処ができなったのではないか。
 乗務員のアルコール検査の義務化が遅れたのも、JRが、検査導入に難色を示した一部労組に配慮した結果だとすれば、乗客の安全を第一に考えるべき鉄道事業者の対応として疑問を感じる。
 労使関係には対立、協調、癒着の3パターンがある。一般的に労組と会社側は利害が対立するものだが、双方が自立した立場を保って協調することもある。その場合でも、労組は会社の問題点をチェックする役割を担うのが健全な姿だ。
 JR北海道は、加入率約9割のJR北海道労組(JR総連系)と「労使協調路線」を取っているというが、実際は強調の一線を越えてなれ合いを生み、労使の緊張感が薄れてはいなかったか。
 JR北海道には大小四つの労組があり互いに対立している。中でも最大労組のJR北海道労組と、JR北労組(JR連合系)、国労道本、全日本建設交運一般労働組合北海道鉄道本部(建交労北海道鉄道本部)の3労組との対立が根強い。現に所属組合が違うと、仕事の手順を教えなかったり冠婚葬祭に呼ばなかったりする事例があったという。これでは職場の風通しは悪くなり、全社員一丸となって安全を守れるはずがない。
 なぜこうなったのか。さかのぼると1987年の国鉄分割・民営化に行き着く。反対した国労や、建交労の前身組合はJRへの採用で差別された。一方、JR北海道労組の前身組合は会社側に協力し、優遇されたが、労組間の対立を招くことになった。
 JR北海道は存続の危機に立たされた今こそ、すべての労組の意見に耳を傾け、正当な批判や提言を積極的に取り入れるべきだ。労組も過去のしがらみを捨て、会社の再生に力を尽くさなければならない。
 昨年12月、JR発足以来初めて4労組が同一テーブルに着いて会社側と安全について話し合った。これをきっかけに労使と労労の関係を正常化しなければ、再生は不可能だろう。

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1月31日(金) 「卒業論文」のようなものを2本書き上げた [労働]

 いよいよ3月末の退職が近づいてきました。これに向けて「卒業論文」のようなものを2本書き上げました。

 一本は「今日の政治社会情勢の激変と労働組合運動の課題」で、昨年末の基礎経済科学研究所(基礎研)のシンポジウムでの報告を文章化したものです。これは、基礎研が出している雑誌『経済科学通信』に掲載される予定です。
 もう一本は、「第二次安倍内閣がめざす労働の規制緩和」で、すでに昨年、『労働法律旬報』に発表された論攷を加筆したものです。参院選以降の状況についてかなり補充執筆しました。これは共著の一部となって、旬報社から刊行される予定です。

 後者の論攷に関連して、つい先日の29日(水)に労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会で労働者派遣制度の見直しについての建議を採択するという動きがありました。その内容は専門26業務の区分けを撤廃して派遣期間を個人単位とし、事実上派遣労働を無期限とするものです。
 労働者委員の反対を押し切っての取りまとめでした。これも安倍内閣の「暴走」の一つの表れだということができるでしょう。
 この建議は昨年の8月20日に出された「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」を元にしたものですが、目処にしていた昨年末までは合意できず、公益委員が見解をまとめて厚労省が原案をつくり、それを無理やり建議にしてしまったという経過があります。労働者側委員の反対を押し切っての決定という強引なやり方を取ったわけですが、その背後には規制改革委員会からの強力な圧力がありました。

 一例を挙げておきましょう。規制改革会議の下に設置された雇用ワーキング・グループでのやり取りです。

 雇用ワーキング・グループでは12月16日の第16回会議で労働者派遣制度の見直しについて厚労省からのヒアリングが行われ、富田望職業安定局派遣・有期労働対策部需給調整事業課長が出席しました。席上、富田課長は次のように説明しています。
 「年内の取りまとめに向けて現在、鋭意調整を行っているところでございます。ただ、労側の反発も今、非常に激しいという状況でございまして、非常に厳しい状況にあることには変わらないという状況でございます。」
 これに対して、規制改革会議の大田弘子議長代理は「この骨子案で見る限り、かなり強い、前と全然変わらない表現ぶりになっていますので、これも御再考いただければと思います」と注文を付けました。また、稲田内閣府特命担当大臣も「今回、規制改革の意見が反映された部分はどういうところなのか」と質問しています。

 つまり、「これまでと同じじゃないか。規制改革会議の意見がどこに反映されているのか」と厳しく問いつめたわけです。これに対して、富田課長は次のように答えています。
 「今回公益委員案の中では26業務を廃止していこうということを打ち出してございます。……有期雇用派遣労働者に対する個人レベルの期間制限というものについても、今回そういうふうな方向でやろうということでございまして、……業務を廃止することによって、そういうふうなものにやっていこうということでございます。」
 冷や汗を拭いてしどろもどろに答えているような光景が目に浮かびます。「今回そういうふうな方向でやろうということでございまして」「そういうふうなものにやっていこうということでございます」と、迎合しているわけです。

 その結果が、29日の部会での報告書(案)の提案となりました。その内容が第2次安倍内閣による「政権の意志」が貫徹されたようなものとなっていたのは当然でしょう。
 労働政策の審議は、本来、政労使の3者構成でなされるべきものです。国際労働機関(ILO)の基準に従って、労働政策審議会の構成もそうなっています。
 しかし、今回の政策決定は、事実上、「3者」構成ではなく「4者」構成であったと言うべきでしょう。規制改革会議(雇用ワーキング・グループ)が外から「横やり」を突っ込み、強い圧力をかけていたからです。

 ということで、詳しくは共著をご覧下さい。来月の末くらいには、旬報社から刊行されるそうです。
 これからは、『18歳から考える日本の政治』(法律文化社)の増補・改訂に向けての作業に取り組みます。これが在職中のまとまった仕事としては最後のものになるでしょう。
 旬報社や法律文化社とは、私が専門研究者となった最初の頃から、拙著を刊行していただくなど長い付き合いとなりました。その両出版社と在職中における最後の仕事をすることになったわけで、まことに感慨無量です。

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5月1日(水) 「日本の労働組合に、未来はあるのか」との質問への回答 [労働]

 昨晩、息子を通じて、組合の書記をしている先輩からの質問を受け取りました。その方は、私の書いたものなども読んでいて、「日本の労働組合に、未来はあるのか」と聞いてきたというのです。
 息子からこのような質問を受けるとは、嬉しいものです。しかも、労働者の祭典であるメーデーの前日に……。
 というわけで、早速、回答を書いて送りました。せっかくですので、このブログにもアップすることにします。

 質問は、以下のようなものでした。

「日本の労働組合に、未来はあるのか」
・なぜ未来があると言えるのか
・未来がないとどうなるのか
・なぜ未来がないかもしれないという意見が出てくるのか
・では未来のためにどうするべきなのか

 日本の労働組合に未来はあると思います。モノやサービスの生産者がいなくならない限り、その権利を守り、要求を実現するための団体もなくならないからです。
 また、労働組合は労使の対等な契約を保障するためにも欠かせません。労働力は生きた人間ですから保存は利かず、個々バラバラでは弱い立場にあります。それが使用者側と対等な立場に立って交渉し、契約を結ぶためには、労働組合に団結する以外にないからです。

 労働組合は、このような労使対等な労働契約の締結を可能にするために不可欠な組織であり、それが正常に機能することによって資本主義的なシステムも正常に機能することができます。この意味で、労働組合は資本主義システムに敵対するものではなく、その正常な機能を維持するためにビルトインされた存在であると言えます。
 自動車も、アクセルだけでは正常な運転は不可能です。ハンドルやブレーキも必要です。正しく走るためには「止める装置」がなければならないというのは、資本主義システムにとっても同様です。
 もし、そのような装置である労働組合が「止める」機能を充分に果たせなくなれば、資本主義は暴走します。運転を誤り、事故を起こして走行できなくなる危険性が生まれるのです。

 今の日本の労働組合は、このような危険性を生み出しつつあると言って良いでしょう。会社に癒着したり、過度に協調したりすると、本来果たすべきハンドルやブレーキとしての役割が失われてしまうからです。
 その結果、労働者の権利は守られず、賃金は生活を維持するに充分でなくなり、労働条件も過酷になって労働者自身の肉体や健康を維持できなくなります。その結果、人口は減り続け、労働力の再生産機能も阻害されます。
 このような状況は、使用者側にとっても大きな困難をもたらすものでしょう。これは労働組合が力を弱めた結果であり、このような現実を見れば、誰だって、労働組合に未来はないのでは?と思うにちがいありません。

 少子化は、ワーキングプアが増大し、結婚して子どもを生み家庭を維持するに充分な賃金を得られず、子育てが不可能になるような働き方を強いられている結果です。消費不況の深刻化も、可処分所得の低下と生産年齢人口の減少によって生じています。
 このようにして社会と経済が壊れつつあります。その現状を打開する力があるのも、労働組合だけです。そのためには、会社と癒着せず、過度の労使協調を改めて、自立することが必要です。
 それは難しいことではありません。構成員である労働者の意見や要求を大切にし、労使の意見や利害が対立したときには、使用者の側にではなく労働者の側に立てば良いのです。

 そもそも、労使は相互に対立しつつ、同時に依存し合っている関係にあります。労使の利害が対立することは避けられません。しかし、常に一方は他方を必要としています。労働者がいなければ会社は存立できず、会社がなくなれば労働者は働く場所を失うからです。
 このような相互の関係を正しく認識し、互いの立場と利害を認めつつ主張をぶつけ合って均衡点を見出す力を身につけなければなりません。それは労使双方にとって必要なことです。
 そのような要請に応えられなければ、日本の労働者はさらに困難な状況に直面することになるでしょう。そして、それを打開するために、労働組合のあり方を刷新し、新たな運動主体を形成することになるのではないでしょうか。

 このような意味で、労働組合は不滅です。したがって、日本の労働組合に未来はある、と私は思います。

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8月14日(火) 「不当解雇された専修大学北海道短大8教員を支える会」にご協力を [労働]

 先日、私の古い友人である山本補將元専修大学北海道短期大学教授から厚い封筒が送られてきました。中には、「『不当解雇された専修大学北海道短大8教員を支える会』への入会のお願い」をはじめとして、署名用紙や振り込み用紙などが入っています。
 山本さんは、この会の事務局長をやっているのだそうです。設立発起人には、大原社会問題研究所の先輩である早川征一郎法政大学名誉教授など、旧知の方々も加わっています。
 これは一肌脱がずにはおられまい。というわけで、ここで「不当解雇された専修大学北海道短大8教員を支える会」への協力を呼びかけることにいたしました。
 ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

この問題についてブログに書くに当たっては、いささか躊躇があったということを、まずお断りしておかなければなりません。というのは、専修大学には何人かの友人や知人がいるからです。
 この問題について私が書けば、専修大学が8教員を不当に解雇した事実は一遍に広まってしまうでしょう。予想しないところで、これらの友人・知人に迷惑をかけることになるかもしれません。
 しかし、このような不当解雇事件は専修大学にとっても、そこで働く大学人にとっても恥ずべきことであり、不名誉きわまりない出来事です。このような事件を解決して解雇された方を救済することは、結局、そこで働く友人たちのためにもなるのではないかと思い直し、ここに書くことにしました。

 「『不当解雇された専修大学北海道短大8教員を支える会』への入会のお願い」http://island.geocities.jp/hokutan_union/kai/nyuukai.htmlによれば、事件の経過は次のようなものです。
 専修大学は2010年4月22 日に専修大学北海道短期大学の学生募集を停止しました。その後、専修大学や石巻専修大学などの系列大学への短大教員の配置転換を実施せず、2012 年3月31 日に希望退職に応じなかった教員8人を解雇したのです。
 この解雇は、学校法人の財政が健全であるにもかかわらず系列学校の教員を解雇する理不尽極まりない不当解雇に当たるとして、解雇された8教員は解雇撤回を求めて札幌地裁に提訴し、解雇撤回に賛同を求める活動を展開しているというわけです。
 以上の経過や「支える会」の活動については、「支える会のページ」http://island.geocities.jp/hokutan_union/kai/index.htmlがあります。詳しくは、そちらをご覧ください。

 企業で言えば、専修大学にとって北海道短大は系列店ないしは支店のようなものでしょう。赤字でそこを閉鎖したからといって、従業員を本社や他の系列店に配置転換する努力をせずに首を切るようなことが許されるのでしょうか。
 首斬りに当たっては、整理解雇の4要件(①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性)が良く知られています。「人員整理の必要性」とは、企業の維持存続が危うい程度に差し迫った必要性が認められる場合、あるいは、そのような状態に至らないまでも、企業が客観的に高度の経営危機下にある場合を意味しています。
 専修大学は、倒産の危機にでもあるというのでしょうか。配置転換するという形での「解雇回避努力義務」は、きちんとなされたのでしょうか。

 そのような事情もなく、そのような努力もせずに解雇したとすれば、専修大学はあまりにも愚かな対応を選択したことになります。先輩が築き上げてきた大学の権威や信頼性はこれで大きく揺らぐことになり、「専修大学」というブランドに大きな傷を付ける結果になるでしょうから……。
 すでに、このブログでこのように書かれること自体が、大きな傷になる可能性があります。だから私は、いったんは書くことに躊躇しました(結局、書いてしまいましたが)。
 大学当局は、このことを事前に予測できなかったのでしょうか。このような対応が、大学として大きなマイナスになるとは考えなかったのでしょうか。

 現在、裁判中とのことですが、札幌地裁での結審を待たずに、8教員の雇用を保障する形で和解するべきでしょう。専修大学には、そのような形でしか、すでに傷ついてしまった信頼を回復することはできないということを理解していただきたいものです。
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7月27日(金) 最低賃金たったの7円の引き上げだなんて最低だ [労働]

 最低賃金とは、法律で決められている賃金の最低額です。それを下回らずに働けばなんとか生活できる賃金の額を労働者に保障するためのもので、それを下回る額で雇用してはなりません。

 国の中央最低賃金審議会は、2012年度の最低賃金の引き上げ額を決めました。時間あたり平均7円引き上げて、全国平均で744円にするというものです。
 これは全労働者が対象ですが、主に非正規で働く人の賃金に反映される場合が多くなります。正規労働者の場合には、これを上回る水準で雇用されるのが普通だからです。
 この国の決定を受けて、各都道府県の地方審議会が個別に地域の最低賃金を決めることになります。そのための審議が、地方ではこれから始まります。

 現在の最低賃金(時給)は、北海道705円、東京837円、愛知750円、大阪786円、沖縄645円などとなっており、全国平均で737円です。これを7円引き上げて全国平均で744円にするというのが、今回の答申です。
 時給744円で週40時間、年2000時間働く場合、年収は148万8000円にしかなりません。時給837円の東京でも167万4000円にすぎず、200万円を下回ってしまいます。
 これから税金や社会保険料が引かれ、電気代を含む水光熱費や家賃がかかります。実際に使える可処分所得はずっと少なくなるでしょう。

 これで生活できるのでしょうか。生活できるかどうか、この最低賃金でよいと決めた審議会の委員、とりわけ毎回引き上げに反対している経営側の委員に、是非、試してもらいたいものです。
 これではまともな生活ができるはずがありません。だから、ワーキング・プアという日本独特の現象が生まれるのです。
 働いているのに生活できない「ワーキング・プア」は、死ぬまで働く「過労死」や対価なき「サービス残業」とともに、外国人には理解できない日本の労働におけるミラクルとなっています。

 もう一つの大きな問題は、最低賃金の引き上げ額が少ないために生活保護支給額を下回る「逆転現象」がなかなか解消されないという問題です。現在11の都道府県で逆転現象が残っていますが、今回の引き上げでも一部でまだ解消できません。
 働くより生活保護を受給した方がいいと考え、働く意欲をなくすモラルハザード(倫理観の欠如)が起こりかねないという問題があります。そのために、最低賃金を上げるのではなく、生活保護水準を下げるという対応がなされる危険性が生まれています。
 これは逆行した対応であり、改善ではなく改悪だと言うべきでしょう。ますます、生活できない人が増えるだけですから……。

憲法25条は、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しています。最低賃金の水準は、このような憲法で定められた国民の権利を保障するものではなく、国は第2項で定められた義務を果たしていないことになります。
このような状況を改善するために08年に最低賃金法が改正され、地域別最低賃金を決定する場合には、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性にも配慮する(最低賃金法第9条第3項)と定められました。今回の決定は、この改正最低賃金法にも違反しています。
 また、中長期的な最低賃金の引き上げに向けた基本方向を合意した08年6月30日の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」の決定にも違反しています。「賃金の底上げを図る趣旨から、社会経済情勢を考慮しつつ、生活保護水準との整合性、小規模事業所の高卒初任給のもっとも低位の水準との均衡を勘案し、当面5年程度で引き上げることを目指し、政労使一体となって取り組む」としていたのですから……。

 それだけではありません。「全ての労働者に適用される『全国最低賃金』を設定(800円を想定)する」「景気状況に配慮しつつ、最低賃金の全国平均1000円を目指す」とした民主党の09年マニフェスト違反でもあります。
 最低賃金の引き上げは、自民党政権の下で、07年14円、08年16円、09年10円となっていました。09年秋の政権交代後、10年17円と上げ幅が大きくなりましたが、その後、11年7円、12年7円と一桁台になっています。
 菅政権以降、引き上げ幅が鈍化していることは明らかです。最低賃金引き上げ幅の推移においても、政権交代の成果を認めることはできません。

 もはや、民主党政権においても、貧困問題を解決する意思が失われてしまったということでしょう。最低賃金政策でも自民党以下の対応しかできないなんて、野田政権は最低だと言うしかありません。
今日の『朝日新聞』の「天声人語」は、「企業が悪い、と叫ぶつもりはない。だが資源に恵まれない日本の最大の資源は、額に汗する『人』ではなかったか。千分の1秒の金融・証券取引で巨富を手にする仕組みの一方、大勢が『1時間7円』に泣く図はいびつだ。格差を縮める政治の意志は、どこにある」と書いていますが、はっきりと言うべきでしょう。「企業が悪い」「格差を縮める政治の意志は、どこにもない」と……。


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