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7月22日(土) 都議選結果が示したもの アベ暴走政治は止められる  [論攷]

〔以下の論攷は、『全国商工新聞』第3273号、2017年7月24日付、に掲載されたものです。〕

 国民無視の政治に審判

 驚天動地の結果でした。都議選で現有57議席を34も減らし23議席という歴史的な惨敗を喫した自民党は、まるで地面が割れて地獄に引きずり込まれるような恐怖を味わったのではないでしょうか。
 風に吹かれて舞い上がったのが小池百合子都知事に率いられた「都民ファーストの会」です。現有6から49議席に躍進し、追加公認を含めて55議席になりました。今回ばかりは自民党に入れたくないという「非自民」の手ごろな「受け皿」となったからでしょう。
 このような自民対「都民ファーストの会」という対決構図の下で「埋没」すると見られていた共産党は、現有17を2議席増やして19議席となりました。前回の8から17への倍増に次ぐ2回連続での議席増は32年ぶりのことになります。安倍首相にきつい一発をお見舞いしたいという「反自民・反アベ」の思いを受け止めたからです。

 都民が下した三つの審判

 今回の都議選で都民は3つの審判を下しました。これらが積み重なったから、これまでにないほどの惨敗になったのです。
 第1は、自民党都連が生み出した都政の闇への審判です。石原・猪瀬・舛添という3代の都知事の忠実な「イエスマン」だった自民党と公明党によって都政は支配され、築地市場の移転問題をはじめとした闇は深まるばかりでした。昨年の都知事選のときから高まった都民の怒りは、今回の都議選でも自民党都連に向かったのです。
 第2は、憲法無視、政治・行政の劣化や退廃という国政への審判です。都議選直前まで開かれていた通常国会では「共謀罪」法案への懸念が大きかったにもかかわらず強行採決で幕を閉じてしまいました。このような強引な国会運営や9条改憲の目論み、政治家の不祥事や暴言などの国政上の問題も都議選での大きな争点になりました。
 第3は、忖度の横行や強権化、政治の私物化という安倍首相の政治手法、嘘やごまかしへの審判です。とりわけ「森友」「加計」学園疑惑は、権力者による仲間や友人の優遇、政治・行政の歪みを明らかにし、その中心にいた安倍首相夫妻への不信と怒りを高めました。これにとどめを刺したのが、秋葉原の街頭演説での「こんな人たち」演説だったのではないでしょうか。

 世論と選挙で潮目が変わった

 都議選が実施される前から安倍内閣の支持率は低下し始めていました。通常国会閉幕後の調査では、『読売新聞』で支持率49%と12ポイント減、『朝日新聞』では41%で6ポイント減になっています。都議選での自民党の歴史的惨敗は、このような世論の動向を投票によって明らかにしたものでした。
 その傾向は、都議選後も変わっていません。『読売新聞』の調査では、内閣支持率が36%で不支持率が52%と半分を超えました。『朝日新聞』でも支持率33%、不支持率は47%になっています。2回連続での大幅な減少でした。
 政治運営にとって重要なのは世論と選挙です。その両方で、安倍政権は歴史的な後退を示しています。長い間、「安倍1強」と言われていましたが、潮目が大きく変わりました。さらに追い詰めて、アベ暴走政治の息の根を止める展望が生まれています。

 9条改憲の阻止に向けて

 このような潮目の変化は、9条改憲阻止の可能性も高めています。秋の通常国会で自民党の改憲案を出して来年の通常国会で発議し、自民党総裁選での3選を経て秋の解散・総選挙と同時に国民投票を実施するというのが、安倍首相の目論みでした。
 しかし、政権の「体力」は急速に衰えており、自民党総裁選での安倍3選すらおぼつかなくなっています。8月早々に内閣を改造して目先を変えようとしていますが、うまくいかないでしょう。批判と疑惑の中心には安倍首相本人がいるのですから。
 改憲発議の必要条件は、衆参両院で改憲勢力が3分の2以上を占めていることです。しかし、来年12月には衆院議員の任期が切れます。安倍首相は解散をできるだけ先に伸ばそうとするでしょう。それを許さず、できるだけ早く解散・総選挙に追い込み、衆院での与党勢力を減らすことが必要です。

 アベ政治に終止符を打つために

 世論調査や都議選の結果は、「非・反自民」「反アベ」の声が急速に高まっていることを示しています。適切な「受け皿」さえあれば、政治的な地殻変動を生みだせることも明らかになりました。「安倍1強」を支えてきたのは、人々の諦めだったのです。変えられるという展望を示せば、人々は立ち上がります。
 ポスト真実とフェイクニュースを打ち破り、事実を伝えなければなりません。「森友」「加計」学園疑惑を解明し、政治の信頼を回復することが必要です。モノ言えぬ社会にしないために、委縮することなくモノを言い続けましょう。
 もし、安倍政権が国民の声を無視し続ければ、さらに大きな「ノー」が突き付けられるにちがいありません。解散・総選挙に追い込んで、その機会を早く実現したいものです。そのためにも、中小業者など市民と野党との共闘を推進し、いつ国会が解散されても勝利できるような準備を進めることが、これからの課題です。

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7月12日(水) 「安倍一強」崩したマグマ [論攷]

〔以下の談話は、『東京民報』第1994号、7月9日付に掲載されたものです。〕

 安倍首相に対し、マグマのようにたまっていた都民の怒りが爆発したような選挙結果でした。自民党として過去最低だった38議席以下だけでも「歴史的敗北」なのに、それをさらに15も下回り、底が抜けたような大敗北です。
 「森友」「加計」疑惑にふたをしたままの共謀罪の強行採決、その後も相次いだ議員や首相側近の不祥事に暴言、疑惑隠しなどがありました。都民は「政権の中枢が腐っているのではないか」「首相を信用していいのか」と不信を抱きました。「信なくば立たず」という政治の土台が揺らいだ。これが地殻変動のような惨敗につながりました。
 都民ファーストの会は、こうした不信や「反自民」の手ごろな受け皿となって躍進しました。ただ、ポピュリズム選挙のような強い「追い風」に乗って当選した新人議員が、大阪名古屋で当選した議員のようにスキャンダルを起こさないか、知事へのチェック機能が果たせるのか、有権者の点検や監視が必要です。
 共産党はマスコミが現状維持も難しいと予測するなかで、議席を伸ばしました。ポピュリズム選挙の嵐の中でも、立憲野党が健闘できることを示したといえます。
 「安倍一強」の潮目が変わったことがはっきりと示されたことは、市民と野党の共闘にとって大きな励ましになります。市民と野党の共闘を強め、早く解散・総選挙を勝ち取ることが今後の課題でしょう。

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7月9日(日) いま闘うことは、いちばん良い時代を生きてきた人間の責任(その2) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『ねっとわーく京都』No.343、2017年8月号に掲載されたものです。聞き手は細川孝龍谷大学教授で、インタビューは6月17日に行われました。2回に分けてアップします。〕

■行政管理情報は国民の財産・知る権利を保障する基本的資産=際立ったずさんさと情報隠蔽

細川 今回問題になった二つの学園疑惑では、首相のみならず昭恵さんも大きな役割を果たしています。

五十嵐 森友と加計、どちらも状況証拠では「真っ黒」です。森友学園の場合、背景には時代錯誤的な国粋主義教育に変えていきたいという共通の思いがありました。教育勅語を暗唱させる籠池さんの教育方針への心情的共感があったのではないでしょうか。そのために便宜を図り特別扱いするという形で動いたのが昭恵さんだったと思います。昭恵さんが5人の秘書役を使って動き、そのことを周りの官僚も知り、意向を忖度して特別扱いをしたということです。昭恵さんを守ったのは財務官僚です。その背景には、消費再増税に向けて恩を売っておこうという下心も見え隠れしています。ですが、ここでの計算違いは籠池さんでした。対応を間違えて「敵」にしてしまったのですから。
 加計学園の場合は利害関係者による便宜供与です。理事長の加計さんは安倍首相の40年来の「腹心の友」で、安倍さんは広島加計学園の監事を務め報酬も受け取っていました。昭恵さんは傘下の御影インターナショナルこども園の名誉園長をしています。新たな条件を加えるように指示を出したと疑惑を持たれている萩生田光一官房副長官は、落選している間、加計傘下の千葉科学大学の客員教授でした。浪人中に救ってもらった恩義があります。萩生田さんは国会で「公的な行事以外では加計孝太郎さんと会ったことがない」と答えていましたが、安倍さんと加計さんと萩生田さんが安倍さんの別荘で缶ビール片手にバーベキューしている映像が報じられました。政権中枢で責任ある人が、これほど平気で嘘、デタラメを言って隠し事をするようなことはかつてなかったと思います。加計問題では首相を守ったのは内閣府でしょう。第1の防衛線である文科省は突破されても、第2の防衛線である内閣府で官邸への追及をストップさせたわけです。ただ、計算違いはメールや内部文書の存在と前川前文科省事務次官で、その結果、政権は追い込まれ、会期延長せず異例の強行採決へと突き進むことになりました。

細川 問題になっている点で言えば、報道や情報管理の在り方も問われています。昨年、いま話題になっている前川前文科省次官がある学会で話されていますが、私は結構見識がある方だなと感じていました。天下り問題で責任をとらされたというのか、自らが辞職されたかたちだと思いますが、この点も真実が見えてきません。

五十嵐 これも行政の劣化ですね。行政関連の文書はできるだけ保管し、その情報をもとに過去の行政の検証ができるようにしておかなければなりません。これは当然のことです。行政関連の情報は国民の財産です。国民の知る権利を保障するための基本的な資産なのですから、これを勝手に処分するのは国民に対する裏切りです。本来、残っているはずの文書の廃棄が、南スーダンPKO部隊の日報をはじめ、いろんなところで起こっています。公文書管理のずさんさと情報隠蔽が際だった国会審議でした。情報管理の在り方に問題があり、行政の透明化という点でも大きな課題を残しました。

■政治を変えられるという期待感を高め、展望を説得力あるかたちで示していくことが重要

細川 いま閉塞感というのか、展望の見えない状況があると思います。少し前になりますが、民主党政権が誕生したときの期待・高揚感以降の国民の意識状況についてはどうでしょうか。

五十嵐 民主党政権に対しては国民の高い期待がありました。ですから、「裏切られた」という失望感も大きかったのです。現在の安倍内閣について国民はほとんど期待していないと思います。ですから、裏切られてもあまり失望しない。若者は特にそうですが、将来に対する希望も見通しも失っているのではないでしょうか。だから、今がいちばん良いと思っているのです。現状維持を望み、現在の安定している状況がいつまでも続いてもらいたいという気持ちがある。これが内閣支持率の高さに反映しているのではないでしょうか。あきらめの気持ちが安倍さんを支えているように思います。

細川 その一方で昨年の新潟県知事選挙にみられるような野党共闘の展望についてはいかがですか。

五十嵐 こうすれば政治を変えられるという期待感を高めていく、またそのような展望を説得力あるかたちで示していくことです。そうすれば、あきらめかけている人たちも、これなら何とかなりそうだと立ち上がる。半分まどろみかけていた人たちも、目を覚ますと思います。目を覚ました若者たちの一部は、安保法制に反対する運動で国会の前に立ちましたし、いまも「未来に対する公共」という新しい組織をつくって運動を続けています。こういう目覚める人たちをどんどん増やしていくことです。そのためには、目に見えるかたちで本当のことを伝えていかなければなりません。格好の武器としてインターネット、SNSフェイスブックやツイッターなどがあります。これで事実を伝えていくことです。先ほどマスコミの問題が出ましたが、メディアを通じて権力は事実を隠そうとする、あるいは偽情報を流そうとしますが、いまはインターネットがありますから長続きしません。すぐに「それは違うよ」とバレてしまいます。隠そうとしても情報の隠蔽は難しい。国民の知る権利を具体化していく上で、こういった手段を活用していくことは非常に重要だと思います。文書も日報もパソコンでつくりますから、データとして残ります。新しい技術的条件が、一面では情報隠蔽や偽情報を流すために使われますが、他面ではそれを覆して事実、真実を明らかにしていく役割を果たしています。これらを武器として活用することは、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

■権力を監視する、委縮せずどんどんモノを言う、悪法廃止に向け政権交代をめざす

細川 共謀罪が成立し、7月には施行されます。共謀罪が通ったもとでいかに運動を展開していくのか。戦争法は重大な問題ですが、それに比べても共謀罪は日常生活に関わってくる問題です。今後、共謀罪の廃止を求めてどのように運動していくのか、重要と思われる点をお聞かせください。

五十嵐 共謀罪の審議では曖昧で明確な答弁がなされませんでした。何を考え、何をしたら捕まるのかよく分からない。これは意図的に曖昧にした面もあると、私は考えています。つまり、拡大適用できるようにするためです。それをまず抑えることです。拡大適用して個人や団体、運動などを取り締まるために使われないように、あるいは国民を監視して萎縮させないようにすることです。権力によって監視されるのではなく、権力を監視することがこれからの第一の課題です。第二はモノ言えない社会を作らないということです。そのために私たちはどんどんモノを言っていかないといけない。萎縮させようとしている相手に対して、萎縮していては話になりません。どんどんモノを言うことでモノを言えない社会づくりに風穴を開けていく。市民運動を取り締まろうとする動きに対しては、逆に運動を活性化し活発化することで反撃する。三つめはこのような誤った法律は廃止する必要があります。廃止できるような議会構成をつくらなければなりません。究極的には政権交代です。これは戦争法廃止という点でもそうです。特定秘密保護法、戦争法、そして今回の共謀罪など、安倍暴走政治、逆走政治によって制定されてきた悪法が多くあります。昔の日本を取り戻すような悪法をなくせるような新しい政府をつくることが、これからの課題だと考えています。次の総選挙で与党を敗北させ政権交代を実現することが必要です。

細川 いまのお話を伺っていて3点目はすんなり思っていましたが、法の拡大適用を許さない、運動をもっと活発化させていく点について言えば、すごく頭が整理された気がします。それがないと、確かにどんどん押し込まれてしまいます。

五十嵐 萎縮させようと思っているのにこちらが自主規制すれば、安倍首相の思うつぼです。自主的な運動を活発化させることが相手の思惑、意図を打ち砕くことになります。恐れずに発言し行動していきましょう。

細川 今号は大学特集ということで、学生とその親世代に対するメッセージを兼ねて、ひとことおっしゃってください。

五十嵐 未来に生きる若者こそが、いまの政治の在り方に対してもっとも発言しなければなりません。この政治が生み出す結果に対して大きく制約され、未来が左右されるのはまさにいまの若者たちです。当たり前の働き方をして当たり前の生活が普通に送れるような社会ではなくなってきていますから、これをもとに戻すこと、自由で民主的で平和な社会をめざすことです。あの廃墟となり荒廃した戦争直後の時期から、これほどの経済大国と言われるところまで再建してきたわけですから、これをきちんと次の世代に手渡していくことが必要です。そういった自由、民主主義、平和を子どもたちや孫たちも享受できるように守り次の世代に伝えていく、手渡していくことが、いまを生きる人たちの責任ではないでしょうか。振り返ってみると、現在の「団塊の世代」と言われる人々は日本の歴史のなかでもいちばん良い時期を過ごしてきたと言えます。まれにみる経済成長で豊かになり、今世紀に入った頃にはもう物質的な豊かさは達成された、あとは心の豊かさだとまで言われるようになりました。最近では、安倍首相の逆行で徐々に失われてきていますが、これをストップさせて次の世代に引き継いでいく責任があると思います。そうでなければ「食い逃げした」と言われますよ。「ご馳走」を食い逃げしてはいけない。次の世代にも味わってもらわないと。そのためにいま闘うことは、私を含めていちばん良い時代を生きてきた人間の責任じゃないかと思います。

細川 きょうは、ありがとうございました。

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7月8日(土) いま闘うことは、いちばん良い時代を生きてきた人間の責任(その1) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は『ねっとわーく京都』No.343、2017年8月号に掲載されたものです。聞き手は細川孝龍谷大学教授で、インタビューは6月17日に行われました。2回に分けてアップします。〕

■自己都合による強行採決、テロとオリンピックを口実に運動抑圧の武器が欲しかった安倍自公政権

細川 私は専門が経営学ですから、きょうのテーマに少しそぐわないかと思うところもありますが、大学の在り方や教職員、学生の未来に大きな影響をもたらす現在の政治の大きな動きを中心に少しお聞きしたいと考えています。まず共謀罪についてですが、法律そのものの問題もさることながら、政治の劣化という問題もあります。そのあたりをどのように見ておられますか。

五十嵐 今回の通常国会全体を通して、政治・行政の劣化がここまで進行しているのかという危機感を持ちました。ひどい状況が露わになったと思います。同時に、そのことへの国民の危機感や不信も広がってきました。安倍首相は外国に行くと、自由と民主主義、法の支配という共通の価値観を口にしますが、それがこの日本では失われつつあります。与党による強権と独裁、行政権の肥大化と歪曲を生み出す仕組みができてしまいました。そうなった根本的な原因は大政党が有利になる小選挙区制にあります。このような選挙制度の導入から始まって、いまや内閣人事局による官僚支配、国家戦略特区による政治介入、内閣府と官邸の肥大化、三権分立の歪み、総理と総裁、公人と私人の使い分けなど、政治はどんどん劣化し続けています。その背後には日本会議という極右集団の支配が存在することも指摘しておかなければなりません。

細川 今回、民主主義や人権の問題もあると思いますが、一方で国会末期のところでは強引な運営が目立ちました。このあたりはどうですか。

五十嵐 多数の横暴と言われますが、究極の強行採決です。本会議での中間報告というかたちで委員会採決を省略し、強引に共謀罪を成立させてしまいました。これは会期を延長したくないからです。安倍首相は加計学園疑惑を追及されるのが嫌だった。しかも、都議選が控えていますから、これにマイナスになるようなことは避けたい。自己都合による強行採決です。運動抑圧の武器がよほど欲しかったのでしょう。テロとオリンピックを口実にすればそれができると。特に、公明党は都議選に影響することを恐れたと言われていますが、そのために議会制民主主義の基本である熟議が損なわれた。特に加計学園疑惑では、国民の前で説明する、真相を明らかにするなど、納得を得るための努力がまったくなされませんでした。国会の歴史に大きな汚点を残したと言えます。本来監視されるべきは国民ではなく、多数を背景に驕りと強引さで突き進む安倍政権と公明党です。

細川 維新の会の役割は、どのようにみたらよいのでしょうか。

五十嵐 維新の会は与党以上にひどい役割を果たしています。今回のような強引な議会運営を行えば批判は与党にいきますが、野党の一部がそれに手を貸せば批判を和らげることができます。一種の「風よけ」です。与党専制に対する言い訳の手段として政権に利用されました。共謀罪の審議では、衆議院の法務委員会で維新の会の議員が討議打ち切りを提案して採決を強行したことも大きな問題を残しました。参議院で維新は質問の途中で問責決議案が出されたと文句を言っていますが、そうしなかったら審議打ち切り動議を出すつもりだったんじゃないでしょうか。野党のなかに送り込まれた与党の「スパイ」のようになっている。野党の在り方としては大いに問題があります。

■マスコミに対しても、読者・視聴者は「主権者」としての力を発揮することが重要

細川 いまの日本の在り方は、国際社会からはどのように映っていると見ておられますか。例えば国連人権理事会の特別報告者が共謀罪について懸念を表明していますが…

五十嵐 これは今までなかったことです。国際社会と協調してテロを取り締まるために共謀罪を制定しようとしているのに、当の国際社会から、これは危ない、こんな法律をつくったらプライバシー保護や報道の自由などの点で大きな問題が生ずると言われたわけです。国際社会から後ろ指を指されるような国に、安倍首相は日本を変えてしまいましたね。「美しい国」と言いながら「醜い国」にしてしまったんじゃないかと思います。

細川 国際社会との関係でみると、日本はマスコミの自由度が減ってきていると指摘されていますが、首相の動向などからみてもしょっちゅうマスコミトップと会食しています。

五十嵐 「寿司友」と言われていますからね。マスコミは安倍応援団と安倍さんを批判する側の二つに分かれています。しかも、安倍応援団のほうが大きな力を持っている。とりわけ『読売新聞』とNHKです。NHKの報道は国民に伝えるべき公共放送としての取捨選択がなされていない気がします。どうでもよいようなニュースが優先される。国会審議が放映されない。経営委員会に安倍さんの友達を入れたりして、籾井前会長以来のさまざまな介入の「成果」が生まれています。『読売新聞』の方は完全にジャーナリズムとしての矜恃、誇りを失ったのではないでしょうか。ここまで安倍さんに利用され、都合良く使われていることに対して、読売の良心的な記者は歯ぎしりして悔しがっていると思います。他方では、菅官房長官に嫌がるような質問を繰り出した『東京新聞』社会部の記者もいます。ところが、その記者に対して記者クラブの側が抗議しようとしたそうです。いったいどちらの側に立っているのでしょうか。そもそもマスコミは「第4の権力」と言われますが、それは権力を監視し牽制する力を持っているからです。『読売新聞』はその力を放棄してしまいました。それでなくても、日本は報道の自由度ランキングでは72位で、G7構成国では最下位ですからね。

細川 そうは言いながらも、マスコミが果たす役割は大きいと思います。私たちはどうマスコミを変えていくのか、どう向き合っていくのかといったあたりは?

五十嵐 やはり読者あってのマスコミです。大きな力を持っているのは、新聞・雑誌などでは読者ですし、テレビでは視聴者です。例えば『週刊文春』などは読者の質が変わってきています。安倍批判を書けば売れる、そうなればさらに批判報道に力を入れるという循環が生まれます。マスコミには読者・視聴者の反応に敏感に反応するという特性があります。良いものを評価し、良くないものに対しては批判する。読者や視聴者からの意見を伝えていくことが大切です。良くないものは見ない、悪いものは読まない、買わない。こういうスタンスで「第4の権力」に対しても、読者・視聴者は「主権者」としての力を発揮することが重要です。

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7月6日(木) 都議選結果 安倍政治への怒りの表れだ [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『連合通信・隔日版』№9212、2017年7月4日付に掲載されたものです。〕
 
 7月2日に投開票された東京都議会議員選挙で、自民党が惨敗する一方、小池百合子都知事が率いる「都民ファーストの会」が圧勝。公明などを含め小池氏支持勢力が過半数を占めた。一方、共産党は微増、民進党は微減となった。この結果をどう見るか、国政への影響を含めて五十嵐仁・法政大学名誉教授(政治学)に聞いた。

 潮目が変わった
 
 選挙結果を見ると、9条改憲姿勢や、共謀罪の強行採決、森友・加計学園疑惑などに見られる安倍暴走・逆走政治に厳しい審判が下された。最近では、稲田防衛相の「自衛隊としてお願い」応援演説や、豊田真由子議員による秘書への暴言・暴行などが次々に出てきた。これはひどいし、なんとかしたいという都民の怒りのマグマが噴き出したということだろう。
 「安倍1強」体制の潮目が大きく変わり、そのことが具体的な形で示されたと見ていいのではないか。
 そうした審判を下す手段として、都民ファーストが使われた。共産党や民進党には抵抗があるが、自民党には反省を促したいという人々にとって、手ごろな「非自民・反自民」の受け皿になったのだ。

 ぶれない野党共闘を
 
 共産党は、森友・加計疑惑や共謀罪で安倍政権を追及するなど、ぶれない姿勢が評価された。都政でも、知事は「豊洲も築地も」と、どっちつかずの方針だったが、唯一、築地の再整備を主張。築地で働く人々や、築地ブランドを守りたい人々の共感を得たと思う。
 民進党は一時、都議会では壊滅するのではないかとまで言われた。それが、安倍政権のひどさが明らかになる中で、なんとか政権批判票の受け皿の一つになり、踏みとどまったといえる。
 ポピュリズムの嵐の中でも立憲野党の共産・民進は健闘できることを示した。この選挙結果を教訓に、今度は国政で安倍1強体制に対抗し、どうしたら国民の批判・意見を結集する受け皿になれるかを考えるべきだ。解散・総選挙の時期は早まると思う。野党は早期解散に追い込み、いつ選挙があってもいいように準備しておく必要がある。
 仮に都民ファーストが何らかの形で国政に進出した場合、民進党の姿勢が試されるだろう。都議選では少なくない同党候補者が都民ファーストに移った。そういうふうにぐらつけば、国民の信頼を失う。これまで市民と野党の共闘を進めてきた成果も一定あるし、信義もあるはず。野党としてぶれずに筋を通すという点は、共産党に学んだ方がいい。

 問われる「反自民」 

 都民ファーストの圧勝は、最近の欧米の選挙などで見られたポピュリズム的な傾向と同じものといえる。既成政党に飽き足らず、不満を抱えている人々。そこに風が吹き、票が集中した。 
 だが、風の力で当選した議員たちは今後、都議会でどういう役割を果たすのかが問われる。大阪の維新や名古屋の減税日本などでは問題を起こす新人議員らがいたことを指摘しておく。
 都民ファーストと国政との関係について言えば、本気で安倍政権に対抗するというなら、市民と野党の共闘に加わるべきではないか。野党共闘に対する姿勢は、「反自民」の看板が本物かどうかのリトマス試験紙になるだろう。

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5月31日(水) ポピュリズム―民主主義の危機にどう向き合うか [論攷]

〔以下の書評は、『しんぶん赤旗』5月28日付に掲載されたものです。〕

 「一匹の妖怪が世界を徘徊している。ポピュリズムという妖怪が」と言いたくなります。大衆の支持を背景に「自国第一」を掲げたポピュリズムがアメリカヨーロッパで台頭し、既存の政党や政治を揺るがしているからです。
 極端に単純化した争点によって対立を煽り、人々の不安や怒りに心情的に訴えて支持を獲得し、イギリスの欧州連合(EU)からの離脱やアメリカ大統領選挙でのトランプ候補の当選を実現しました。選挙で勝ちさえすれば何でもできるとするポピュリズムが、既存の政治や政党に対する挑戦であることは明らかです。
 ポピュリズムは「大衆迎合主義」と訳されます。民意に基づくものであれば民主主義ではないのかという疑問がわきます。それは民主主義とどのような関係にあるのでしょうか。このような疑問に答えるのが、今回取り上げる2冊の本です。

功罪? 魔物?

 水島治郎著『ポピュリズムとは何か』(中公新書・820円)、薬師院仁志著『ポピュリズム』(新潮新書・780円)です。両著ともに米大統領選挙までをカバーしており、トランプ当選を生み出した背景としてポピュリズムに注目している点で共通しています。また、ポピュリズムと民主主義とは不可分の関係にあり、両者を切り離して論ずることはできないという点でも同様です。
 しかし、その副題が「民主主義の敵か、改革の希望か」(水島)、「世界を覆いつくす『魔物』の正体」(薬師院)となっているように、大きな違いもあります。前者は「功罪」の両面を見ているのに対して、後者は「魔物」としてとらえているからです。
 この違いは、「現代型ポピュリストの第1号」としてヒトラーを挙げている薬師院さんに対して、水島さんが現代ヨーロッパの「抑圧型」右派ポピュリズムとは区別されるラテンアメリカなどの「開放型」の左派ポピュリズムまで視野に入れていることからきています。薬師院さんは現代ポピュリズムを「人心を荒廃させる扇動」であり、「世の中に分断と対立を持ち込んでゆく」として真っ向から否定するのに対し、水島さんはデモクラシーの「危機」を示すものであるとしながらも、「既成政党に改革を促」して政治の「再活性化」や「政治参加」を促進するなどの「効果」もあるとしている点が注目されます。

「内なる敵」

 その水島さんでさえ、ポピュリズムはデモクラシーの「隘路」や「逆説」だとし、この「内なる敵」と正面から向き合うことを求めています。薬師院さんはもっと厳しく「議会制民主主義の破壊」だとして、「妥協のない民主制は、その反対のものに、つまり、独裁制に転化する恐れがある」と警告しています。
 既存の政治と政党のあり方を刷新することによって、ポピュリズムの挑戦に応えなければなりません。貧困と格差の土壌に生まれ不平・不満を養分に育ってきた「妖怪」に対しては、人びとの不安を解決できる真の「活路」を示し、民主主義の成熟を図ることで競いあうしかないのですから。

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3月20日(月) 『勝利の方程式』を解く [論攷]

〔以下の論攷は、『全国革新懇ニュース』第387号、2017年3月号、に掲載されたものです。〕

 「勝利の方程式」という言葉が注目を集めています。最近出版された拙著『活路は共闘にあり』という本にも「社会運動の力と『勝利の方程式』」という副題を付けました。
 「勝利の方程式」という言葉はプロ野球などで用いられてきたもので、序盤でのリードを最後まで守るためにとられる継投策などのことです。その言葉が何故、市民と野党の共闘を求める人々の共通語となったのでしょうか。

 市民と野党の共闘の到達点と課題

 明確な争点を掲げ、市民と野党が本気で共闘すれば勝てるということが、参院選や新潟県知事選で実証されました。それが必勝パターンとして認知されたために「勝利の方程式」という言葉が生まれたのです。
 しかし、それは「式」にすぎません。正しい答えを出すには、正しい数値(情報)を入れ、正確に計算(運動への取り組みや選挙での勝利)しなければなりません。そのための経験や教訓も、この間の取り組みによって蓄積されてきました。その意味でも、現時点における市民と野党の共闘の到達点と課題を確認することが重要です。
 まず、リスペクトが必要です。お互いを尊敬しあうというにとどまらず、相互の違いを認めたうえで立場や主張を尊重し、自らの考えを押し付けないということです。自分だけが正しく、相手はそれを受け入れるべきだという傲慢な態度は厳に慎まなければなりません。
 また、十分な議論を通じて共通点を拡大することも大切です。お互いにエールを交換して励ましあい、草の根での共同の土台作りを進めていくことです。これは将来の野党連合政権の基盤となる政治文化や社会関係を生み出すにちがいありません。
 異なるグループ間で壁を作るのではなく橋を架け、現状への怒りと共に笑いを、モノトーンではなく多様性を活かした多色刷りの運動を心掛けることも大切です。政策的な一致点を深め広げ、アベ暴走政治以前に戻したうえで憲法の理念を活かした新しい日本への希望を語りましょう。
 戦争法の廃止と専守防衛の徹底、防衛費の削減、武器輸出三原則と文官統制の回復、沖縄・辺野古での新基地建設の中止、オスプレイ配備・訓練の中止、原発再稼働の中止、命とくらしを守る経済政策への転換、保育園や奨学金、年金の充実など社会保障サービスの向上などについては、今すぐ一致できるはずです。もちろん、南スーダンPKOからの自衛隊撤退、テロ等防止罪と名前を変えた共謀罪の成立阻止という当面の課題でも共闘できるでしょう。

 革新懇には何ができるのか

 このようななかで期待されている革新懇の役割は、どのようなものでしょうか。
 まず第1に、事実を学び知らせることです。「ポスト真実」や「偽ニュース」によって政治が動かされている現状を打破するためには、正しい事実に基づいた情報発信が大切です。この「全国革新懇ニュース」も、その一端を担っていると言えるでしょう。
 第2に、行動の機会を提供することです。「黙っていられない」と思っていても、何をどうしたらよいのか、戸惑っている人は多いと思います。このような人に、その気持ちを効果的に示せるような手段と場を作ってあげることが大切です。
 第3に、政治を変える原動力となることです。そのためには過去のいきさつにとらわれず力を合わせること、選挙で勝利することの大切さを伝えなければなりません。地域連絡会や市民連合など共同組織結成の推進力、実務的な担い手、組織と人を結び付ける接着剤、経験の交流と情報の発信などの点で、革新懇は大きな役割を果たせるにちがいありません。
 革新懇、出番のときです。確信をもって出ていきましょう。

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2月28日(火) 安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、『大原社会問題研究所雑誌』No.700、2017年2月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4、在日米軍基地・自衛隊基地をめぐる問題

(1)在日米軍基地の強化

 安倍政権は沖縄県で「普天間基地の危険性除去」のためとして、辺野古での新基地建設を進める一方、「基地負担の軽減」を掲げて沖縄県東村高江での米軍オスプレイパッド(着陸帯)6か所の年内完成をめざして工事を急いでいる。これによって、強襲揚陸艦も接岸可能な最新鋭の基地と、オスプレイの運用が可能となる最新鋭の着陸帯が生まれる。
 米軍基地が強化されているのは沖縄だけではない。米軍横須賀基地への最新鋭原子力空母「ドナルド・レーガン」の配備と最新鋭イージス艦の追加配備によって過去最多の14隻態勢となり、米軍三沢基地への無人偵察機「グローバルホーク」の配備、丹後半島の経ヶ岬でのミサイル防衛用早期警戒レーダーの運用開始などが進められてきた。
 また、「沖縄への配慮」を理由に、2017年後半からは米軍横田基地に特殊作戦機CV22オスプレイが配備され、その整備拠点が千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地に整備される。嘉手納所属機やオスプレイの訓練移転、普天間基地から米海兵隊岩国基地への空中空輸機の移駐、嘉手納基地の特殊作戦機や沖縄の特殊部隊による横田基地でのパラシュート降下訓練などの動きも出ている。

(2)日米間の軍事的一体化

 このような米軍基地の強化とともに進行しているのが日米間の軍事的一体化である 。それは、これまでもインド洋やイラク戦争での米軍支援、自衛隊司令部の米軍基地移転、日米共同演習の拡大・深化 などの形で進んできたが、さらに新たな動きが出ている。その象徴的事例が防衛省の2017年度の概算要求で明らかになった「日米共同部」の新設である 。
 すでに安倍首相は第1次内閣の時代に防衛庁を省に格上げし、独自の予算要求権限を与えていた。また、座間駐屯地内に防衛大臣直轄の機動運用部隊である中央即応集団を新たに編成し、いつでも海外派遣できる体制を整えていた。これを再編し、これまで全国5方面に分かれていた陸上自衛隊の部隊を統括する「陸上総隊」(仮称)を新設し、その中に「日米共同部」を設け、キャンプ座間にある在日米陸軍司令部との連絡調整窓口の役割をもたせるという。
 その背後には二つの動きがあった。一つは、2015年4月改定の「日米防衛協力のための指針」(新々ガイドライン)であり、ここには日米両政府が「共同計画策定メカニズムを通じ、共同計画の策定を行う」と書かれていた。「日米共同部」の新設は、その具体化ということになる。
 もう一つは、文官統制の廃止である。自衛隊に対する統制には、「文民統制(シビリアンコントロール)」だけではなく、その一部として文官(背広組)による自衛官(制服組)に対する統制があった(文官統制)。しかし、2015年6月の防衛省設置法の改正によってそれまで上位にあった官房長と局長を各幕僚長と同等の位置付けにした。「背広組優位」の規定は戦前に軍部が暴走した歴史の教訓を踏まえており、防衛庁と自衛隊の発足当時から設けられてきたものだった。日米間の軍事的一体化が進む下で、その教訓も捨て去られることになった。

(3)自衛隊基地の強化と南西諸島の「要塞」化

 在日米軍基地の強化、日米間の軍事的一体化と歩調を合わせて、自衛隊基地の強化と南西諸島の「要塞」化も進められている。とりわけ、新たな部隊編成とアメリカ製の最新鋭装備の導入が目につく。
 佐世保を拠点に、島嶼防衛を念頭においた日本版海兵隊とも言える「水陸機動団」が新たに編成される。これに伴ってオスプレイが17機導入され佐賀空港に配備されようとしている。また、三沢基地へのF35Aステルス戦闘機の配備、横田基地と小牧基地の隣接地での整備拠点の設置、航空自衛隊美保基地への最新鋭空中空輸機KC46Aの配備なども計画されている。
 とりわけ、安倍政権下で急速に進みつつあるのが。「中国の脅威」と島嶼防衛力の強化を理由にした南西諸島の「要塞」化である。奄美、宮古、石垣、与那国へ自衛隊とミサイルを配備しようという計画が進んでいる。
 すでに2016年3月、与那国島には沿岸監視部隊約160人が配備され、奄美への警備部隊、地対空・地対艦ミサイル部隊の配備についての準備も進みつつある。宮古島と石垣島では配備予定地の住民による激しい反対運動が展開されている。今でさえ、尖閣諸島の領有権をめぐって中国との緊張関係が生じているのに、このような南西諸島の「要塞」化が進めばますます軍事的緊張が高まり、抑止力どころか攻撃への呼び水となってしまうのではないかとの懸念が強まっている。

 むすび

 安保法制の整備によって抑止力が高まり、日本周辺の安全保障環境は改善しただろうか。かえって安全保障環境を悪化させ、日本と日本人の安全を損なうことになったというのが現実の姿ではないか。安保法成立後も中国の海洋進出は止まず、北朝鮮の核開発とミサイルの発射実験の回数は増えた。バングラデシュでは、昨年10月に1人、今年7月に7人の日本人が殺されるという事件が起きている。
 7月の参院選の結果、衆参両院で改憲勢力が3分の2を越えるという新たな事態が生じた。しかし、その中身は一様ではなく、憲法の3大原理の枠内での「改憲」とそれを破壊する「壊憲」を目指す勢力が混在している。また、改憲をめぐっては、優先順位の問題が提起されている。アベノミクスの失敗によるデフレ不況の再現、少子化問題の深刻化、社会保障や労働環境の悪化、貧困化と格差の拡大など問題山積のいま、そのようなことをやっている場合なのかという声が高まっているのは当然だろう。
 外交・安全保障政策における安倍政権下での大転換は、日本外交の大きな失敗を招く結果となった。対米従属を強め、アメリカの意図をおもんぱかって中国包囲にばかり関心を向けているために世界を見る目が歪んでしまったのである。その結果、唯一の戦争被爆国でありながら核兵器禁止条約についての交渉開始を求める国連決議案に反対し、地球温暖化対策の新しい国際的枠組みである「パリ条約」の批准が遅れて締約国の初会合に間に合わないという外交的失策を犯した。
 「戦争できる国」になるためには、安保法制という法律や制度などのシステム、軍事力の増強や基地の強化などのハードだけではなく、戦地に赴く人材の養成や戦争を支える社会意識の形成というソフト面での整備も必要とされる。システムとハードの整備については本稿でも明らかにしたが、ソフト面にまで言及する余裕はなかった。
 しかし、安倍首相は第1次内閣の時代から「教育再生」に取り組み、第2次内閣になってからはマスメディアに対する懐柔と介入・統制に力を入れている 。特定秘密保護法の制定、武器輸出3原則の緩和、集団的自衛権の行使容認と安保法の制定など「戦争できる国」となるために必要なシステムの整備だけでなく、ハードやソフトを含むすべての面で、着々と既成事実化が図られていることを強調しておきたい。
 安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題等において打ち出されてきた政策転換は、日本と日本人の安全を低下させ、国費の無駄を生んで日本社会の荒廃を招き、国際社会への不適合を生み出す。それはいずれ大きなツケとなって日本国民を苦しめることになるだろう。その時になって「シマッタ」と思ってからでは遅い。そうならないために、知るべきことを知る勇気、騙されないための知性、正しいと思ったら足を踏み出す行動力が、今ほど求められているときはない。


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2月27日(月) 安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、『大原社会問題研究所雑誌』No.700、2017年2月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

3、 日本外交の大転換―対米従属と中国包囲網の形成

(1)対米従属の強まり

 安倍首相は2015年9月に集団的自衛権の行使容認を含む安保法を成立させ、それ以前に行った日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定とあわせてアメリカとの同盟関係をより強固にした。アメリカによる対日要求に対する屈服という点では歴代自民党政権以上の対米従属性を示すものとなっている。
 安保法制の整備が政治課題として浮上した際、注目されたのが「第3次アーミテージ・ナイレポート」である。リチャード・アーミテージ元国務副長官とジョセフ・ナイハーバード大学教授という2人の「知日派」米高官によって提出された日本の外交・安全保障政策についての報告書はこう呼ばれてきた。これまで2000年10月に第1次、2007年2月に第2次、そして2012年8月に第3次と3回出されているが、とりわけ注目されたのが3回目のレポートである。
 これについて、2015年8月19日の参院特別委員会で注目すべき質疑がなされた。「生活の党と山本太郎となかまたち」共同代表の山本太郎参院議員による質問である 。
 このとき山本議員は、下記のようなボード(省略)を掲げ、「この『第3次アーミテージ・ナイレポート』の日本への提言、今回の安保法制の内容にいかされていると思いますか」と、中谷防衛大臣に質問した。中谷大臣は「このレポートで指摘をされた点もございますが、結果として重なっている部分もあると考えておりますけれども、あくまでも、我が国の主体的な取り組みとして、研究、検討して作ったものであるということでございます」と答弁している。

 このレポートに示されているように、アメリカは民間人による提言という形をとって日本に対する軍事分担と日米同盟の強化を求めていた。提言の内容は「国連平和維持活動(PKO)の法的権限の範囲拡大」や「集団的自衛権の禁止」の解除など、今回の安保法制によって実行可能になった内容と「結果として重なっている部分」がある。それだけでなく、「原発の再稼動」「TPP交渉参加」「インド・オーストリア・フィリピン・台湾等の連携」「米軍と自衛隊の全面協力」「国家機密の保全」から「防衛産業に技術の輸出を働きかける」ことに至るまで、安倍政権が取り組んできた外交・安全保障政策の大転換を先取りするものとなっている。

(2)中国包囲網形成のための「価値観外交」

 このような外交・安全保障政策の大転換の背後にあるのは、安倍首相による「価値観外交」である。安倍首相自身はこれを「地球儀外交」と称しているが、それは「単に2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していく 」という外交方針である。
 「基本的価値」に立脚するという基準に基づくから「価値観外交」であり、その「戦略」はこのような価値に基づかず、国際法に反して南シナ海への進出を続けている中国を外交的に包囲し、その影響力を削ぐというものである。これは、中国の海洋進出に対抗して「航行の自由作戦」を実施しているアメリカの外交・安全保障政策に沿うものでもあった。
 同時に、シーレーンの要衝である南シナ海の自由な航行を脅かす可能性のある中国を包囲してその動きを封じることは、この海域を通じて石油などの重要資源を輸送している日本にとっても利益になると考えられた。安倍首相が最初の外遊先に選んだのは、インドネシア、タイ、ベトナムの3カ国だったという事実が、このような戦略的な目的を明示している。
 しかし、このような「価値観外交」は日本周辺のアジアに限られていない。それはまさに「地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰」するものであった。2016年9月18~24日の第71回国連総会への出席とキューバ訪問によって、安倍首相による訪問国・地域は65ヵ国に上る 。
 この間の外国訪問によって、安倍首相が「世界中でバラまいてきた資金援助の額は30兆円近くに上る 」とされている。1000兆円を上回る財政赤字を抱えている日本がこのよう多額の対外援助を行う余裕があるのか、そのような資金があれば国内での福祉や教育などの施策の充実に充てるべきではないのか、などの批判が生ずるのも当然であろう。

(3)南シナ海沿岸国への支援

 このような「価値観外交」が軍事的な色彩を強めつつ実施されているのが、南シナ壊沿岸諸国に対する支援である。2016年11月4日、政府はマレーシアに対して大型巡視船2隻を供与する方針を固めた。これは中国の海洋進出に対抗する南シナ海沿岸国支援の一環だとされている。マレーシアは経済的には中国との関係が深いが、南沙諸島の領有権をめぐって中国と対立関係にある。このような事情を踏まえた支援策であり、「中国包囲網」形成策の一環でもある。
 これまでも日本は、東南アジアにおける海上警備能力の向上のために、ベトナムに対して中型船舶6隻を巡視船として無償供与し、新造巡視船の供与についても調査・検討中とされている。また、インドネシアに対しても新造巡視船3隻を無償供与している。
 フィリピンには大型巡視船2隻の新造・供与を約束し、新造の巡視艇10隻の引き渡しが始まった。海上自衛隊の双発練習機5機の貸与も決まり、その教育訓練に教官や整備の技術者も派遣される。しかし、最近になってフィリピンのドゥテルテ大統領は、南シナ海での日米共同のパトロールに参加しないことを表明した。その結果、何のために巡視船を供与し軍事協力を行うのかが不明になってしまった。安倍政権の「中国包囲網」形成策のチグハグぶりを象徴するような事例だといえよう。

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2月26日(日) 安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『大原社会問題研究所雑誌』No.700、2017年2月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

2、 憲法改正に向けての動き

(1)自民党改憲草案

 安保法制の整備と歩調を合わせるように、憲法の明文改憲についての動きも強まっている。しかし、安倍首相の思い通りに進んできたわけではない。当初、打ち出した96条先行改憲論は「裏口入学」ではないかとの批判を浴びて後景に退き、憲法審査会も15年6月以来、「開店休業」状態が続いた。9条改憲論についても世論の反対が強く、さし当りの課題とはなっていない。
 他方で、7月の参院選で「憲法改正」を是とする勢力が3分の2以上に達した。とはいえ、一挙に改憲に向けての動きが進む環境にはない。最終的には国民投票という関門が待ち受けており、それを突破することを視野に入れた環境整備が求められるからである。この点では、安倍首相にとっていくつか乗り越えなければならない障害がある。
 その第1は、自民党改憲案の内容である。細かく触れる余裕はないが、為政者への憲法尊重擁護義務から国民に対する尊重義務へという立憲主義の逆転、天皇の元首化や国旗・国歌による国民主権の否定、歴史・文化・伝統を踏まえた人権や天賦人権説への異論など基本的人権への無理解、「公益及び公の秩序」規定による表現の自由に対する制限などが目立つ。
 このほか、第18条(いかなる奴隷的拘束も受けない)や第97条(人権の永久不可侵規定)の削除、前文と9条2の書き換えによる平和主義の変質と自衛隊の「国防軍」化・「外征軍」化、個人の否定と古色蒼然とした家族・共同体観に基づく家族責任の導入などである。
 この改憲案は民主国家としての憲法草案とは思えない内容に満ちており、保守色が強すぎる。自民党の保岡興治憲法改正推進本部長ですら、「保守的な考え方を強調して支持を広げるという目的があったと思うし、政治色がありありと出ていたかなと思う」と述べて「撤回するという性質のものではないが、固執はしない 」と、「棚上げ」の意向を示している。
 同時に、保岡本部長は「緊急事態条項は必要だと思う」とも語っており、これを突破口とする意向もにじませていた。しかし、「お試し改憲」とされているこの条項は、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」とするなど、権力の集中・審議の省略・人権の制限による「打ち出の小槌」のようなもので、ワイマール共和国憲法第48条の大統領緊急権に類似している。ナチスの独裁に道を開いた条項と類似の機能を持つ条項の追加は許されない。

(2)改憲の限界と「壊憲」

 その第2は、改憲の限界である。改憲とは憲法の条文を書き換えることであるが、どのような内容に書き換えても良いということではない。そこには限界がある。憲法の3大原理とされる国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を踏み越えるような改憲は許されない。
 現行憲法の前文には、「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と書かれている。この「原理」こそが憲法の3大原理であり、今日の日本が到達した自由で民主的な平和国家としての国の形を壊すような「壊憲」は許されない。
 戦後、何回も憲法を書き換えてきたドイツの基本法(憲法)にも改憲についての限界が示されており、その枠内での改憲であったことを忘れてはならない。第79条は第1条と第20条に定められている諸原則に抵触するような改正は許されないとし、人間の尊厳、人権、民主的かつ社会的連邦国家という原則を明示している。それが破られようとするときには「抵抗権を有する」としているように、基本法の諸原則を「壊す」ような「壊憲」は、ドイツ憲法によっても排除されているのである。

(3)「そんなことをしている場合なのか」

 そして第3は、「そんなことをしている場合なのか」という意見の強まりである。憲法は不磨の大典ではなく、不都合があれば改正すればよい。しかし、ここで問われているのは、それほどの不都合がこれまで生じてきているのかということである。
 これから憲法審査会を開いて改憲条項を絞り込むということ自体が、それほどの不都合がなかったという現実を示している。不都合な点が明確であれば、何も「絞り込む」必要などないからである。
 国民投票を伴う改憲には膨大なエネルギーや公金が必要となり、最終的には国民全体を巻き込んだ熟議と投票を不可避としている。それほどの政治的エネルギーを憲法に割く必要性や余裕が、果たし今あるのだろうか。そのようなことで政治のエネルギーが無駄使いされてよいのだろうか。このことが、問われなければならない。
 このような立場から安倍首相に対して経済界からの諫言が出されている。榊原定征経団連会長による「憲法は後でいい」という発言である 。榊原会長は「憲法を時代に即したものに変えていく必要性は、一般論としてはその通りです」としながらも、「ただ、経済界からすると、優先順位は憲法ではなく、経済再生」だとし、「『憲法は後にしたってよろしい』と言うくらいのつもりです。経済界としては、このような経済、社会保障、財政の状況にある時期ですから、まさに『経済最優先』の主張を強く発信するところだと思います」と強調している。
 このような発言の背後には、経済界としての強烈な危機感がある。榊原会長は日本のGDP(国内総生産)、世界シェア、国際社会における経済的プレゼンス、人口と生産年齢人口の減少、他方での社会保障給付や医療費、国と地方合わせた長期債務残高などの増加を指摘し、「これほど債務を抱えている先進国はありません。この流れを変えないと、日本はまさに消滅してしまいます」と警告している。
 経団連会長のこの発言は、改憲に前のめりとなっている安倍首相への異議申し立てとなっている。日本の経済と社会が深刻な危機状況に陥っているのに、相も変わらず「壊憲」に精力を費やそうとしている安倍首相の暴走ぶりが、経済界までも「『憲法は後にしたってよろしい』とも言うくらいのつもり」にしてしまったということだろう。

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