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2月1日(日) 畏友ゴードン教授の「過去への謙虚さ」を忘れるなという提言 [歴史認識]

 懐かしい顔が目に入りました。米ハーバード大学教授アンドルー・ゴードン歴史学部長の写真です。
 昨日の『毎日新聞』の10面です。「戦後70年 日本への提言」ということで、「過去への謙虚さ 忘れずに」というインタビュー記事が出ていました。

 ゴードンさんとは、彼が資料探索のために大原社会問題研究所に出入りしていた関係で、20年以上も前からの友人です。妻も知り合いで、娘が赤ん坊だった時、我が家に遊びに来て抱っこしている写真が残っています。
 私がハーバード大学のライシャワー日本研究所に客員研究員として留学した時も、大変、お世話になりました。というより、そもそも留学先がハーバード大学になったのは、彼がデユーク大学からハーバード大学に移ったからです。
 それまでは、「あなたを頼りにアメリカに行きますから、よろしく頼みますよ」ということで、受け入れをお願いしていました。その彼がハーバード大学に移っただけでなく、ライシャワー日本研究所の所長となり、歴史学部長となってアメリカにおける日本近現代史研究の第1人者になられたというわけです。

 そのゴードンさんは、「現在、国際日本文化研究センター(京都市)でバブル経済崩壊後の日本社会について研究している」そうです。京都におられるということでしょうか。
 お元気そうで何よりです。ますますのご活躍を期待しています。
 ゴードンさんは、「非軍事分野での貢献や人道支援を重視してきた日本の今までのバランス感覚は賢明だった。シリアで日本人2人がイスラム過激派組織に拘束され、日本の安全保障に対する姿勢が注目されることになった。日本が軽武装路線から離れていくことになるのかどうか気がかりだ」と述べながら、次のように提言されています。相変わらず、鋭い指摘にあふれたご意見です。

−−日本は歴史認識問題を巡って中国韓国と外交関係が停滞している。

 東アジアの力関係の変化が中国や韓国の歴史認識問題における姿勢につながっている。日本批判は中韓の国内政治で有効なカードになっている。だが、だからといって日本が自国に落ち度はない、というなら無責任だ。日本政府は一定程度決着していた問題についてスタンスを変えた。
 日中が国交を回復した当時、戦争責任は日本の軍部の指導者にあったと両国は政治的に合意した。今の日本政府がそれを認めないことが、日中間の歴史認識問題の出発点だ。安倍晋三首相がA級戦犯を合祀(ごうし)した靖国神社に参拝したことで、中国の主張を優位にする「お土産」を与えた。

 ここで、ゴードンさんが「日本政府は一定程度決着していた問題についてスタンスを変えた」と指摘している点は重要です。このような変化が生じた原因ははっきりしているからです。
 それは、安倍首相の登場です。「日本が自国に落ち度はない、というなら無責任だ」とも主張されていますが、このような「無責任」さこそ、安倍首相の特徴にほかなりません。
 日中の国交回復に当たって「戦争責任」について両国政府が政治的に合意したにもかかわらず、日本政府が「それを認めないこと」が「歴史認識問題の出発点」であるとし、「安倍晋三首相がA級戦犯を合祀(ごうし)した靖国神社に参拝したことで、中国の主張を優位にする『お土産』を与えた」ことになり、かえって中国を利する結果になっていると批判しています。安倍首相を支持している右派勢力は、このような指摘をどう受け止めるでしょうか。

 同様に、従軍慰安婦問題と日韓関係について、ゴードンさんは「日本の指導者は歴史と女性の権利を理解しないと世界から見られるだけ」で、「韓国にも『お土産』を与えている」と述べています。ここでも、かえって韓国を利する結果になっていると、同じような批判が繰り返されている点が注目されます。

 慰安婦問題は「河野談話」とアジア女性基金で、ある程度は決着していた。ところが日本は軍部の連行という狭義の強制性にこだわる。軍人による強制連行でなければ良いというなら、慰安婦とされた女性を侮辱するのも同じだ。日本の指導者は歴史と女性の権利を理解しないと世界から見られるだけで、非生産的でばかげている。韓国にも「お土産」を与えている。

 日本国内では自国政府を応援するものと受け止められている反中嫌韓論や従軍慰安婦をめぐる歴史修正主義は、かえって中国や韓国の反日世論に論拠を与え、日本を不利にしているという指摘です。これが、国際社会のとらえ方であるということなのでしょう。
 反中嫌韓を煽り立て、歴史を修正しようとする右派勢力は、かえって日本を不利にさせ、中韓両国に「『お土産』を与えている」ということに気が付いているのでしょうか。「国益」を問題にするのであれば、このような態度こそがそれを損なうことになっているということに、そろそろ気がついても良いのではないでしょうか。

 さらに、ゴードンさんは、「一人の歴史家として」次のような「懸念」を表明しています。

 一人の歴史家として懸念するのは、過去を肯定することに国の誇りを求める考え方があることだ。過去の行為を肯定すれば日本の勇気とプライドを守ることになるのか。それは臆病な考え方だ。国の誇りとは、謙虚に悔い改め、過去と誠実に向き合うことで生まれるものだ。米国も日本も、過去への謙虚さを失わずに未来へ進んでいってほしい。

 安倍首相はこのゴードンさんのインタビュー記事を読んだでしょうか。まだなら、ぜひ教えてあげてください。
 そして、ゴードンさんの懸念は、安倍首相に対するものであるということ、それは首相に対する提言でもあるということを理解させていただきたいものです。
 「過去の行為を肯定すれば日本の勇気とプライドを守ることになるのか。それは臆病な考え方だ。国の誇りとは、謙虚に悔い改め、過去と誠実に向き合うことで生まれるものだ。米国も日本も、過去への謙虚さを失わずに未来へ進んでいってほしい」という提言を……。

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10月6日(月) 朝日新聞の吉田証言取り消しによって慰安婦問題そのものを無きものとすることの愚 [歴史認識]

 「誤報によって多くの人が悲しみや怒りを覚えたのは事実だ。日本のイメージは大きく傷ついた」「国ぐるみで(女性を)性奴隷にしたとの、いわれなき中傷が世界で行われている。誤報によって、そういう状況が生み出された」「政府としては客観的な事実に基づく、正しい歴史認識が形成され、正当な評価を受けるよう戦略的な対外発信を強化する」
 これは朝日新聞による吉田清治証言の取消に関連して10月3日の衆院予算委員会で安倍首相が行った答弁です。「性奴隷」としての従軍慰安婦は存在せず、それは「いわれなき中傷」だというわけです。

 しかし他方で、同じ3日の衆院予算委員会で菅官房長官は吉田証言について、「他の証言者の証言と比較して信用性が低かったから『河野談話』に反映されなかった」と答弁しました。これについて、安倍首相も「官房長官が答弁したとおりだ」と認めています。
 つまり、吉田証言が取り消されたからといって、「河野談話」の根拠が揺らいだり従軍慰安婦の存在が否定されたりすることがないということを、菅さんも安倍さんも認めています。だから、「河野談話」を取り消す必要はないと言っているのです。
 その「河野談話」は、「長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したこと」や「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」だけでなく、「官憲等が直接これに加担したこともあった」ことを認め、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」と、「強制」性について指摘しています。そして、「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」とし、「政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」と述べていました。

 安倍首相は、一方で軍や官憲等の関与と強制性を認めた「河野談話」を肯定しつつ、他方で従軍慰安婦について「性奴隷にした」というのは「いわれなき中傷」だと否定しているわけです。典型的な「2枚舌」だと言うべきでしょう。
 歴史に対する不誠実な態度であり、過去に犯した過ちへの居直りでもあります。かつて政府が表明した「心からお詫びと反省の気持ち」は一体どうなったのかと、世界の人々は不信感を持つにちがいありません。
 このような態度は、従軍慰安婦であった女性たちに対する二重の罪を犯すことになります。かつて、「軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」ということだけでなく、それは「性奴隷」ではなく、「いわれなき中傷」だと居直っているということで……。

 しかも、いったんは「河野談話」で軍や官憲の関与と強制性を認めて謝罪しておきながら、その根拠とされてもいない吉田証言の取り消しを理由に従軍慰安婦の「性奴隷」としての在り方を否定すれば、日本に対する国際的な信頼は地に墜ちることになります。
 安倍首相は、「誤報によって多くの人が悲しみや怒りを覚えたのは事実だ。日本のイメージは大きく傷ついた」と答弁しましたが、従軍慰安婦の性奴隷性の否定によってずっと「多くの人が悲しみや怒りを覚え」ることになり、「日本のイメージは大きく傷つ」くことになるでしょう。
 「政府としては客観的な事実に基づく、正しい歴史認識が形成され、正当な評価を受けるよう戦略的な対外発信を強化する」と言っていますが、それは従軍慰安婦の性奴隷性を否定するということなのでしょうか。そうであれば、それは「正しい歴史認識」とは言えず、日本が「正当な評価を受ける」どころか、歴史を偽造するとんでもない国だとみなされるにちがいありません。

 これに関連して、今日の毎日新聞の「オピニオン」欄に、興味深い記事が掲載されていました。「新聞への信頼回復 外国人記者に聞く[朝日の慰安婦・吉田書簡問題]」という記事です。
 独フランクフルター・アルゲマイネ東アジア特派員のカーステン・ゲアミスさんは、「朝日が8月に慰安婦問題の記事を取り消し、検証記事を出したときは、なぜ今なのかが疑問だった」として、次のように述べています。
 「私は以前に韓国人の元慰安婦4人に会い、オランダの議会にメールを送るなどして慰安婦問題を調べたことがある。だから、(朝日新聞が証言を取り上げた)吉田清治氏(故人)が目撃者のふりをして、うそをついていたとしても慰安婦がなかったことを意味しないことを知っている。そもそも私は吉田証言自体を検証記事が出るまで知らなかった。私の調査に吉田証言は必要なかったからだ。」

 また、この問題を利用した朝日新聞バッシングについて、「メディアが他のメディアの問題を報じることは構わない」としつつも、次のように指摘しています。
 「ただし、メディア同士の批判は慎重であるべきだ。日本のメディアが朝日問題をあまりに大きく取り上げたことには奇妙な感じがした。この問題が歴史修正主義に都合よく利用されるのは問題だ。日本に対する国際的な不信を高める要因になると感じる。」
 そのうえで、「私の理解では、ジャーナリズムの役割は政治、経済、議会などと読者の関心との間にある隙間を埋めるため、正確に報道する独立した機関であること。そして権力を監視することだ」と述べています。「ジャーナリズムの役割」についての、きわめてまっとうな「理解」だというべきでしょう。

 もう1人、米ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさんも登場しています。彼も「メディア同士が、記事の内容をめぐって厳しい批判をするのはよいことだ」としつつも、次のように指摘しています。
 「しかし『非国民』などの極端な表現を使って感情をあおるような批判をするのはやりすぎだ。そうした風潮には全体主義的な怖さを感じる。ジャーナリストは自由な言論を委縮させるものに抵抗すべきなのに、どうしたことかと思う。」
 一部の新聞や雑誌などには、このような「感情をあおるような」「極端な表現」が満ち溢れています。「どうしたことか」と思うのは、ファクラーさんだけではないでしょう。

 外国の記者でさえ理解し、主張するようなこの程度のことが、どうして一部の新聞や雑誌などに記事を書いているジャーナリストに理解できないのでしょうか。それとも、そこにはまともなジャーナリストは存在しないということなのでしょうか。


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2月20日(木) 安倍首相の本音を代弁している「お仲間」や側近たちの発言 [歴史認識]

 NHKの籾井会長や百田経営委員などの「お仲間」たちに続いて、衛藤晟一首相補佐官や萩生田光一総裁特別補佐などの側近たちの発言が問題になっています。いずれも安倍首相の靖国参拝を弁護しており、これに「失望」した米国への強い反発をにじませたものです。

 今日の『朝日新聞』一面には、「『失望』の応酬 きしむ日米」という見だしが大きく出ていました。その横には「首相の側近、動画で米批判」とあります。
 衛藤晟一首相補佐官が、安倍首相の靖国神社参拝に「失望」を表明した米政府に対して、動画サイト「ユーチューブ」で「むしろわれわれのほうが失望だ」と批判していたことが分かったからです。
 あわてた菅官房長官は記者会見で「政府の見解ではない」と述べ、ただちに動画を削除させるよう指示しました。衛藤さんは当初、「なにが問題なのか」と突っぱねていたそうですが、菅さんから電話で注意を受けると「政府見解だと誤解を与える」として発言を撤回し、動画も削除しました。

 首相側近によるこのような米側の失望表明への反発はこれまでもありました。先月も、萩生田光一総裁特別補佐が講演で「共和党政権の時代にこんな揚げ足を取ったことはない」と反論していたからです。
 また、麻生太郎副総理は昨日の衆院予算委員会で靖国神社参拝に対する海外の反応について「外務省に正式に抗議が来たとかいう話を、私どもは聞いたことがない」と答弁し、日本として中国韓国から正式な抗議を受けていないとの認識を示しました。しかし、実際には、中国や韓国からはそれぞれの駐日大使が参拝当日に外務省を訪れて斎木事務次官に抗議しており、北京ソウルでも正式な抗議を受けています。
 さらに、安倍晋三首相の経済ブレーンである本田悦朗内閣官房参与は米紙ウォールストリート・ジャーナルの電子版で、米艦に体当たりした神風特攻隊について「日本の平和と繁栄は彼らの犠牲の上にある。だから安倍首相は靖国へ行かなければならなかったのだ」と語り、本田さんは「第2次大戦中の神風特攻隊の『自己犠牲』について語りながら、涙ぐんだ」そうです。また、「日本の首相が靖国参拝を避けている限り、国際社会での日本の立場は非常に弱い」として、「われわれは重荷を背負った日本を見たくはない。自立した国としての日本を見たい」と語り、「本田氏はアベノミクスの背後にナショナリスト的な目標があることを隠そうとしない。日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙できるようにするためだと語った」とも伝えています。

 NHKの百田尚樹経営委員も、本日の『朝日新聞』に掲載されたインタビュー記事で、安倍首相の靖国神社参拝について「その国のために戦って命を落とした人に尊崇の念を表す行為は各国の首脳が皆している」と賛意を示しています。しかし、靖国神社には「命を落とさせた」A級戦犯も葬られているのであり、戦争犯罪人に「尊崇の念を表す行為」をしている首脳などどこにもいません。
 首相という公職にある人物が特定の宗教施設に参拝し、しかもそこは侵略戦争を美化して戦争犯罪人を葬っている場所です。「その国のために戦って命を落とした人」だけを祀っている無宗教の施設ではありません。
 このような問題があることを百田さんは知らないのでしょうか。それとも、知っていて誤魔化しているのでしょうか。

 これらの発言によって表明されている反発や弁解は全て安倍首相自身のものにほかなりません。もし違うのであれば、きちんと発言の内容を否定し、きっぱりと発言した人物を解任したり処分したりするべきです。
 そうしなければ、「日米のきしみ」はさらに大きなものとなるでしょう。日米同盟の強化をめざす安倍首相が、自身の行動と「お仲間」や側近の言動によって日米両国の不信感を増幅させ日米同盟のひずみを拡大しているとは、何とも皮肉な構図だというしかありません。

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11月2日(日) 防衛庁と自衛隊は解体されるべきだ-田母神航空幕僚長の妄言と更迭 [歴史認識]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)刊行中。240頁、本体740円+税。
 ご注文http://tinyurl.com/4moya8またはhttp://tinyurl.com/3fevcqまで。
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 昨日のブログで、「戦後史における新たな暗部」と書きました。その「暗部」が、またも顔を覗かせたというべきでしょうか。

 空自の田母神俊雄・航空幕僚長が「日本は侵略国家であったのか」というタイトルで論文を公表し、更迭されました。問題の論文は、アパグループの「真の近現代史観」懸賞論文受賞者発表のサイトhttp://www.apa.co.jp/book_report/index.htmlに掲載されています。
 この論文で田母神さんは、「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」と述べています。また、集団的自衛権の行使を禁じた現在の憲法解釈の問題点にも言及しました。
 これらは「言葉遣いを誤った」などという程度の問題ではありません。旧軍思想そのまま、典型的な「靖国派」の主張です。このほかにも、下記のような記述があります。

人類の歴史の中で支配、被支配の関係は戦争によってのみ解決されてきた。強者が自ら譲歩することなどあり得ない。戦わない者は支配されることに甘んじなければならない。

現在においてさえ一度決定された国際関係を覆すことは極めて困難である。日米安保条約に基づきアメリカは日本の首都圏にも立派な基地を保有している。これを日本が返してくれと言ってもそう簡単には返ってこない。ロシアとの関係でも北方四島は60年以上不法に占拠されたままである。竹島も韓国の実行支配が続いている。

 ということはつまり、支配されたくなければ戦争で勝つしかないと仰りたいのでしょうか。これはむき出しの力の論理であり、「戦争史観」そのものです。
 米軍基地の撤去も北方領土の返還も竹島の領有権問題も、「一度決定された国際関係を覆すことは極めて困難」だから「戦争によってのみ解決」されるしかない、ということなのでしょうか。外交交渉による問題解決などは、まったく考慮に入れられていません。

 航空自衛隊のトップが政府見解に公然と反する見解を明らかにしたのですから、更迭されるのは当然です。しかし、それだけで済むのでしょうか。
 驚くのは、防衛大学校で教育を受けて卒業した幹部自衛官がこのような事実誤認や誤った歴史認識を持ち続けてきたということです。一体、何が教えられ、何を学んできたのでしょうか。
 また、このような人物が航空自衛隊の最高幹部になることができたということも信じられません。今回の論文には田母神さんが講演などで度々触れる内容も多く「いつもの持論で、空幕長ならやりそうなこと」との見方も少なくないそうです。
 つまり、田母神さんがこのような考えや主張を持っていることは、広く知られていたわけです。そのような人物が昇進を重ねてトップに立つことができたということは、それに同調する空気が広く存在しているということ、それを阻止するような形でシビリアンコントロールがまったく働かなかったということを意味しています。

 さらに、このようなデタラメな「論文」が懸賞論文の最優秀賞となったことにも驚かされます。と、書きたいところですが、実は、それほど驚くようなことではありません。
 この懸賞論文の審査委員長は渡部昇一上智大学名誉教授で、論文の中には渡部さんの著書も引用されています。渡部さんは、この論文を読んで「わが意を得たり」と思われたにちがいありません。
 また、論文を募集したアパグループの元谷外志雄会長は安倍晋三元首相の後援会「安晋会」の副会長です。この方も、渡部さんや安倍さん、そしてこの論文を書いた田母神さんと同じような歴史認識を持ち、同じように「わが意を得たり」と考えたのではないでしょうか。

 この一連の事実は、戦前の過ちや侵略戦争がきちんと総括されず、反省されていないということを示しています。しかも、その根は深く、自衛隊の内外に広まっているようです。
 収賄と議院証言法違反(偽証)の罪に問われて逮捕された守屋武昌前防衛事務次官の背広組といい、今回の田母神俊雄航空幕僚長の制服組といい、不祥事続きの防衛省・自衛隊は腐りきっています。このような組織は、とっとと解体されるべきではないでしょうか。

 なお、「北海道雇用経済研究機構(HEERO)」http://www.heero.or.jp/の『HEERO REPORT』No.84(2008年11月号)に拙稿「『労働再規制』への『反転』を生かしてさらなる攻勢へ-最近世に問うた拙著に寄せて」が掲載されました。ご笑覧いただければ幸いです。

11月1日(土) 戦前の過ちはきちんと総括され反省されているのか-横浜事件の再審開始決定 [歴史認識]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)刊行中。240頁、本体740円+税。
 ご注文はhttp://tinyurl.com/4moya8またはhttp://tinyurl.com/3fevcqまで。
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 今日から11月。木枯らし1号が吹く中、一橋祭の講演に行ってきました。国立駅から一橋大学への歩道には出店が並び、「大学祭がここまで進出しているのか」と思いましたが、そうではありません。地域の「天下市」という祭りです。

 私の講演の前に東京大空襲を描いたビデオが上映され、作家の早乙女勝元さんが戦争体験について話をされました。早乙女さんのお名前は学生時代から知っていましたし、『わが街角』などの小説も読んだことがありますが、お会いするのは初めてです。
 一昨日に訪れた「ピースおおさか」の図書室にも、早乙女さん執筆・編集の本が沢山ならんでいました。その早乙女勝元さんとの「共演」ですから、いささか緊張しました。
 会場には、50人ほどの方が見えておられました。熱心に話を聞いていただき、お礼申し上げます。

 さて、昨日の夕刊に、横浜事件の第四次再審請求についての記事が出ていました。拷問を受けたなどとする元被告の口述書などについて「無罪を言い渡すべき明確な証拠である」として再審開始が決定されたというのです。
 これは、私にとっても嬉しいニュースです。というのは、この問題には少なからぬ縁があるからです。
 原告の小野新一さん(雑誌『改造』の元編集部員である故小野康人さんの次男)は法政大学の職員で私も良く知っている方です。各紙の夕刊に大きく写真が出ていて驚きました。

 この事件は神奈川県警察部特高課による戦時下最大の言論弾圧で、「共産主義を宣伝した」などとして、雑誌編集者や新聞記者など60人以上が治安維持法違反容疑で逮捕・拷問され、4人が獄死、1人が保釈直後に死亡、傷害を負った者は32人を数え、雑誌『改造』『中央公論』は廃刊になっています。30人以上が起訴されましたが、ほとんどが終戦直後に執行猶予付き有罪判決を受けました。
 問題となったのは『改造』に掲載された社会評論家細川嘉六の論文「世界史の動向と日本」で、「共産主義を啓蒙した」とされました。また、細川が郷里の富山県泊町の料亭旅館「紋左」に、世話になった編集者などを招待して開いた宴会の記念写真が、日本共産党再建のための謀議の証拠だとされたのです。
 この細川嘉六は、実は大原社会問題研究所の元研究員でした。細川は1920年に大原社会問題研究所に入所し、「米騒動資料」の収集などを行っています。これは、米騒動に関する新聞雑誌記事や論説、裁判記録、郡役所資料などを集めたもので、この種の資料としては有数の貴重なコレクションですが、現在も研究所に保管されています。

 共産党再建のための準備会合の証拠とされた写真には、細川を中心に7人の人が写っています。皆さん浴衣姿で、記念写真を撮ったわけです。
 これだけでも、共産党再建のための会合ではないということは明らかでしょう。当時の共産党は非合法ですから、そのための秘密の集まりなら、浴衣姿で記念写真を撮るなどということは100%あり得ません。
 しかし、当時の特高警察はむりやり事件をでっち上げ、取調官が拷問によってそれを認めさせたのです。裁判官はろくな審理もしないで直ちに追認し、罪をかぶせました。
 その経過を示す裁判資料は、敗戦のどさくさに紛れて処分されてしまいました。このような経過は、誰にでも容易に想像できることではありませんか。当局によって事件をねつ造され、無実の罪を着せられた人々の無念はいかばかりだったでしょうか。

 この無実を明らかにし、その無念の思いを晴らすために、何度も再審請求が行われてきました。今回が第四次ということになります。
 これほどの明白なえん罪が、これほどの長い時間をかけてもなお晴らすことができないとは、一体どういうことなのでしょうか。戦前の暗部を清算できない戦後のあり方は、戦後史における新たな暗部を形成しているというべきではないでしょうか。


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