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4月14日(火) 「安心社会実現会議」の発足が意味するもの [骨太の方針]

 風変わりな名前の会議が発足しました。「安心社会実現会議」というのだそうです。

 このままでは、とても「安心」できないということなのでしょう。今の社会がいかに不安に満ちたものになっているかが、この会議のネーミングからも読み取ることができます。
 小泉構造改革によって、この社会がいかにぶっ壊されてしまったのか、ということでもあります。安倍さんは「再チャレンジ」を掲げて立て直そうとし、福田さんは「生活者や消費者の目線」を掲げて消費者庁の新設をめざし、今度は、麻生さんが「安心実現会議」を発足させたというわけです。
 こうして、構造改革の司令塔の一つ、経済財政諮問会議は事実上、否定されることになりました。来年度予算編成の基本方針を定める「骨太の方針2009」は「安心社会実現会議」によって作成することになったからです。

 「安心社会実現会議」(座長・成田豊電通顧問)は、年金や少子高齢化をめぐる国民の不安に応えるとして財界人や報道機関トップら有識者15人によって発足しました。今後、月2回程度開催される予定だそうです。提言は、6月をめどにまとめる経済財政諮問会議の「骨太の方針09」に反映させられます。
 初会合には、政府側から、首相や河村官房長官、与謝野財務・金融・経済財政相が出席しました。会合では、渡辺恒雄読売新聞グループ会長が「『小さな政府』の失敗には懲りた。小泉元首相や竹中平蔵元総務相の考え方は必ずしも適切でなかったから、いま格差社会になったと盛んに言われている」と発言し、武藤敏郎大和総研理事長(元財務事務次官)も「バブル崩壊後、市場経済を重視してきたが、同時に秩序が崩壊して社会不安が増大した」と述べるなど、米国流資本主義や小泉構造改革の修正に触れる意見が相次いだそうです。

 構造改革路線からの反転は、また一歩、進むことになったと言って良いでしょう。「骨太の方針」作成の実質的な権限は経済財政諮問会議から取り上げられ、その内容もこれまでとは大きく異なったものとなるにちがいありません。
 経済財政諮問会議とは異なり、この会議には各界からの代表が参加しています。とりわけ重要なのは、労働界から連合の高木剛会長が参加していることです。
 本来であれば、労働界でのもう一つの潮流を代表する全労連の大黒議長も参加するべきだったと思います。しかし、経済財政諮問会議や規制改革会議から労働界の関係者が排除されていたことからすれば、大きな変化であることは明らかでしょう。

 もう一つ、注目したいのは、宮本太郎北海道大学大学院教授が加わったことです。私としては、これは大変嬉しいことです。
 というのは、宮本さんが法政大学の非常勤講師をしていた頃からの知り合いだからで、彼の学識と識見についてはよく知っているからです。スウェーデンなど北欧の福祉政策について詳しく、日本の社会保障政策の今後を考え、「安心できる社会の実現への道筋を明らかにする」上では、最適の人でしょう。
 宮本さんの出番は政権交代の後になると思っていましたが、急激な危機の進化によって出番が早まったというところかもしれません。麻生さんの“人気取り”であり、野党への“懐柔”という色彩が濃厚ですが、この機会を活用して社会保障政策の抜本的な転換の先鞭を付けていただきたいものです。

 本当なら、EUの労働政策に詳しい濱口桂一郎さんなどにも加わっていただきたいところです。そうすれば、社会保障政策と労働政策の両面にわたっての見直しが可能になるでしょう。
 とはいえ、自民党と公明党を与党とし、政権基盤が脆弱化している麻生政権ですから、多くは期待できません。政権交代後の本格的な立て直しに向けての「予行演習」としてなら、それなりの意味はあるかもしれませんが……。


7月6日(日) 規制改革会議の孤立化 [骨太の方針]

 規制改革会議は、7月2日に今年度の第2回会議を開きました。そこで明らかにされたのが、「中間とりまとめ-年末答申に向けての問題提起」です。
 これは年末に予定されている「第3次答申」に向けて「問題提起」したものです。労働関係についても「問題提起」されていますが、その内容は07年末の「第2次答申」を引き継いでおり、経済財政諮問会議や厚労省などが目指している方向とは大きく異なっています。

 これまでにも書いてきたとおり、規制改革会議の下に設置された労働タスクフォースは、07年5月21日に「脱格差と活力をもたらす労働市場へ―労働法制の抜本的見直しを」を明らかにし、「一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られるという考え方は誤っている」という見解を示しました。これは、多方面での反発を受け、その後に発表された「第1次答申」には採用されませんでした。
 一部には「お蔵入り」との観測もあったようです。しかし、この見解はしぶとく生き残り、12月25日の「規制改革推進のための第2次答申―規制の集中改革プログラム」に組み込まれます。
 これに対して、厚生労働省は12月28日に「規制改革会議『第2次答申』(医療分野及び労働分野の問題意識)に対する厚生労働省の考え方」という反論を明らかにし、全面的な批判を展開しました。規制改革会議は、これに対して08年2月22日に「『規制改革会議「第2次答申」(労働分野の問題意識)に対する厚生労働省の考え方』に対する規制改革会議の見解」を明らかにし、「労働者の保護に必要な法的な手当を行うべきことは当然である」と釈明せざるを得なくなります。

 その後、規制改革会議はこれまでの実施状況をフォローアップするという作業を行い、タスクフォースを整理して7グループ19タスクフォースという検討体制に再編します。その後に出てきたのが、今回の「中間とりまとめ」でした。
 この文書の「Ⅱ. 各重点分野における規制改革」の「5 社会基盤」という項目の2番目が「労働分野」となっています。「概要」によれば、その主な内容は、以下の通りです。

○機会の平等と公正な待遇に向けて
・労使間の情報の非対称性を是正し、労使双方が充分納得した上で、選び取れるような様々な選択肢を確保するように労働市場の見直しを検討
○多様な働き方を選びうる為の方策・雇用を抑制しない為の方策
・労働者派遣法については派遣を臨時的、一時的な需給調整制度として例外視する法律から労働市場の環境変化に合わせて、派遣が有効活用されるための法律へ転換していくよう見直しを検討
・最低賃金法についてはその施行状況や最低賃金引き上げの雇用に与える影響を充分調査し、雇用機会喪失に繋がらないよう随時見直しを検討
・育児介護休業法については働きながら子育てをする労働者の能力発揮が阻害されることのないよう多様な施策から適切な施策を選択し、組み合わせることが重要
○労働市場におけるセーフティネットの拡充
・雇用保険については保険捕捉率向上や適用要件拡大等、真に労働者のセーフティネットとして機能するように見直しを検討
・退職金に対する優遇税制についてはやり直しや転職を抑制しない、労働市場の円滑化に資する税制への見直しを検討

 以上の内容について、さし当たり以下のような特徴を指摘しておきましょう。
 第1に、依然として「労働市場の見直し」最初に掲げられており、その前提として、「情報の非対称性」の「是正」や「様々な選択肢」の「確保」が掲げられている点です。つまり、「第2次答申」で示された基本線は変わっていないということになります。
 第2に、労働者派遣法についても、「一時的な需給調整制度として例外視」せず「派遣が有効活用されるための法律」への「転換」が求められているという点です。秋の臨時国会に向けて与党のプロジェクトチームが合意した派遣法見直しとは、その方向が逆になっています。
 第3に、最低賃金についても、「引き上げ」論について牽制しています。それが「雇用機会喪失に繋がらないよう随時見直し」するということは、あまり上げてはならないという主張にほかならないからです。

 これ以外の問題、たとえば、育児休業法、雇用保険や退職金優遇税制などのセーフティネットの拡充などでは、厚労省との見解の違いはないようです。
 ということは、さし当たり、派遣法をどのように見直すのか、最低賃金をどこまで引き上げるのかという2点で、今後、規制改革会議とその他の関係機関などとの綱引きが展開されるということになるでしょう。
 そして、その他の関係機関の中には、自民党・公明党などの与党、厚生労働省、経済財政諮問会議やその下の専門調査会、円卓会議などが含まれています。もちろん、野党や労働組合、それに世論が、規制改革会議とは反対の立場にあることは、言うまでもありません。

 つまり、このような主張を行う規制改革会議の孤立化は必至であると思われます。その主張はなかなか実行されず、時には無視され、時には覆されるという状況は、恐らく、今後も続くことでしょう。
 新聞社の報道を見ても、「雇用や環境などの分野では規制強化の流れが加速。消費者行政推進を掲げる福田康夫首相も一段の規制緩和には慎重な立場とみられ、会議の推進力の減退が鮮明だ」(『NIKKEIネット』6月3日付)や「提言がどこまで実効性を持つかは不透明だ。……改革に対する批判が強まるなど政府内での改革機運にも変化が現れてきた。簡素で効率的な小さな政府を目指すうえで、重要な役割を担う規制改革会議が、省庁の抵抗をどこまで跳ね返すことができるかが焦点となる」(『産経ニュース』6月5日付)などの論評があります。
 労働分野では、「推進力の減退」や「不透明さ」は、他の分野以上に際だっているといって良いでしょう。規制改革会議が、派遣法のさらなる緩和を求め、最低賃金の引き上げに反対しているという事実を、広く明らかにしていくことが重要です。

 「中間取りまとめ」に対する批判を強めていくことが大切です。規制改革会議をさらに孤立化させ、労働の規制緩和を押し返す力が、もっともっと大きくなることを期待したいものです。

 以上で、ひとまず、「骨太の方針2008」についての論評を終わります。これは、修正・加筆(というよりは、かなり縮めて)「労働の規制緩和の現段階―『骨太の方針2008』の意味するもの(仮題)」として、『賃金と社会保障』という雑誌に掲載する予定です。
 掲載号など、詳しいことが分かりましたら、お知らせいたします。

7月5日(土) 厚労省による「新雇用戦略」の作成 [骨太の方針]

 労働の規制緩和における「反転」が、またもや明らかになりました。7月2日、自公両党がまとめた労働者派遣制度見直し案の全文が明らかになったからです。

 この案は、(1)日雇い派遣については、通訳など専門性の高い業務を除いて原則的に禁止、(2)派遣会社に手数料(マージン)の開示を義務化、(3)特定企業だけに労働者を派遣する「専ら派遣」についての規制強化などです。
 与党は8日に見直し案を決めて、舛添厚生労働相に法改正を要請し、厚労省は秋の臨時国会に労働者派遣法改正案を提出する方針だといいます。
 緩和から規制の強化へ――明確な転換が生じました。
 このような転換に向けての基本的な流れは、すでに「新雇用戦略」において明らかでした。その作成過程も、大変興味深いものです。

 「労働ビッグバン」が提起されるのは、安倍内閣になってから初めて開かれた06年10月13日の経済財政諮問会議でした。この会議で、民間議員が「『創造と成長』に向けて」という資料を提出し、その中で「労働市場の効率化(労働ビッグバン)」が打ち出されていたことは、すでに述べた通りです。
 そして、この「労働ビッグバン」について「集中審議」が行われるのは、11月30日に開かれた経済財政諮問会議です。実は、この会議には、柳沢厚労相も臨時議員として出席し、「労働市場改革について」という資料を提出していました。
 また、2007年4月6日の経済財政諮問会議では、専門調査会の第1次報告「働き方を変える、日本を変える―『ワークライフバランス憲章』の策定」が提出され、八代議員が説明しています。実は、この会議にも、柳沢厚労相が出席し、「労働市場改革について」という資料を提出していました。

 つまり、厚労省は、これらの経済財政諮問会議に、民間議員や専門調査会とは別に、「労働市場改革について」の独自の案を資料として提出し続けていたことになります。それは、民間議員の提案や専門調査会とは異なる一連の流れであり、基本的には厚労省の防戦を意味しています。
 実は、06年10月の経済財政諮問会議で、八代さんと柳沢厚労相との間では「ジャブの応酬」がありました。八代さんは、「第一に、労働ビッグバンでどのような労働市場を目指すかについては、一番目に、働き方の多様性の実現。画一的な労働市場の規制に縛られるのではなく、労使自治に基づく多様な雇用契約を可能とし、労働者と企業にとって雇用機会が拡大することが大事」と発言されます。
 これに対して、柳沢さんは次のように反論したのです。

 もう一つは、先ほど労使自治ということを言われたが、労使自治で労使が対等の交渉ができるかというと、実際の力関係から言ってできない、という考え方で労働法制ができている。これを全く平等でフリーマーケットでやれるなら、民法でやればいい。何のために労働法制が制定されたか。最低限の労働者保護規定を設けることは労働法制の一番の基本なので、そこはしっかり考えていただけたら大変ありがたい。

 しかし、すでに指摘したように、07年4月6日の専門調査会第1次報告と厚労省提出の資料との違いは大きなものではなくなっていました。このとき、「本当の下支えの役をしているのがハローワークの実情であり、民でもできることにしゃしゃり出ていって色々やっているという行政のイメージでは、間違った判断になるのではないか」と、ハローワークへの市場化テストの導入に反対した柳沢厚労相は、「労働市場改革について」は、次のように述べて「ほぼ同じような」という認識を示しています。

 就業率の問題については、専門調査会は2017 年ということで10 年後を目標にしているが、我々は2030 年でほぼ同じようなというか、就業率の向上を目指す、そういう見通しを示しており、それでしか労働人口の減を補う方法はないと、私どももこの点を重要視している。
 言わずもがなのことかもしれないが、八代議員は、労働時間の短縮を定量的に、恐らくこれで実現するという検証はされているであろうし、私どもも全く異存はないが、実際上、2,300 時間ぐらい働いていたのを1,800 時間台にもってきたのには、週休2日制、それから48 時間労働を40 時間にするというようなかなり大幅な改革がこれに伴って初めて実現できたということも、過去において経験しているということを一言付け加えさせていただく。

 こうして、両者の歩み寄り、というよりは、調査会側が厚労省側に近づいていった結果、両者の「融合」が生ずることになります。あるいは、次第に、厚労省のイニシアチブが強まっていったということかもしれません。
 すでに、このとき、厚労省は「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会」を発足させ、独自の理論武装の準備を始めていました。この研究会は、8月9日に報告書「『上質な市場社会』に向けて―公正、安定、多様性」を発表します。
 この報告書は、「競争力の強化、経営の効率化」と「労働者の職業生活の安定、自己実現」との調和を図るために、適切に市場メカニズムを活用しつつ、(1)公正の確保、(2)安定の確保、(3)多様性の尊重の三つの要素を満たしていくこと、この意味での「上質な市場社会」に向けて政策を講じていくことを、雇用労働政策を策定する上での基軸としなければならないと主張しています。
 具体的には、①公正の確保―豊かな活力ある経済社会にふさわしい「公正な働き方」の確保、②安定の確保―「雇用の安定」と「能力開発による職業キャリアの発展、安定」の確保、③多様性の尊重―多様な選択を可能とすることによる能力発揮、競争力の確保であり、それぞれが満たされる雇用労働政策を策定していくことが必要だとするものです。「多様性」より以上に、「公正」と「安定」が重視されている点に注目していただきたいと思います。

 12月21日に出された労働政策審議会の建議「今後の雇用労働政策の基本的考え方について―働く人を大切にする政策の実現に向けて」で示されている「基本的考え方」も、「公正の確保」「安定の確保」「多様性の尊重」というものでした。8月9日の報告と基本的には同じものです。
 つまり、「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会」がはめた枠は、労働政策審議会による建議という形で、厚労省の労働政策形成の基本方針とされたのです。これは、経済財政諮問会議で報告されています。
 08年2月15日に開かれた「平成20年第3回経済財政諮問会議」で、桝添厚労相は「『新雇用戦略』について」報告しました。その際、「公・労・使の三者構成の審議会において調査・審議をしていただいた結果、資料の左に記したように、公正の確保、安定の確保、多様性の尊重、この三つの基本理念を軸に、働く人を大切にする政策を実現する」と発言しています。

 2月15日の会議には、臨時議員として出席した舛添厚労相によって出された文書と共に、もう一つの文書が提出されていました。それは、八代さんなど民間4議員による「成長戦略Ⅰ:『新雇用戦略』の全体像」という文書です。
 この文書について説明したのは、八代議員でした。八代さんは、「まず、全員参加の経済戦略の第一弾として、働く意欲のあるすべての人々が年齢や就業の形態に関わりなく能力を発揮することを目指して、以下の内容を骨子とする『新雇用戦略』を策定するべきである」と発言しています。
 その内容は、「1.女性=『新待機児童ゼロ作戦』の策定等」「2.若者=ジョブカードの全国展開」「3.高齢者=『70歳現役社会の実現』」となっています。そして、八代さんは、「若干補足すると、この『新雇用戦略』の大きな柱の一つが特に子育て世代の女性である」と述べ、発言の最後でも、「上記の政策を実現するために、共通的な対策として、ワーク・ライフ・バランスの実現、仕事と家庭の両立に向けて行動指針の数値目標が既に設定されているが、これを着実に実行されるように検証していく」と付け加えています。

 ここでも、民間議員と厚労省の両方から案が出されている点が注目されます。しかし、その内容には、ほとんど大きな違いがありません。
 最後に、大田経財相が「春には、今度は舛添臨時議員から、新雇用戦略の具体的な数値目標などを含めたプランをお出しいただいて議論できればと思う。今日の民間議員からの提案も踏まえながら、舛添プランを御提示いただければと思う」と発言しています。このとき、「新雇用戦略」作成のイニシアチブは、明確に厚労省の側に移ったといって良いでしょう。
 「今度は舛添臨時議員から、新雇用戦略の具体的な数値目標などを含めたプランをお出しいただいて議論できればと思う」というのですから。「成長戦略Ⅰ:『新雇用戦略』の全体像」という文書を出した八代さんたちに対しては、「あなた方はもういいですよ」と、暗に示唆したのだというのは私の深読みでしょうか。

 こうして、4月23日の経済財政諮問会議で、「『新雇用戦略』について」が議題とされます。このとき、民間議員も「3年間で 220万人の雇用充実に向けて-100万人の正社員化、120万人の雇用創出」というペーパーを出しますが、補足的な参考資料にすぎません。
 そして、このとき、八代さんは次のように述べて、厚労省のプランを「評価」しました。この時点で、「勝負あった」ということになりましょうか。

(八代議員) 「3年間で220万人の雇用充実に向けて-」という民間議員ペーパーを説明させていただく。 舛添臨時議員からもお話があったように、60歳になる団塊世代の能力を、企業と社会で最大限に活用する。同時に 30代後半になる団塊ジュニアが子育てと仕事を両立できるようにする。これは大きな緊急の課題であり、そのために我が国の雇用戦略は、この3年間が非常に重要な時期になっている。3年間の数値目標を掲げ、実効ある政策を集中的に実施しなければならない
 このような危機感に立ち2月 15日に民間議員が提案を行ったが、このたびの厚生労働大臣のプランは、それに沿ったものとして評価させていただきたい。これを実行に移すには、政府全体で以下のような取組みを行うことが不可欠である。

 この4月23日の経済財政諮問会議で、舛添厚労相によって報告された「『新雇用戦略』について」こそ、「骨太の方針2008」の中で「新雇用戦略について」(平成20年4月23日経済財政諮問会議舛添臨時議員提出資料)」と明記されたものです。以上の経過から、それは民間議員の提案を加味する形を取りながらも、基本的には、厚労省のイニシアチブの下に作成された案にほかならなかったのです。

7月4日(金) 成長力底上げ戦略推進円卓会議と最賃の引き上げ [骨太の方針]

 昨晩、「G8サミットにもの申す!7.3労働者集会」で講演してきました。160人の方が出席されたということで、全水道会館の大ホールが一杯です。
 11人の代表団が、サミットの開かれる北海道に行かれるそうです。警戒厳重とのことですから、気をつけていただきたいものです。
 会場で、拙著『労働政策』を販売していただきました。全労協の皆さん、お世話になりました。ありがとうございました。

 さて、6月30日に、今年度の最賃について審議する中央最低賃金審議会が開かれました。今年の最低賃金改定は、改正最低賃金法の施行と成長力底上げ戦略推進円卓会議(以下、円卓会議)での中長期方針合意という追い風の中で行われるということで注目されています。
 今日は、この円卓会議と最低賃金の引き上げ問題について書くことにしましょう。

 まず、この円卓会議で注目されるのは、そのメンバーです。高木連合会長や小出JAM会長、桜田サービス・流通連合会長などの労働組合の代表が加わり、「労働の排除」から転換しているからです。
 もちろん、氏家日本経団連副会長、岡村日商会頭などの経営者団体の代表も参加しています。経済財政諮問会議からは民間議員の1人であった丹羽伊藤忠商事会長が加わっている点も注目されます。
 このほか、太田大阪府知事、佐伯全国中小企業団体中央会会長、竹中社会福祉法人プロップステーション理事長などの名前もあります。経済財政諮問会議や規制改革会議に比べれば、民間からの参加者の幅は広く、包括性も高いということができるでしょう。

 もう一つ、この円卓会議には注目すべき点があります。それは、このような政労使が加わった円卓会議を、中央レベルだけではなく、地方においても全都道府県で発足させたということです。
 この地方の円卓会議も労使を含む幅広いメンバーによって構成されています。この点では、「政労使の合意形成を図る」としていた「成長力底上げ戦略(基本構想)(案)」の方針が厳密に守られていたということ、この点で小泉政権下における戦略的政策形成機関とは大きく異なっていたということが分かります。
 たとえば、「東京都成長力底上げ戦略推進円卓会議」は5月30日に第1回会議が開かれていますが、その参加者は、山口副知事をはじめ2人の有識者、産業界から4人、労働組合から4人、福祉1人、教育・訓練3人、国から7人という構成になっています。

 この円卓会議は、最低賃金の問題に強い関心を寄せていました。その引き上げに向けて強いリーダシップを発揮することになります。
 早くも、2月15日の「成長力底上げ戦略(基本構想)(案)」に、興味深い記述が盛り込まれていました。「Ⅱ.戦略の基本構想」の「3 中小企業底上げ戦略」に、次のように書かれていたのです。

 ◎「生産性向上と最低賃金の引き上げ」に向けた政策の一体的運用
 ―働く人の賃金の底上げを図る観点から、中小企業等における生産性の向上とともに、最低賃金を引き上げるため、産業政策と雇用政策の一体的運用をはじめ、地域活性化等を含めた官民をあげた取組を強力に推進する。
(1)「生産性向上と最低賃金の引上げ」に関する合意形成
 ○「成長力底上げ戦略」を推進するために設置する「成長力底上げ戦略推進円卓会議(仮称)」(後述)において、生産性の向上を踏まえた最低賃金の中長期的な引上げの方針について政労使の合意形成を図る。

 これを見ると、最賃については特に重視していたことが分かります。この後にも「最低賃金制度の充実」という項目があり、その2番目に「最低賃金法の改正(改正法案を国会提出予定)」と書かれていました。その内容は、「最低賃金決定における生活保護との整合性の考慮」と「違反に対する罰則の強化等」の二つです。
 また、3番目には、「最低賃金引上げに向けた取組」という項目があり、「前述の円卓会議における政労使の合意を踏まえ、最低賃金の中長期的な引上げに関して、産業政策と雇用政策の一体運用を図る」と書かれています。すでに、この時点で、国会への提出を予定していた「最低賃金法の改正」とは別個に、「最低賃金の中長期的な引上げ」を意図していたことになります。
 この円卓会議で最低賃金の引き上げ問題が集中的に議論されたのは7月9日の第3回会議でした。この会議では、柳沢厚労相が以下のように述べ、引き上げる方向での議論を求めています。

 最低賃金につきましては働き方の多様化が進む中で、パート労働者や派遣労働者の生活を下支えするセーフティネットとしての重要性というものが高まっているという認識にございます。(中略)それに対して我々は最賃法の改正というものを出したわけでございまして、(中略)いきなりこの最賃法が通ったと同じようにやれとまではなかなか私の立場からお願いできないにしても、やはりその事実認識に立った考え方をとっていただきたいということをお願い申し上げる次第でございます。

 これに対して、山口日商会頭が中小企業の立場から抵抗しています。ここで注目されるのが、経済財政諮問会議の議員だった丹羽伊藤忠商事会長の発言です。
 丹羽さんは、「やはり生活保護水準を上回るような水準にしていかないと働かない方がいいというようなことになってしまうのではないか」と述べて最賃の引き上げを支持し、「最低賃金と中小企業の支援というのは全く別の切り口で考えていくべき問題だと思うんですね」と、山口さんをたしなめます。そして、次のように主張されるのです。

 最賃法のレベルと中小企業がやれないから最賃の金額を引き上げないというのは全く論理が私は整合しないというふうに思っております。
 したがって、最賃につきましてはそういう考え方で、ぜひ次の国会に向かって引上げを検討していただきたいと思います。

 この後も会議では激論が続きますが、実は、結論は最初から決まっていました。ここでの議論は、一種の“ガス抜き”だったようです。
 というのは、最後に、「さまざまな意見がございましたが、僭越ながら、私の方で本日の会議の合意案を用意しましたので、配ってください」と、議長である樋口美雄慶応大学教授が文書を出したからです。
 議論が始まる前から、「合意案」が準備されていたのです。当然、厚労相との打ち合わせのうえだったでしょう。

 その結果、「合意」された内容は4点にわたっていました。特に重要なのは、次の点です。

 4.中央最低賃金審議会においては、平成一九年度の最低賃金について、これまでの審議を尊重しつつ本円卓会議における議論を踏まえ、従来の考え方の単なる延長上ではなく、雇用に及ぼす影響や中小企業の状況にも留意しながら、パートタイム労働者や派遣労働者を含めた働く人の「賃金の底上げ」をはかる趣旨に沿った引上げが図られるよう十分審議されるように要望する。

 ここでの「合意」は、「従来の考え方の単なる延長上ではなく、……『賃金の底上げ』をはかる趣旨に沿った引上げが図られるよう十分審議されるよう」に、というものでした。このような「要望」に応えて、中央最低賃金審議会は加重平均で時給14円増となるような10年ぶりの高水準の答申を出すことになります。
 まさに、厚労省の筋書き通りの結果になったと言って良いでしょう。2月15日の「成長力底上げ戦略(基本構想)(案)」が目指した目標は、このような形で達成されました。
 そのための圧力行使の手段として円卓会議は利用されたわけですが、それは労働側ではなく、経営側を押さえるためのものでした。政策形成における機能としては、経済財政諮問会議や規制改革会議とは逆の役割を果たしたことになります。

 07年12月3日の経済財政諮問会議に、大田経財相は一つの資料を提出しました。「成長力底上げ戦略の推進状況について」という資料です。
 ここには「基本的な考え方と推進体制」として「最低賃金を引き上げるための施策を推進する」と書かれていました。また、「中小企業の生産性向上と最低賃金の引き上げについて」というペーパーには、「第3回円卓会議における政労使の合意(7月9日)」から矢印が引かれ、「中央最低賃金審議会が、今年度の引上げの目安額として前年を大幅に上回る14円(全国加重平均)を答申」「最低賃金法改正法の成立(11月28日)」と書かれています。
 つまり、最賃の引き上げが、経済財政諮問会議によって目指されていたということになります。それは、「成長力底上げ戦略の推進状況」における実績として、明確に意識されていたのです。

 そればかりではありません。この日の会議では、大田経財相が「最低賃金の中長期的な引上げの基本方針について検討を開始する」と発言しています。
 円卓会議で最賃の引き上げを強く主張していた丹羽さんは、「今般成立した改正最低賃金法の趣旨を踏まえつつ、中長期的な引上げの基本方針について、関係者の合意形成を目指すべきである」、「最低賃金法が改正されたが、この実効性が上がるように、地域の特性を反映した労働者の生計費を基準に、かつ生活保護の水準以上でないと労働意欲を減退させかねないという考え方で、適正な水準について関係者の早期の合意形成を目指していただきたい」と念を押しています。
 これに対して、大田さんは「丹羽議員にはメンバーにも入っていただいているので、引き続きよろしくお願いする」と答えていました。この時点で、円卓会議でのさらなる最賃引き上げへの要望は、既定路線になっていたのです。

 こうして、6 月20 日の円卓会議で、「中小企業の生産性向上と最低賃金の中長期的な引上げの基本方針について」の合意が成立しました。それは以下のような内容でしたが、この合意は経済財政諮問会議による後押しを受けたものであり、今年度の最賃の引き上げに向けてもかなりの効果を発揮することになるでしょう。

 最低賃金については、賃金の底上げを図る趣旨から、社会経済情勢を考慮しつつ、生活保護基準との整合性、小規模事業所の高卒初任給の最も低位の水準との均衡を勘案して、これを当面5年間程度で引き上げることを目指し、政労使が一体となって取り組む。





7月3日(木) 注目すべき4つの会議 [骨太の方針]

 昨日のコメントに、いくつもの会議名が出てきて混乱したかもしれません。この機会に、整理しておくことにしましょう。

 第1に、規制改革会議です。小泉構造改革には、総合規制改革会議と経済財政諮問会議という二つの「エンジン」がありましたが、規制改革会議は、総合規制改革会議の後身です。
 総合規制改革会議は2001年4月に設置され、経済財政諮問会議の方は、それよりも早く、1月に設置されています。「改革の司令塔」と言われたのは後者の経済財政諮問会議で、総合規制改革会議はその下に置かれるという位置づけになります。
 総合規制改革会議は2004年に規制改革・民間開放推進会議となり、2年後の06年には規制改革会議になります。総合規制改革会議の構成員は経財界10人、学者5人、規制改革・民間開放推進会議も経済界8人、学者5人、規制改革会議は経済界7人、学者7人、その他1人という構成で、どれにも労働界からの代表は入っていません。

 第2に、経済財政諮問会議です。この会議は橋本内閣による行政改革の成果とされたもので、2001年1月の中央省庁の再編に伴って設けられました。小泉内閣が発足する3カ月前にスタートしていますが、小泉首相は内閣発足後最初に開かれた5月18日の会議で、「経済財政諮問会議は、所信表明演説に盛り込んだ大方針を肉付けするための最も重要な会議と言っても過言ではない」と宣言し、この会議を全面的に活用しました。
 特に重要な意味を持ったのが、毎年6月(06年だけは7月)に出された「骨太の方針」です。予算編成の基本骨格を決める権限を財務省から奪い取ってしまったからです。
 これについて、小泉内閣で主席総理秘書官だった飯島勲さんは、次のように説明しています。

 財務省の力の源泉というのはこういうところにある。単に年末の予算編成でどこに予算を配分するかというだけが財務省の仕事ではない。予算編成の入口から出口までを一貫して押さえることで、経済財政政策の基本骨格、いわば国家運営の基本を担ってきたのが財務省なのである。
 諮問会議の「骨太の方針」は、この「概算要求基準」に先立って決定される。小泉総理は、この「骨太の方針」に、自らの改革の基本的枠組みを具体的に織り込み、それに沿った予算編成方針を作成するようにしたのである。つまり、霞が関の予算編成の歳時記を変え、予算編成の基本方針の決定権を事実上財務省から諮問会議に移したのである。(飯島勲『小泉官邸秘録』日本経済新聞社、2006年、22頁)

 第3に、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議です。この会議の設立経過は、極めて興味深いものです。少し詳しく、その経緯を追ってみることにしましょう。
 06年10月13日、安倍内閣になってから初めてになる経済財政諮問会議が開かれました。この会議で、司会役の経済財政担当相は与謝野馨さんから大田弘子さんに交代し、四人の民間議員も入れ替わり、八代尚宏国際基督教大学教授、伊藤隆敏東京大学教授、丹羽宇一郎伊藤忠商事会長、御手洗冨士夫日本経団連会長が加わりました。
 この4人の民間議員は、新たな経済財政諮問会議の出発に当たって「『創造と成長』に向けて」という資料を提出します。その「『創造と成長』への課題」の二番目として打ち出されていたのが、「労働市場の効率化(労働ビッグバン)」でした。

 この次の会議は10月24日に開かれ、民間議員から「『創造と成長』のための7大重点改革分野」について提案がありました。その二番目は「労働市場改革」で、「労働市場制度の包括的改革(規制改革、機会均等と企業活力の両立等)」「人材育成、人材流動化・多様化促進」「再チャレンジ支援策」という三つの項目が掲げられています。
 そして、「労働ビッグバン」について「集中審議」が行われるのが、11月30日の経済財政諮問会議です。この会議には柳沢厚労相も臨時議員として出席し、「労働市場改革について」という資料を提出しています。
 このとき、八代さんは「労働市場を取り巻く様々な制度を包括的・抜本的に見直す、80年代の金融ビッグバンに対応した『労働ビッグバン』が不可欠である」として、「経済財政諮問会議の下に専門調査会を設け、下記の課題を中心に検討して方向性をとりまとめ、その後の改革につなげてはどうか」と提案しました。この後、「労働市場改革専門調査会」が設置され、八代さん自身が会長に就任します。

 この八代会長の専門調査会は、「労働市場を取り巻くさまざまな壁を克服するために、経済財政運営の大局的な見地から、今後10年程度の中長期的な方向について検討」(第1回会議での会長挨拶)することを目的に、06年12月28日に第1回会議を開き、その後コンスタントにヒアリングなどを進め、08年6月13日の会議で20回を数えています。
 この専門調査会は、2007年4月6日の経済財政諮問会議に第1次報告「働き方を変える、日本を変える―『ワークライフバランス憲章』の策定」を提出し、八代議員が説明しました。それは、期限を区切って数値目標を設定したこと、労働時間短縮の目標が復活したこと、「ワークライフバランス憲章」の策定が提起されたことなど、注目すべき内容です。
 この会議では、厚労省も「労働市場改革について」という資料を提出しており、これを説明した柳沢厚労相は、「就職率の問題については、専門調査会は2017年ということで10年後を目標にしているが、我々は2030年でほぼ同じようなというか、就業率の向上を目指す、そういう見通しを示しており、それでしか労働人口の減を補う方法はないと、私どももこの点を重要視している」と述べています。つまり、このときまで、民間議員と厚労省とは異なった提案をしていたこと、この時点で、専門調査会と厚労省との溝は埋まり、両者の認識は基本的に一致したことが分かります。

 この会議のまとめで、安倍首相が次のように述べたことも重要です。これによって、ワーク・ライフ・バランス論の正統性が確立したからです。

 ワークライフバランスは大切であり、少子化対策等の観点からも重要なテーマであろうと思うので、安倍内閣として本格的に取り組みたいと思う。民間議員から提案のあった「働き方を変える行動指針」について、政府部内で十分連携し、とりまとめることとしたいと思うので、よろしくお願いしたい。

 この安倍首相の指示を受けて、5月24日の男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会中間報告、6月1日の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議中間報告にワーク・ライフ・バランス論が組み込まれます。また、6月19日の「経済財政改革の基本方針2007」(骨太の方針)で、仕事と生活の調和の実現のための憲章および行動指針を策定するという記述が登場することは、すでに述べたとおりです。
 さらに、7月13日には、内閣官房長を議長として、関係閣僚、有識者、経済界、労働界、地方公共団体の代表者などをメンバーとした「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」が設置されます。この会議によって策定されるのが、12月18日に発表された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」でした。
 この「行動指針」が、5年後、10年後に向けて、大変、意欲的な目標を掲げたことは、すでに述べたとおりです。

 第4に、成長力底上げ戦略推進円卓会議です。この円卓会議の元になったのは、安倍前首相が打ち出した「成長力底上げ戦略」でした。07年2月1日、「成長力底上げ戦略構想チーム」によって示された「基本姿勢」には、「いわゆる『格差問題』や『ワーキングプア』の問題に正面から取り組む」とあります。
 そしてこのチームは、2月15日に「成長力底上げ戦略(基本構想)(案)」を出しました。この「基本構想」に基づいて設置されたのが成長力底上げ戦略推進円卓会議で、その第1回会合は、3月22日のことでした。

 この円卓会議が、その後の最低賃金引き上げに大きな力を発揮することになります。長くなりましたので、これについては、また明日書くことにしましょう。




7月2日(水) 「骨太の方針2008」における労働問題の記述の特徴 [骨太の方針]

 いつの間にか、7月に入ってしまいました。もう今年も、後半の半年しか残っていません。

 午後、法政大学多摩キャンパスの教員有志と増田総長との茶話会が開かれました。総合棟5階の総長会議室に、初めて入りました。
 普段は入ることのできない場所です。もったいないですね、もっと使えばいいのに。
 清成元総長や平林前総長とは、総長時代に直接言葉をかわすような機会がありませんでした。今回は、総長が交代して早々に懇談会が開かれましたが、これだけでも大きな変化です。

 というところで、昨日の続きです。今年の「骨太」における労働関係の記述の特徴は以下の点にあります。

 第1に、期間を区切って数値目標を明らかにしていることです。「骨太」には「2010年度までに、若者、女性、高齢者の220万人の雇用充実を目指す」「今後3年間で、①若者について、ジョブ・カード制度の整備・充実、『フリーター等正規雇用化プラン』による100万人の正規雇用化、②女性(25~44歳)について、『新待機児童ゼロ作戦』(平成20年2月27日)の展開等による最大20万人の就業増、③高齢者(60~64歳)について、継続雇用の着実な推進等による100万人の就業増、を目指す」などの記述が盛り込まれています。
 これは、07年12月25日に出された規制改革会議の「規制改革推進のための第2次答申―規制の集中改革プログラム」が示した方向とは、真っ向から異なるものだと言って良いでしょう。というのは、この「第2次答申」は「画一的な数量規制、強行規定による自由な意思の合致による契約への介入など真に労働者の保護とならない規制を撤廃することこそ、労働市場の流動化、脱格差社会、生産性向上などのすべてに通じる根源的な政策課題なのである」と述べていたからです。
 雇用のあり方について、いつまでにどうするという数値目標の設定は、「画一的な数量規制」そのものではありませんが、「第2次答申」の立場からすれば、「自由な意思の合致による契約への介入」に結びつく可能性があり、好ましくないということになるでしょう。今回の「骨太」は、規制改革会議がめざしている「労働市場の流動化」とは、異なる意味合いを持っていたことになります。

 第2に、すでに昨日書いたように、ワーク・ライフ・バランス論が採用されていることです。「骨太」には、「『憲章』3及び『行動指針』4に掲げられた数値目標の達成を目指し、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を推進する」と書かれています。
 ここで示されている「憲章」と「行動指針」というのは、07年12月18日にワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議によって公表された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」のことです。
 ここでも、5年後、10年後という期間を区切って、週労働時間60時間以上の雇用者の割合10.8%を5年後には2割減、10年後には半減にする、年次有給休暇率46.6%を5年後に60%、10年後には完全取得にする、男女の育児休業取得率も女性72.3%、男性0.5%を、5年後にはそれぞれ80%、5%、10年後には80%、10%にするなどという「数値目標」が掲げられていました。

 第3に、厚生労働省が提起した「新雇用戦略」が採用されていることです。「骨太」は、「2010年度までに220万人の雇用の充実を図るため、『新雇用戦略』を推進する」として、わざわざ「平成20年4月23日経済財政諮問会議舛添臨時議員提出資料」と書いています。
 つまり、この「戦略」は、民間議員から出てきたものではなく、厚生労働省から出てきたものなのです。戦略的政策が、民間議員→経済財政諮問会議(骨太の方針)→厚生労働省という経路ではなく、厚生労働省→経済財政諮問会議(骨太の方針)という経路に転換したということになります。
 以前に比べて、民間議員の役割は低下しました。そればかりではなく、ワーク・ライフ・バランス論が民間議員から出てきたように、その主張する方向も、以前とは異なったものになっています。

 ここで注目されるのは、この新雇用戦略とワーク・ライフ・バランス論の関係です。ワーク・ライフ・バランス論が出てくるのは、「第2章 成長力の強化 」の「1.経済成長戦略 」における「具体的手段」としての「Ⅰ 全員参加経済戦略 」の「① 新雇用戦略 」です。そして、この5番目の課題に挙げられているのが、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を推進する」という課題なのです。
 つまり、民間議員によって提案された政策が、厚労省による「新雇用戦略」の一部に組み込まれているという関係になっています。このこともまた、厚労省の復権を示す一つの事実であるといって良いでしょう。

 第4に、最賃引き上げの方向が引き続き明記されていることです。「骨太」に添付されている「別紙」の「戦略実行プログラム」の最後には、「最低賃金引上げに向けた官民一体の取組を推進する」と書かれています。
 最賃引き上げについて、この間の動きは際だっています。一つは、最賃法の改正であり、二つめは、昨年の中央最低賃金審議会(中賃)への成長力底上げ戦略推進円卓会議による引き上げ圧力であり、第3に、今年の成長力底上げ戦略推進円卓会議での最賃引き上げに向けての中長期方針についての合意です。
 いずれも、現行の最賃水準の引き上げを目指すもので、今回の「骨太」はそれにお墨付きを与えるものでした。これは、極めて注目すべき転換です。

 以上に見たように、「骨太の方針2008」は、これまでの労働分野での規制緩和方針を大きく転換するものになっています。それは、今、初めて出てきたのではありません。
 このような転換が実現するまでには、一定の経過がありました。それが始まったのが06年だったのです。
 すでに、これまで書いてきたような「06年の転換」仮説を前提にしつつ、この「骨太の方針2008」の背景を、もう少し検討してみることにしましょう。

 ということで、この続きは、また明日……。


7月1日(火) 「骨太の方針2008」における大きな変化 [骨太の方針]

 昨日に引き続き、「骨太の方針2008」について、コメントさせていただきます。労働に関わる記述の前に、まず、全体を通じて気がついた大きな変化について指摘しておきましょう。
 それは、3つの用語が本文の記述から姿を消しているということです。3つの用語というのは、「構造改革」「民間開放」、そして「労働市場改革」です。

 第1に、「構造改革」という用語は、すでに07年の表題から消えていました。今回は、注での引用を除いて、表題だけでなく本文の記述からも姿を消しました。
 ちなみに、過去の「骨太の方針」の表題は、以下のようになっています。

01年(小泉内閣) 今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針
02年(小泉内閣) 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002
03年(小泉内閣) 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003
04年(小泉内閣) 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004
05年(小泉内閣) 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005
06年(小泉内閣) 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006
07年(安倍内閣) 経済財政改革の基本方針2007~「美しい国」へのシナリオ~
08年(福田内閣) 経済財政改革の基本方針2008 ~開かれた国、全員参加の成長、環境との共生~

 第2に、「民間開放」という言葉は、07年の「骨太」までは用いられています。たとえば、「官の事務・事業の見直し、民間開放」「規模の大きな独立行政法人等を順次、個別に取り上げ、事務・事業の見直し、民間開放を推進する」「統計調査の民間開放を促すためのガイドラインの改定等」など、3ヵ所に出てきています。
 しかし、今年の「骨太」には、この用語は1ヵ所も出てきていません。

 第3に、「労働市場改革」という用語も、今年の「骨太」からは姿を消しました。「労働市場」という用語は、最初の「骨太」である2001年版に、「労働市場の構造改革」という形で登場しています。
 しかし、その後の「骨太」では、この用語は用いられていません。それが、久々に復活したのが、07年版です。
 しかも、「第2章 成長力の強化」の「1.成長力加速プログラム」の3番目「成長可能性拡大戦略」の「3.労働市場改革」という順番ですから、かなり高い位置づけだったことが分かります。

 ここには、「人口減少下で貴重な人材がいかされるには、すべての人が働きがいと意欲を持ち、自らの希望に基づいて安心して働けることが重要である。その観点から、複線型でフェアな働き方の実現に向けた労働市場改革に取り組む」と書かれていました。そのための【改革のポイント】として、2点指摘されています。
 ここで注目されるのは、最初に「働き方の改革の第一弾として、仕事と家庭・地域生活の両立が可能なワーク・ライフ・バランスの実現に向け、『ワーク・ライフ・バランス憲章』(仮称。以下、『憲章』という。)及び『働き方を変える、日本を変える行動指針』(仮称。以下、『行動指針』という。)を策定する」として、「ワーク・ライフ・バランス」が打ち出されていることです。
 これに続いて、「労働市場改革について引き続き検討を進める」という簡単な記述があります。つまり、「労働市場改革」という用語は復活したものの、それは主として「ワーク・ライフ・バランス」の方だったのです。
 「具体的手段」としても、労働市場改革は2番目で、しかも「専門調査会において、冒頭の趣旨を踏まえて労働市場改革をめぐる課題について引き続き検討を進め、その報告等を踏まえ、経済財政諮問会議で議論を行う」と書かれていたにすぎません。「具体的」な内容はありませんでした。

 この時点で、重点の移動があったことは明らかです。「労働市場改革」から「ワーク・ライフ・バランス」への重点移動です。
 しかも、後者の「ワーク・ライフ・バランス」については、その後、「具体化」が進みます。他方、「労働市場改革」についての「報告等」が出された形跡はありません。
 そして、今年の「骨太」では、引き続き「ワーク・ライフ・バランス」についての記述があります。しかし、「労働市場改革」という用語の方は、姿を消してしまったのです。

 この最後の点は、労働問題についての他の記述とも関わります。改めて、検討することにしましょう。

 なお、前にお知らせしました拙著『反転の構図-労働の規制緩和をめぐって(仮題)』(ちくま新書)の刊行時期が決まりました。10月刊行の予定だそうです。
 楽しみに、お待ち下さい。


6月30日(月) 「骨太の方針2008」における雇用・労働問題についての記述 [骨太の方針]

 土曜日に、全労働結成50周年記念フォーラム「人間の尊厳をとりもどせ-今こそ『働くルール』の確立を」に行ってきました。記念講演とシンポジウムに関心があったからです。

 前半の記念講演は、田端博邦先生の「世界を覆うグローバリゼーションと対抗軸-労使関係の国際比較と日本」というテーマでした。田端先生とは、一昨年の秋、大分大学の学会で一緒に報告し、その際、別府で温泉に入ってきた間柄です。
 また、私は、今週の木曜日(7月3日)に、全水道会館で開かれる「全労協『G8サミットにもの申す』7.3労働者集会」で講演することになっています。その材料を仕込むことができるかも知れないという下心もありました。
 後半のシンポジウムでは、首都圏青年ユニオン書記長の河添誠さん、朝日新聞労働グループデスクの林美子さん、龍谷大学の脇田滋教授の3人が「労働者使い捨て社会に立ち向かう」というテーマで報告されました。

 東京農工大出身の河添さんは、実は私の「教え子」です。以前、東京農工大学で非常勤講師として政治学を講義していたからです。
 その頃、政治改革問題や小選挙区制についての講演をしたことがありましたが、それを準備したのも河添さんたちだったそうです。「成績はBでしたよ。でも、ほとんど授業には出ていませんでしたから、しょうがありませんね」と仰います。
 過去の評価はどうあれ、現在の河添さんは私の「教え」を立派に実践されています。今なら、間違いなく「A」をさし上げるところです。

 というところで、昨日の続きです。「骨太の方針2008」で、雇用・労働問題がどう扱われているかを見てみましょう。
 まず、「骨太」の中で、関連する部分を抜き出してみましょう。それは、以下のような部分です。

 第一に、働き手であり、稼ぎ手の立場からは、意欲あるすべての人に、働く場と職業能力を開発する機会が与えられること、また、公正に能力が評価され、所得が分配されることが重要である。(2頁)

① 新雇用戦略
働く意欲のあるすべての人々が年齢、性別や世帯の構成、就業形態にかかわりなく能力を発揮する「全員参加の社会」を実現するため、個々のニーズに応じたきめ細やかな支援施策に政府を挙げて取り組み、2010年度までに、若者、女性、高齢者の220万人の雇用充実を目指す。
・ 今後3年間で、①若者について、ジョブ・カード制度の整備・充実、「フリーター等正規雇用化プラン」による100万人の正規雇用化、②女性(25~44歳)について、「新待機児童ゼロ作戦」(平成20年2月27日)の展開等による最大20万人の就業増、③高齢者(60~64歳)について、継続雇用の着実な推進等による100万人の就業増、を目指す。(5頁)

・ 国・地方・労使を始めとする社会全体の取組により、「憲章」3及び「行動指針」4に掲げられた数値目標の達成を目指し、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を推進する。(6頁)

⑤ 「健康現役社会」への挑戦
・ 高齢者の雇用・社会参画の機会拡大のため、「新雇用戦略」を推進する。
・ 企業OBを始めとする高齢者の豊かな知恵と経験を、中小企業や地域社会、海外にいかすための取組を進める。(26頁)

 以上は本文に書かれていることです。このほかに、「別紙」として、「戦略実行プログラム」が添付されており、その「1.全員参加経済戦略」の最初に、「(1)『新雇用戦略』の推進」が掲げられ、その冒頭には次のように書かれています。

(1)「新雇用戦略」の推進
 厚生労働省及び関係省庁は、2010年度までに220万人の雇用の充実を図るため、「新雇用戦略」を推進する。具体的には、今後3年間を「集中重点期間」として、「新雇用戦略について」(平成20年4月23日経済財政諮問会議舛添臨時議員提出資料)を基本とした取組を行う。

 以下、(ア)若者、(イ)女性、(ウ)高齢者についての「実行プログラム」が明記されています。そして、これに続く文章は、次のようになっています。

(エ) 障害者等について、「『福祉から雇用へ』推進5か年計画」(平成19年12月26日)に基づき、着実に就労による自立を図る
(オ) 仕事と生活の調和の実現、テレワーク拡大のための環境整備、パート・派遣・契約社員等の正社員化支援の強化、正社員以外の待遇改善、地域雇用対策、中小企業事業主の雇用維持努力に対する支援強化など人材面からの中小企業支援、介護人材の確保・定着等を通じ、安定した雇用・生活を実現し、安心・納得して働くことのできる環境を整備する
(カ) 働くことが不利にならない税制・社会保障制度の構築に取り組む
(キ) 生産性向上と最低賃金引上げに向けた官民一体の取組を推進する

 以上が「骨太の方針2008」に書かれている内容です。その特徴は、どのような点にあるのでしょうか。

 これについては、また明日……。



6月29日(日) 「骨太の方針2008」が発表された [骨太の方針]

 27日の閣議で決定された「骨太の方針2008」が発表されました。早速、経済財政諮問会議のホームページに公表されています。
 「経済財政改革の基本方針2008~開かれた国、全員参加の成長、環境との共生~」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0627/item1.pdfが、それです。

 これについて、『朝日新聞』は「『骨太の方針08』を閣議決定 歳出削減で与党に火種」という見出しの下、次のように報じています。

 政府は27日夕の臨時閣議で、経済財政運営の方向性を示す「骨太の方針08」を正式決定した。小泉政権から続く歳出削減路線の維持をうたったが、与党の要望に応じて社会保障や教育などの分野で歳出増につながりそうな項目が盛り込まれ、年末にかけての予算編成に火種を残した。
 骨太08には、福田首相が重視する道路特定財源の一般財源化や、地球温暖化に対処する「低炭素社会の構築」、少子高齢化が進む中での経済成長戦略などが並んだ。だが、具体策は今後の調整にゆだねられたものも多い。今後の焦点は、道路財源改革と社会保障費の抑制だ。
 道路特定財源については、「生活者の目線で使い方を見直す」と骨太08に明記された。首相は医師不足対策や救急医療体制整備に予算を回すことを表明している。だが、まとまった財源をひねり出すには道路関連予算の大幅な削減が必要だ。
 社会保障費の抑制方針にも、与党議員から反発の声が相次ぐ。これまでの歳出削減による弊害に議論が集中するあまり、必要な効率化まで進まなくなれば、予算編成の過程で歳出削減目標が有名無実化するおそれもある。
 大田経済財政相は臨時閣議後の記者会見で「(歳出削減路線の維持など)守るべきは守れたと思う。だが、税制改革の議論をはじめ年末の予算編成までいくつも山場がある。激しい風雨が続くのではないか」と話した。

 また、『読売新聞』も次のように報じています。記事の見出しは、「骨太の方針、『福田色』打ち出せず…財源調整先送り」というものでした。

 福田首相は27日夜、就任後初めて自らまとめた「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)2008」について、「成長力強化や、低炭素社会実現、国民生活を重視する行政の方向性を示した。
 これらは就任後、ずっと考えてきた課題だ。それをこれから実現する」と語り、福田政権としての基本姿勢を初めて反映させたとの考えを強調した。
 今回の「方針」は、道路特定財源を一般財源化し、「生活者の目線で使い方を見直す」と明記。行財政改革を進めつつ、地球温暖化対策、少子化対策、教育などで積極的に施策を展開する考えを示した。「開かれた国、全員参加の成長、環境との共生」との副題は、首相自ら決めたという。
 だが、自民党内からは、「皆の意見を入れただけで総花的だ」(党総務の1人)との冷ややかな声が出ている。医師不足の解消や政府開発援助(ODA)の倍増など、財源調整を年末の予算編成に先送りした懸案も多く、実際には「福田色」を鮮明に打ち出せたとは言いがたい。
 政府・与党内では、社会保障や公共事業、教育など、調整の難航が予想される分野での歳出について、「年末の予算編成で対応する」(自民党の二階総務会長)とする意見が出ており、火種は残っている。

 ホームページに公表された「骨太の方針2008」の長さは、39ページになっています。これは、小泉内閣時代の平均37ページよりは多少長めですが、55ページもあった安倍内閣時代の「骨太方針2007」よりは、かなり短くなっています。
 ということは、それなりにトップダウンで書かれたということを示しているのでしょうか。というのは、文書の長さについて、竹中平蔵さんが次のように書いているからです。

 2007年6月に発表された「骨太方針2007」は、過去5回の「骨太方針」に比べるとかなり長く、55ページもある。最初に私がつくった「骨太方針2001」は37ページ、最も短い「骨太方針」は30ページで、第1回目から第5回までの骨太方針の平均は37ページなので、およそ1・5倍の長さということになる。
 この長さに「骨太方針2007」の特徴がまさに現れている。要するにトップダウンで書いていないということだ。各省庁が持ち寄った文案をボトムアップ型にまとめて束ねているので長くなる。(竹中平蔵『闘う経済学―未来を作る[公共政策論]入門』集英社インターナショナル、2008年、210頁)

 ただし、トップダウンではあっても、その「トップ」とはどこなのかということが問題です。経済財政諮問会議を仕切っている大田さんなのか、自民党なのか、それとも福田首相自身なのでしょうか。
 というのは、かつて経済財政諮問会議の裏方だった高橋洋一さんが、著書の中で次のように書いているからです。

 諮問会議から党へ――2005年11月、政策立案のパワーシフトが起こり、様相は一変した。
 ……
 諮問会議は激しい地盤沈下を起こし、有名無実化する一方で、党政調が急上昇した。この過程で、次第に加熱したのが、自民党内の“上げ潮派”と“財政タカ派”の論議である。
 上げ潮派と財政タカ派のゴールは財政再建で、同じではあるが、アプローチがまるで違う。経済のどこに力点を置くかが、決定的に異なる。
 ……
 「骨太の方針2006」にも、諮問会議の意向はほとんど反映されなかった。党の政調でつくった案がカセットではめ込まれただけで、上げ潮派の施策だけが採用された格好となった。
 財政タカ派は当初、自民党財政改革研究会(与謝野馨会長)をつかって、「骨太の方針2006」を否定しようと動いたが、それを察知した小泉総理に「骨太の方針2006は堅持」と釘を刺され、策略は失敗に終わった。財政タカ派にしてみれば完敗である。(高橋洋一『さらば財務省!-官僚すべてを敵にした男の告白』講談社、2008年、164~168頁)

 大田さんは、竹中さんの仲間ですから、基本的に「上げ潮派」と見て良いでしょう。「消費税増税」に積極的な福田さんは、「財政タカ派」なのでしょうか。
 この間の福田さんの発言の揺れについても、この両派の間で動揺していると見ることができるのか、「3歩前進、2歩後退」戦術で、消費税増税に向けての準備だと見た方がよいのか、評価が分かれています。

 『朝日新聞』は、一方では「小泉政権から続く歳出削減路線の維持をうたったが」、他方では「与党の要望に応じて社会保障や教育などの分野で歳出増につながりそうな項目が盛り込まれ、年末にかけての予算編成に火種を残した」と書き、『読売新聞』も、「財源調整を年末の予算編成に先送りした懸案も多く、実際には『福田色』を鮮明に打ち出せたとは言いがたい」と指摘しています。
 結局、どちらとも言えないということのようです。大田さんも、「守るべきは守れたと思う」と言いながらも、「激しい風雨が続くのではないか」と述べたそうですし……。
 『読売新聞』は「火種は残っている」と書いていました。年末にかけて、この「火種」が燃え上がるということなのでしょうか。

 なお、『日経新聞』は、「中身が薄い」、「改革の要になるようなところでは、腰が引けている」と批判しています。また、作成の過程では 「政府の『防戦』が目立った」と苦言を呈し、「経済成長戦略もすっかり影が薄くなった」と嘆いています。
 そして、「小泉政権のもとでは『改革のエンジン』と位置づけられた経済財政諮問会議と骨太方針。存在感が低下しつつある背景には政治情勢の変化もある」としながらも、次のようにハッパをかけています。

 骨太方針を構造改革の舞台回しに使った小泉純一郎元首相の時代とは、政治状況が違うのは確かだ。だが当時と同じ危機感を共有し、骨太方針の原点に戻って構造改革を急ぐ必要がある。

 このように、「骨太の方針2008」に対しては、基本的には財政問題や経済成長戦略などが注目されています。「経済財政改革」についての「基本方針」ですから、それも当然でしょう。
 しかし、私としては、もう一つ、注目したい部分があります。それは、この「骨太の方針2008」の中で、雇用・労働問題がどう扱われているのか、どのような方針が出されているか、という点です。
 これについては、明日、検討することにしましょう。


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