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2月3日(土) 2017衆院選の分析と今後のたたかい(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊全労連』No252、2018年2月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 突然の解散・総選挙だった。安倍首相の意向が報じられたのが9月17日で解散が28日、公示は10月10日で投票が22日。稀に見るあわただしい総選挙だった。どうして突然、解散する必要があったのか。その理由は最後まで明確にならなかった。「大義なき解散」と批判されたのも当然である。
 このあわただしさに輪をかけたのが、小池百合子東京都知事による新党「希望の党」の結成表明に始まる野党内での混乱だった。こうして「小池劇場」の幕が開いた。しかし、「排除の論理」によって舞台は暗転し、民進党は分裂、立憲民主党が登場する。「信義なき再編」による混乱が静まる暇もなく、22日の投票日が迎えられた。
 衆院選の結果は、表1(省略)のとおりである。自民党は284議席、公明党は29議席で、与党は313議席と300議席の大台を確保し、安定過半数の維持に成功した。野党は大きく明暗が分かれ、第一党の立憲民主党は55議席に躍進したが、第二党以下の希望の党は50議席、日本共産党は12議席、日本維新の会は11議席に後退し、社会民主党は2議席を維持した。このほか、無所属が22議席になっている(図1=省略)。
 各政党の選挙期間中の勢いの変化を示すために、ここでもう一つの表2(省略)を示したい。中盤の情勢と選挙結果とを比べたものである。この表を見てわかることは、立憲民主党の勢いのすごさだ。この勢いに呑み込まれるような形で、希望(-6)、共産(-3)、自民(-2)、維新(-1)の各党が、予測よりも議席を減らしている。
 選挙戦の中盤から後半にかけて、立憲民主党の「ブーム」が生じたということだろう。強力な「追い風」が吹いて議席が上積みされたことが分かる。
 今回の選挙では、新たに結成された立憲民主党と無所属だけが議席を増やした。予測との比較を見ても、その勢いを知ることができる。選挙の勝敗ということで言えば、立憲民主党こそが唯一の勝者だった。ここに、今回の総選挙の最も大きな特徴が示されている。
 このような結果をどう見たらよいのか、「劇場型選挙」の舞台の上で何が演じられ、その幕の影でどのような動きがあったのか。その内容と意味を明らかにし、選挙後の課題についても若干の検討を行うことにしたい。

1、 与党は「勝った」のか

 〇自民党の延命と「勝因」

 選挙後の新聞各紙の見出しには、「自民圧勝」「自民大勝」の文字が躍った。自民党は単独で過半数を制し、与党でも3分の2の多数を維持している。政権基盤の安定という当初の目標を達成したのだから、負けたわけではない。しかし、選挙後の安倍首相の表情には、勝利感や高揚感が意外なほど感じられなかった。それは、自民党が支持を増やして「勝った」わけではないからである。
 図2(省略)は、衆院選での自民党の獲得議席数と絶対得票率を示している。これを見ればすぐに分かるように、自民党の獲得議席は2005年の小泉郵政選挙での296議席がピークだった。その後、政権を失った09年総選挙で119議席と惨敗する。12年総選挙で政権に復帰したが、獲得議席は293議席で05年総選挙に及んでいない。
 その後も、14年総選挙では291議席で2議席減、今回の17年総選挙では284議席と7議席減になっている。過去3回の総選挙で、自民党の獲得議席は増えていない。今回は定数が10議席削減されたので単純な比較はできないが、ほぼ現状維持にすぎなかった。
 なお、今回の自民党の獲得議席のうち、比例代表・東海ブロックでの1議席は立憲民主党の候補者が足りなかったために当選したもので、本来であれば自民党の獲得議席は283であった。
 小選挙区での自民党の得票数を有権者総数で割った絶対得票率の変動でも、ピークは05年になっている。政権を失った09年総選挙で大きく減らしているが、政権に復帰した12年総選挙でもさらに減っている点が注目される。自民党は議席を回復したが、有権者内での支持の割合は減っていたのである。この割合は12年総選挙で横ばい、今回の17年総選挙で多少上向いているが、大きな変化ではない。過去3回の総選挙での絶対得票率はほぼ25%で、有権者の4人に1人しか自民党に投票していない。
 それなのに「圧勝」「大勝」などと報じられるような成績が残せたのは、大政党に圧倒的に有利な小選挙区制のためである。この選挙制度のカラクリと恩恵は、対抗する野党が分裂しているときに増大し、統一しているときには減少する。与野党の対決構図が1対1になれば、小選挙区制の害悪を減らすことができる。だからこそ、このような対決構図を作ろうとして市民と野党は共闘をめざしたのである。
 しかし、このような共闘体制は十分に構築できなかった。今回の総選挙でまたもや自民党が「大勝」した根本的な要因はこの点にある。

 〇安倍首相による「疑似餌」と野党の「敵失」

 「衆院選の結果には驚きませんでした。自民党が勝ちましたが、それは他の政党のオウンゴールが原因。野党同士がまるで共食いをしているようでした。」
 日本外国特派員協会(FCCJ)会長でシリア出身のカルドン・アズハリ氏は、こう言っている。多くの日本人の報道関係者の感想も似たようなものだろう。政府寄りの『産経新聞』の石橋文登編集局次長兼政治部長も、次のように指摘している。
 「事前調査では、民進、共産両党が共闘すれば自民党は50議席超を失う公算が大きかった。そうなれば憲法改正は水泡に帰す。それどころか総裁3選に黄信号が灯(とも)り、政権運営もおぼつかなくなる。……ところが、9月25日の首相の解散表明に合わせて、小池百合子東京都知事が『希望の党』を旗揚げした。28日には民進党が希望への合流を決めた。……小池氏が『排除の論理』を唱えたことにより、民進党は希望の党、立憲民主党、無所属の3つに分裂。期せずして自民党が『無敵』となる枠組みが生まれたのだ。しかも小池氏は出馬を見送り、希望の勢いは急速に衰えた。……振り返ってみれば敵失による勝利といえなくもないが、政権与党が圧倒的な勢力を得た意義は大きい。」(『産経新聞』2017年10月23日付)
 このように小選挙区における自民党の「勝因」は明らかだ。それは小池都知事による希望の党の結成と「排除の論理」をきっかけにした野党の分断にあった。このような「敵失」によって、小選挙区制が持っているカラクリと恩恵が増幅させられたからである。
 しかし、自民党は比例代表でも1856万票を獲得し、90万票も増やすなど健闘している。その要因として考えられるのは、第1に、客観的な背景としての北朝鮮危機と経済状態である。北朝鮮の金正恩政権による核開発とミサイル発射実験に国民は不安を高めていたうえに安倍首相はそれを煽りたてた。また、景気の状況も「いざなぎ超え」がささやかれるような一定の回復状態にあり、株価も「官製相場」による高進を続けていた。国民の実感を伴うものではなかったとはいえ、安倍首相が数字を挙げて「景気回復」を強弁できる程度の経済状態だったことは事実である。
 第2に、このような客観的背景を利用して、安倍首相は「疑似餌」をまいた。一定の有権者はこれに食いついて釣り上げられたのである。解散の「大義」として北朝鮮危機への対応や消費増税による増収分の使途変更を打ち出し、若者の教育と子育て支援に力を入れ、高齢者重視から全世代型に社会保障のあり方を変えると約束した。これがある程度、青年層や若いママの期待を集めたのである。
 第3に、「小池劇場」によって混乱に陥った野党の状況は、小選挙区だけでなく比例代表の得票にも微妙な影響を与えた。北朝鮮危機に不安を高めた国民は「信義なき再編」に嫌気がさし、離合集散を繰り返す野党よりも安定した政権の方がましだという意識を強めたのではないだろうか。そこに安倍首相は付け込み、北朝鮮の脅威を煽って政権安定のメリットを強調した。
 他方で、選挙直前に大きな問題となっていた「森友」「加計」学園疑惑には口をつぐんで「丁寧な説明」を回避し、「政治の私物化」という批判を無視した。9条改憲についても、選挙公約の重要項目に掲げたものの街頭演説で触れることはほとんどなかった。重要な争点を隠しての選挙戦術に徹したのである。このような「争点隠し選挙」も、自民党の「勝因」の一つだったと思われる。

 〇「全勝神話」が崩れて「敗北」した公明党

 現状維持に成功した自民党と比べて、公明党の状況は厳しいものだった。公明党は改選前の34議席から5議席減となって29議席にとどまったからだ。総選挙が公示される直前の10月3日、樋口尚也前衆院議員が女性問題で離党して公認を辞退しているから、実際には6議席減になる。
 小選挙区では神奈川6区に立候補した当選7回の前職が敗れて議席を失った。政権交代を実現した2012年選挙以来の小選挙区での全勝がストップするという思いもかけない結果だった。「全勝神話」の崩壊である。
 図3(省略)は公明党の比例票と議席数の推移を示している。これを見れば、今回の結果がいかに大きな「敗北」であったかが分かる。比例代表では前回731万票だった得票数が今回は698万票となり、700万票を下回った。これは自民党と選挙協力を始めた2000年衆院選以降、初めてのことで、13回にわたる衆院選と参院選での最低である。
 獲得議席数でも、民主党ブームによって与党の座を失った09年選挙の21議席に次ぐ少なさになっている。この2回以外、30議席を下回ったことは一度もなかった。これは公明党にとって大きなショックだったにちがいない。
 この結果について、公明党は総選挙総括の原案で、安倍首相を強く支持する姿勢や憲法論議での対応が支持者の不信感や混乱を招いたと指摘していた。斉藤鉄夫選対委員長は、①準備時間の不足、②野党再編で公明党の存在感が埋没した、③当時の現職2人に女性問題が相次いで発覚したことなどを敗因に挙げている。
 党内や創価学会には、特定秘密保護法や安保法の制定、共謀罪の新設などをめぐって「平和の党」を掲げる公明党が安倍首相サイドに押し込まれてきたという不満があるようだ。衆院選で立憲民主党が注目され、「中道やリベラルな政策に期待した無党派層が流れた」(創価学会関係者)という見方も出ており、公明党関係者は「自民に引きずられ続けると、いずれ党内や支持者の不満が爆発しかねない」と指摘している(『毎日新聞』2017年11月11日付)。
 ただし、自民党との距離の取り方は簡単ではない。小選挙区で自民党を応援する見返りに、比例は公明党に投票してもらうように求めているからだ。今回の結果についても、都議選で小池都知事の都民ファーストの会と選挙協力したために自民党側にわだかまりが残り、衆院選に尾を引いたという見方もある。
 安倍首相は自衛隊の存在を明記する改憲を提案しており、公明党は慎重な構えを崩していない。今回の選挙結果は、安倍9条改憲に対する公明党の対応についても微妙な影響を与える。態勢の立て直しを目指す公明党の指導部にとっては、これが大きな試金石になるにちがいない。

 〇小選挙区制の問題点と克服への道

 今回の総選挙では、改めて小選挙区制の問題点が浮上した。そのカラクリと恩恵によって自民党が「勝利」したことは、すでに指摘した通りである。これに関連して、さし当り2点指摘しておきたい。
 その一つは、得票数と議席数の大きなかい離である。今回の選挙での自民党の得票率は小選挙区で47.82%、比例代表では33.28%であった。しかし、議席占有率は小選挙区で74.4%へと跳ね上がり、30ポイント近くの増である。比例代表の場合には37.5%で、4ポイントほどしか増えていない。
 小選挙区の場合、4割台の得票率で7割台の議席を獲得している。この結果、莫大な「死票」が生まれ、大政党の議席が膨れ上がり、有権者の投票行動が歪められ議席に反映されなくなる。このような歪みが選挙への信頼を失わせ、投票率の低下を招いているのではないだろうか。
 もう一つの問題は、今回新たに明らかになった選挙区割りの混乱である。一票の価値の平等を実現するために選挙区割りの変更がなされ、行政区画や生活圏とは無関係に線引きが行われたために大きな混乱を招いた。しかも、今回は突然の解散でもあったために、この混乱に拍車がかかったように見える。
 このような投票価値の平等を実現するための区割りの変更は、今後も繰り返されるにちがいない。選挙区の人口は固定されず、その流動化と人口構成の変化は避けられないからである。一票の価値の平等を保障する点でも、小選挙区制は極めて不合理で不適格な制度なのだ。
 このような問題を解決するためには、制度を変えなければならない。得票率に獲得議席が連動する比例代表制に変えれば、このような問題は解決する。さし当り、全国11ブロックの比例代表はそのままに、小選挙区を廃止してその定数をそれぞれのブロックの比例代表定数に加算すればよい。
 もし、現行の制度が変わらないとすれば、得票数と議席数の大きなかい離によって自民党が常に優位に立つ状況の方を変えなければならない。そのために、唯一有効な方法は野党間の選挙協力である。小選挙区で与党と野党が1対1で対峙するような状況を作ることができれば、圧倒的に与党が有利になる現行制度の欠陥を一定程度是正することが可能になる。
 しかし、その場合でも選挙区割りの見直しと、それに伴う混乱は解決できない。今後、人口減少が進み、さらに人口分布は変化するにちがいない。その影響を最小限にとどめるための選挙制度の変更、すなわち小選挙区制の廃止はいずれ避けて通れなくなるだろう。

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