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12月27日(水) 試練を乗り越えて刷新された野党共闘 [論攷]

〔以下の論攷は、2017年・勤労者通信大学・通信『知は力 基礎コース6』に掲載されたものです。〕

 はじめに

 10月22日投票の総選挙は自民党が過半数を制し、自公の連立政権の継続と安倍首相の続投が決まりました。その特徴を一言で言えば、「大義なき解散」と「信義なき再編」です。解散に当たって、安倍首相は明確な「大義」を掲げることができず、野党は小池百合子東京都知事による新党「希望の党」の立ち上げによって翻弄され、「信義なき再編」による大混乱に陥りました。
 今回の総選挙の最大の教訓は、「活路は共闘にあり」ということがまたもや証明されたということにあります。民進党が分裂して新党「立憲民主党」が登場し、大きく躍進して唯一の勝者となりましたが、それは市民と立憲野党との共闘の蓄積がなければ不可能でした。そのあおりを食う形で共産党が埋没することになり、議席を減らして後退したのは残念でしたが、野党共闘の維持と刷新のための「生みの苦しみ」だったのではないでしょうか。
 総選挙直前に野党第一党が姿を消すという逆流が発生したにもかかわらず立憲勢力全体が前進できたのは、共闘に向けての市民と立憲野党との地道な努力と、そのために候補者を降ろした共産党の自己犠牲的な対応のお陰でした。共闘せずバラバラでたたかえば負けるけれども、共闘すれば勝つ展望を切り開くことができるのです。
 野党共闘への逆流が発生し、混乱のるつぼの中から新たな共闘の姿が浮かび上がった総選挙でした。その意味と教訓を明らかにし、今後の展望を探ってみたいと思います。

 維持された政権基盤

 まず自民党です。今回の総選挙で自民党が獲得したのは284議席で、単独過半数を維持しました。ただし、これは比例代表東海ブロックで立憲民主党の候補者が足りなかったために1議席加算されたものです。本当であれば283議席で、改選を1議席下回っています。前回の14年総選挙で獲得した291議席と比べれば、8議席減となります。定数が10削減されていますから、ほぼ現状維持です。
 自民党の有権者対比での得票率(絶対得票率)は小選挙区で約25%、比例代表でも約17%と横ばいになっており、微増したにすぎません。小選挙区で有権者の4分の1ほどの支持しかないのに4割台の得票率で6割台の議席を獲得したのは、野党がバラバラであるために「漁夫の利」を占めることができたからです。
 このような小選挙区制のカラクリを打ち破るために野党は共闘を模索してきましたが、選挙直前の希望の党結成を契機に共闘が分断されてしまいました。いわば野党は「オウンゴール」を繰り返し、自民党はこの「敵失」に助けられて「得点」を重ねることができたのです。
 また、北朝鮮危機への国民の不安、外見上の実感なき景気回復、野党の混乱への嫌気と不信、教育費の無償化や子育て支援という「疑似餌」への期待感などもあって、自民党は比例代表でも票を伸ばしています。この結果、政権基盤は維持されました。安倍首相がめざす9条に自衛隊を明記する改憲(安倍9条改憲)路線がリセットされ、容易ならざる危険水域に入ったことは明らかです。
 他方、もう一つの与党である公明党はかつてない敗北を喫しました。当選は29議席にとどまり、与党の地位を失った2009年総選挙以来の少なさです。改選議席から5議席減ですが、公示直前に1人離党していますから、事実上6議席の減少です。小選挙区で1人落選させ、比例代表でも初めて700万票を割り、2000年以来の最低となっています。
 この結果について公明党は、十分に存在感を示せなかったからだと総括しています。党内や支持団体である創価学会内では、安倍首相に追随しすぎたのではないかとして、「ブレーキ役」を果たしてこなかったことへの不満や反省があると言われています。

 明暗を分けた野党

 これに対して、野党は明暗を分けました。民進党は4つに分裂し、衆院議員は希望の党・立憲民主党・無所属の会に分かれ、参院議員と地方議員は民進党に残留しています。このうち、枝野幸男民進党代表代行が立ち上げた立憲民主党は改選15議席を3倍以上に増やして55議席と大きく躍進しました。
 他方、小池都知事が結成して「台風の目」と見られた希望の党は、改選57議席を下回る50議席にとどまりました。都議選の再現を恐れた前原誠司民進党代表による「なだれ込み」路線が小池都知事による「排除の論理」によって不発に終わり、それまで吹いていた「追い風」が「逆風」に変わってしまったからです。
 小池都知事による「劇場型選挙」の混乱と立憲民主党の結成によって大きな影響を受けたのは他の野党も同様です。日本維新の会代表の松井大阪府知事は大村愛知県知事や小池都知事地ともに「三都物語」を演出して小池人気への便乗を図ろうとしました。しかし、これは不発に終わり、改選14議席に対して11議席にとどまっています。
 野党の中でも、特に大きな打撃を受けたのは共産党です。改選21議席を9議席下回る12議席となって、大きく後退しました。旧民主党の裏切りに失望して離れた支持者や革新系無党派層の支持を集め、共産党は2013年以降、都議選と参院選、14年の衆院選、15年の参院選、そして先の都議選と、大型選挙での5連勝を続けてきました。しかし今回、これらの支持者は共産党を離れて立憲民主党になだれ込んだように見えます。
 加えて、67小選挙区で候補者を取り下げて83小選挙区で候補者を擁立しなかったために、政見放送や選挙カーの運行台数などで制約が生まれました。選挙戦の序盤で市民と野党の共闘の立て直しのために小選挙区対応に追われ249選挙区で一本化しましたが、他方で比例代表での取り組みが手薄になったかもしれません。公示以降、比例代表に力を入れるようになりましたが、遅きに失したようです。

 野党共闘の再生と刷新

 こうして、野党内の状況は大きく変わりました。しかし同時に、そのことによって新たな局面が切り開かれ、市民と立憲野党との共闘も大きく刷新されています。これは今後に望みを託すことのできる重要な成果でした。
 第1に、立憲民主党の立ち上げと躍進、希望の党に参加しなかった無所属候補などの当選のために、市民と立憲野党との共闘の経験と蓄積が大きな威力を発揮したことです。新党の立ち上げは「枝野立て」という市民の声に押されてのものでした。それを支え、躍進を実現したのも共闘の力です。とりわけ、沖縄、北海道、新潟、岩手、長野、佐賀などでは、市民と立憲野党の共闘が維持され、重要な成果を上げました。
 第2に、このような形で登場した立憲民主党が野党第一党になったことです。一連の再編劇によって立憲民主党は旧民主党や民進党にへばりついていた「負のイメージ」を払拭し、政策を前進させることに成功しました。市民や他の立憲野党と共に歩むことのできる新たな野党第一党が登場し、「反安倍」の有力な「受け皿」となる可能性が出てきたのです。安倍首相が「信任された」とばかりに強引な政治運営を続ければ、「他よりはよさそう」という消極的な支持が離れ、立憲民主党に吸収されていくにちがいありません。
 そして第3に、共闘立て直しの過程で相手とのリスペクトや信頼、新たな人間関係や深い付き合いが生まれたことです。逆流に直面した市民は直ぐに態勢を立て直して政策合意や可能な形での共闘の実現に努めました。自分の頭で考えて事態の変化に対応し、新しい経験と実績を積み重ねてきたのです。その経験と教訓を大切にし、国政選挙だけでなく地方選挙や安倍9条改憲阻止などの大衆運動においても共闘を広げ、活かしていくことが重要です。

 安倍9条改憲阻止に向けて

 総選挙の結果、「改憲勢力」とされる議員は3分の2を超えました。安倍首相も改憲発議に向けて「合意形成をするよう努力」する考えを打ち出しています。自民党は党内での改憲論議を再開しました。今後、安倍首相のめざす9条への自衛隊明記をめぐって、激しい攻防が展開されることになるでしょう。
 この点で重要なことは、第1に、「改憲勢力」は3分の2を越えていても、安倍9条改憲論は必ずしもそうではないということです。憲法96条に基づく通常の改憲論と、憲法の平和主義原理を破壊する安倍9条改憲論を区別し、後者を孤立させて改憲発議の断念に追い込んでいかなければなりません。これが当面の目標です。
 第2に、「改憲勢力」とは言っても中身は多様で、安倍9条改憲の前途にはいくつものハードルがあるということです。まず、自民党内がまとまるのかという問題があります。次に、与党の公明党が同調するかという壁もあります。さらに、野党第1党の立憲民主党をはじめ、希望の党や維新の会を巻き込めるのかという障害もあります。これらのハードルを引き上げることができれば、安倍9条改憲を阻止することができます。
 そのためには第3に、9条改憲に反対する世論を広げ、それを目に見えるようにしていくことが重要です。改憲のピンチはチャンスでもあります。憲法にたいする報道が増え、国民の関心が高まるからです。このチャンスをとらえて国民的な学習運動を組織し、現行憲法の意義や重要性、安倍9条改憲の問題点や危険性を明らかにしなければなりません。安倍9条改憲NO!市民アクションが提起している3000万人署名の意義と重要性はますます高まりました。これを核に国民的な運動を盛り上げれば、改憲に向けての安倍首相の野望を打ち砕くことは十分に可能です。

 野党共闘の弁証的発展

 今回の総選挙は政権を争う衆院選で市民と立憲野党の共闘が試された初めてのケースになりました。しかし、民進党の前原代表の「なだれ込み」路線によって、思いもかけぬ逆流に直面し、かつてない試練にさらされることにもなりました。この逆流と試練によって、野党共闘はさらに質の高いものとして再生しただけでなく、弁証法的な発展を遂げ刷新されたように思われます。
 そもそも選挙での野党共闘は、70年代に革新自治体を生み出した社共共闘として出発しました。その後、1980年の「社公合意」という形で共産党が外されることになります。これは一種の「アンチ・テーゼ」でしたが、それを乗り越えて「ジン・テーゼ」の段階が始まります。
 2015年安保法制反対運動での「野党は共闘」という声に押され、2016年の「5党合意」によって野党共闘が再生・復活するからです。ただし、それは市民と立憲野党との合意によるものでした。社共共闘の単純な復活ではなく、発展した内容を含んでいたのです。
 このような共闘は、その後、参院選1人区での共闘によって試行され、新潟県知事選や仙台市長選など首長選挙にも拡大されていきます。そして、今回の逆流と試練によって、総選挙直前にまたもや一種の「アンチ・テーゼ」に直面しました。
 それを乗り越えての「ジン・テーゼ」が、総選挙での野党共闘の再生と刷新です。共闘に消極的で安倍9条改憲に妥協的な民進党から共闘に積極的で安倍9条改憲に反対する立憲民主党へと、野党第1党が変わりました。量的に減少しましたが、質的には強化されたと言えます。
 実は、量的にも強化された面があります。旧民主党との比較では、立憲民主党と希望の党とを合わせた得票は、14年総選挙より小選挙区で425万票増、比例代表で1098万票増となっています。民進党は分裂することで得票を増やしたのです。また、比例代表の得票数で比べれば、自民・公明・日本のこころの合計得票は2563万票ですが、立憲・希望・共産・社民では2610万票になっています。
 総選挙後、朝日新聞は立憲・希望・共産・社民・無所属が共闘すれば63選挙区で逆転すると試算し、毎日新聞も野党候補が一本化すれば84選挙区で逆転する可能性があると報じました。これらの予測は、今回の選挙でも与党より野党の合計得票の方が多くなっていた事実を背景にしたものです。

 むすび

 野党は共闘すれば勝つことができるのです。まさに「活路は共闘にあり」ということです。同時に、共闘して活路を模索することでしか、勝利への展望はひらけません。
 歴史は一直線ではなく、ジグザグに進みます。ときには逆流が生じ、試練にさらされることもあるでしょう。問題は、この逆流に流され諦めてしまうのか、という点にあります。それを乗り越えれば、鍛えられ新たな力を得ることができます。
 今回の選挙で市民と立憲野党の共闘は大きな逆流に見舞われました。共産党の議席減という犠牲を払いながら、それを何とか乗り越えて立憲野党全体の前進を勝ち取ることができました。
 そのことに確信を持ち、歴史を作るという主体的で能動的な視点から共闘の教訓を学ぶことが必要です。そのような学習を通じて、共闘の意義と重要性を心に刻み実践していきましょう。このようにして「知」を「力」とすれば、新たな展望を切り開くことができるにちがいありません。

*テーゼ(正)、アンチ・テーゼ(反)、ジン・テーゼ(合)は弁証法の言葉で、これらの言葉を組み合わせて、発展の過程を表現しています。テーゼがあると、そこにはかならず対立物であるアンチ・テーゼ(反)がでてきます。発展とは、この対立・葛藤を乗り越えて、両者の内容をふくみつつ、より高い質をもったテーゼ――これが「ジン・テーゼ(合)」――があらわれることです。テキスト(56~68ページ)では、これらの概念を使わずに、同じ発展の過程を説明しています。

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