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12月13日(水) 総選挙の結果と安倍9条改憲をめぐる新たな攻防(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議発行の『月刊 憲法運動』通巻466号、2017年12月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 「憲法改正については、国民の幅広い理解を得つつ、衆議院・参議院の憲法審査会で議論を深め各党とも連携し、自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消など4項目を中心に、党内外の十分な議論を踏まえ、憲法改正原案を国会で提案・発議し、国民投票を行い、初めての憲法改正を目指します。」

 今回の総選挙に際して、自民党は「憲法改正」についてこのような公約を掲げました。これは5つの重点項目のうちの最後に当たるものです。これまでの国政選挙でも、自民党は改憲について公約していましたが、その扱いは控えめで目立たないものでした。
 今回は「重点項目」としての登場です。改憲に向けて、本腰を入れてきたということを示しています。その背後には、安倍首相の意向があります。5月3日の憲法記念日に、現行憲法9条の1項と2項をそのままにして自衛隊の存在を書き込むという新たな改憲方針(安倍9条改憲論)を明らかにしたからです。
 これによって、憲法をめぐる情勢は急展開しました。改憲に向けての動きが政治の焦点に浮かび上がってきただけではありません。9条に手を加えて自衛隊の存在を正当化し、憲法上の位置づけを与えようという狙いが、はっきりと示されたからです。
 こうして、9条改憲をめぐる激突での新たな段階が幕を開けました。その緒戦となったのが、今回の総選挙です。自民党が初めて「自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消など4項目」を重点項目に掲げて信を問うことになった総選挙で、国民はどのような回答を示したのでしょうか。
 以下、総選挙の結果をどう見るか、各党の消長はどのような意味を持っているのか、その結果、いかなる政治状況が生まれたのか、とりわけ安倍9条改憲論をめぐる各党の立場と今後の展望や課題はどのようなものなのか、などの点について検討してみることにしましょう。

1、総選挙の結果をどう見るか

(1)与党の状況

 与党では、自民党の議席に変化がありませんでした。自民党は改選284議席に対して、当選284と同数になりました。定数が10議席削減されていますから、占有議席の比率は上がりましたが微増にすぎません。
 有権者内での得票率(絶対得票率)でも、小選挙区では24.98%と有権者全体の4分の1です。比例代表にいたっては17.49%ですから、約6分の1にすぎません。しかも、この比率は政権を失った2009年総選挙時の18.1%を下回り、12年総選挙時の15.99%、14年総選挙時の16.99%と過去3回の選挙でほとんど変化なしです。
 自民党が議席を減らさなかったのは、小選挙区制のカラクリがあったからです。小選挙区制は大政党に有利な制度で、各選挙区で最多得票をした候補者が当選します。今回もこのような有利さが最大限に発揮され、自民党は47.8%の得票率で、74.4%の議席を占めました。
 このような小選挙区制のカラクリの効果を強めたのが、総選挙直前での小池百合子東京都知事による「希望の党」という新党の結成でした。野党共闘が分断されるという逆流が生じたために漁夫の利をしめた自民党がますます有利になったからです。
 自民党は比例代表でも強さを発揮しました。これも新党結成による野党の混乱状況に有権者の嫌気がさし、不安を覚えたためだったと思われます。離合集散を繰り返す野党より、安倍首相に対する不信や自民党への不満はありながらも、安定した政権の方がまだましだと思ったのではないでしょうか。
 このような安定志向を強めたのが北朝鮮危機への不安感の増大でした。安倍首相が示した経済指標の好転や株高への期待感も一定の効果があったでしょう。安倍首相が解散の大義として掲げた消費税再増税による税収分を子育てや若者支援に回すという約束も若者や主婦の支持を高めたかもしれません。
 これらの要因によって、自民党は「勝利」しました。しかし、もう一つの与党である公明党は「敗北」したように思われます。公明党は改選前の34議席から5議席減となって29議席にとどまったからです。総選挙の直前、女性問題で樋口尚也前衆院議員が離党していますから、実際には6議席減です。
 小選挙区では神奈川6区に立候補した当選7回の前職が敗れて議席を失いました。政権が交代した2012年の衆院選以来の小選挙区全勝がストップするという思いもかけない結果です。比例代表でも前回は731万票だった得票数が今回は698万票となり、700万票を下回りました。公明党にとって、これは大きなショックだったでしょう。
 この結果について、公明党は総選挙総括の原案で、安倍首相を強く支持する姿勢や憲法論議での対応が支持者の不信感や混乱を招いたと指摘していました。このような反省を行わなければならないほど、安倍首相への追随に対する支持者の反発が強かったということでしょう。これは今後の改憲論議において、微妙な影響を与えることになります。

(2)野党の状況

 このように、国会議席全体に対する与党の比率には大きな変化がありませんでした。衆院の3分の2議席以上を占める与党体制の期間が1年から最大4年に延長されたわけです。安定した政権基盤を維持するという安倍首相の目的は基本的に達せられました。
 しかし、今回の総選挙によって野党の状況は劇的に変化しています。最大の特徴は改選15議席から55議席へと3倍以上も議席を増やした立憲民主党の躍進にあります。
 総選挙直前に野党第一党の民進党が突如として希望の党への合流と解党を決め、姿を消してしまうという逆流が生じました。これに対して、枝野幸男さんを中心に立憲民主党が発足し、立憲・共産・社民の3野党が市民連合と政策合意を結んで野党共闘の体制を再確立します。
 こうして総選挙に臨んだ結果、立憲民主党が希望の党を上回りました。野党第一党の議員の数は減りましたが、イメージと政策が一新され、政党としての質が強化されたことになります。
 この立憲民主党の躍進のあおりを受ける形で、2議席を維持した社民党以外の野党はいずれも議席を減らしました。大きな影響を受けたのは小池さんが結成した希望の党です。政権交代をめざして衆院議席の過半数である233を上回る235人の候補者を擁立したにもかかわらず、改選議席57を7も下回って50議席にとどまりました。
 この希望の党と選挙協力を行ったのが日本維新の会です。しかし、小池人気の失速もあってほとんど効果なく、維新は改選14議席から3減らして11議席に留まりました。前回の衆院選では、小選挙区で11議席、比例代表で30議席、計41議席も獲得しています。その後の分裂などによって14議席に後退していたわけですが、今回はさらに3議席減らしたことになります。

 (3)共産党と立憲野党の共闘

 今回の選挙で、希望の党の結成、民進党の分裂、立憲民主党の登場と躍進という一連の野党再編の影響を最も強く受けたのは日本共産党でした。参院選1人区などでの共闘の経験を生かして衆院選でも小選挙区で1対1の対決構図を作ろうと積み重ねてきた努力が、一夜にして瓦解してしまう危機に直面したからです。
 これに対して、市民連合と共産党は素早く対応します。北海道や新潟では選挙区独自の共闘体制の構築をめざし、粘り強い協議を続けていました。全国的には、共闘維持のために新党を結成するべきだとの声が強まり、ネットやSNSなどに「枝野立て」という書き込みが溢れます。
 こうして、10月2日に立憲民主党の設立が発表されるわけですが、市民の声に押されての新党結成はかつてないことでした。これに対する共産党の対応は素早く、翌3日の中央委員会総会で志位委員長は「協力・連帯を追求していく」と表明し、「連帯のメッセージ」として枝野さんが立候補する埼玉5区で候補者を取り下げることを発表しました。この日、市民連合も立憲民主党と基本政策を合意します。
 7日には、立憲民主・共産・社民の3野党と市民連合が改めて政策合意を確認し、総選挙を連携して戦う体制ができました。このような動きをアシストして候補者を一本化するために、共産党は67の小選挙区で候補者を取り下げ、249の小選挙区で共闘勢力の一本化が実現します。
 このようなアシストが立憲民主党の躍進を生み出す大きな力となりましたが、共産党自身は埋没し大きな犠牲を払うことになりました。総選挙の結果、沖縄の小選挙区で1議席を獲得したものの比例代表で苦戦し、改選21議席を9下回る12議席にとどまったからです。比例代表の得票数も前回の606万票から440万票へと166万票の後退になりました。
 立憲野党の共闘を推進するために、83の小選挙区で候補者を立てないという犠牲を払い政見放送や選挙カーの運行などでの制約が生じたこと、民主党政権に失望して共産党に投票してきた旧民主党の支持者や無党派層が立憲民主党に回帰したこと、選挙戦序盤で共闘立て直しに忙殺され後半で比例重視に転じたものの手遅れになってしまったこと、などの事情が敗因であったと思われます。


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