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9月24日(土) 新潟県知事選挙での米山隆一候補の当選を願う [選挙]

 告示が29日(10月16日投開票)に迫るなか、注目されていた新潟県知事選挙の構図がようやく整ったようです。民進党の米山隆一さんが離党して無所属での立候補を決意されました。

 現職の泉田知事が「県民の健康、生命、安全、原子力防災など、本来議論すべきことを議論できる環境になってほしい」という理由で立候補を断念したため、無投票になるかもしれないと心配していました。そうなれば、前長岡市長の無所属新人・森民夫さん(自民党・公明党推薦)が当選してしまいます。
 森さんは旧建設省出身で長岡市長を5期務めましたが、67歳と高齢で長岡市以外での知名度は低いとされています。それでも当選すれば、柏崎刈羽原発が再稼動されてしまうかもしれません。
 私の実家はこの原発から30キロほど離れたところにありますから、いったん事故になれば放射能の被害は免れません。新潟県内に沢山の友人や知人がいる私としても、県知事選で原発再稼働にストップをかける選択肢が提起されることになってホッとしています。

 こうなったら、ぜひ米山隆一さんに当選していただきたいと思います。先の参院選では新潟でも野党共闘が実現して無所属で森裕子さんを当選させることができました。
 米山さんを担ぎ出したのは「新潟に新しいリーダーを誕生させる会」で、共産、社民、生活、新社会、緑の5党に市民連合などで構成されています。このような形で、野党と市民が手を結んで闘えば、森さんと同じように米山さんの当選を勝ち取ることは十分に可能です。
 記者会見で、米山さんは「世界最大の柏崎刈羽原発を擁する新潟県として、泉田裕彦知事の『福島原発事故の検証なくして、再稼働の議論はしない』との路線を継承し、県民の安全、安心を確保する」との決意を述べました。再稼働に向けて簡単にはゴーサインを出さないということであり、これが知事選挙での最大の争点になります。

 米山さんはコメどころとして知られている新潟県魚沼市(湯之谷)出身で、東大医学部卒の医師、弁護士です。衆院選の新潟5区に、2005、09年は自民党、12年は日本維新の会から出馬して落選し、13年の参院選新潟選挙区にも日本維新の会から立候補しましたが及ばず、ことし3月に民主党と維新の党が合流してできた民進党に加わって次期衆院選の候補となる5区総支部長を務めてきました。
 ところが、民進党は米山さんの立候補を認めず自主投票にしてしまいました。米山さんが維新系で、原発推進の電力総連を傘下に持つ連合新潟が反対したためだとみられています。
 そのために、米山さんは民進党を離党して無所属で立候補することになり、野党4党による共闘という枠組みにはなりませんでした。おまけに、民進党を支援する連合新潟は森さんの支持を決めたといいますから、呆れかえってしまいます。

 なんだか、私が立候補した八王子市長選挙と似たような構図になっていますが、それでは困ります。民進党が野党共闘に加わるよう、県連に対して党本部から強力な指導を行うべきでしょう。
 今回の知事選挙は新潟だけの問題ではなく、原発のある自治体すべてに関わる重要な争点が争われようとしています。その結果次第では原発再稼動が全国に一気に波及するかどうかの瀬戸際での選挙戦です。
 しかも、衆院の東京福岡のダブル補選の投開票日は10月23日で、新潟県知事選の翌週に当たります。この補選での勝利のためにも、蓮舫新執行部は新潟県知事選挙で最初の勝利を目指すべきでしょう。

 10月16日の新潟県知事選での勝利、23日の衆院補選での勝利を積み重ね、来るべき解散・総選挙での勝利を目指す。このホップ・ステップ・ジャンプという三段跳び戦術こそ、新生民進党が再生できる大きなチャンスだということが分からないのでしょうか。
 今日の『朝日新聞』には「『年明け解散』想定 自民党大会、来年3月に先送り」という小さな囲み記事が出ていました。安倍首相は年末の日露首脳会談で北方領土問題についての道すじを付け、来年早々にでも解散するのではないかとの見方を裏付けるような記事です。
 決戦の時はそう遠くないかもしれず、グズグズしている暇はありません。新潟県知事選と衆院補選での野党共闘の実現とその勝利こそ民進党の新執行部が全力で取り組むべき最初の活路だということを、蓮舫さんには肝に銘じていただきたいものです。

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9月22日(木) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4.選挙後の展望と課題

 改憲阻止をはじめとした諸課題への取り組み

 参院選の結果、改憲勢力は3分の2を超えた。衆参両院での改憲発議可能な国会勢力の確保は初めてで、これに気を良くした安倍首相は悲願としている改憲に向けて新たな攻勢に出てくるに違いない。憲法をめぐる情勢は条文を変える「明文改憲」に向けて、「危険水域」に入ったと言える。
 安倍首相は早速、秋の臨時国会で憲法審査会を再開し、どのような項目のどこをどう変えるか、与野党で議論してもらいたいとの意向を明らかにした。当面、改憲派にたいする批判を強めて憲法学習を進め、改憲阻止のたたかいを強めることが重要になっている。
 その場合、改憲には賛成でも9条改憲には反対だという立場がある。9条改憲に賛成でもそれは自衛隊の国防軍化や外征軍化を阻止するための改憲だという意見もある。これらを十把一からげに改憲派だとするのは不正確だ。この区別を明確にして、安倍首相が目指している危険な改憲路線を孤立させることが大切である。
 3月に施行された安保法は、国連平和維持活動(PKO)の新たな任務として、離れた場所にいる国連職員らを自衛隊員が緊急警護する「駆け付け警護」の任務を追加した。紛争が激化している南スーダンへのPKO派遣を11月以降も続ける場合、政府は新任務の実施を認めるかどうか判断を迫られるが、このような安保法の発動を阻止しなければならない。
 安倍首相が最も重視しているのは、参院選の争点に掲げた経済政策「アベノミクス」の推進である。これについては具体的な成果が問われる。「これから大変だよ。アベノミクス」 と、小泉首相が言うとおりである。
 今後、事業規模28兆円超の経済対策が打ち出され、臨時国会で成立が目指される。その柱は少子高齢化に対応する保育・介護施設の拡充などで、「残業代ゼロ法案」や正社員と非正規との賃金格差是正を含む「労働改革」も盛り込まれる。社会保障サービスの低下を防ぎ、労働者の処遇改善に結びつくかが問われることになろう。
 沖縄関連では、高江のヘリパッド建設強行や名護市辺野古沖の新基地建設を巡る政府と県の法廷闘争の再開など参院選での島尻落選の「意趣返し」のような暴挙が続いている。基地問題に対する沖縄のたたかいに呼応した取り組みを強めなければならない。
 原発に関しては四国電力伊方原発3号機が8月中旬の再稼働を予定しており、鹿児島県知事選で初当選した三反園訓知事は再稼働している川内原発の一時停止を九州電力に求めている。再稼働を推進する政府の原発政策に対するたたかいは続く。
 また、通常国会で継続審議になったTPP関連法案についても臨時国会での成立が目指されている。成立阻止に向けての取り組みが重要である。

 野党共闘の継続と発展に向けて

 参院選では歴史上初めて野党協闘が成立し、大きな成果を上げた。しかし、「5党合意」は参院選公示の5ヵ月前で、最後の統一候補が決まったのは3週間ほど前にすぎない。突貫工事で建てたプレハブのようなものだった。これを風雪に耐える本格的な建物にするのが、これからの課題である。
 そのためには、この間の共闘によって培われた市民や野党間の多様なつながり、信頼関係を大切にし、発展させなければならない。それによって主体的な力を強めることである。
 また、アベ政治後のビジョンを提示して明るく夢のある未来像を示さなければならない。それによって、政策的な魅力を高めることである。
 さらに、労働組合運動など大衆運動分野での一点共闘を拡大しなければならない。労働法制の規制緩和反対、統一メーデーへの取り組み、原水爆禁止運動の統一など、可能な領域での共同を発展させることによって草の根から連合政権の土台作りをはじめることである。
 近い将来における解散・総選挙をめざし、政策的一致、国会内での協力、選挙への取り組みなど野党4党間での共同を拡大し、今後の首長選挙や地方議員選挙、衆院補選(10月23日、東京・福岡)などでの野党共闘を実現する必要がある。
 東京都知事選挙では野党共闘で鳥越俊太郎候補を擁立し、同時に投票された都議補選でも大田区と台東区で民進党と共産党のバーターによる野党共闘が実現した。このような形で地方選挙でも共闘を継続し、それを衆院選での統一候補実現に結び付けなければならない。
 『日経新聞』の調査では、野党は衆院選でも統一候補を「立てるべきだ」は47%で、「立てるべきではない」の36%を上回った。民進党支持層でも「立てるべきだ」が73%、「立てるべきではない」は22%、共産党支持層も「立てるべきだ」が7割程度、「立てるべきではない」は約2割と同様の結果が示されている。
 選挙での共同だけでなく、政策的準備も重要である。通常国会での共同提出法案や参院選での確認事項を踏まえ、臨時国会で野党共同の法案提出などを進めながら、外交・安全保障、米軍基地、自衛隊、税制、TPP,エネルギーなどの基本政策での合意形成に努めなければならない。
 今回の参院選での得票を基に総選挙で共闘した場合の議席を試算した『北海道新聞』によれば、北海道内では野党側が10勝2敗になるという(7月19日付)。全国でも同様の可能性が生まれているにちがいない。
 ここにこそ展望がある。そして、活路はここにしかない。天下分け目の「関ケ原の合戦」は始まったばかりだ。本格的な対決は次に持ち越しとなった。解散・総選挙がさし当りの政治決戦となろう。参院選での成果を確信にして教訓を学び、より効果的で緊密な共闘のあり方や魅力的な候補者の擁立に向けての模索と研究を、今からでも始めなければならない。

 平和運動の課題

 参院選の結果は今後の平和運動のあり方についても、大きな課題を提起している。今回の結果に対して、戦争と平和の問題や日本周辺の安全保障環境のあり方が大きく影響していたからである。
 その第1は、「積極的平和」の理念を明確にし、この言葉を安倍首相から取り戻すことである。本来、「積極的平和」とは「消極的平和」と対置され、単に戦争がない状態としての「平和」ではなく、戦争の原因となる不和や対立、貧困や格差、無知や憎悪などを取り去ることによって実現される真の平和を意味していた。
 しかし、安倍首相は積極的な武力の行使による安全の確保という政策を「積極的平和主義」という用語によって説明した。武力に頼らずに戦争の原因の除去を図ることを意味する「積極的平和」とは真っ向から対立する考え方であるにもかかわらず、それが効果的な平和実現の方策であるかのような誤解が生じている。
 しかし、このような武力に依存する「力の政策」では、国際間の紛争も国際テロも根本的に解決できないことは、この間の経験からして明らかだ。安倍首相の唱える「積極的平和主義」は考え方としても現実的な方策としても大きな間違いであり、かえって問題を複雑にし、解決を困難にしてしまう。武力に頼らない地道な平和構築こそが現実的な解決策であり、「積極的平和」への道であることを示さなければならない。
 第2に、平和を実現するためには過去と未来にわたる長期的な視野を忘れてはならないということである。歴史から教訓を引き出し、現実を直視する力を持たなければ未来に対して盲目となる。その結果、過去の過ちを繰り返す危険性が生れてしまう。
 戦前の戦争の歴史を学び、経験者の証言を残し、教訓を引き出すことは重要である。同時に、戦禍による壊滅的な荒廃から立ち上がり、70年以上にわたって平和を維持して経済大国を実現した戦後日本の経験と教訓も、十分に明らかにされ学ばれなければならない。
 それを可能にした力こそ平和憲法の理念であり、9条の効果だったのではなないか。それを維持するだけでなく、その理念を実現できるような対外政策と将来ビジョンを持ち、周辺諸国や世界に向けて発信し普遍化することこそ、日本の平和運動が担っている国際的な役割にほかならない。
 第3に、平和を守るためには、民主主義の限界と危険性を十分に自覚することが必要である。民主主義とは多数決と同じものではなく、多数が賛成することによって誤った道を選択することもある。多数が過ちを犯し少数が正しかった戦前の歴史を思い起こすべきだ。
 間違った戦争の道が選ばれるとき、しばしばこのような誤りも繰り返される。民主主義社会においては、多数の支持なしに戦争を始めることも続けることもできない。総力戦であればなおさら「総力」の動員が必要となり、「民主主義」が活用される。
 歓呼と喝さいの中からファシズムが誕生した歴史の苦い教訓を思い起こすまでもないだろう。独裁と戦争への道は民主主義の「石」によって敷き詰められているのである。それを防ぐためには、少数であることを恐れず、多数であることの意味を問い、それへの同調を強いないことである。孤立を恐れず「反知性主義」を警戒し、多数の間違いを指摘できる知力を持たなければならない。
 参院選の結果、アベ政治の暴走は続き、スピードはアップするだろう。それを阻止する力を蓄えるために、平和運動も歴史に学び、歴史の試練に耐えることが求められている。

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9月21日(水) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

3、安倍首相の勝因はどこにあったのか

 不安に駆られた有権者は安定を求めた

 自民党の党勢が弱まりつつあり、昨年は「2015年安保闘争」ともいえる市民の運動が高揚した。それにもかかわらず、どうして自民党は勝ち、野党は安倍首相を追い詰めることができなかったのだろうか。
 世界的に見れば、既成政党や政治家への不信感が高まっている。アメリカの大統領選挙では「トランプ現象」や「サンダース現象」が起こり、ヨーロッパでは極右勢力が台頭し、イギリスでもポピュリズムが強まってEU離脱が決まった。欧米では変化を求める政治的な流れが勢いを増しているように見える。
 それなのに、日本の安倍政権は今回の参院選で勝利した。陰りが生じているとはいえ、国会内と自民党内での「ダブル一強」を維持することに成功している。それは何故だろうか。
 それには、移民問題の不在や日本周辺の安全保障環境が大きく影響していると考えられる。欧米の先進国に比べて外国からの難民の流入は少なく、大きな政治・社会問題になっているわけではない。他方で、日本をとりまく周辺諸国との関係は緊張をはらんでいる。北朝鮮の核開発やミサイル実験、中国の南シナ海での埋め立て、尖閣諸島周辺での不穏な動きなどがあり、安全保障面で不安をあおるような報道も相次いだ。
 世界経済の先行きが不透明になっているだけでなく、バングラデシュのテロ事件で日本人が狙われて犠牲になるという、これまでには考えられないような事件も起きた。このような客観的な情勢変化に直面して、国民の多くは不安感を抱き安定志向を強めたのではないだろうか。
 国民はバブル崩壊以来、長期のデフレ不況に痛めつけられてきた。そこからの活路として期待した民主党政権にも裏切られた。もうこりごりだと思っているところに、安倍首相から「あの暗い、停滞した時代に戻っても良いのですか」と言われ、国民はひるんでしまったのではないだろうか。アベノミクスによって得られたというささやかな「成果」にかすかな期待をつなぎ、その行く末を見極めようとしたのかもしれない。

 「隠す、盗む、嘘をつく」という選挙戦術

 これに加えて、安倍首相が意識的に採用した選挙戦術も功を奏したように見える。今回の選挙では、とりわけ「隠す、盗む、嘘をつく」というやり方が目立ったからだ。
 まず、「隠す」ということでは、「争点隠し」をあげることができる。その最たるものは消費税増税の再延期だ。安倍首相は10%への再増税は延期せずにやると言っていたにもかかわらず、「新しい判断」で先に伸ばした。本来ならこれが中心的な争点になるはずだったのに、事前に選挙の争点から消されてしまったのだ。
 改憲問題も同様である。野党は改憲勢力に3分の2を取らせないという争点を掲げたが、安倍首相は街頭演説で口をつぐみ一言も触れなかった。そのため、「首相が本気で改憲を目指すのであれば、自ら国民に問いかけるべきではないか」(『朝日新聞』7月11日付)と批判されるほどだった。
 個別政策でも、評判の悪いTPP、原発再稼働、沖縄辺野古での新基地建設などの争点に触れることを避けた。しかし、争点を隠しきれなかったところでは厳しい審判を受けている。前述のように、TPPへの不信が強い北海道東北甲信越、東日本大震災や原発被害への対応の遅れが批判を浴びた被災3県、米軍基地被害や辺野古新基地建設が怒りを引き起こした沖縄などでは野党が善戦した。福島と沖縄では現職閣僚が落選している。
 次に、「盗む」ということでは、野党の政策の横取りという問題がある。自民党は「これまで野党が重視してきた政策を取り入れた」(『毎日新聞』7月9日付)と指摘されるほど、このような傾向が目立った。
 たとえば、最低賃金時給1000円、同一労働同一賃金、給付型奨学金の創設、保育園の増設による待機児童解消、保育士や介護福祉士の処遇改善など、これまで野党が要求し、自民党が無視してきた政策課題が次々に公約とされた。これらの問題を無視できないほどに矛盾が深刻化してきたことの現れであり、それなりに対策を打ち出したこと自体は悪いことではない。
 しかし、その狙いは政策を盗んで野党との違いを見えにくくすることにあった。野党との政策的な違いを曖昧にすることによって、争点化を防ぐという作戦に出たのである。
 さらに、「嘘をつく」ということでは、「アベノミクスは道半ば」だと言い張った。消費税の再増税を行えるような経済的前提条件を作れなかったこと自体がアベノミクスの失敗を示しているにもかかわらず、まだ十分な成果が出ていないからだと強弁したのである。
 すでに破たんし、失敗が明らかなアベノミクスを取り繕い、有効求人倍率などの都合のよい数字を並べて嘘をついた。
 これに加えて、今回の参院選では共産党や野党共闘に対するネガティブキャンペーンを全開させた。共産党への反感をあおって民進党との共闘への批判を繰り返したのである。政策を積極的(ポジティブ)に訴えることができないからこそ、否定的(ネガティブ)な宣伝・扇動に頼らざるを得なかったわけだが、このような選挙戦術が一定の効果を上げたことは否めない。

 安倍戦術を手助けしたメディアの罪

 このような安倍首相による「争点隠し」という戦術の手助けをしたのが、マスメディアであった。その選挙報道は貧弱で、特にテレビは公示後、選挙報道が極端に少なくなった。参院選についての情報を十分に伝えなかったという点では、「争点隠し」に加えて「選挙隠し」を行ったという批判は免れない。
 今回の参院選は選挙権年齢が18歳以上に引き下げられて初めての国政選挙であり、注目度も高かった。それにもかかわらず、公示後に党首討論をやったのはTBSだけで、NHKはニュースでもろくに扱わず、ワイドショーなどでは都知事選の話題の方が取り上げられた。
 調査会社エム・データの集計ではNHKを含む在京地上波テレビの放送時間は2013年の前回参院選より3割近く減っている。情報・ワイドショー番組で民放は6割減だったという。メディアは安倍政権による懐柔と恫喝に屈して報道を控え、結果的に有権者の選挙への関心を低めて「選挙隠し」と「争点隠し」に手を貸したように見える。
 また、改憲問題について新聞各紙は積極的に報道したが、争点化させることはできなかった。改選議席の「3分の2」という数字の意味について、『高知新聞』は「高知で83%意味知らず」という記事を報じ(7月5日付)、『毎日新聞』でも「全国の有権者150人に街頭でアンケートを実施したところ、6割近くにあたる83人がこのキーワードを『知らない』と回答した」という(7月11日付)。
 本来ならマスコミは選挙の前からこのような調査を行って投票日までに伝えるべきだったが、「報道特集」や「報道ステーション」などを除いて改憲問題は取り上げられなかった。7月10日の投開票日に放送された選挙特番は「日本会議」についてのドキュメンタリーや自民党の改憲草案の解説なども行ったが、「選挙後」に放送しても「後の祭り」ではないか。
 参院選の投票率は選挙区で54.70%、比例代表で54.69%となり、前回の52.61%を選挙区で2.09ポイント、比例代表で2.08ポイント上回った。しかし、1947年の第1回以降で4番目に低い投票率である。選挙戦術としての「争点隠し」やメディアによる「選挙隠し」が、このような低投票率にも影響したように思われる。

 若者の意識と選択

 今回の参院選から18歳選挙権が導入され、新たに選挙権を得た18歳と19歳の若者はどのような選択を行うかが注目を集めた。その結果、18~20歳の若い有権者の多くは自民党に投票した。次いで多かったのが民進党、そしてその次が大阪維新の会であった。このような若者の投票傾向も、与党を勝利に導いた要因の一つだったと思われる。
 共同通信社の出口調査では、18・19歳の比例代表の投票先は自民党が40.0%でトップとなり、20代、30代とともに、高い比率を示した。『朝日新聞』の出口調査でも、この年代の自民党への投票は40.0%と20台に続いて2番目に多く、年代が上がるにつれて野党の割合が増えるという傾向があった。
 政党支持率では、自民党33.0%、民進党9.6%に次いで多いのが大阪維新5.9%で、4番目の公明党3.2%を上回っていた。大阪維新は改選2議席から5議席増の7議席獲得と健闘したが、その背景にはこのような若者の政党支持の特徴があった。18歳選挙権導入の恩恵を受けたのは自民党に次いで大阪維新の会だったと思われる。
 若者が投票に際して重視した政策は「景気・雇用」28%が最多で、「社会保障」15%、「憲法」14%などとなっていた。NHKの出口調査では、アベノミクスについて「大いに評価する」「ある程度評価する」と答えた人は合わせて64%で、「あまり評価しない」「まったく評価しない」と答えた人は合わせて36%にすぎない。
 つまり、高校3年生や大学生にとって最も切実なのは就職問題であり、それを左右するのがアベノミクスの前途だと考えられたのである。有効求人倍率の向上や消費税の先送りによる雇用改善に望みをつないだために若者の多くは与党を支持した。経済の先行きに危機感を感じた有権者は安定志向を強めたが、それが最も鮮明に現われたのが若い世代だったのかもしれない。

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9月20日(火) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

2、野党と選挙協力

 新たな危機感を生み出したのは野党共闘

 このように与党は勝ったが圧勝したわけではなく、満足のいく結果ではなかった。とはいえ、それは「危機感」を生むほどのものではない。菅原議員が「私はむしろ危機感を持ちましたけどね」と言ったのはどうしてなのか。
 それは、「1人区で11も落とした。共産党と民進党の協力がうまく行くはずがないとタカをくくっていましたが、野党協力をナメてはいけなかった」というわけだ。つまり、「野党協力」の力を目の当たりにしたからである。このような協力が今後も続くとすれば、「勝った勝ったと緩んでいたらしっぺ返しを食」う危険性を察知したからにほかならない。
 事実、今回の参院選での野党協力の実績は、自民党に危機感を覚えさせるに十分なものだった。1人区での議席獲得では11勝21敗となり、前回の2勝に比べて5倍以上の成果を上げた。
 当選にはいたらずとも激戦・接戦となった選挙区もあり、1人区での得票数が比例代表での各党の合計を上回る選挙区も続出した。このほか、野党統一候補の擁立によって一騎打ちとなった結果、有権者の関心が増して投票率がアップするという効果も生まれた。
 このような野党共闘の出発点となったのは昨年9月の共産党による「国民連合政権」の提唱で、これは今年2月に「5党合意」に結実した。この合意を基礎に1人区での統一候補擁立の動きが進む。その背景には共産党による候補者の取り下げという決断があった。
 その後、統一候補擁立の動きが加速され、5月31日には最後まで残っていた佐賀県で野党統一候補が実現する。こうして、32ある1人区の全てで統一候補が出そろったが、それは実に参院選公示日である6月22日のほぼ3週間前のことであった。
 それでも前回の5倍を上回る当選実績を上げたのである。もっと早く足並みが揃って統一が進み、万全の態勢がとられていれば、より多くの1人区で当選者を出していたにちがいない。この結果から、菅原議員は「野党協力をナメてはいけなかった」という教訓を引き出し、「勝った勝ったと緩んでいたらしっぺ返しを食」うのではないかと、「むしろ危機感を持」つにいたったのである。

 「東北甲信越の乱」と「オール沖縄」の威力

 このような「危機感」を裏付けるような事実がある。「東北・甲信越の乱」と「オール沖縄」の威力だ。これらの選挙区の結果を子細に検討すれば、自民党の勢いに陰りが出てきたことが分かる。
 安倍政権が誕生して以来、国政選挙で自民党は連戦連勝のように見えるが、そうではない。前回の2014年衆院選で自民党は2議席減らしている。今回の参院選でも、自民党の議席は前回2013年選挙から9議席減だった。つまり、衆院では2012年、参院では2013年が自民党獲得議席のピークで、それ以降は下り坂だったのである。
 今回は、秋田を除く東北各県と甲信越で自民党候補は全敗した。事前の調査で苦戦が伝えられていたため、安倍首相はこれらの選挙区を中心に応援に入った。しかし、11の重点選挙区の結果は1勝10敗で、2012年の総選挙での勝率87%、前回総選挙(2014年)での38勝38敗の勝率5割を大きく下回った。「“俺が入れば負けない”と思っていた総理は相当ショックだったようだ」と自民党選対幹部は語っているという。
 しかも、東北や甲信越地方は農業地帯で、保守地盤が強い地域だった。しかし、TPP(環太平洋連携協定)への不安や反発、農協改革への批判の高まり、東日本大震災の被災3県では復興の遅れへのいらだちなどもあって自民党の地盤が崩れ、今回の結果につながった。福島では現職の大臣が落選したが、これは原発政策や原発事故・放射能被害対策への不信感を示している。
 沖縄でも、現職大臣が落選した。事前の情勢調査で負けが濃厚とされていたにもかかわらず安倍首相が応援に入らなかったのは、もともと逆転は困難だと判断したからだろう。実際、結果は10万票もの大差での落選であった。これによって、衆院でも参院でも沖縄選出の自民党議員は姿を消した。辺野古での新基地建設に反対し、米軍基地負担の軽減を求める「オール沖縄」による明確な審判であった。

 共闘に加わった各党にも効果があった

 野党共闘の効果は統一候補が立った1人区だけで生じたのではない。アベ政治に対する批判の受け皿づくりに加わった各党も、自民党と対峙する構図を作ったことで野党としての信頼を得て有権者から一定の評価を受けたように思われる。
 とりわけ民進党にとっての恩恵は大きかった。3年前の1人区では公認候補を1人も当選させられなかったが、今回は7人の公認候補を当選させることができた。野党共闘による統一候補でなければ、このような成果を上げることは難しかったにちがいない。
 このような1人区での成果もあって、民進党の当選者は3年前の17議席から32議席とほぼ倍増した。7月8日付『朝日新聞』の推計よりも2議席多い結果で、最終盤で勢いを増したことが分かる。参院選直前での維新の党との合流や民主党から民進党への改名は冒険だったが、野党共闘の中心に座ることによって一定のイメージ・チェンジに成功し、3年前の「どん底」から脱することができたのではないか。
 しかも、前回は東京選挙区で民主党候補の2人を共倒れさせたが、定数増もあって今回は2人を当選させた。自民党の2人の当選者の得票合計は151万票だったのに、民進党の2人の合計は162万票と約10万票上回った。集票力の大きい蓮舫候補がいたとはいえ、首都・東京での票数の逆転は注目される。
 共産党は前回の8議席に及ばなかったとはいえ改選議席3から6に倍増し、比例代表での得票も3年前の前回より86万増の601万票となり、1998年の820万票に次ぐ2番目の高みに到達した。
 社民党は改選2議席を維持することができず1議席減となった。それでも比例代表では28万票増となって前回の1議席は維持している。
 なかでも生活の党は共闘の恩恵を大いに受けることになった。1人区では野党統一候補として岩手と新潟で党籍のある候補が当選している。また、比例代表でも事前の予想を覆して1議席を獲得した。小沢一郎と山本太郎の共同代表2人は安保法制反対運動や野党共闘の実現で大きな役割を演じたが、それが報われる形になったのではないか。


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9月19日(月) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 「参院選は本当に与党の圧勝だったんでしょうかね。私はむしろ危機感を持ちましたけどね」
 この言葉は、東京選出の自民党議員・菅原一秀前財務副大臣のものだ。インターネットで配信されている「現代ビジネス」の「賢者の知恵」で、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が紹介している。その特別リポート「安倍官邸は、これからの野党共闘にとてつもない焦りを感じている~『年内解散』を急ぐ本当の理由」には、菅原氏の次のような指摘もある。
 「マスコミは改憲勢力で3分の2を獲ったのだから圧勝だと報じていますが、一方で1人区で11も落とした。共産党と民進党の協力がうまく行くはずがないとタカをくくっていましたが、野党協力をナメてはいけなかった、ということです。落ちた現職大臣二人も、安倍政権の重要な政策の柱の『沖縄』と『原発』を担当する二人ですからね。勝った勝ったと緩んでいたらしっぺ返しを食います。」
 もう一人、「勝ったからって、浮かれていられる状況じゃないんだよ」と指摘する人物がいる。『毎日新聞』7月18日付の山田孝雄「風知草」というコラムで取り上げられている小泉純一郎元首相である。小泉氏は言う。
 「与党が大勝したからって、そんなに変わるもんじゃないよ。これから大変だよ。アベノミクス」 「これまで、目標はわかるけど、その通りにいってるか、実証しなくちゃいけない。『目標と実態が違うじゃないか』っていう人が出てくるよ。勝ったからって、浮かれていられる状況じゃないんだよ。もっと厳しくなるんだよ」
 参院選で安倍首相は当初の目標を達成した、かに見える。しかし、自民党の中に「むしろ危機感を持」つ議員がいる。元首相も、「もっと厳しくなる」という見通しを語っている。
 それは何故か。どうして、危機感や厳しい見通しが語られるのだろうか。

1、 与党と自民党

 与党は確かに勝ち、野党は負けていた

 今回の参院選の結果は自民56、民進32、公明14、共産6、維新7、社民1、生活1、無所属4となっている。これを見ても分かるように、政府・与党が勝ったことは明らかである。与党の合計で、安倍首相が目標としていた改選議席の過半数である61議席を突破したからだ。自民党は56議席、公明党は14議席で、与党の合計は70議席となって目標を9議席上回っている。
 前回3年前の参院選では、自民党だけで65議席を獲得していた。これに比べれば、公明党を加えた与党の合計で61議席という目標は低すぎる。初めから十分に達成可能なものだった。
 とはいえ、選挙にあたって掲げた勝敗の目安をクリアーすることができた。目標を達成したのだから勝利である。
 加えて、野党が阻止すると言っていた改憲発議可能な議席である3分の2議席も、改憲勢力全体で突破した。安倍首相は、ひそかにこれを狙っていたに違いない。この点で、野党は目標を達成できなかったのだから敗北である。

 自民党は圧勝しきれなかった

 しかし、冒頭に紹介したように、「本当に与党の圧勝だったんでしょうかね」という声が、当の自民党議員からあがっている。それは何故か。
 与党が勝ったとはいえ、自民党が圧勝しきれなかったからである。与党全体としても、3年前の前回と比べれば、76議席から70議席へと6議席減らしていた。
 自民党だけの議席ではもっと減少した。3年前の65議席から56議席へと9議席の減である。比例代表では1議席増やしたものの、選挙区では10議席も減らしている。この選挙区での10議席減が大きなショックを与え、「本当に与党の圧勝だったんでしょうかね」という発言を生み出した背景である。
 しかも、自民党が秘かな目標としていた参院での単独過半数の回復という目標も、この選挙では達成できなかった。自民党公認候補の当選では過半数に2足りず、これを補おうとして当選した無所属議員を開票速報中に追加公認した。
 しかし、それでも1議席足りない。ということで、無所属の非改選議員であった平野達男元復興相を口説いて自民党に入党させ、ようやく27年ぶりの単独過半数回復という悲願を達成できた。とはいえ、これは選挙での成果ではなく、姑息な政治工作の結果にすぎない。

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9月18日(日) 脱力感に襲われてしまった蓮舫民進党新代表による野田佳彦新幹事長という人事 [民進党]

 蓮舫さんは何を考えているのでしょうか。民主党政権崩壊の最大の「戦犯」である野田さんを党の中枢にすえるなんて。
A級戦犯被疑者として巣鴨に収監されながら総理大臣になった岸信介も真っ青の人事です。岸同様、「戦犯」としてとっくの昔に追放されているべき人なのですから。

新しく民進党の代表に選ばれた蓮舫さんは泥の中に咲いたきれいな蓮の花だと思っていました。でも、新しい執行部中枢の人事を見て、泥の中に隠れ住んでいたドジョウに足をすくわれてしまうのではないかと心配になり、大きな脱力感に襲われました。
 民進党の蓮舫新代表は野田元首相を幹事長に、細野さんを代表代行に選んだのですから。こんな昔の名前を並べて清新なイメージが生まれるとでも思っているのでしょうか。
 蓮舫新代表の新鮮さと発信力、民進党のイメージの転換に期待した党員やサポーターの皆さんもガッカリでしょう。早くも、党内では「野田幹事長なら離党する」という声まで上がっているそうです。

 この人事案が了承された両院議員総会では、逢坂誠二衆院議員が「2012年に議席を失い、14年(衆院選)でも国会へ帰れなかった人たちがいる。政治の道を諦めた人もいる」と述べて総括を要求しました。その他、党内には「野田氏は『戦犯』だ。蓮舫氏には人事センスがない」(閣僚経験者)との疑問が広がり、「野田氏のかいらいそのものだ」との反発さえあると、『毎日新聞』9月17日付は報じています。
 このような失望、疑問や反発が生まれることは、蓮舫さんにも当然予想できたはずです。それなのに、どうして野田元首相の幹事長就任などという人事を提案したのでしょうか。
 野田さんにしても、党内の冷たい視線に気が付かなかったのでしょうか。旧民主党が政権から転落した責任を重く受け止めていれば、このような要請があっても辞退するのが当然ではありませんか。

 この人事に対する反発もあって、他の役員人事についての調整が遅れているそうです。それも当然でしょう。
 こうなることが分からなかったのかと、とても残念に思います。「さあ出発だ」と飛行機が動き出して滑走路に出た途端に、逆噴射してしまったようなものですから。
 蓮舫執行部は最初から躓いてしまい、挙党体制を組んでサッと飛び立つことができませんでした。可能であれば、野田幹事長の人事を白紙に戻して党内だけでなく国民も納得できるような人を選んでもらいたいものですが、無理でしょうね。

 こうなった以上、野田さんには「戦犯」としての過去を払拭できるような指導性を発揮してもらいたいものです。安倍暴走政治ストップに向けての対決姿勢を明確にし、衆院補欠選挙での野党共闘を実現することで、これまでのイメージを一新するべきでしょう。
 「また政権にすり寄るのではないか」「安倍首相に妥協して助け舟を出すのではないか」「野党共闘に背を向けるのではないか」などという疑念がもたれていることを、十分自覚していただきたいものです。もし、それを裏付けるようなそぶりを少しでも見せれば、その時に民進党は終わってしまうのですから。

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9月17日(土) 「手のひら返し」の「壊憲」暴走を許さない―参院選の結果と憲法運動の課題(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議の『憲法運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4、「護憲+活憲」による憲法運動の発展

*「活憲」による憲法再生と将来ビジョンの構築を

 今から11年前、私は『活憲―「特上の国」をめざして』(山吹書店、2005年)という本を出した。その「はしがき」には、「憲法は護らなければならない。しかし、それだけでいいのか?」という問いと、「護るだけでなく、日々の暮らしに活かすことこそ必要だ」という回答を記している。
 「改憲を阻むだけでは、現実がそのまま残るだけ」であり、「その現実は、長年の『反憲法政治』によって、憲法の理念と大きく乖離してい」るから、それを放置するのではなく、「現実も変えていくことが必要」なのである。これが「活憲」であり、「憲法の基本理念に基づいた政治を実現し、憲法を日々の暮らしに活かすこと」にほかならない。
 憲法を活かし憲法を再生させることによって、本来の可能性を全面的に開花させればどのような明るく素晴らしい未来が開けてくるのかというビジョンを打ち立てる必要がある。こうして、守勢から攻勢へと憲法運動の発展を図ることが求められている。
 そのために必要なことは、憲法についての学習を深めることである。小さなグループで自民党憲法草案と現行憲法との対照表を用いてじっくり比較するのが良いと思う。憲法とはどうあってはならないかを実際に条文化した格好の教材が自民党の憲法草案であり、それと対比しながら各条文の意味や意義を学べば憲法に対する理解が一段と深まるだろう。そのことによって、「壊憲」が生み出す社会の恐ろしさと現行憲法が目指している社会のすばらしさが認識されるにちがいない。
 また、安保法の発動や米軍基地の強化、自衛隊の増強などに反対し、平和を求める9条理念の具体化を図ることである。基本的人権の尊重などの憲法理念についても、その具体化を目指さなければならない。ヘイトクライムや障害者、女性、少数者への差別などに反対して人権を守ること、マスメディアへの介入や規制を許さず報道の自由や知る権利を擁護すること、政治的中立を名目とした集会規制や教育への介入などを許さないこと、非正規労働者の処遇改善やブラックバイトの是正、職場での労働者の権利拡大など、社会生活と労働の各方面における民主主義の確立に努めることである。
 憲法が保障する権利や自由、民主主義が行き渡っていけばどれほど風通しが良く、希望にあふれた社会に変わるのか。そのような展望とビジョンを示さなければならない。憲法が蹂躙されている「今」を告発するだけでなく、それが活かされた場合の「明日」を豊かに描くことによって、はじめて憲法がめざしている社会に向けての夢と希望が湧いてくるにちがいない。

*自衛隊をどう活かすか

 「活憲」の中でも最大の課題は、自衛隊をどう活かすかという問題である。前述したように、改憲には賛成でも9条改憲には反対だという立場や9条改憲に賛成でもそれは自衛隊の国防軍化や外征軍化を阻止するための改憲だという意見がある。このような人々も味方にして「壊憲」阻止勢力を拡大するには、この問題についての回答を示さなければならない。
 そのためには、自衛隊の役割と位置づけを明確にする必要がある。たとえば、「自衛隊を活かす会」は「自衛隊を否定するのでもなく、かといって集団的自衛権や国防軍に走るのでもなく、現行憲法のもとで生まれた自衛隊の役割と可能性を探り、活かす道」を「提言」している。これなどを参考にした政策の緻密化が求められる。
 そもそも、自衛隊は「戦闘部隊」としての性格と「災害救助隊」としての性格という二面性を持っている。前者が主たる任務で後者が副次的任務となっており、将来的にはこれを逆にするべきだが、実際にも「災害救助隊」としての自衛隊の有用性が高まっている。
 阪神・淡路大震災以降、自衛隊は災害救助面で大きな役割を発揮し、東北大震災や熊本地震での活動などもあって副次的任務への評価が増しているという変化がある。自衛隊に入隊する若者の志願動機の多くは「人の役に立ちたい」というもので、それは被災者を救うことにほかならない。
 また、「戦闘部隊」としても、9条に基づく「専守防衛」を国是としてきた自衛隊の任務は外敵による急迫不正の侵害から国土を防衛することであり、海外での任務遂行は前提とされてこなかった。そのような「自衛」隊を海外の戦地に送り、戦闘に巻き込まれるようなリスクを高めてはならないというのが、安保法に反対する論拠の一つであった。
 つまり、安保法の成立による自衛隊の変質への批判と抵抗は、自衛のための戦闘部隊としての位置づけを前提とするものである。そのうえで、自衛隊をどう活かしていくのか。今後、自衛隊の役割と位置づけについての再定義が必要となろう。それは野党共闘による新しい政府が採るべき安保・防衛政策を練り上げていく作業でもある。

*「壁」の高さと「ブレーキ」の効き具合

 衆院憲法審査会の保岡興治会長(自民党)は7月30日までに共同通信のインタビューに答えて、「首相は改憲を主導する立場にない。スケジュールは審査会幹事会の(与野党の)議論を尊重して決める。現時点で明確にしようとしても無理だ」と述べている。改憲に向けての動きが期限を決めて一瀉千里に早まるという状況にはない。
 さし当り、3つの「壁」ないしは「ブレーキ」がある。
 第1には、安倍政権を支える二階俊博幹事長など、改憲消極派の存在である。二階幹事長は憲法改正について「急がば回れだ。慌てたら、しくじる」と述べ、「首相の政治的信条は分かるが、強引にやっていくスタイルは受け入れられない」と指摘している。
 第2には、与党内における公明党の存在である。山口那津男代表は「公明党は『加憲』の立場です」としつつ、「基本的人権の保障が一番の憲法の意義です。それをいたずらに抑制・制限しない統治の仕組みを定めていく」として「壊憲」には反対する立場を明らかにしている(『毎日新聞』2016年8月7日付)。改憲勢力とされるおおさか維新の会も9条改憲を前面に出しているわけではなく、統治機構の再編など「壊憲」とは異なった構想を示している。
 第3には、国民世論の動向がある。世論は改憲に積極的ではなく、安倍政権での憲法改正について「反対」が49%で「賛成」は38%となっている(『日経新聞』2016年7月25日付)。しかも、最終的には国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。この世論の「壁」を乗り越えなければ、通常の「改憲」にしても安倍首相が狙う「壊憲」にしても夢物語に終わる。

*民主的政府の下での憲法理念の具体化

 『毎日新聞』の曽我豪編集委員は「実際いま、『3分の2』の側を取材して感じるのは、勝者の高揚感ではなく、困惑や緊張、自省と言った感情である」とし、「大きな図体の維持や運営に失敗すれば、かえって、改憲が遠のくからだろう」と書いている(2016年8月7日付「日曜に想う」)。「浮き」が水面下に引き込まれたのを確認して慎重に竿を引き上げようとしている釣り師のようなものかもしれない。一旦ばらしてしまえば、二度と釣り上げるチャンスが巡ってこないことを良く知っているからだ。
 悲願としてきた「壊憲」の野望を実現する可能性が高まり、安倍首相は「いよいよ着手できる」と胸を高鳴らせているにちがいない。しかし、改憲勢力が3分の2を占めたとは言っても、憲法のどこをどう変えるのかという点については様々で、選挙中の沈黙を破って改憲を無理強いすれば改憲勢力内の不協和音を生み、公明党の反発を強め、野党の批判と国民世論の抵抗を高めるリスクがある。
 安倍首相にすれば、念願の改憲を急ぎたいけれど、さりとて世論の反発を招いて国民投票で否決されるリスクを強めるような冒険は避けたいと考えているにちがいない。ここで求められているのは、慎重に急ぐという難しいかじ取りだ。このジレンマの中でどうするのが最善かを、今、見極めようとしているのではないだろうか。
 安倍首相や「壊憲」勢力の前には「壁」があり、一定の「ブレーキ」も備わっている。その壁がどれほどの高さかは分からない。ブレーキがどれほどの効き具合かは不明である。
 しかし、確かなことは、その壁を高くするのも低くするのも、ブレーキの効き具合を良くするのも悪くするのも、私たちの運動次第だということである。そして、最終的に勝利するのは世論を味方につけた側なのだ。
 「改憲勢力3分の2突破」という報にたじろがず、「危険水域」に入ったことに悲観せず、さりとて自らの力を過信して楽観せず、彼我の力関係を冷静に見極めながら世論に働きかけていく以外にない。このような地道な憲法運動こそが「壊憲」を阻むだけでなく、民主的な政府の下での憲法理念の具体化という「活憲」に向けての新たな地平を拓くにちがいない。

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9月16日(金) 「手のひら返し」の「壊憲」暴走を許さない―参院選の結果と憲法運動の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議の『憲法運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

3、「壊憲」策動を阻止するために―憲法原理の破壊は許されない

*まず運動の成果を確認することが必要

 「壊憲」策動阻止の運動は、これから始まるのではない。これまでも繰り返されてきたが、その都度、反撃し撃退してきた。今日に至るまで現行憲法が維持されてきているという事実こそが、「壊憲」策動阻止の運動によってもたらされた紛れもない成果である。
 だからこそ、「壊憲」勢力は更なる攻勢を強めてきた。その急先鋒となっているのが安倍首相である。とりわけ、第2次安倍政権になってからは改憲に向けての意欲をむき出しにし、暴走を強めてきた。しかし、それに対しても反対運動や世論が高まり、阻止してきていることを強調しておきたい。
 その第1は、安倍首相が第2次政権の発足直後に打ち出した96条先行改憲論である。憲法第96条を先ず改定し、衆参両院の3分の2以上の多数が必要だという発議要件を過半数以上にして改憲のハードルを低めようとした。しかし、これは「裏口入学ではないのか」との批判を受け、世論の支持を得られず挫折した。
 第2は、憲法審査会での審議の停止と開店休業である。第2次安倍政権で憲法審査会が再開されて議論が進められたが、安保法案が国会に提出された翌月に開かれた憲法審査会で3人の憲法学者は「憲法に違反する」と明言した。この証言は安保法案反対運動に火をつける形となり、それ以降、憲法審査会は開店休業状態となっている。
 第3は、9条改憲の後回しと「お試し改憲」論の登場である。安倍首相が最も望んでいるのは9条改憲だが、それを後回しにして「緊急事態条項」の導入などで一度試してみようというのである。やりやすいところから手を付けて国民に「改憲グセ」を付けようというわけだ。
 しかし、「お試し」などという言葉にだまされてはならない。「緊急事態条項」は議会の機能を一時的に停止し、首相に全権を与えて人権の一時停止を可能にする極めて危険な内容を含んでいる。その危険性はクーデターの失敗を奇貨として緊急事態を宣言し、独裁体制を強めつつあるトルコの現状が示している通りである。
 一度試してみようというのは、9条改憲には反対が多くてやりにくいからだ。そうなったのは安保法反対運動の結果にほかならない。この運動が高まり、とりわけ2000万署名に取り組む中で安保法や9条改憲の危険性が国民の間に浸透したからである。9条改憲についての世論の変化も、市民の運動によってもたらされた大きな成果だと言える。

*改憲と9条改憲の違い

 改憲の可能性が強まり、次第に現実のものとして議論されるようになってくるなかで、改憲と9条改憲の違いも明らかになってきた。この両者を区別することが重要である。
 改憲とは、どこをどのように変えるのかという内容のいかんにかかわらず、文字通り憲法を変えることである。96条という改憲手続き条項がある以上、現行憲法も基本的には改憲を禁じているわけではなく、護憲を唱える人々も改憲そのものを否定しているわけではない。
 したがって、改定する条項や内容を特定せずに改憲そのものへの賛否を問えば、基本的には賛成が100%になってもおかしくはない。それが『産経新聞』の調査でさえ4割程度(6月20日、改憲賛成43.3%、反対45.5%)にとどまっているのは、今の憲法に不都合はなく、わざわざ面倒な手続きを行って変える必要はないと感じているということだろう。
 あるいは、すでに自民党の憲法草案が提案されているから、そのような内容の改定なら反対だということなのかもしれない。改憲についての反対意見を増やすうえで、自民党の憲法草案は一定の役割を果たしているように見える。
 さらに、改憲と言えば9条改憲のことだと考えて反対する人もいるだろう。しかし、改憲とは必ずしも9条を変えることだけではなく、自民党憲法草案のように変えることでもない。改憲について賛成が多いからと言って、自民党や安倍首相が目指している改憲路線が支持されているわけではない。
 改憲には賛成だが、9条に手を付けることには反対だという意見がある。9条を変えることには賛成だが、それは専守防衛という「国是」に基づく自衛隊のあり方を守るためのもので、いつでも海外に派兵されてアメリカ軍などの「後方支援」をできる「外征軍」化や「国防軍」化に対する歯止めを書き込むための改正だという意見もある。
 これらの違いを無視してはならない。その違いを区別することなく、十把一からげに改憲派だとするマスコミ論調に惑わされないように留意すべきだ。この点をきちんと区別して、自民党改憲草案や安倍首相が目指しているのは「改憲」ではなく「壊憲」であることを明確にし、それへの反対世論を増やして安倍首相を孤立化させることが必要なのである。

*「改憲」と「壊憲」の違い

 憲法をめぐる動向において、これから強まると思われるのは「壊憲」に向けての動きである。それは、これまでも「改憲」の装いを隠れ蓑にしてきた。この「改憲」と「壊憲」はどう違うのか。
 「改憲」は憲法の文章を書き変えることである。明文改憲ではあるが、憲法の理念や原理に抵触するものではない。つまり、「改憲」とは平和主義、国民主権、基本的人権の尊重という「憲法の三大原理」を前提とした条文の変更のことで、それには限界がある。現行憲法の原理や理念を前提とし、自由で民主的な国家という国の形を保ったうえでの改定であり、それを踏み越えてはならない。
 『毎日新聞』の古賀攻論説委員長は8月2日付に掲載された「社説を読み解く:参院選と改憲勢力3分の2」で、「冷静な憲法論議の前提条件は」と題して、「一口に憲法改正と言っても、理念・基本原則を対象にする場合と、統治ルールの変更を検討する場合とでは、論点の階層が根本的に異なる」と指摘している。
 そして、「毎日新聞はこれまでの社説で、戦後日本の平和と発展を支えてきた憲法の理念を支持しつつ、政治の質を高め、かつ国民が暮らしやすい国にするためのルール変更であれば前向きにとらえる立場を表明してきた」とし、「権限が似通っている衆参両院の仕分けや選挙方法の見直し、国と地方の関係の再定義など統治機構の改革を目的にした憲法改正なら、論じるに値するテーマと考える」と述べている。
 民進党の岡田代表は8月6日、違憲立法審査権の充実などに言及し、「より司法の役割を重視することは一つの議論としてある」と語った。これが通常の「改憲」である。このような改憲であれば拒む必要はない。ただし、それが「本丸」としての9条改憲の呼び水にならないように警戒しながらではあるが。
 これに対して、「壊憲」は憲法の文章を変えるだけでなく、原理や理念をも変えようとしている。つまり、「壊憲」とは「憲法の三大原理」を前提としない条文の変更であり、それには限界がない。現行憲法の原理や理念を破壊し、自由で民主的な国家という国の形を変えてしまう憲法条文の書き換えを意味している。9条改憲はその典型であり、安倍政権が目指しているのはこのような憲法の破壊、すなわち「壊憲」にほかならない。
 なお、天皇が「生前退位」を示唆したが、これは憲法が禁じているものではなく皇室典範の改正などによって適切に対処すればよい。改憲機運の醸成などに利用され、国民主権原理に抵触するような「壊憲」に結びつかないよう警戒する必要がある。

*自民党憲法草案の撤回が前提

 このような「壊憲」の狙いは、2012年5月10日に憲政記念会館で開かれた極右団体「創生『日本』」の第3回東京研修会での発言にはっきりと示されている。この場で、第1次安倍内閣で法務大臣を務めた長勢甚遠議員は、「国民主権、基本的人権、平和主義、この三つはマッカーサーが押し付けた戦後レジームそのもの、この三つをなくさないと本当の自主憲法にならないんですよ」と力説していた。この会合には、安倍首相はじめ、衛藤晟一元内閣総理大臣補佐官、城内実元外務副大臣、稲田朋美元政調会長、下村博文元文科相も同席している。
 憲法第96条に基づく「改憲」は許される。しかし、憲法の理念を破壊する「壊憲」は許されず、発議することもできない。この点をはっきりさせることが、憲法論議の前提である。憲法について論議するのは「改憲」についてであって、「壊憲」についてではない。このことを自民党は明確にするべきであり、野党の側もそれを求めなければならない。
 しかも自民党は、国家主義と復古主義、国民の権利や人権制限の色彩が濃厚な憲法草案を提案している。それは帝国憲法の復活だと言われているが、そうではない。それ以下の内容で、戦中の軍部独裁と総力戦体制を条文化したようなものとなっている。憲法の原理や理念の変更に遠慮なく踏み込んでおり、近代憲法以前の内容である。
 したがって、憲法理念を否定する自民党憲法草案は論議のたたき台にならないし、そうしてはならない。安倍首相も8月6日、「そのまま案として国民投票に付されることは全く考えていない」と述べている。それなら、憲法審査会を再開させる前提として、この憲法草案を破棄または撤回するべきだ。
 安倍首相は価値観外交を展開しているが、ここで「共通の価値観」とされているのは自由主義、民主主義、基本的人権、法の支配などである。これを外交方針にだけ留めるのは惜しい。与野党間の憲法論議においても、このような「共通の価値観」を前提にしなければならない。
 自民党としても、長勢元法相のような「国民主権、基本的人権、平和主義」を否定する発言を許さず、今もそのような意見を持っているのかを確かめたうえで除名しなければならない。また、そこに同席して同調するかのような態度をとっていた安倍首相はじめ参加者をきちんと処分するべきだろう。

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9月15日(木) 「手のひら返し」の「壊憲」暴走を許さない―参院選の結果と憲法運動の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議の『憲法運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

2、活路は市民+野党の共同にある―次の総選挙はどうなるか

*2015年安保闘争で成長した市民の力

 昨年、安保法案に反対する国民的な運動が展開された。「2015年安保闘争」とも言うべき大衆的な運動が盛り上がったのである。この運動には、それまでにない特徴があった。
 その一つは、SEALDsやママさんの会、市民連合など、従来になく若者や女性、市民が自主的に運動に加わってきたことである。平和フォーラムや全労連傘下の労働組合、9条の会など以前からの運動団体と新たに加わってきた運動団体が連携し、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会を中心に継続的な集会が開かれ、デモやパレードが展開された。
 もう一つの特徴は、このような国会外での運動と国会内での議員の活動や委員会での質疑などが連動して運動を盛り上げたことである。国会前の集会には野党の議員が参加して決意を表明し、市民団体の関係者は委員会の参考人などとして意見を述べ、憲法審査会で「安保法案は憲法違反」だと断言した3人の憲法学者の証言は運動に大きな影響を与えた。
 そして第3に、これらの市民運動は政党との連携を強め、選挙などにも深くかかわることになる。政治や政党と一定の距離をとってきた従来の市民運動とは、この点で大きく異なっており、市民や政党が連携して開いた集会やデモの中で「野党は共闘」という声が上がったのは自然な成り行きであった。
 安保法は昨年9月19日に成立した。この日の午後、共産党は今後の方針を協議し、「国民連合政権」樹立の呼びかけを行った。安保法の廃止を可能にするような新しい政府を市民と野党との共同の力で樹立しようという呼びかけである。
 この時点から「2015年安保闘争」は新たな局面を迎えた。参院選に向けて野党共闘の成立をめざすという、これまでの国政選挙では経験したことのない新たな運動目標の提示であった。同時に、安保法廃止を目指す2000万署名運動も提起された。市民と政党との共同は大衆運動と選挙闘争との連携という新たな運動領域を切り開いたのである。

*市民+野党の共同が生み出した可能性

 国民連合政府樹立の呼びかけは大きな反響を呼び起こし、多方面から歓迎された。そのためには2016年夏の参院選での野党共闘が不可欠であり、とりわけ1議席を争う1人区で野党統一候補が擁立できるかどうかがカギとなる。これまで野党が乱立したため、自民党が漁夫の利を占めてきたからである。
 2016年2月19日、安保法成立から5ヵ月後に野党5党は国会内で党首会談に臨み、安保法の廃止と国政選挙での協力で合意した。いわゆる「5党合意」である。これによって統一候補擁立が可能になったが、それを実現させたのは共産党による候補者の取り下げであった。
 こうして、熊本を皮切りに32ある1人区での野党統一候補の擁立が進められた。最後まで残った佐賀選挙区でも5月31日に合意が成立する。6月22日の参院選公示まで1カ月もなかった。
 こうして、まるで突貫工事での「プレハブ造り」のように野党共闘が成立したが、その威力は絶大で11人当選という成果を上げた。3年前の2013年参院選で2勝29敗だった野党の戦績は11勝21敗と勝率を5倍以上に高めた。
 東北では秋田を除いて全勝し、甲信越でも完勝した。西でも三重と大分で勝利し、福島沖縄では現職の大臣を破って野党統一候補が当選している。改憲問題と同様に、自民党はTPP(環太平洋連携協定)、原発の再稼動、放射能被害対策や震災復興、沖縄での新基地建設など、有権者に評判の悪い政策について「争点隠し」に徹した。しかし、隠しきれなかった1人区では軒並み苦杯をなめている。
 民進党は、このような野党共闘の最大の受益者だった。複数区でも健闘して北海道東京では2人当選させるなど、3年前の17議席をほぼ倍増する32議席を獲得した。その他の野党は、共産党が改選議席を倍増させて6議席、社民党は前回と同じ1議席、生活の党は比例で1議席、1人区で党籍を持つ候補者を2人当選させた。
 28の1人区では、これらの党が獲得した比例代表での得票数を上回り、26の1人区では投票率がアップした。与野党が一騎打ちで対決したために選挙への興味が高まって足し算以上の効果を生み出し、有権者の足を投票所に向けることになったのである。

*解散・総選挙でも立憲勢力の共同を

 安倍首相は参院選で議席を獲得するために「争点隠し」に徹し、与党で70議席を獲得することに成功した。選挙前の記者会見では「新しい判断」という詭弁によって消費税再増税の再延期を表明し、本来であれば最大の争点となるはずだった消費税問題を消してしまった。
 改憲についても同様である。参院選で訴えるどころか街頭演説では全く触れず、改憲について国民の判断を仰ぐという形にはならなかった。そのために、これから改憲を最大の争点にした解散・総選挙に打って出るかもしれない。
 8月3日に第3次安倍再改造内閣が発足した。同時に行われた自民党役員人事で注目されたのが二階俊博幹事長の登場である。二階幹事長は参院選後の7月19日の記者会見で「延長は大いにあって当然のことだ」と安倍首相の総裁任期延長の可能性に言及し、幹事長になってからも「党内の意見をよく聞いて結論を得たいが、政治スケジュールのテンポとしては、ずっと引っ張ってやる問題ではない」と述べ、年内をメドに結論を得たいとの考えを示している。
 中曽根元首相のように、総選挙で圧勝すれば問題なく任期を延長できる。その総選挙で改憲を争点にすれば、国民の信任を得たとして一気に「壊憲」策動を加速させることも可能になる。一挙両得である。安倍首相が年内にも解散・総選挙を考えているのではないかとの憶測が生まれてくる根拠がここにある。
 しかし、このような手前勝手な総選挙の私物化を許してはならない。また、そうなった場合でも、「壊憲」策動を阻止する機会として生かす準備を進める必要がある。再び、立憲野党の共同によって統一候補を擁立し、安倍首相の野望を粉砕しなければならない。
 総選挙で勝利すれば、新しい政府を樹立することになる。野党間の協議を進め、選挙で擁立する統一候補の選定だけでなく政策的な合意を拡大し、新たな政権に向けてのビジョンを作る必要がある。憲法についての見解はもとより、安保・自衛隊、沖縄の基地問題、原発とエネルギー、税制と社会保障、TPP、労働や教育、子育て支援などの基本的な政策についての合意を図ることである。



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9月14日(水) 「手のひら返し」の「壊憲」暴走を許さない―参院選の結果と憲法運動の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議の『憲法運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 「憲法改正については、これまで同様、参議院選挙でしっかりと訴えていくことになります。同時に、そうした訴えを通じて国民的な議論を深めていきたいと考えています。」
 安倍首相は今年1月4日の年頭の記者会見で、記者に問われてこう答えた。そのために参院選での憲法論議が注目された。首相は「憲法改正」について、どう訴えるのか。そして、「国民的な議論」はどう深められるのか。それに対して、有権者はどう判断するのか。
 その結果、ある数字が注目を集めることになる。「3分の2」である。この数が、これほど注目を集めたのは改憲勢力がこの数以上の議席を獲得すれば、改憲発議に向けての条件が衆参両院で整うからである。
 「そうは、させじ」と、野党第1党の民進党は「まず、2/3をとらせないこと。」と大書したポスターを張り出した。新聞なども、この数字に注目してキャンペーンを張った。それほどまでに注目された改憲問題である。それは参院選の争点として争われたのだろうか。それに対する有権者の審判はどのようなものだったのだろうか。

1、容易ならざる段階を迎えた―参院選の結果をどう見るか

 *「3分の2」は突破された

 「改憲勢力3分の2超す 自公、改選過半数」
 参院選の投開票日の翌日の朝刊にこのような見出しが躍っていた。自民、公明、おおさか維新、日本のこころを大切にする党の議席に、改憲に前向きな無所属議員の議席を加えた数が、参院の3分の2を超えたのである。
 また、与党が獲得した数も、自民56議席、公明14議席の合計70議席となった。安倍首相が掲げていた改選議席の過半数である61議席という目標を9議席も超えたから、与党は勝利したことになる。
 しかし、3年前の2013年の参院選に比べれば、自民党は9議席の減となった。選挙区では10議席の減少である。参院での議席のピークは3年前の参院選であり、自民党の勢いに陰りが生じていたことが分かる。
 自民・公明の与党は2014年衆院選ですでに3分の2を超えており、今回の結果によって衆参ともに改憲発議が可能となった。アベ政治の暴走が続くなか、改憲についても具体的な動きが始まる条件が満たされた。
 しかも、都知事選で小池百合子元防衛相が都知事に当選し、改憲論者の超タカ派知事が誕生した。大阪ではおおさか維新の会の府知事と市長が存在している。第3次安倍再改造内閣では超タカ派で改憲論者の稲田朋美防衛大臣まで誕生した。まさに、改憲勢力にとっては「我が世の春」であり、憲法をめぐる状況が極めて危険な段階を迎えたことは疑いない。

 *「争点隠し」による肩透かし

 「見事な」肩透かしだったというほかない。参院選でこれほどに注目されていた改憲問題は、結局、選挙の争点にはならなかった。というより、「争点にしたくなかった」から「隠した」のである。
 その理由は、国民世論の変化にある。アベ政治が暴走を重ねる中で、改憲に対する警戒感が高まり、反対論が増えてきた。とりわけ、9条改憲については反対の方が多い。選挙で争点にすれば不利になるという計算が働いたにちがいない。
 年頭記者会見で「参院選でしっかり訴えていく」と明言していたにもかかわらず、安倍首相は参院選での遊説で改憲に触れることはなく、徹頭徹尾、「改憲隠し」選挙を貫いた。自民党も同様に「改憲隠し」に徹した。全26ページにわたる選挙公約の末尾に「国民合意の上に憲法改正」という項目を立て、「憲法審査会における議論を進め、各党との連携を図り、あわせて国民の合意形成に努め、憲法改正を目指します」と書いてあるだけだった。
 このような「改憲隠し」選挙にはメリットとデメリットがある。メリットは不人気な争点を提起しなかったために参院選で勝てたことだ。経済政策を前面に立て、アベノミクスで得られたというささやかな「成果」を売り物にして有権者の票をかすめ取ることに成功した。
 しかし、同時にデメリットも生まれた。改憲について口をつぐんだまま多数を得たが、それを政権への信任であるとして改憲に向けて突き進めば「手のひら返し」の裏切りが目立ってしまう。選挙が終わったからと言って、直ぐに突進するわけにはいかない。
 とはいえ、このような「手のひら返し」の手法は、安倍首相の得意技でもある。2013年7月の参院選で特定秘密保護法にはほとんど触れなかったが、選挙が終わると秋の臨時国会に法案を出して成立させてしまった。集団的自衛権の行使容認のための安保法案についても、2014年12月の総選挙では争点として掲げていなかったにもかかわらず、安保法案の成立を強行した
 「2度あることは3度ある」と言う。同様の「やり口」が改憲問題においても繰り返されるかもしれない。参院選での勝利を背景に改憲に向けて暴走を始めることのないよう、警戒心を高める必要がある。

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